なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「えっと、つまりなんだ?現在の君はマシュ・キリエライト*1としての自意識が強くなっていて、遠藤楯としての意識も知識もあるけれど正直実感が薄い、と?」
こちらの言葉に少女──マシュさんと呼んでいいのかちょっと微妙な感じ──は、申し訳なさそうにその身を縮こまらせた。
「は、はい!先ほどせんぱいに気付けの一発を貰うまでは、どっちであるのかも曖昧な状態だったのですが。現在の私は、マシュ・キリエライトとしての意識の方が強いように思われます。このように──っと、武装の展開*2もできるようなので、少なくとも肉体に関してはマシュのものである、と結論付けるべきではないかと」
こちらに説明をしながら、マシュの盾──円卓を花の魔術師*3が加工したという特注品──を虚空から出現させる彼女。
ずしりと重そうなそれを、片手で軽々支える*4その姿は、確かに彼女がマシュであることを示しているかのよう。
ただ、当の彼女はその眉根を寄せて、何事かを悩んでいるかのようだった。
「えっと、何か気になることでも?」
「──先ほど、どちらであるのか曖昧だったと私は述べました。……ですが、正確にはそれもまた違うのです。──私はマシュではありますが、恐らくマシュではない」
「……えっと、なんて?」
持っていた大盾を虚空に消しながら、彼女は言う。
……何を言っとるのでしょうかこの娘は?
そんなこちらの困惑が伝わったのか、彼女は小さく謝罪をしたのちに、詳しい説明を始めたのだった。
「えっと、別に煙に巻こうとか、そういうことを考えたわけではないのです。……なりきりの宿命として、私達は
「えっと……今明かされていない原作設定とかはわからない、みたいな?」
「その通りです。原作者でない以上、なりきりをする者達が知り得る情報は、あくまでも表に出ている設定だけ。私の場合で言えば、このあと恐らく導入されるはずの、オルテナウス*7の
……ふむ、段々と話が見えてきた。
ここにいるのは確かにマシュ・キリエライトの姿形を持つ人間である。……が、その知識については、描かれていない部分までは及んでいない。即ち、
「今、ここに居る私に許された知識は、妖精國*8を旅した所までのもの。……その先に関しては、見れば
「なるほど、マシュだという確信はあるけど、それを確かだと証明できるような先の知識がない、ってわけか」
型月風に言うのなら、座からの召喚時の知識制限*9みたいなものか。
……あの辺り、スマホゲーでは制限緩くなってるみたいだけど、本来は別の場所で召喚された時の知識についてはほぼ受け継ぎ不可、みたいな話だった気がするし。
「それと、その事とは別の問題もありまして……」
「ふむ?別の問題とな?」
俺が納得の頷きをしていると、彼女が申し訳なさそうに口を開いた。……ふむ、これ以外に問題になるようなことがあるのだろうか?
「えっと。つい先日、サイトの方で記念祭が開催されていましたよね?」
「んん?……ああ、設立十周年だかなんだかで、スレ間の越境禁止ルール*10を緩和して皆でお祝いしよう、みたいな祭りスレッドを開催して、た……あ゛」
彼女の言葉に記憶を思い出そうとして、俺もそれに行き着いた。……ああ、うん。確かに、これは本人じゃないと感じても仕方ない。
「……記念祭で『聖騎士*11デッキ』を使ってキングさん*12とデュエルをした記憶が、記憶が!私の中に確かに存在しているんです!」
「あー、相手がマシュだからって向こうも『ここが!
わっ、と両手で顔を抑えて泣き崩れた?彼女を見て、思わずこっちも口元が引きつってしまう。
……私もあの記念祭には参加していたから、よーく覚えている。
遊戯王って、なりきりでも普通に人気*14でね。いや、実際にスレ内でやられると凄まじい勢いでレスを削っていく*15ので、ホントはあんまり誉められたものじゃないんだけどさ。
でも、上手くやれるとやっぱり反応がいいんだよね、あれ。
普段の掛け合いより遥かに気を使うんで、上手くできる人はほとんど居ないんだけど*16。
ただ、お祭りの時だと流石にみんな緩くなるので、複数スレを使いながらデュエルする、みたいなことも普通に起きちゃうわけで。
あの時は確か、『聖騎士デッキ』のマシュや『レッドデーモンズデッキ』のジャック・アトラス以外にも、わりと多数の人々が
……俺?酒飲みながら観戦してたと思う。……あ、いや、リアルじゃなくてキーアがね?この子わりと無茶苦茶なキャラしてるので、酒くらい普通に飲むんだよね。
しかしまぁ、スレでの記憶があると来たか。
……これ、俺もそうだったと今気付いたのでなんとも言えないんだけど。
雑に言うと、今の俺ら二次創作*18なんだなって。
「う、うう……マーリンさんに円卓をデュエルディスクへと改造して貰う*19とか!我が事ながら、あの時の私は何を考えていたのでしょうか!?」
「名無しの質問は絶対*20……とまでは行かないけど、なりきりである以上は基本応えられるように動く*21もんねぇ……」
セクハラめいたものとかは無視することもある*22……し、うまい人なら別方向に受け流して話の種にしたりもする*23。
質問を全部返す義務はない*24し、する必要もない*25のだけれど。
上級者側にカテゴライズされる楯は、その辺り極力返すように努力するタイプのなりきりをする人だった*26。
……その結果がこれである。
小型化した円卓を左腕に装備して、デッキからカードをドローする姿は、まさしく一人前の決闘者だった*27。
……臨場感ありありでその場を目撃した記憶が脳裏に浮かぶのは、ちょっと薄ら寒いところがあるけども。
「そうなのです。私は、確かにFGOのマシュとしての記憶がある。……ですが同時に、なりきり板のマシュとしての記憶も、同様に備えているのです。そして、それを繋ぐのが──」
「遠藤楯としての記憶、だと。……うーむ、こっちにも記念祭の記憶が映像付きで思い浮かんでくる辺り、眉唾とも言えねぇ……って、ん?」
彼女の言葉にむむむと唸るうち、気付く。
……あれ?俺は?キーアとしての記憶で俺がうんたら、みたいなの起きてないよ?
「そうなのですか?……あれ、でもせんぱいのキーアさんと言えば……」
「スレ主権限をフル活用してのチートキャラでございます。……どう考えても一般人が、人格残したまんまで居られるような奴ではないのですががが」
言っちゃあ悪いが、マシュはただのデミ・サーヴァントである。
……設定だけ見ると、型月でいうなら普通にカオス*28とかあの辺りを比較対象に持ってくるレベルで詰め込みまくっているのが、このキーアというキャラクターだ。
……ファンタジー系のオリキャラってなんであんなインフレする*29んでしょうね?!半ば荒らしみたいなキャラハンを追い出さなかったから?うーむごもっとも……。
いやでも、あの子戦力についてちゃんと決めたら聞いてくれたし!その後割と人気者になってたし!……他のスレでもキャラハンしてて、そっちで問題起こしたからbanされたけどさ!
……楯にそれを言ったら、可哀想なものを見る目で見られたのは嫌な思い出である。
でもさでもさ、あの時期もうすでになりきり衰退しかけだったから、まともにやれそうなキャラハンを追い出すのはちょっとあれだったしさ!……そんなことは聞いてない?そりゃそうだ。
「だからって、ワンパンマン*30モチーフのキャラを持ち込んでくるような方まで、懐に招き入れてしまうのは違うのではないかと……」
「強さ議論しなけりゃ普通にいい子だったんだってばぁ!?……ってそうじゃなくてぇ!」
彼女の言葉に虚しい否定の言葉を投げる俺。
……いやまぁ、なりきりかつオリキャラスレだったから?言葉と理詰めと色々使ってここではワンパンは無理ですよ、って認めさせたあとは?普通に名無しと会話してくれる良キャラハンになってたんだよ、少なくとも俺のスレではさ?*31
……ボスに付き従う小猿みたいなもんとか言った奴、覚えとけよ……!
「せんぱいせんぱい、話が脱線しています」
「おおっと」
思わず熱く語ってしまった。
彼女の言葉に頭を掻きつつ、話を戻す。
……とはいえ、よくわからんとしか言えない。
宙に浮いたり能力使えたりしている以上、今の俺の肉体がキーアのものであるのはほぼ確定事項だろう。
……楯みたいに精神に変調を来していない理由は、正直わからない。
「……とりあえず、なりきり板を確認して見ませんか?」
「んん、何か手掛かりでもありゃいいけど……」
彼女から促されて、ノーパソを引っ張り出す俺。
カチカチとマウスをクリックして、いつもの板を出そうとして──、
「あれ?」
「どうかしましたかせんぱい?」
「『404 not found』*32───」
「……え?」
……いやいやいや、いやいやいや!?
おかしいおかしい、昨日まで確かにあったぞあのサイト!そう、あの──、え?
「せ、せんぱい!?お顔が!真っ青に!!」
「じゅ、楯!!あの、あのサイト!名前、名前なんだった!?」
「は?……え、あれ、待ってください、これ、おかしい、おかしいですせんぱい!?」
サイトの名前が、思い出せない。
突然に飛来した異常に、パニックになる俺達。
いや、いやいやいや!昨日まで、確かにあのサイトで、俺達はなりきりをしていたはずだ!
だけど、サイト名が、アドレスが、そこに繋がる記憶が、──
「……いや、はは、なんだこれ、どうなって……」
「───答えが聞きたいかい?」
「?!」
困惑する俺達の耳に届く声。それは、玄関の方からのもので。
振り返ったその先に居たのは、銀の髪を逆立たせた美形の男。
視界を隠すように黒の布を巻いた、美しい男性。
──俺達は、この男を知っている。
「
『呪術廻戦』*33における最強の男、五条悟は──