なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「うーん……『幽霊列車』に『怪盗』、それから『爺さん口調のロリっ子』……」
情報の整理のために紙に書いた言葉達を、矯めつ眇めつ眺めつつ、むむむと唸る私。
当初の私達がこの列車に乗り込んだ目的──銀ちゃんの恋愛観の矯正についてや、黒雲斎さん達鈴木財閥について感じている怪しさなども含めてしまうと、現状私達に降り掛かっている問題は合計五つとなる。
……いつの間にやら、問題事の坩堝に放り込まれていたということに気付いた私は、思わず唸らざるを得ない心境に陥っていた……という感じなわけである。
「……というか、この間からずっと唸ってる気がする……!」
「ああ、この間と言うと……ウルキオラ君の話のあと、これまた厄介な案件に巻き込まれたとかなんとか聞いたが、それかい?」
思わず机に
彼の行為に感謝を一言伝え、受け取ったココアをちびちびと啜り始める私。……紅茶が混じっているタイプなのか、わりと飲みやすい。*2
ココア単品だと甘過ぎたりするので、これは中々気が利いていると言えるだろう。
「私が何かをしたというわけではなく、最初からショコラティーだったようだけどね。バレンタイン特別運行の名に偽りはなく、チョコ関連についてはあれこれと手は尽くしてある……ということらしい」
「ふぅむ。……そういえば、この列車自体も問題と言えば問題か……」
「……?この列車が?あくまでもこの列車は、バレンタインの為の特別運行車両……というだけのものではないのかね?」
まぁ、飲み物そのものが最初からバレンタイン向けに調整されていたものだった、と彼本人から明かされたわけなのだが。自身の功績でもないのに褒められるのはちょっと、みたいな感じだろうか?
……まぁそれはそれで、この列車にも問題点がある……ということを浮き彫りにしてしまうわけで、正直悩みの種が増えたような気分になってしまうのですがね。
といった私の言葉を聞いて、バソが首を傾げる。
……まぁ確かに、ドリンクバーにショコラティーがあったと言うだけの話で、なにがどういう変遷を辿れば、この列車の問題点を洗い出すという結果に繋がるのか……と言われれば、確かに意味がわからないと困惑を返されるのも仕方のない、とんでもない論理の飛躍にしか見えないかもしれない。
が、これについてはそう難しい話でもないのである。
「
「……あー、なるほど。いわゆる
こちらが提示した言葉によって、バソは答えに理解が及んだらしく。彼は得心したように、小さく頷いていた。
そう。さっきの問題点の中には、含まれていなかったもの。
それは『コナン君と列車』──すなわち殺人事件や列車ジャックなど、ちょっとした特番から劇場版まで。あらゆるエピソードにおいて、この走る
特に、キッドまで出てくる可能性を示唆されている今の状況は、原作における『ベルツリー急行』の話を彷彿とさせることだろう。*3
「……なるほど。かの少年探偵君の再現度が低いからこそ、
「真っ先に、この列車に纏わる事件が起きる……って私は睨んでるってわけ。それが誰かに対しての密室殺人なのか、はたまた列車をジャックされるのかはわからないけど。ともあれ、『コナン君の乗った列車』が無事に済むとは思えない。……だからまぁ、結果論的には
正月、バレンタイン、ひな祭り、入学式。
そういったなにかしらのイベントごとと、コナン君の組み合わせというのは。
最早
ゆえに、彼の再現度が上がる可能性が高い今回の案件において、一応ここは
今回私達が乗り込んだ『バレンタイン特別運行寝台列車・エメ』は、鹿児島から北海道までを繋ぐという、最早日本横断に近い距離を旅する、かなり特殊な車両である。*4
各所の絶景を列車の上から楽しみつつ、北海道に到着する日である十四日までの間をゆったりと過ごす……。
単純な旅行プランとして見ても中々のものだが、この列車の一番の目的は、先ほどから何度も示している通り『バレンタイン』についてのもの。
すなわち、『チョコを渡す時のシチュエーション』についても、プランの中に組み込まれているというわけで……。
「『食堂車でのチョコ作り指南も随時行っております』って……なんつーか、すっげー力入ってんだな……」
「まぁ、バレンタイン特別運行って銘打ってる以上、チョコ作りを支援するのも仕事の内……ってことなんだろうねぇ」
どことなくセレブリティな感じのする少女や淑女達が、食堂車に集まっているのを、ちょっと離れた位置から眺めている私とコナン君。
時刻は大体三時頃。
お昼のちょっと豪勢なランチも終え、とりあえず客室に戻っていた私達は、車内アナウンスにより食堂車での催しがあることを知り、こうして代表者を選出して、ちょっと観察?にやって来ていたのだった。
甘味的な意味で真っ先に立候補しそうな銀ちゃんが、此処にいないのは。……あわよくば少女達の試作したチョコの味見役に収まろう……という彼の魂胆が目に見えたから、だったりする(なお彼に下心はない。食い意地は張っているかもしれないが。なお、実際に食べられる確率)。
ただでさえその両脇を、こわーい女子二人に固められているというにも関わらず、ただ一時の甘味を手に入れるためだけに、更なるフラグまで踏み抜きにいこうとするその無謀な発言には、基本動じないあさひさんも、開いた口が塞がらない……みたいな顔をしていたのだった。
……いやまぁ、あさひさんのそれは多分、そこまでびっくりしたというわけでもなく。
単に銀ちゃんの無謀っぷりをわかりやすくするためのもの、くらいのノリでしかなかっただろうけども。
なお、銀ちゃんへの矯正プログラムが、二段階ほど厳しくなったようだが。それは私の預かり知らぬ話である。
ともあれ、見た目が子供でしかない私とコナン君ならば、乗客の子供がチョコの匂いに釣られてやって来ただけだと誤解して貰えそうだ……という打算も含めた結果として、こうして食堂車の隅で椅子に座っているわけなのだが。
その目論見通り、今のところ周囲から怪しまれている様子はなさそうだ。
……え?怪しまれないようにしている理由?
子供が聞き込みしてると『なに?少年探偵団なの?』と聞き返されてしまうからです……(一敗)。
真似事で済んでいる内はいいのだけれど、本当に少年探偵団だと思われてしまうと、思わぬ事件が舞い込んでくる可能性があるとさっきの黒雲斎さんの件で思い知ったので、できうる限り目立たないように立ち回ろうと方針変更を行った結果、というやつである。
……まぁ、状況的に意味はもうないかも知れないが。
気持ちの上では『対処してても舞い込んできたのだから、仕方ない』と納得できるからいいんです、多分。
まぁ、ともかく。
この列車そのものがトラブルの温床かもしれない以上、イベントごとには目を通しておこう……という意味も含めて、誰かが見に行くのは必然だったわけで。
再現度を上げたくないと言いつつ、コナン君が立候補した理由は私にはわからないが、突発的な事態にも対処しやすい私が同行を願い出るのは、そう変な話でもないのです、……多分。
多分多分言いすぎだろう、というツッコミを脳内で想起しつつ、改めて旅のパンフレットに同封されていた、この催しについてのチラシを眺める私達。
「……『有名パティシエが教えます、お菓子作りが初めてでも御安心下さい』……ねぇ?」
「最近テレビによく出てる人、らしいね。……なりきり郷だと普通の民放を見ることがほとんどないから、こっちでの知名度はあんまりないと思うけど」
今回のこのチョコ作り教室だが、講師となる人物が最近よく料理番組などに出演しているらしく、彼の姿を見ることを一つの目的にして、この列車に乗ったという人もそれなりに多いのだという。
食堂車に向かう途中、まさにそれを目的としてこの旅行に申し込んだのだという人が居たうえ、彼女に道すがらあれこれと説明されたため、なんとなくはわかる。
……いやまぁ、それでもその人の説明以上のことは、なんにも知らんわけなのだけれども。
そもそもなりきり郷に居ると、テレビで見れるものが基本郷での特別番組になってるし。ニュースとかは流石に、外の話も入ってくるけども。
……え?『マジカル聖裁キリアちゃん』?あれだけ全国放送なんだよなぁなんでかなァ!*5
「こんにちわ、講師の平川です。チョコ作りが初めてという方も多いと思います。簡単なモノから初めていきますので、決して投げ出したりせず、しっかりと付いてきて下さいね」
「……ふーむ。下手なアイドルよりイケメンかもねぇ」
「そうだな。……犯人だったり被害者だったりしなきゃいいんだが」
そんなこちらの内心での叫びなど露知らず、眼前で話は進んでいく。
車内の椅子や机を動かして、普通のお料理教室のような配置になったその場所の、講師用と思われる机の前に立ったのが、噂のパティシエだろう。
自身の美的感覚が、周囲とずれていないことを前提とするのならば、確かに女性達がきゃいきゃい言うのもわからないでもない、美形と称して間違いない面構えをした人物である。
まぁ、単にイケメンであることのみを競うのであれば、普通にバソの方がイケメンではあるだろうが。……え?海賊紳士とも呼ばれる二次創作のキャラと比べるのは止せって?
ともかく、目の前で行われる料理教室を眺める私達は。
──翌日、この講師があんな姿で発見されるとは、今はまだ露ほどにも思っていないのだった。