なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・そして、届かぬ未来へと

──Aaaaーーー──

「っ、ソニックブームまで使えるとは、厄介な!」

 

 

 短期決着を目指し、ビーストⅡiに向けて接近を開始した私達だったが、思いの外苦戦を強いられていた。

 ネガ・シンガーだけが彼女の攻撃方法だと思っていたのだが、なんとまぁ声による音波攻撃……もとい衝撃波までも使ってきたのである。

 

 

「……厳密には初音ミクそのものではないから、彼女に掛かっている制限(戦闘不可)も存在しない……と言うことなのかしら?」

「もしくは彼女自身はあくまで歌っているだけで、こっちに出ている影響は()()()()()()()()()()()()()()扱いされているか、かな?……なんにせよ、見た目ほど与しやすい相手って訳じゃあなさそうね」

 

 

 オグリに抱えられたままのクリスが呟いた言葉に、小さく相槌を打つ。

 ナーサリー()がその力のみで再現した初音ミク(肉体)……に、神と母のエッセンス(精神)が混じったもの。

 それが今のビーストⅡiであるため、本来であればなりきりの原則──そのキャラが絶対にできないとされている行為は、なりきり(『逆憑依』/【顕象】)も同じようにできないはずのところを、他のキャラを混ぜることによって回避している……と考えられるわけだ。

 

 初音ミクは、あくまでも歌姫である。

 ゆえに、基本的には彼女が直接的な戦闘を行うことは、少なくとも公式には認められていない。

 たまーに戦闘しているものもあったりするが、そういうのは『初音ミク本人』ではなく、彼女をモチーフにした別キャラ、ということがほとんどである。

 ……見た目が初音ミクそのままなキャラが思いっきり殴りに言っている作品もあったりするが、多分あれも本人じゃないから大丈夫なんです。

 え、バーチャロン?ありゃナイアさん乙、ってことで。*1

 

 ともあれ、だからこそ今ここにいる彼女も、あくまでも『ナーサリーがその姿を模したもの』としてここにあるからこそ、こうしてこちらに攻撃を仕掛けてくることができている、のだろう。

 

 なので、どうにかしてそれを崩すことができれば、彼女の唯一の武器(牙/歌)を奪うことに繋がると思われる。

 ……のだけれど、どうにかしようにも近付けないのであれば無理だし、そもそも近付けている時点でれんげちゃんにタッチさせれば良いということになるので、どうにも案の浮かばない状況になっているのだった。

 

 

「……なるほど、じゃあ仕方ないわね」

「ん、クリス?」

 

 

 そんな中、クリスが小さく溜め息を吐きながら、自身の白衣の中に手を突っ込んだ。

 暫くなにかを探すように内部をまさぐったのち、取り出したのは……赤い携帯電話?*2

 

 

「あんまり使いたくなかったんだけど、こんな状況じゃそうも言ってられないわよね……」

 

 

 かこかこ、と懐かしい音を響かせながら、彼女が携帯を操作している。……ええと、クリスと携帯電話、と言うと……。

 

 

「これで……!」

──させると思っていたのですか?──

「あっ!?」

 

 

 その行動の意味を思い出す前に、ピンポイントで響いてきた音波が、クリスの手から携帯電話を弾き飛ばす。

 ()()()()()()()()()は、そのまま奈落の底へと堕ちていく。

 そこまでを見詰めたあとで、ようやく私は今さっきの行動がなんなのかに気が付いた。

 

 

「あっ、Dメール!」*3

「ご明察。……止められちゃったけどね」

──この状況で過去改変を行う意義は見出だせませんが……何れにせよ、私の場で好き勝手できると思わないで下さい──

「なるほど、全部お見通しってわけね。……ところで、これは独り言なんだけど。……貴方、記憶の方は()()()()()()()()()のかしら?」

──何を……?──

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()に気が付き、密かに両脇の二人に声を掛ける。

 ──勝負は、次の一瞬で決まる。

 そう確信しながら、クリスの言葉に皆で耳を傾ける。

 

 

「だって、ねぇ?Dメール……過去改変についての知識はあるみたいだけど。()()()()()()()()()()()()()については、知らないみたいだから。ねぇ、みんな?」*4

──……?──

 

 

 朗々と語るクリスの言葉に、怪訝そうな表情を浮かべるビースト。

 そんな彼女に対し、私達は()()()()()()()()()()を静かに返答していく。

 

 

「クリスの携帯は赤い()()()()()の携帯だ。さっき落ちていった携帯みたいな形ではないはずだ」

「あれはどっちかというと……()()()()()()()()、だよね?」

──………!──

「気付いた?けどもう遅いんじゃないかしら。……『Steins;Gate』という作品は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を描いた作品、という風にも見ることができる。その作品の象徴──岡部の携帯を()()()ってことが、どういう意味を持つのか。……なんとなく、わかってきたんじゃない?」

 

 

 こちらの言葉に、クリスがなにを言いたいのかを察したビーストは、血相を変えて奈落に降下(飛翔)を始めた。

 無論、こちらもそれを追い掛けるために高速で落下(追走)を始めるが、その中でもクリスの語りは止まらない。

 

 

タイムマシンによる繰り返し(ループによる成長)。そしてその果てに、タイムマシンを捨てるという物語。──牧瀬紅莉栖()の役割は、繰り返す世界(ループ)を止めさせること。その果てにあるのが、例え自身の死であるのだとしても。彼を想い、彼に想われたからこそ、それを止めさせるもの。──そんな私が、彼の携帯を捨てるっていうのは。……()()()()()()()()()と思わない?」

──貴方は、死ぬ気なのですか!?私を倒すためだけに……!!──

「ビーストが相手なんですもの。一人の犠牲くらいは、覚悟しないとね?」

──っ!!!──

 

 

 高速で飛翔する私達だが、流石にビーストの方が速い。

 じりじりと離されていくのを見詰めながら、それでもクリスの語りは続いている。

 

 

「『訣別の時きたれり(アルス)()其は世界を手放すもの(ノヴァ)』だったかしら。……岡部が好きそうな名前よね。だからまぁ、そこに肖らせて貰おうかしら」*5

「──ラボメンNo.004、牧瀬紅莉栖の名において。時を翔ける為の翼を、今天に返上仕る。……それは人が追い求める夢そのものだけれど。今はまだ、夢のままでいて頂戴。……第一宝具、解放」

 

「『黎明の時きたれり(コーリング)()其は願いを手放すもの(アマデウス)』──」*6

 

──あ、ああああぁぁぁあっ!!!!──

 

 

 告げられた宝具の名に、ビーストが雄叫びをあげ。

 そして、彼女はどうにか携帯(それ)を手にした。

 仄かに喜色を浮かべるも、自身にそれを砕くほどの握力は(そもそも壊してはいけ)ないことに気が付いた彼女は、ゆえに、とりあえず電源を落とそうとして。

 

 ──その画面を、視界に入れた。

 

 

 

圏外
 

 

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 宛先:ビーストⅡi

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 Cc/Bcc

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 件名:うそです

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 ヽ(*゚д゚)ノカイバー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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──は?──*7

 

 

 唖然とする彼女の頭上から、声が降ってくる。

 

 

「そりゃそうでしょ、こちとらただの人間だっての。──宝具なんて使えるわけないって、始めに気付いておくべきじゃない?」

──なん──

「やっと……」

──あ──

「──追い付いたん!」

 

 

 攻撃することも忘れ、こちらに向かっている者がいることも忘れ。

 呆然自失となった彼女の目と鼻の先に、高速で飛翔する私達が居ることを、今更になって認識する!

 

 

「この距離なら、音波は使えないよね!」*8

──ぐ、ううぅっ!!──

 

 

 この距離での音波攻撃は、自身をも巻き込む自爆攻撃になる。

 また、呆然として固まっていたため、ここから離れるにも一手遅い。

 つまり、こちらの作戦にまんまと嵌まってしまった彼女は、詰みの状況に追い込まれていたのだ。

 

 

「これで、終わりなん!」

──ダメ、まだ、終わっては──

「前に進むん!その先が、なんにもない暗闇でも!もう、立ち止まっちゃいけないん!」

「だから、もう止まって!」

──あ、あああ……──

 

 

 二人の手が彼女に触れるまで、あと3、2、1……。

 

 

W螺煌斬(よっしゃあああッッ THE ENDォオ)!!」*9

──へぶぅっ!?──

「えっちょ、キーアお姉さん?!」

「あっ」

「あっ、ってちょっとぉーっ!?」

 

 

 なお、ラストシーンかつ二人で攻撃(タッチ)、というシチュエーションゆえに、思わず手が勝手に動いてしまったのだった。

 ち、違う!ネタが勝手に(しまらないなぁ……)*10

 

 

*1
意外と色んなゲームに登場しているミクさんだが、あくまでも見た目を真似しただけ(プレイヤーのアバターに着せられる服扱い)だったりとか、もしくは初音ミクを元にした別のキャラクターだったり(白猫プロジェクトなど)することがほとんどであり、ミク本人という設定でもサポーターとしての参加、というものであることが普通。なお、最後のバーチャロン云々はフェイ・イェンHD……正式名称『VR-014 フェイ・イェン with Heart of Diva』のこと。『電脳戦機バーチャロン』における歌姫『フェイ・イェン』と、『初音ミク』がコラボした存在。『スーパーロボット大戦UX』においては、とある人物の陰謀を文字通り木っ端微塵に砕いたりもした

*2
ここでの携帯電話とはいわゆるガラケー、『ガラパゴス携帯』のこと。世界の基準からは外れた独自の発展を遂げたテンキータイプの携帯は、『ガラパゴス諸島』の生物のようにその場所以外では流行ら(生息でき)ないもの、などと揶揄されていた。現在ではそういった流れは見られなくなっているが、モノ作りにおいては変な拘りを持つ日本人のことなので、その内またとんでもないモノを作るかもしれない……

*3
『Steins;Gate』の用語。過去に送れるメール。これにより過去改変を起こすことにより、世界線の移動を行う

*4
彼女の携帯は()()()()()()()()()()のガラケーである

*5
とある人物の宝具。自身の全てを『もはややり残しはない』と手放す宝具。基本的には自爆でしかないが……

*6
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:1人

彼が繰り返しを終え、一人の少女を救うことを諦めた状況を再現する宝具。彼女のあとにはアマデウスが現れる。それを呼ぶための儀式。繰り返しを含む世界を強制終了させる、別れの宝具

*7
この顔文字は、クリスが自分を示すために使ったもの。実際はまつげを付けるので二行必要。件名の通り、前述の宝具はうそである。圏外だからDメールも送れないゾ☆

*8
『仮面ライダー剣』より、橘朔也の台詞『この距離ならバリアは張れないな!』から。彼の変身する『仮面ライダーギャレン』は、基本的に銃撃を主体にして戦うライダーなのだが、この台詞の時に戦っていた相手はバリアによって銃撃を弾き続けていた。そうして追い詰められた彼が岩肌に叩きつけられた後に、余裕綽々で止めを刺しに来た相手を捕まえ、ほぼゼロ距離射撃によって相手に致命傷を与えることに成功する。その射撃の前に述べたのが、前述の台詞。『仮面ライダー剣』屈指の名場面として、今でもファンに語り継がれている

*9
『タカヤ―夜明けの炎刃王―』での最終話より。元々は学園バトルもの(『タカヤ -閃武学園激闘伝-』名義。こちらは全五巻)だったのが、唐突に異世界転移ファンタジーと化した作品が、最後に見せたもの。テコ入れにミスって打ち切られたようにしか見えないのが凄まじい。いやまぁ、裏で何があったのかなど読者にはわからないのだが。なお、タカヤ自体はわりと色んなネタを後世に残していたりする(あててんのよなど)

*10
『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』の武藤遊戯の台詞『あっ、違う!クリボーが勝手に!』より。アニメオリジナルエピソードである乃亜編において、デッキのモンスターを一体選んでデッキマスターにする、というシステムの中で、文字通りクリボーが勝手に出て来てデッキマスターになってしまった時に彼が放った台詞。なお、勝手に出て来てくれたお陰で、(そのデッキマスター効果により)後々助かっていたりする


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