なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・もはや、これまで。

「あー、うん?とりあえず自己矛盾を起こしていた、ってことはわかったんだけど……それがなんで、ビーストとしては成立しないことに繋がるわけ?」

 

 

 一度に難しい話をし過ぎたのか、頭からぷすぷすと煙を吐き出しているゆかりん。*1

 ……まぁ、言ってるこっちもちょっと混乱しそうなので、宜なるかな。

 

 ともあれ、報告書としては一番重要な場所なのも確かなので、しっかりと解説していきたい所存である。

 

 

「んっと、ミクさんが保守派、ってのはわかるよね?」

「そうね、ナーサリーの子供の味方という部分と結び付いた母の愛情の結果として、基本的には保護を主体としていた……ってのはなんとなく」

「けど、一緒に母としての役割も与えられていたからこそ、()()()()()()()()()()()っていう感覚もあった。……それ故に、子を守りたいって気持ちと、子の願いを叶えてあげたいって言う気持ちの二つを、同じ様に抱くことになった」

「で、それらは前提からして対立するものである。守ることを優先するのなら、願いは捨て去るべきだし。願いを叶えてやろうとするのなら、守ることについては諦めなくてはいけない。その二律背反を解消するためにやったのが……」*2

 

 

 偶然を装って、外から来訪者を招くこと……というわけである。

 言ってしまえば、自分が自発的にやったことではなく、あくまで周囲が勝手にやって来たので、それを利用するのは問題ないとする……という、結構無理のある論理だ。

 

 

「え、ええー……」

「まぁ、そんな反応になるよね。本来ならしっかり戸締まりしてなきゃいけない所を、凄くわざとらしく開け放って、誰かが入って来るのを待ってようなものなんだから」

 

 

 ただまぁ、なりきりに関係があるか、オカルトに造詣が深いとかでもない限りは気付けない場所であり、かつ中に引き込みさえすれば記憶も外との繋がりも奪えてしまうので、結果として問題はなかった……ように見えたのだが。

 ここにもまた、思わぬ落とし穴が存在したのである。

 

 

「と、言うと?」

「招き入れるに当たって、彼女は子供と見なすものの範囲を広げた……もとい、()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ」

「……えーと?」

 

 

 こちらの言葉の意味がよくわからないのか、目をぱちぱちとさせているゆかりん。

 そんなちょっとおとぼけな彼女に苦笑しつつ、この行為の問題点を私は口にする。

 

 

()()()()()()()()に、他人を招くにはどうすればいいのか。──答えは単純、その他人もその(我が)子だと思い込めばいい」

「……はい?」

「要するに、ナーサリーの『子供の味方』っていう性質が、ミクさんの場合は『荷葉ちゃんの味方』って風に変わっていたところを。『子供=荷葉ちゃん』……すなわち、誰も彼も荷葉ちゃんなんだ、って認識に更に歪めてたってこと」

「……は、はぁっ!?なにそれっ!?」

 

 

 彼女のそれは、たった一人の少女のために向けられる愛だった。

 だからこそ、ビーストにも変貌しうる絶対性を持っていたのだが……()()()()()()()()()()()()、その愛は単体で完結してしまい、外にはなにも漏らさなかったのである。

 それでは、彼女のために外へ救いを求める、ということができない。

 

 それを解消する手段が、彼女の根幹──子供達の味方という性質の改造。

 すなわち『荷葉ちゃんは子供である』という考え方をひっくり返し、『子供であるならば荷葉ちゃんである』とできるようにすること、である。

 

 この論理が真であるならば、外からやって来るのも『荷葉ちゃん(子供)』であるため、『荷葉ちゃん(子供)』を守るという彼女の目的と反発を起こさない。

 どころか、『荷葉ちゃん(子供)』の願いを叶えるための最短距離を詰めるためのもの、として自身の行為を補強することすらできてしまうのだ。

 

 まさに一石二鳥、こんなに利口な考え方は他にあるまい……と自画自賛しかねないほどの、起死回生の一手だと言えるだろう。

 ……まぁ、嘘だけど。

 

 

「えっちょっ、」

「自己矛盾、って最初から言ってるでしょ?……要するに、本人(ミクさん)としても『無理がある』って気付きながら、目を逸らして無理矢理自分に言い聞かせてたのよ、子供はみんな荷葉ちゃんだ……ってね。で、ビーストとしての性質、そして成立条件も、この無茶苦茶な見立ての上で成り立ってるから……ネガ・シンガーの発動条件、多分だけど『荷葉ちゃん(子供)』に対してじゃないと発動できないのにも関わらず、()()()()()()()()()()()()()……みたいな、かなりわけのわかんないことになってるんじゃないかな?」

「い、意味わかんなーい……」

 

 

 遊戯王的に言うのなら、誰も彼も『荷葉ちゃん』という名前を持つものとして扱うけれど、元々の名前が『荷葉ちゃん』である相手には効かない……みたいな感じだろうか?*3

 まぁ、そんな矛盾の塊であったために、彼女に待っていたのはどう足掻いても崩壊の末路、だったということなのだった。

 

 

「……あれ?じゃあ、時間との勝負云々ってのは?」

「それはこっち。おーい」

「こっち?こっちってなに……なんです?」

 

 

 そこまで説明したところで、じゃあ短期決戦を求めた理由とはなんなのか、というところに話が及んでくる。

 

 ほっとけば勝手に倒れていた、というのが真実であるならば、要するにループに耐えてればその内解放されていた、ということでもあるわけで。

 ……まぁ、実際にはその方法だと、途中で私が(長男じゃないので)耐えられなくなってしまう可能性があった、というところが問題になったため、選択しなかったという理由もあるのだが。*4

 それとは別──わざわざ短期間での決着を求めた理由とは、すなわち今私が呼んだ相手にある。

 

 部屋の外に待機させていた人物を、声を掛けて中に招き入れる。そうしてやって来た人物を見て、ゆかりんは唖然としたような声をあげた。

 隣の五条さんも、僅かに驚いたような顔をしている。

 

 そう、驚愕する二人の前に現れたのは……。

 

 

 

 

 

 

「感動のお別れしてるところ悪いんだけど……」

「……?キーアお姉さん、どうしたん?」

「あ、待っててくれたんだ。……で、改まってなに?」

 

 

 少女二人が涙の別れを終え、もう思い残すことはないと荷葉ちゃんが目蓋を閉じようとしたところで、おずおずと声をあげる私。

 二人からは怪訝な視線が、周囲からはここでなにかちょっかいを掛けるのか、という非難っぽい視線が向けられてきたが……。

 私は挫けない、何故なら私は魔王だから!

 

 

「ま、魔王?……お姉さん、中二病は早めに卒業した方がいいよ?」

「うーんぐだぐだ。さっきまで涙目だったのに、切り換えが半端無さすぎる……けどあれだ、私は中二病ではありません。さっき実際に飛んでたでしょ?」

「え?……うーん、確かに実際に凄い力が使えるのなら、病気ってわけじゃないのかな……?」

「え、そんなことうちに聞かれてもわからないん……」

 

 

 なお、そこまで告げても、返ってくるのは冷たい視線。

 ……一応、色々やって見せたはずだから、ある程度は普通の人じゃないってこと、理解して貰えてるものだと思ってたんだけど……この分だと、微妙なのかもしれない。

 まぁ、お別れに突然水を差した形になってるのは確かなので、詰められるのも仕方ないところはあるのだけれど。

 

 ともあれ、私としてもしなきゃいけないことがある……上に、それは時間を掛けると成功しなくなる可能性が高いものでもあるので、できれば早急に処置に移りたいわけで。

 

 

「……処置?」

「覚悟に待ったを掛けるようで悪いんだけども。……荷葉ちゃんは、できるものならまだ今を生きていたい……んだよね?」

「……いや、それは無理だし、周りに迷惑は……」

「周りとかどうでもいいから、貴方の本当の気持ちを聞かせて?」

「…………」

「……っ、なにを考えてるのよお前は、そいつの覚悟は聞いたでしょう?」

 

 

 彼女の……荷葉ちゃんの意思を、もう一度確かめる私。

 そんな私の姿に、パイセンから届く声は、苛立ちを伴ったものだった。

 彼女の顔はこちらからは見えないが……多分、凄く怒っているのだろう。

 そりゃそうだ。猫神様にミクさん、その双方に『諦めること』を告げた彼女(荷葉ちゃん)が、どれほどの思い(悔しさ)を抱えているかなど、そんなものはわからない方がおかしい。

 

 ──だからこそ、私は聞くのを止めない。

 ()()()()、改めて彼女の意思を確認しなければいけないのだ。

 だから、虞美人(パイセン)の怒りなど知ったこっちゃない。

 それが彼女の優しさだと知っているから、私もまた優しさ(身勝手)をぶつけるだけなのだ。

 

 

「……は?いやお前、なにを……」

「どうなの荷葉ちゃん?貴方はこのままあの世に行くことをよしとするの?それとも、()()()()()()()()()()()()()()()の?」

「私、は……」

 

 

 ことここに至って、漸く周囲もおかしいということに気が付いたらしい。

 だって、本来ならばこの問答には意味がない。

 彼女を引き留める術はなく、ゆえにこの問答は、ただ彼女の覚悟を揺らがせ、死出の旅路に向かう彼女に、無用な恐怖を生むものでしかない。

 

 なのにも関わらず、彼女の気持ちを明らかにしようとする私。

 時間が無いと急かし、求めるものが彼女の意思一つ。

 そこまでやって、クリスがあっ、と声をあげた。

 

 

「……開きかかっているとはいえ、この場はまだ猫箱の中……なのよね?」

「……そのはず、だけど」

「猫箱の中では、全ての物事は起こり得るものとして、その可能性を潜在化させ続けている。……それを起こすための切っ掛けを、待ち続けている」

 

 

 その言葉を聞いて、今度はマシュが声をあげる。

 そう、私はこう言っていたはずである。塔の建造より先、()()()()()()()()()()()()だと。

 

 思い出して貰いたい。

 彼女はあの後、頑張っていただろうか?……いやまぁ、実際に頑張っていたとは思うけど。

 ──違うのだ、彼女が頑張らなければいけないのは、これから。

 ……まぁ、正確には()()()()()()()()、近くにいて貰う必要がある……という感じなのだけれど。

 けどそれも、彼女が彼女(マシュ)に限りなく近しい、という前提があってこそ。

 

 

「獣は見事打ち倒された。世界を脅かす驚異は祓われ、私達の行く先には、輝かしい未来が待っている。──なら、もうちょっとくらい良いことがあっても、別に悪いことじゃないとは思わない?」

「……っ!荷葉さん!願ってください!生きたいと、明日を迎えたいと!」

「ま、マシュお姉さん?」

 

 

 それに気が付いた彼女は、先程は伸ばせなかったその手を、今度は確りと伸ばす。

 その手を向けられた荷葉ちゃんは、目を白黒させていたけれど。

 

 

「なんでとか、どうしてとか!今は全然わかりません!でも、これだけは言える!……諦めないで、どうか、手を伸ばして!その悔しさを、胸の内にしまいこまないで!」

「……あっ、いいの?私は、手を伸ばしても……」

 

 

 マシュの声に、先程までのものとは別種の涙を浮かべる荷葉ちゃん。

 

 ──そう、ビーストは打ち倒され、その魔力は本体たる彼女(れんげちゃん)へと還元された。

 それは、彼女を元に戻す(ナーサリーに戻る)に足る量のもの。──それを彼女は破棄した以上、その魔力は()()()()()()()()()()()()()()()()でもある。

 

 ビーストを見事打ち倒し。

 手元には使い道のない膨大なリソースがあり。

 あやふやなこの世界では、現実はまだ今に追い付いていない(全てはまだ決まっていない)

 

 その状況を、彼女(マシュ)という存在によって整える。

 ──()()()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()

 

 無論、普通ならそんなことはできるはずがない。

 力に場、状況に再現性。そこまで揃えてもなお、着火材が存在しない以上は成立しない。

 

 

「だから、私の出番だ。──キルフィッシュ・アーティレイヤーが魔王を名乗るのは、怒りも喜びも悲しみも、あらゆる全てを背負うと願ったがゆえ。我が儘に、気儘に、全てを好き勝手に変えて、その咎を自分が背負うため。──一流のバッドエンドなんてクソくらいやがれ。三流のハッピーエンドを望んだ、望み続けたのがキーアの魔王としての矜持だ!」*5

 

「だったら、彼女を名乗る俺が、それを出来なくてどうするんだ!!伸ばせ、手を!掴め、希望を!()が、それを肯定する!!」

「……生きたいっ、私、生きたいよ……っ!!」

「かよう……」

 

 

 声を張り上げた荷葉ちゃんと、それを呆然と見詰めるれんげちゃん。

 けど、それも一瞬。彼女の願いを聞いたれんげちゃんは、嬉しそうに微笑んで。

 

 

「──うん。一緒に、行くん!」

 

 

 そして、世界は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

「にゃんぱすー」

「にゃんぱすー!……ところで、これってどういう意味なの?」

「……にゃんぱすーは、にゃんぱすーなん」

「あ、ごり押すのね、なるほどなるほど」

 

 

 そうして、唖然とする二人の前に現れたのは。

 白い()と大きな()を連れた、二人のよく似た姿の少女だった。

 

 

*1
自身の処理能力を越えた状況に直面し、脳が理解を放棄した状態を示す表現。昔の創作において、処理能力を越えた機械類が煙を吹く表現があったが、そこから生まれたものらしい……のだが、詳しい起源は不明

*2
ドイツ語で『アンチノミー』と呼ばれる概念。根拠や合理性を充分に持ち合わせているにも関わらず、片方を満たすともう片方の命題が成立しなくなるもののこと。『あちらを立てればこちらが立たず』というのが近い。矛盾とは違い、論理そのものには破綻はない。一つの物事に対して二通りの解釈を立てることができ、かつ片方を満たすともう片方が満たせなくなる、という状況にのみ使われる

*3
なお、この名称関連のあれこれにより、悲しみを背負ったとあるアトランティス()(戦士)が存在する。『元々の名前』指定は、効果によって名前が変わった時にしか使えないらしく。『伝説の都 アトランティス()』は効果として扱われない(効果外テキスト)によって名前が変化している為、テキストに書かれている名前を指定している彼は、本来そのカードを呼び込むことができないはず、なのである。けれど実際には彼はその都を発見できる。戦士と書いてあるにも関わらず水族なのも相まって、妙にネタにされる彼なのであった……

*4
『俺は長男だから我慢できた』は、『鬼滅の刃』竈門炭治郎の台詞。鼓の鬼・響凱と戦っている時のモノローグであり、以前受けた傷が治っていない状況で、それでも痛みを堪えて戦いに向かったことを示す言葉。『長男』という部分に様々な解釈が付随することはあるが、基本的に炭治郎本人は『長男だから我慢できる』と特に根拠もなく思っているだけである。まぁ、可愛い妹の手前、意地を張り通している……とも言えるわけだが

*5
小説版『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』での作者の後書き『一流の悲劇を三流の喜劇に改悪した行為だが、これで一流の悲劇を見た後のやるせなさを少しでも癒して欲しい』が元ネタとされる。バッドエンド派とハッピーエンド派の溝は深い……


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