なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「とりあえず、まずは情報収集に勤しむとしよう。私はここの車掌さんが『幽霊列車』について知ってるか、聞き込みしてくる」
「じゃあ、私達は他の乗客の人達に噂を聞いたことがあるか、確かめてみます」
とりあえず最初にするべきなのは、件の噂が何処まで広まっているのかを確かめることだろう。
なにせ、現時点ではあくまで噂である。……もしかしたら誰かの悪戯だったり、はたまたなにかを勘違いした結果だったりする可能性もあるわけだ。
なので、噂そのものの広がり・及びその信憑性について聞き込みをしよう……という話になったのだった。
なお、銀ちゃんの矯正については、そもそも最初から一日で終わるものでもなし。
準備については進めつつ、今は蘭さんの仕事のお手伝いを優先しよう……という形で話は纏まっていた。
仕事が終わってイチャついている二人を見れば、銀ちゃんにもちょっとは自覚ができるかもしれないしね。
「……その、実は面白がってたりします?」
「ハハハナンノコトヤラ。老婆心デスヨ老婆心……」
(……絶対面白がってやがるなこいつ)
蘭さんからの言葉を、笑って返す私。
コナン君からの視線が、いつの間にかジトーッとしたものになってるけど、キーアんは全然気にしない!何故なら私は魔王だから!……そろそろ魔王万能論の使いすぎで、他の魔王から怒られそうである。他の魔王、と言われても現状だと波旬君くらいしか知らんけども。
ともあれ、聞き込みそのものは恙無くスタートした。
現実で探偵にあれこれ聞かれる……というシチュエーション自体が功を奏した*1のか、意外と周囲の人々の口は軽かった。正直拍子抜けである。
……いやまぁ、探偵なのはあくまでコナン君(とライネス)であって、付属品に近い私らは、別に探偵でもなんでもないんですけどね?
「なるほど、虎の威をカルカン・飛んで火に入る油揚げ、というやつでありんすな」*2
「……その、この人はいつもこんな感じなので?」
「気にせんでくれ。海外の出身なんだが、言語を覚えるのに使った教材が偏っとったようでな……」
で、今の私は件の鈴木財閥の副会長さん、鈴木黒雲斎さんに話を窺っている最中である。
……自己紹介された時、あまりにも古めかしい名前にちょっと面食らったりもしたが、さっきの騒いでいた時の様子とは違い、普通に話せる人だったため、聞き取りそのものはスムーズに進んでいた。
「ふぅむ噂、しかも『幽霊列車』と来たか。……そういうのは、船の上で起こるものではないのか?」
「あー、幽霊船ですか?……いやそれだと
「……なにか言うたか?」
「いえいえなにも。私達もあくまで噂として把握してるだけなので、真偽はよくわかってないんですよ」
まぁ、彼から返ってきたのは、噂を知っているという肯定ではなく、幽霊云々とすれ違うのなら普通は海の上ではないのか、という疑問だったのだが。
……幽霊列車自体は、昔からよく偽汽車として、狸や狐の仕業だと語られてきたらしいが、この分だと彼は、そういう噂とは無縁な生活をしていたのかもしれない。*3
ともあれ、この分だと彼は普通に観光にやって来た一般?人だろう。
別に財閥の人と繋がりを持ちたいというわけでもないので、軽く感謝の意を述べて席を立とうとする私。
「ところで、そちらが探偵であることを見込んで、一つ頼み事をしたいんだが……構わんかね?」
「……はい?頼み事?」
──だったのだけれど。
椅子から腰を浮かせるか浮かせないかの瀬戸際くらいのタイミングで、黒雲斎さんから別件の話が飛んできたため、已む無く席に座り直す羽目になるのだった。……気のせいじゃなければ、この人こちらが席を立つタイミングを見計らっていたような?
そんな彼の行動に、些細な違和感を覚えつつ。改めて席に座り直した私は、彼に続きを話すように促し──。
「……怪盗?予告状?」
「うん。なんでも、彼が今回この列車に乗ったのは……観光のためもあるけど、とある宝石を本社に持ち帰るためでもあるんだって」
三十分ほど経って、情報収集の結果を共有するために、私達に割り当てられた部屋に集まった一同は、私の言葉になんとも言えない表情を浮かべていた。
その理由は、黒雲斎さんが述べた依頼の内容にある。
そう、彼がこちらにしてきた頼み事とは、彼が本社まで運んでいる最中のとある宝石──
「……鈴木財閥の副会長が?宝石の運搬をしていて?更には怪盗からの予告状まで来てる?……んだそりゃ、役満かなんかかよ」*4
「こ、コナン君……」
ジト目が固定化されてしまいそうな様子のコナン君に、蘭さんが小さく苦笑を浮かべているが……まぁ、彼の気持ちもわからないでもない。
鈴木財閥と怪盗──もっと言えば、有名な宝石を狙う怪盗というだけで、彼からしてみれば嫌な予感を感じざるを得ないのだろうから。
「……怪盗キッド、ってわけじゃねーんだな?」
「予告状には犯人の名前は無かったって。……だからまぁ、可能性としてなくはない、かな?」
「マジかよ……」
そう。名探偵コナンにおける、鈴木財閥の相談役である鈴木次郎吉。
彼が顔見せする時と言うのは、基本的にとある怪盗の出番を示唆するものなのである。
──怪盗キッド。
青山氏の代表作の一つ『まじっく快斗』の主人公であり、世界観を同じくするコナンの世界においても、とある宝石を求めて怪盗業を行っている青年。
彼の盗む宝石は……コナン側で描かれる都合上なのか、結構な頻度で次郎吉氏が関わるものだ。
それゆえ、コナン君は次郎吉氏と似ていると感じた黒雲斎さんが、怪盗の話を持ち出したことに不信感を抱いている……というわけなのだった。
「いやまぁ、不信感ってほど重篤なもんじゃねーけどよ……」
「似たようなもんでしょ。再現度が低いって言っても、探偵役の人物が違和感を抱いたって言うんだから、なにかあるって備えといた方が後々問題が起きても対処しやすいでしょ?」
「……そりゃまぁ、そうなんだが」
なんとも煮え切らない様子のコナン君である。
だがまぁ、その態度も致し方なし。『逆憑依』における再現度は、あとから上昇させることができるものである……というのは、五条さんという実例により証明済み。
ゆえに、彼も
再現度が低くて良かった、と言っていた彼としては、あまりそこら辺が上昇してしまうようなことは起きて欲しくない……というのが本音なのだろう。
再現度が上がった結果、周囲で殺人事件が頻発するようになったりでもしたら、彼が気に病むことは間違いないわけなのだから。
「その姿で毛利ちゃんとイチャイチャしてたの、実は再現度下げの一環でもあるってホントっすか?」
「……まぁ、そういう面が一つもない、って言ったら嘘になるけどよ……」
「えー、そういうの良くないと思うっすよ?……不誠実?っていうか」
「あの、あさひさん。私も納得の上での話ですから、あまり追求しないで貰えると……」
「──ふーん、了解っす」
探偵の真似事はパスっすー、と部屋に居残っていたあさひさんから、コナン君へのダメ出しが飛ぶが……まぁ、話が話なだけに、既に当事者同士で折り合いは付けているらしく。
その片割れである蘭さんからの擁護の言葉に、あさひさんは渋々といった感じで、ソファーに戻っていった。
……列車に乗る前は渋っていたわりに、わりと(恋愛事に首を突っ込むことに)ノリノリなあさひさんである。
まぁともかく。
今回の噂が幽霊……探偵の話とは微妙にピントがずれる話だからこそ、外に出ることも許容した二人だが。
それに普通の探偵業にあたる(と言えなくもない)怪盗の捕縛も関わってくるのだとすれば、できれば関わらずに帰りたい……と言外に告げてくるのもわからなくもない、というわけで。
「だから、
「……すまねぇ、世話掛ける」
「気にすんなよ、困った時はお互い様って言うだろ?……だからー、あー、なんだ。後で弁護とかなんとか、そういうの俺が有利になるように助けて貰えると嬉しいなー、というかだな……」
「ぷっ、なんだよそれ。わりーけど、痴情の縺れは専門外だぜ?」
「いやいやそこをそう言わず!なんとか!」
結果、よろず屋組が怪盗の対処に当たる、という方向で話が纏まったのだった。
……私に話が来た時点で、断れれば良かったのだけれど。
金にモノを言わせられるタイプの人間相手だったので、できれば断って余計な面倒を起こさせたくない……みたいな面が強かったから、先んじて相手に話をされた時点で、こっちには逃げようが無かったというか。
BBちゃんに記憶置換を行って貰うことも一瞬考えたんだけど、彼女の
……事態を解決してしまう、という訳ではないので、仮に記憶を弄ったとしても『怪盗に狙われている』という状態の解消にはならず、
こうなってしまうと、巡り合わせが悪かった……と思って諦めるしかあるまい。
誰が悪いと言うわけでもなく、状況が
そう納得を残して、改めて情報交換に戻る私達。
「他の乗客の人にも聞いてみたけど……やっぱり、それなりに有名な噂になってるみたい」
「噂を聞き付けて、わざわざ高い金を払ってこの列車に乗った物好きもちらほら居たよ。オカ研みたいな集まりも、それなりに居たね」
「ふぅむ。となると『幽霊列車』に相当するモノは、確かに存在するものだって感じか……」
蘭さんとライネスの話によれば、噂を聞き付けて列車に乗ったのだと言う人物も、それなりに居たらしい。
その中には、爺さん口調のロリっ子も居たらしいとのことだったのだが……なんでみんなして、私の方を見るんです?
「いや、お爺さんではないけど、今日はずっと老婆心って言ってたから……」
「いつの間にか君が噂になっていたんじゃないか、とちょっと疑ってるのさ」
「……いやまぁ、確かに爺臭いこと言ってたけども。だからってそれが私ってことはないでしょ……?確かに私も、他の乗客に話を聞く時には『幽霊列車』の話をしてたけども」
みんなが私を見ていたのは、話が拗れていつの間にか、
……いやまぁ、見た目にそぐわぬ喋り方で、他の乗客に話を聞いていたってのは確かだけどもさ。
だからと言って、こんな短期間で噂になるようなことはないっていうか、そもそも私爺さん口調でもなんでもないっていうか。
「……そうじゃなかったら、この列車にはもう一人キーアさんみたいな人が居るってことになる……って言いたいんじゃないっすか?」
「……おお」
なお、なんでそこまで頑なに、私が噂になっているんじゃないか……と主張され続けていたのかと言うと。
そうじゃなかった場合に、私みたいな容姿で、かつ爺さん口調で話す人物が