なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
バレンタインもまた誰かの陰謀
「いやー、気が付けば今年も既に一ヶ月経過!……個人的には既に一年は経過しちゃったような気分なんだけど、どっちにしろ時の流れが早いこと早いこと!」
「……ふーん。キーアさん達は相変わらず色々と忙しそうっすね?」
とあるよく晴れた日の昼下がり。
郷の中でいつもよりもちょっと遠出をしていた私は、たまたま
まぁ最初の内は?彼女の中身が
そんな事前予想に反して、彼女が手に取って買っていくのはシャンプーや食材など意外と普通のものばかり。
フィルムケース*1を買い漁るのがはたして普通の買い物なのか?──と言われるとちょーっと疑問に思う部分もなくはないけども……まぁ、少なくとも生態系の頂点に君臨する龍種がする買い物としては、穏当に過ぎるものだと言うのは別に間違いでもないだろう。
……大量のフィルムケースで一体なにをするつもりなのかと問い掛けたら『空を作るんっすよー』なんて意味不明な理由が返ってきたため、納得できるかどうかって部分だと疑問符が付く結果になってもいるんだけども。
ともあれ、そうして彼女の買い物にも付き合いつつ、私もまたそんな彼女を買い物に付き合わせる形となり。
そうして街を回る内に時計の針が正午に差し掛かったため、一度買い物を切り上げて二人で近くのハンバーガーショップに入った……というわけなのでありましたとさ。
「そういえば、もうすぐっすねー」
「もうすぐ……って言うと、なにかあったっけ?……あ、そういえば私あとちょっとすると誕生日だわ」
「おや、誕生日。それは一体
「いやどちらって……ああそうか、
「その言いぶりだと、キーアさんはどっちも同じなんすか?」
そうしてハンバーガー(挟まっているのはエビフィレオ*2。タルタルソースとの相性がバッチリ)にかぶりついていたところ、あさひさんから振られた話題というのが二月の行事についてのものだったわけだ。
なお
……なったんだけども、
仕方ないのでそりゃ勿論私と俺の……と答えを返そうとし、はたと気付く。
──なりきり郷にいる『逆憑依』組は原則なにかしらの原作を持つ者達であり、それゆえに奇跡的な確率に恵まれなければ両者の誕生日が被るなどということはないはず……というある意味当たり前の事実に。
ちょっと真面目に考えてみればそりゃそうか……となる話なのだが、自分のポジションが割りと特殊であるということを失念していたのもまた事実。
口を開くときはもうちょっと考えてからにしよう……と心の中に戒めとして留め置いて、改めて口を開き答えを返した私である。
「
「なるほど、閏年!そう考えてみると、二月って意外と特別な感じがありますよね♪」
「そうっすねー。四年に一回だけ一日増えるとか、恋人達が盛り上がったりとか」
「……恋人?盛り上がる?」
「……あ、あれ?どうしたんですかキーアさん、そんなに首を捻って」
なお、そうして答えを返した私の誕生日については、なにやら軽くスルーされてしまった感じである。……いやまぁ、いい歳して誕生日云々かんぬんと拗ねるつもりはないけども、そっちから聞いておきながらスルーってのは宜しくないんでないかね?
そんなこちらの微妙な不満など素知らぬとばかりに、いつの間にか隣の席に座って会話に混ざっていた桃香さんは、あさひさんと一緒にガールズトーク?っぽいものに花を咲かせているわけで。……仕方ないので、ストローからシェイクを貪り吸いつつ二人の様子を眺める私なのでございました。
んで、そうして会話を流し聞く中であさひさんの口から飛び出したとある単語に、私は妙な引っ掛かりを覚えたわけでして。
……恋人達が、盛り上がる?
なんだっけ、喉元まで答えが出掛かっているような……?
こちらを怪訝そうに見詰めてくる桃香さんを無視しながら、むむむと唸る私。……数秒後、記憶の彼方に消えていたとある行事を思い出した私は、思わずポンと手を打っていた。
「ああ、バレンタイン!誕生日とよくごっちゃにされるから、記憶の片隅にすら存在してなかったや!」
「え、ええー……」
「キーアさん、悲しい子……」
「……え、いやその、そんな可哀想なモノを見る目でこっちを見ないで頂戴な!」
なお、発言の内容が非リア過ぎたため、二人からは憐れみの視線を向けられることになるのだった。解せぬ……。
「……記念日系に近い誕生日の人って、一纏めにされがちですよね、お祝いとかを……」
「キルフィッシュ・アーティレイヤーに悲しい過去、ってやつっす」
「やめない?ねぇやめない?労ってるつもりで人の心の柔いところを、ザクザクと傷付けようとするのやめない?」
いやまぁ、言うほど傷付いてもないけども。
明らかに悪ノリしている二人にツッコミを入れる私だが、バレンタインを忘れていたというのは半分嘘である。
……いやねぇ?なりきりなんてやってるのに、バレンタインを知らないとかありえないから……ねぇ?
「あー、確かに。言われてみればそうですね。スレの中で名無し達にチョコを配る……だなんて、女性キャラならば普通にやっているはずのことですもんね……」
「へー、そうなんっすか?」
「え?あさひさんも自分のところでやってたんじゃ……あ」
「はい、私の本体は龍っすからね。バレンタインとか……関係……ない……っすよ?」
こちらの言葉に、女性キャラならやっているハズだよね、と小さく頷く桃香さん。その流れであさひさんが首を傾げたため、少し不思議そうな顔をしていたが……
まぁ、なりきりとしてこちらに『逆憑依』してきた時点で、持っている知識には現代のものが含まれているハズ。
そういう意味で、全く一切これっぽっちもバレンタインを知らない……というような人はいないだろう、多分。
「じゃあ、なんでまた知らないふりなんて行動を?」
「戦争が起きる」
「はい?」
「今、なにが起きるって言ったっすか?」
「
「……いや、遊んでなくていいですから」
では何故、私がバレンタインについて意識的に記憶の中から外していたのか、というと。
……まかり間違って手作りチョコでも拵えた日には、なりきり郷全土を巻き込んだ戦争がおきかねないから、だったりする。
わけがわからないと思うので、順を追って説明していこう。
キーアというキャラクターは……まぁ、料理の腕前に関しては普通な方だと思う。
決して食べられないものを作るようなことはないが、逆に取り立てて美味しいと言えるようなものが作れるわけでもない、ある意味ではキーアという万能キャラに見合わぬほどの、あまりにも普通な料理スキルしか持ち合わせていないのが、今の私の状態である。
いやまぁね?いつものように模倣技能を使い、漫画・アニメ・小説などの作品に登場する、いわゆるトップクラスの料理人達の腕前をコピーする……みたいなことも、一応できなくはないと思うんだけど……。
「本当の意味での
「なるほど。複数の能力を組み合わせて使っているのは、そうしなければ能力強度が足りないから……という面もあるわけですか」
桃香さんの言う通り、私の能力コピーは決して完全に相手をコピーするようなものではなく、結構な劣化を前提とするものである。
それゆえ、性能を実戦の域にまで高めるには、半ば必然的に能力の組み合わせを行う必要がある……という面もなくもないのだ。
……え?お前って確かマシュやシャナと同じく、再現度方式で評価すると、最大値として認識される存在じゃなかったか、ですって?
「キーアってキャラに関しては、必要なのは再現度より出力の方なんだよね」
「……よくわかんないっすけど、本人そのものに近かったとしても、本人の力を使っているわけではない……と言うことっすか?」
「ああうん、ちょっと詳しい説明はできないけど、まぁそんな感じ」
このあたりは
ともあれ、単に『キーア』という存在に近付くだけでは、彼女が本来持っている能力の半分も使えない、と言うのは間違いではなく。結果として、模倣技能の完成度も半分くらいになる、というわけなのでございます。
で、それらを踏まえた上で、料理の腕前の話に戻ると。
本来のキーアであるのならば、他者の料理スキルごと模倣することにより、例え満漢全席だろうがフランス料理のフルコースだろうが、ちょちょいのちょいっと作ることができるのだけれど……。
「私の場合は模倣技能の性能上、他の料理人のスキルを組み合わせて代用する、って形でしか賄えない。無論、そんな無茶苦茶なことをしたら、船が山を登るのは当たり前って話なわけでして……」*4
「えっと、つまりは下手に能力を使わない方が美味しく作れる……と?」
「……まぁ、そういうこと」
チームで作る料理というのも多数存在するけど、私の
これが戦闘用の技能であるならば、無理矢理くっつけて体裁を整えるということもできるのだけど。……こと料理についての話となると、そんな無理を通せば結果として
結果、素直に元々の自分自身の料理スキルを駆使して作った方が、遥かに美味しい料理が作れてしまう……などという、若干本末転倒気味な事態に陥ってしまうわけなのでしたとさ。
「……ええと、キーアさんがお料理についてはあまり上手ではない、という理由はわかったのですが。……それが戦争云々という話と、どう繋がって来るのでしょうか……?」
とまぁ、ここまで私の料理スキルについて、あれこれと解説してきたわけなのだが。
桃香さんの言う通り、これだけではなんで
なのでここで一つ、考え方を少し
「ずらす、っすか?」
「そ。……今の私がどうかってのは置いといて、基本なんでもできるって人が、なにか一つ苦手なことがある……っていうの、ちょっとエモかったりするよね?」
「はい?……ええと、まぁわからなくもないですが……」
「私の場合は料理が得意じゃない、ってのは事実。……そんな人が、例えば一生懸命チョコを手作りして、あまつさえ誰かに贈るだなんてことになったとしたら。……
「あー……」
──要するに。
日頃から慕っている先輩が、苦手(当社比)な料理を頑張って作ったチョコレート、なるものが目前にあったとして。
あの光と闇の後輩達が、なんのリアクションも起こさないだろうか?……いや、どう考えても酷いことになるだろう。
基本的に渡すのならば義理で済ませてしまう系の人物像なのも相まって、私が手作りしたチョコなるモノの価値というのは……世間一般的にどうかは別として、少なくともあの二人にとっては聖杯よりも価値がある、などと言い出しかねないのである。……っていうか、実際似たようなこと言ってるのを、たまたま耳にしたんです、はい(白目)
「ええ……」
「なので、学生時代の時と同じ様に、誕生日祝いのあれこれとごっちゃにして、なあなあに済ませてしまおう……というのが、今回の私の考えだったのです。バレンタイン云々をスルーしようとしてたのは、下手に襤褸がでないように普段から
「……まぁ、祝い事で滅び掛けるっていうのは、あるあるっすしね」
「そんなのどこぞの
なお、話を聞いた二人の反応はご覧の通り。
まぁ、是非もないよネ!