なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・迎えた明日を、ただ噛み締めて

「……あー、終わった終わった。長かったー!」

「はい、お疲れさま。この後の予定は……みんなで集まって打ち上げ、だったかしら?」

「そうだね、喫茶店(ラットハウス)に集まって歓迎会だね。……君らになりきり郷各所の紹介もしなきゃいけないし、今日寝る部屋の準備もしなきゃいけないけど……それよりもなによりも、まずは歓迎会だ……ってゆかりんが」

 

 

 長い説明やらもようやく終わった私達は、ゆかりんルームを飛び出したその足で、一路ラットハウスを目指して歩いていた。

 新しくなりきり郷に加わる三人(+二匹)の歓迎会を行おう、とゆかりんが言い出したからである。

 こちらとしてもその提案には反対する理由がなく、夕食をラットハウスで摂る……という予定になっているのだった。

 

 なおさっきまでの話の結果として、我が家にはれんげちゃんと荷葉ちゃん、それから微妙に行き場のなくなってしまったクリスの三人が、新たに加わることになっている。

 拡張型の家屋を使っているし、なにより三人共面識がある私が面倒を見るのが(ストレスやら対応の早さやらの面で)良いだろう、というゆかりんからの通達によるものだ。

 まぁ、もうめんどうみきれよう*1……みたいななげやりな部分もなくはないのだろうが。

 

 ……ただ、なりきり郷という区分の中で、更にキーア組とか言う枠組みになりそうな勢いで人数が増えて行っている……というのは、保安とかの観点からしてどうなのだろう?と思わなくもなかったり。

 

 いやまぁ、別にお上に反逆しようとか、なりきり郷を足掛かりに世界を征服しようだとか、そういう不穏なことは一切考えちゃあいないのだけれど。

 でもなんにも知らない人達から見たら、私達の集まりって危険分子以外の何者でもないんじゃないかなー、と考えてしまうというか。

 

 

「いや、そのあたりは大丈夫でしょ。そもそもの話、キーアさんってば自分で思ってるより、ずっと郷の中での知名度高いし」

「……知名度が?なんか目立つようなことしたっけ私?」

「いや、惚けられても困るんだけど?よーく胸に手を当てて考えてごらんよ」

「んー?」

 

 

 そんな風にむむむと唸っていると、横から五条さんのツッコミが、笑みと共に割り込んでくる。

 それは、私が今までこの場所でやって来たことを思い返してみろ、というものだったのだが……。

 

 ふむ……。*2

 

 

「……うん、これはひどい」*3

「でしょ?っていうか運動会の時点で、普通に一般(モブ)層からの知名度上がってたし。なりきり郷の中でキーアさんを知らないって人探すの、結構骨が折れるー、だなんて話じゃないと思うよ?」

 

 

 思い返してみたあれこれは、確かに私達の一般?的な知名度を、ごりごりと上昇させるものが複数含まれていた。

 そんな行動の結果……特に意識してやったわけではないけれど、基本的には郷の為になるような作業がほとんどであったことも幸い?し、住民達からの私達の評価は、基本的によい評判ばかりになっているのだという。

 

 なので、今の私達がどれほど勢力を拡大するような行動をしようとも、周囲からは「まーたあの人問題事を抱え込んでるよ……」くらいにしか思われない……らしい。

 ……無意味に疑われないのは、有り難いといえば有り難いのだが。その結果として私に付与される評判が苦労人、というものなのは、果たして喜んでいいものなのか否か……。

 

 まぁ、別に誰かのために嫌々やってるって訳ではなく、あくまでも私がやりたいようにやった結果として、周囲からの評価が苦労人になったというのなら。

 ……気持ちはどうあれ、素直に受け取って置くべき……というのも確かな話。

 微妙な居心地の悪さというか、むずむず感こそあれど、特に厭う必要もないと自身に言い聞かせ、止まっていた足を再びラットハウスに向けて動かす私。

 

 

「……あれ、もしかしてキーアさん、照れたりとかしちゃったり?」

「うるさいわね……別に照れてなんかないわよ、子供じゃないんだから。……ただその、このままダラダラしてるといつまで経ってもラットハウスに付かないから、きっちりと気持ちの区切りを付けたってだけ」

「あーはいはい。そういうことにしときますよっと。……じゃあまぁ、とりあえず齷齪(あくせく)と足を動かしますか?」

 

 

 ……こっちがちょっと顔が赤いのを見て、にやにやと笑っている五条くんの鼻先に、パンチをしてやりたい欲求に抗いつつ。*4

 彼がこちらに付いてこようとしていることに気が付いて、はて?と首を捻る。

 

 

「……五条さんも参加するの?」

 

 

 彼がゆかりんの部屋に居たのは、仕事の説明のためだったはず。

 と言うことは、彼はそのまま仕事に行くのかと思っていたのだが……?

 

 

「あっちでずっと繰り返してたせいで、実感ないのかもしれないけれど。……今日って一応、()()()()()()()()()()()()()()()()だからね?」

「え?……うわホントだっ!?」

 

 

 そんな私の言葉に返ってくるのは、苦笑とスマホの画面。

 そこに記されていた日付は……自分の記憶に間違いがなければ、確かにウルキオラ君を迎えに行ったあの日から、二日しか経っていないことを示していた。

 

 こっちの体感時間的には、とうに一年以上経過しているつもりだったけど。

 実際にはその百分の一程度も過ぎていないと示され、ちょっとばかり時差ボケ?を起こしていたことに、今更ながらに気が付く私。

 

 ループものの主人公達が、いつの間にやら老成してしまう……その理由を実際に体感してしまったことに、なんとも言えない気分に陥りつつ。

 変わらずこちらをからかってくる五条さんを追い掛けて、走り出す私と。

 それを更に追い掛ける、新しく仲間に加わったれんげちゃん達なのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

「どうしたん?クリスお姉さん?」

「いや、なんだか花の香りがしたような……?」

「花の香り?……ここ、花瓶も無いよ?香水の香りと勘違いしたとかじゃない?」

「……いや、誰ともすれ違ってないのに、香水の香りってのも……んんー?」

「どうしたの三人ともー!早くしないと置いてくよー?」

「あ、五条お兄さん待ってほしいん!ほら、クリスお姉さんも!」

「わわっ!?わかったから、引っ張らないで!?」

「んー、れんげのパワーがすごーい。後遺症、的なやつなのかな?」

 

 

 

 

 

 

「──ふむ、どうやら上手く行ったらしい。やれやれ、これでまた一つ、心配ごとが片付いたかな」

 

 

 遥か遠く、此方ではなく彼方でもなく、誰にも辿り着く事の叶わぬ理想郷。

 その物見の(うてな)にて、不可思議な空気を纏う一人の()()が、どこかを見詰めながら小さく声を吐いた。

 その姿は美しく、それを見たものは誰であれ心を奪われ座するだろう──そんなことを確信させるほどの美貌を持った女性であった。

 そんな彼女が、遠くを物憂げに見ていたが──やがて、仄かな喜色をその顔に浮かべ、小さくガッツポーズを取っていた。

 見た目の神秘的な感じからすると、どうにも俗っぽい動きである。

 まぁ、それだけ嬉しいものが見えた、と言うことなのだろうが。

 

 女性は一頻り何かを眺めたあと、小さく頷きを残して視線を()に戻した。

 彼女がいる場所は、ある種の監獄。

 常に花咲くその世界は、しかし彼女以外の誰も居ない場所であり、故に彼女はずっと()を眺めている。

 

 

「……ん?ふんふん、……それは手厳しい。お前は私には特に手厳しいが、彼女達への感想もとかく手厳しいねぇ。……それだけ期待している、ということの現れなのかな?……あいたたたっ!?」

 

 

 そんな中、彼女は己以外の唯一の生き物──いや、影と会話を交わしていた。

 その黒い影は小さく、しかしてもふもふな、謎の獣である。

 その獣が何事かを話すのを、彼女は時々相槌を返しながら聞いていた。……時折、余計なことを言って反撃を受けたりもしていたが。

 

 ともあれ、影の獣は大層厳しい性格のようで。

 彼女が見ていたものを、散々に扱き下ろしていたらしい。……無論、彼女も彼らの手際には少し言いたいことがないわけでもないが……、結果として彼らは成功し続けている。

 こちらの手伝いもあってこそ、というのは確かだが、彼らが成功し続けている以上は、殊更に彼らを責める気がないのが、ここにいる彼女なのだった。

 

 

「……よぉしよくわかったぞぅ!そこまで言うのなら、お前が直接見て来なさい!私はここからは動かないからね、ここから出たら酷い目にあいそうだから、その辺りの監督はお前に任せた!……え?()()()はどうしたって?彼は別件に掛かりきりだから、私の一存では動かせないよ。それに──」

 

 

 その言い争いの結果、彼女は黒い獣を送り出すことを決めたらしい。

 獣の方は何事かを捲し立てているが、彼女に聞く耳はない。

 そもそもの話、この物見の台は彼女の為の幽閉塔。──獣が間借りをする理由は、かつて関わっていた者としての恩情、みたいなものでしかない。

 まぁ、それを口に出した時点でまた獣に噛まれるだろうから、彼女はそれを口に出すことはないのだが。

 

 とにかく、獣の旅の開始は決定事項。

 塔から放り出す、というような真似は流石にしないが、獣を理想郷の出口にテレポートさせる、くらいのことはしてやっていた。

 その移動の最中、彼女は獣に対し、とあることを告げる。

 

 それを告げられた方の獣は、しぶしぶといった様子で出口に近付き、そのまま消えていった。

 獣がしっかりと外に出ていったことを確認し、女性は小さくため息を吐く。

 元となった存在が存在だけに、あの獣の旅立ちには随分と時間を要してしまったが……これでまた、彼女の肩の荷が降りたことになる。

 その事を思って小さく息を吐き──重荷をわざわざ背負っていた自分に気が付き、小さく笑みを浮かべた。

 

 

「私もまた、ここでは単なる役者……ということか。ともあれ、彼らもまた、この世界の意味に気付き始めたことだろう。それがより良い結果をもたらすことを、僕は願い続けている。それが、僕が此処に居る理由なのだから」

 

 

 ()()()()()理想郷より、遥か遠く……かの魔王の居る地を望む。

 哀しみの全てを背負い、業火に焼かれて果てることを望む、小さな小さな魔王。

 

 ()が望んで、望みに望み抜いて見付け出した光。

 それが、確かな兆しとなることを願い。彼女()は窓の縁に腰掛けながら、遠き未来を望み続けるのだった。

 

 

*1
チートバグ動画の投稿者、ヒテッマン氏の作品にて飛び出した文章の一つ。『ジャンボ尾崎のホールイン・ワン・プロフェッショナル』というゲームにおいて、『もうめんどうみきれないよ。でも あきらめちゃだめだぞ。』とジャンボ尾崎が話すのがバグったもの。面倒見れるのか見れないのか、いまいちわからない文言。なんとなく呆れている感じもする

*2
一章:基本的には単になりきり郷にやって来ただけ。なおマーリン

二章:マシュがカードゲーム大会で優勝。隔離塔のことを知る

三章:オンラインゲームにダイブ、そこから大企業とのパイプ?ができる。みんなでちょっと海水浴にも行った

四章:五条さんの代わりにお仕事で外へ。神様の姿を象った存在について知る

五章:魔法少女になる。あとハロウィン案件をみんなで解決する

六章:唐突に異世界へ。さらにはそこから異国の姫様を連れてくる暴挙

七章:異国のお姫様にこちらのあれこれをご紹介。ついでに運動会にて無茶苦茶やる()

八章:お姫様にお友達を作る。あと、郷の責任者であるゆかりんに休みを取らせる

九章:クリスマス案件勃発。敵側として登場、色々とみんなの成長をお助け。タマモがやって来るが、異様に馴染む

十章:ご覧の通り。九章が長いって自分で言っておきながら、更に長くなる暴挙。違うのです、語るべきことを語ろうとしたら、予想以上に間延びしただけなのです……

*3
表現としてはそれこそ結構昔から使われているので、元ネタを定めようとすると意外と難しい言葉。ネタとして有名なのは『大冒険セントエルモスの奇跡』の冒頭で村人が発した台詞(及び同ゲームがあまりにも酷い出来だったことの合わせ技)や、NHK教育でお姉さんがあまりにも酷い料理を作った時にニャンちゅうが放った台詞、などだろうか

*4
関係ない話だが、そのものズバリ『顔面ぱんち』というタイトルの歌が存在していたりする(クサカンムリ氏の曲。『Pia・キャロットへようこそ!!G.P.』というゲームのオープニング)。内容は、いわゆる暴力系(手が出やすい)女子のやきもきを歌い上げたもの。ツンデレらしいな、とちょっと微笑ましくなる曲




幕間のはずが本編みたいな長さになっている(白目)
違うのですよ、十章が一月の話だから纏めたらこうなっただけなのですよ……。

ともあれ、次回からは次の章になります……。

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