なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……ええと、えっと?待って、ちょっと私のキャパ越えてるわこの状況……」
「がんばりましたー!」*1
「頑張ったとかってレベルじゃないわよねこれ?!」
額を抑え、意味がわからないとばかりに困惑するゆかりんと、とにかく頑張ったのだと主張する私。
時間神殿の再現──命の終わりにたどり着いたマシュが、打ち倒したとある獣から報酬を受け取った逸話……その再現。
現実の時間軸とは切り離されていたあの空間だからこそ、場所の条件を満たすに至り。
もどきとはいえ獣であったものを打ち倒したという事実と、何度も繰り返し続けたことによって、ある意味では聖杯に等しい域のモノとなっていた、いずれ霧散する
それらの前提条件が揃っていたからこその、正しく奇跡とでも呼ぶべきモノ。
その結果こそが、今ここにいる二人なのであった。
……いやまぁ大前提として、生き物として一番重要な部分である魂が、成仏しかけとはいえまだ現世に残っていたから……もとい、
ついでに『継ぎ接ぎ』。【顕象】相手には馴染み易すぎるこれもまた、彼女達の存在を安定させるために、大きな一助となっていた。
それらの複数の奇跡の果てに、彼女達は
「いや、いやいやいや?!そもそも現世に留める楔は?!それがなかったからこそ、ビーストも繰り返しを続けていたんじゃないの?!」
「そこはほら、れんげちゃんと荷葉ちゃんの存在を、量子もつれ*2の如く相互関係にして、そこに補強の神二柱を莫大な魔力で無理矢理くっつけてだね?……まぁ要するに今のこの子達、みんな合わせて一つの生き物、みたいな反応になってるわけでね?」
「いやもう聞いてるだけで!貴方の話を聞いてるだけで、血を吐いてぶっ倒れそうなんだけど私!!?」
「あっはははー。……
「ぶっつけ本番んんんんっ!!」
なお、それらの解説中、ゆかりんはずっと頭を掻きむしり続けており、それを傍らから見ていた五条さんは、ずっと腹を抱えて笑っておりましたとさ。
「……とりあえず、また迂闊に外に出せない子が増えた、ってことでいいのよねこれ?」
「んー、そうでもないんじゃない?成立するのに必要な限定条件が多過ぎるし、そもそもやったこと自体、アルフォンス君の魂を鎧に固定化したエドワード君の真似事*3──現代科学では観測こそできたとしても、自然に失われていってしまう死後の魂を、現世に完全な形で留めることが出来ないから、結局死者蘇生*4の真似事に近いモノになってしまうし……って感じで、再現性の一切ない、本気で一度限りの奇跡でしかないもん」
「例え二度目が無理だったとしても!一度奇跡が起きたって時点で大概だ、って言ってるのよ私はーっ!!」
「ひーっひひっ!!はら、腹が捩れるっ!……はーっ、無茶苦茶だ滅茶苦茶だってずっと言ってたけど、ここまで破天荒だともはや笑うしかないね!」
「……キャラが崩れるくらい大ウケしてくれてありがとう」
入ってきた二人は、ジェレミアさんに対応をお願いし、こちらは引き続き報告の続きである。
彼お手製のオレンジアイスを頬張る二人に思わずほっこりしつつ、反対側で机に突っ伏しているもう一人の幼女……もといゆかりんを宥めに掛かる私。
いやまぁ、キレ散らかす理由は私にあるので、怒られることそのものには特に問題はないのだけれど。
彼女達が変に行動を制限される、というのは私の本意ではないので、できればそこら辺は勝ち取っておきたい……というのもまぁ、こちらの本音ではあるのだ。
なので、どうにかして彼女のご機嫌取りをしなければならないんだけれど……んー、無理じゃないかなこれ?
(*`・∀・´*)「お話は聞かせて貰いました、なりきり郷は崩壊します!」<バーン!
「貴方が予言者か、歩いてお帰り」*5
「えっ」
「えっ?」
「……なるほど、こっちでもこうなのね、貴方達」
「あ、クリス。朝方ぶりー」
とまぁ、そうやってわちゃわちゃしている内に、今回の案件で重要な役割を果たしていたもう一人……クリスが桃香さんを伴ってやって来た。
なんで桃香さんなのかって?今日この時間帯に手が空いている人が彼女しかいなかったのと、「私も出番が欲しいです!」などという
いやまぁ、彼女にとってのある意味での上司にあたる、あの花の魔術師の関わっている案件だから気になった……というところが、一番大きいのだろうけれども。
ともあれ、新参者であるクリスの検査、及び彼女の上司であろう琥珀さんへの面通しは無事に終わった、と見ていいのだろう。
……それにしては、ちょっと彼女の表情が硬いことが気になるが、今はれんげちゃんと荷葉ちゃんの話の最中だからか、彼女がその理由を話す雰囲気は一切ない感じ。
なのでまぁ、引き続き話すことは少女達二人について、である。
「じゃあもうこの子達も、キーアちゃんが保護者ってことで。それが一番面倒がないし、それでいいわよねそっちの二人も」
「キーアお姉さんと一緒なん!」
「そうですね、それでいいと思いますよ」
「……ワーイ、ウレシイナー」
(本当は嬉しくないけど、二人の手前言えない奴だこれ)
(お二人の生存そのものは嬉しいこと、というのが複雑なところですね……)
(なるほど、面倒ごと誘引体質なのねキーアって)
まぁ、早々に私預かりにするってことで、会議は終結してしまったわけなのですが。
わーい、お仕事増えて楽しいなー……。
……それと周囲の三人よ、こっちを珍獣を見るような目で見るのは止めれ、マジで。
まぁ、問題が片付いたのも確かなので、話は彼女達についてのものから、次第に別の話題へと移っていく。
「今回の案件、幾つかよくわからないところがあるのだけれど」
「どこのあたりが?」
「マーリンの干渉についてとか?これ、
「ああ、大雑把とはいえあの猫箱を観測できてた辺り、以前説明した論理に沿うのなら、妖精郷の本人じゃなきゃ全体観測と遠隔サポートなんて出来ないだろうしね」
「……それ、なんで彼はこっちの手助けを?」
話題に上がったのは、なんでマーリンが手助けをしてくれたのか、ということについて。
それは、彼がこちらを手助けする理由があったから、と考えるのが普通だが……。
「大前提として、彼はハッピーエンドを望む人……ってことに反論はないよね?」
「そうね。……ってあ、もしかしてそういうこと?」
「まぁ、理由の一つではあると思うよ?この結果を望んでいたってのは間違いないだろうし。……ただもう一つ、事態の解決まで周囲に隠しておきたいことがあったから、ってのも理由なんじゃないかなーというか」
「……隠しておきたいこと?」
マーリンがハッピーエンド厨である、というのはよく知られた特徴だろう。
なので、今回のあれこれも千里眼で見た結果として、こちらを手助けすることが彼の楽しみのための利になる、ということで手を貸してくれた……と考えるのは、そう間違いでもないはずだ。
状況の奇跡的な整い方を見ても、誰かが私にれんげちゃん達を
ともあれ、わざわざ彼が
「台所で写真を見た、って書いてたでしょ?」
「……そうね、
「ん?どうしたのゆかりん、なんか気付いた感じ?」
「……ねぇ、五条さん?仏壇に飾られてる写真って」
「……なるほど、そりゃおかしいね」
あの時、私は確認のために台所に赴き、そこにあった仏壇に飾られている
が、それはおかしいのである。
だって、おばあちゃんの認識では、孫は生きていた。
繰り返しの中の認識改変があるから、記憶については整合性のために弄られていた、という解釈もできるけれど……。
それでも、台所はあの世界の中で、唯一特別な手が加えられていなかった場所だ。
なら、それはこうだとも解釈できないだろうか。
──今回のループの、本当の起点はあの台所だったのだ……と。
「複数の世界線、それを束ねる大本の大本。……枝分かれする前の起点だからこそ、それが同一空間上に複数重なることで、書き換えの叶わないほどの強固な場所となっていた……ってわけね」
「おばあちゃんが途中からずっと眠っていたのは、実際は毎回別人だったことに気付かれないようにするため、だったんだろうなっていうか」
「別人、というと……」
「荷葉ちゃんが亡くなってから、既に何年も経っている状況のおばあちゃんとか、はたまた、まだ彼女が元気に遊び回っていた頃のおばあちゃんとか。……話をすれば、すぐにれんげちゃんについての違和感に気付いてしまうから、そこを先伸ばしにしたかったんだと思う」
クリスの説明に頷きを返しながら、マーリンが行ったことについて考察を進めていく。
要するに、おばあちゃんが起きたままだと、荷葉ちゃんのあれこれに気付くタイミングが変わってしまうため、それを調整する目的でずっと眠らせていた……というのがこちらの予想である。
「……確認して見たんだけど。あの琥珀さん、私の上司ではなかったわ。正確には、私の知ってる彼女ではなかった、って感じだけど」
「おおう……」
その予想を裏付けるように、クリスが自身がさっき会いに行ってきた
……なるほど、さっき表情が硬かったのはそのせいか。
帰って来たと喜び勇んで報告に行った相手が、自分の知っている相手ではなかった時の彼女の思いは、想像するより他ないが……。
「それはその、御愁傷様というか……」
「気にしてないわよ、向こうもこっちも対して変わんなかったし。……モンブランじゃないと言っとろうに、どっちも間違えるんだから、もう」
彼女の様子を見る限り、大してダメージを受けているわけではなさそうなのは、よかったと言うべきなのだろうか。
ともあれ、これではっきりしたことがある。
あの場所は、世界線移動の際に平行世界からの可能性の取得を行っていたのだ、ということが。
そして恐らく、荷葉ちゃんが生きていた世界と、今彼女がいる世界は別物だろうということもまた、確証は無いがまず間違いないだろう。
「そりゃまた、なんで?」
「毎回ちゃんと確認してたわけじゃないけど、きちんと確認しに行った最後の一回以外、仏壇はあったりなかったり、写真も飾られてないことの方が多かったりしてたから。あそこの切り換えが世界の切り換えになってたんだろうな、というか」
「少なくとも一番最初の荷葉ちゃん(仮)と遊んでた世界では、おばあちゃんの反応を見る限り、彼女はまだ生きている世界だったみたいだしね」
五条さんからの疑問に、クリスの補足も交えながら答えていく。
そのまま、他の疑問点についても解消していくことで、時間は瞬く間に過ぎ去っていくのだった……。