なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ふぅ。あそこの御膳、とても美味しかったですね」
「私は値段が気になって、気が気じゃなかったです……」
隣の赤城さんが満足そうに微笑むのを横目に、彼女の行き付けの店とやらに連れていかれた私は、緊張で料理を味わうとかそんな余裕は一切なかった。
──ランチに 五けた。*1
この人、思った以上に高給取りですわ。
金銭感覚の違いに震え上がったのは、仕方ないことだと思うのです。
「ええ……?でもあそこ、同じようなお店の中では、結構安い方なんですよ?」
「止めてくだせぇ止めてくだせぇ、庶民の感覚じゃランチに千円だとしても贅沢なんですよ……」
「せ、せんぱい、お気を確かに……」
「何が落ち着けだマシュ!お前も結構手慣れた感じだったじゃないかっ、ええっ!?」
「お、落ち着いてくださいせんぱい!誤解、誤解です!マシュ・キリエライトとしての経験から、最適な行動を取っただけですので!」
「あっ、くそう!そう言われるとなんか言い返せない!」
パーティドレス*2とか普通に着せて貰ってるし、何よりマシュがその辺りのマナーができないっていうイメージがない!*3
じゃあ高級店に入っても物怖じしないのは仕方ないか!……え?ぶおお?なんのことです?*4
「いや、私もあの店に関してはちょっとビックリしたからな?赤城はああいうとこ、よく行くのか?」
「そうですねぇ、世間一般的な『艦これの赤城』とは違って、私は量を求めることはありません*5ので。代わりに、質に向かってしまったのではないでしょうか?」
「なるほど……?」
つまりそれ、結局掛かるお金の総量自体は変わっていないのでは?……とは言い出せず、食事を終えた私達は、再び公園に舞い戻るのだった。
「ではー、これより午後の部、決勝リーグを開催するぅー!!デュエリストの諸君、デッキの準備は出来ているかー?!」
立ち並ぶ八人のデュエリスト達。
最初の試合は束さんを下した謎のデュエリストCと、マシュの試合だ。
二人が舞台に上がり、向かい合う。
……そして、フードを深く被った謎のデュエリストCが、小さく笑い声を上げ始めた。……のを聞いて、どっかで聞いたことあるぞこの声、となる。
その感覚はマシュも同じようで、目の前の人物から聞こえる声に、微かに驚愕していた。
「その声は、まさか」
「ふっふっふっ、そのまさか、だよ!」
バッ、とマントを取り払い、内から現れし少女。
──そう、彼女こそは。
「おーっとぉ!!謎のデュエリストC、その正体は喫茶店ラットハウスの看板娘、保登心愛だぁーっ!!」
「おおォー、こりゃまた別嬪な嬢ちゃんだな!……って、ラットハウスだとォ~?!」
「対戦相手であるマシュちゃんと同じ職場で働く仲間、というわけね」
「いやー、あははは。聞いたマシュちゃん?私のこと、別嬪さんだって♪」
スピードワゴンさんの言葉に、思わず照れたように頬を染めながら頭の後ろを掻く少女。……そう、現れたのはココアちゃんだったのだ!
この場所に現れる人物だと思っていなかったマシュが、僅かに困惑したように彼女に声を掛ける。
「こ、ココアさん?!何故ここに……!?」
「ふふーん。遊戯王って、可愛いカードもあるでしょ?それで密かに集めてたんだけど、ライネスちゃんに『試しに大会に出てみたらどうだい?』ってオススメされちゃったんだ!もう、こうなったら街の国際バリスタデュエリストを目指すしかない!って気分になっちゃって」
てへへ、と笑うココアちゃんに、マシュが「なるほど、ココアさんらしいですね」と笑みを返す。
……いや、ほんわかするのはいいけど、これから真剣勝負なんじゃないんです?あと弁護士はいいのです?*6
「細かいことは言いっこなし!じゃあ、マシュちゃん!私と踊って貰うよー!」
「はい、全力で、お相手します!」
とか言ってたらあっという間に決闘の空気に。……切り替え早いなデュエリスト。
二人が左手を構えると、各々の腕に装着されたデュエルディスク*7が展開していく。
ココアちゃんのモノは、お盆とウサギを模したようなもので、マシュ側のモノは前にも言っていた円卓の盾を模した形のモノだ。
ガシャガシャとお互いのディスクが展開し、準備が完了したところで、二人が示し合わせたように声をあげた。
「「デュエル!!」」*8
「先行は私が貰います!」
「いいよ!私のもふもふデッキに勝てるかな!?」
「保登選手、凄まじい自信だァー!!キリエライト選手、相手の絶対の自信を打ち崩す事ができるかァー?!」
「おおぅ、こりゃァ白熱のバトルが待っていそうだぜッ!」
「ええ、熱いバトルを期待しましょう」
ふむ、舞台の上はとても盛り上がっているようだ。
だけどだね、その白熱のバトルを詳細に描くとなると、とてつもない時間が必要になるわけです。
……デュエル描写で字数を稼ぐ。うーん、字数稼ぎだと思われてる時点でよろしくないよろしくない。*9
そもそも私ら生粋のデュエリストでもないので、
なーのーでー、そんな描写稼ぎは不要だと思っていらっしゃるみなさまのためにぃ~。*10
──
「はぁ……はぁ……な、なんとか、勝てました……」
「ううう、まさか私の『わくわくメルフィーズとゆかいな仲間達』*12が敗北を喫するなんてぇ……!」
「結果」だけだ!!この世には「結果」だけが残る!!*13
……的な感じで、勝負が決まった瞬間まで時間を吹っ飛ばしたんだけど。
なんか、吹っ飛ばしたせいでどうやって勝ったの?みたいな事になってるような……?
い、いや!きっと凄いプレイングで勝ったに違いない!
私聖騎士もメルフィーズも回し方わからんので想像にしかならんけど!!
「見事なプレイングの応酬、見事な逆転の応酬!その激戦を征したのは、マシュ・キリエライト選手だァーッ!!」
「素晴らしい戦いだったわ、マシュマロ・キリエライトさん」
「マシュ・キリエライトです!」
「細けぇ事はいいンだよ嬢ちゃん!!見事なデュエルだったぜ!!」
「あ、はい。ありがとうございます」
「うぅー、負けちゃったぁ。行けると思ったんだけどなぁ……。うん、でもマシュちゃん相手なら仕方ないや。私を倒して、より高みを目指すんだよマシュちゃん!!」
「あ、は、はい!マシュ・キリエライト、この盾に誓って、全力で戦い抜く事をお約束いたします!」
「うん、頑張ってね!私も、観客席から応援してるよー!」
なんか、舞台の上ではいい感じに試合の締めに入ってるけども。……わ、私は仔細を飛ばしたから、共感ができない……!
こ、これが決闘者と一般人の間の埋められない差だというのか……!?*14
舞台からこちらに手を振るマシュに、顔が引き攣らないよう気を付けながら手を振り返す私は、久々にカードの勉強でもしようかな、なんて事を密かに思うのでした。
「さて、決勝リーグも決着を迎え、残すはキングとのエキシビションマッチのみッ!!」
司会の熱い実況と共に、今までのデュエルを振り返る。
決勝リーグ二試合目は、ハーミーズさんと謎のデュエリストKの試合。
フードの下から出てきたのが、まさかの黒咲*15さんだったことはとてもビックリした。いやだって、唯一の原作組の参戦者だったし、
「その声は……柚子!なぜ柚子がここに……逃げたのか?自力で脱出を?柚子!」
「私は柚子でもセレナでもないっ!」
「うぐっ、る、瑠璃……」
なんて風に、まさか原作の一場面を再現するとも思ってなかったし。*16まぁ、そのあと、
「お前は……ライズ!ライズ・ファルコン!?」*17
「え、ええ?!」
「彼女はリゼではない」
「うぐっ、る、瑠璃……」
ってな感じに、私まで巻き込まれる事になるとも思ってなかったんだけどさ。
まぁ、別に悪い人でもなかったので、終わった後は連絡先交換しといたけど。「ランクッ!4ッ!!」も聞けたので言うことなしである。……いや、負けてたんだけどね、黒咲さん。
三試合目は、赤城さんと謎のデュエリストN。
艦娘達と似たようなシルエットを持った人物で、その正体は。
「もぉちろぉーん!余であるぅー!」
「まさかの水着ネロちゃまだと……っ!?」
──まさかの夏の装いのネロ皇帝であった。*18
……いや、確かに見た目とか攻撃の仕方とか、かなり艦娘感溢れてたけどさ、一応それパイプオルガンって体だよね確か?
扱うデッキも、大きなパイプオルガン繋がりなのかオルフェゴール*19だったし、なんというかいつもの暴君さまなのは違いなかったけど。
「ネロ選手、失格ー」
「なんとっ!?主人公達はカードの書き換えとか創造とか、好き勝手やっていたではないか!?」
「あれアニメだから許されるんであって、リアルでやったら失格に決まってるでしょ」
「そんなぁー!?折角余が寝る間を惜しんで考えた、究極完璧全力全開黄金無双のオリジナルカードが火を吹く予定だったと言うのに!」
「……おいッ、誰かこの傍若無人が服を着て歩いてるような嬢ちゃんを、さっさと連れてけッ!!」
「横暴だぞこのリアリスト共ぉ~!!」
……うん、リアル書き換えとかリアル創造とかはダメに決まってますネロちゃま。素直に反省してきてください。
ってな感じで、ここは赤城さんの不戦勝だった。
……予選は大丈夫だったのかって?
ネロ皇帝は基本目立ちたがりやだから、予選では雌伏の時を過ごしてたんだと思うよ、多分。
第四試合は互いに覆面だったせいで、微妙に気まずい感じになりながら、何故かお互いにマントも脱がないままデュエルをしてどっちが勝ったのかよく分からない感じになり。
続く第五試合はその勝った方の謎のデュエリストと、マシュとの対決。
……結局、頑なに顔を隠したまま敗退していったんだけど、あの二人はなんだったんだろう?
その後の第六試合は赤城さんとハーミーズさんで、これはハーミーズさんの『主人公ハイランダーズ』*20デッキが勝利を収めた。
……主人公達ばりのドロー力だったので、ある意味仕方ないのかもしれない。
あの局面で【
そうして迎えた決勝戦。
マシュとハーミーズさんの長い戦いの勝者は、結果として『純聖騎士』ではなく『焔聖騎士』も混じったデッキであることを、ここまで隠し通したマシュとなった。
切り札は最後まで取っておくということなのか、はたまた彼女のイメージ的にシャルルマーニュモチーフの『焔聖騎士』は使われないと思っていたのか。*22
なんにせよ、それまでの堅実なプレイングからの一転攻勢を見せたマシュのデュエルタクティクスは、歴戦のデュエリストであるハーミーズさんをして唸らざるをえなかった、と言うのは確かなのだろう。
……正直私にはなーんも分からなかったのだけど。ブランクやばすぎて何が起こってるのか全くわからねーでやんの。
「ガッチャ!負けちゃったけど、熱いデュエルだった!」
「はい、いい勝負ができたと思います」
「今度リベンジするから、それまで腕を磨いておくんだね」
爽やかに別れを告げ、観客達に紛れるハーミーズさんが何を思っていたのかはわからないけど、きっと次のデュエルも激戦なのだろう、と言うことは理解できた。
……私もせめて解説できるくらいには、色々と覚え直しておくべきかなぁ?
まぁ、そんなこんなで。
優勝したマシュには賞金百万円と最新パックを1カートン分、それと副賞としてキングへの挑戦権が与えられたのであった。
「いよいよですね、せんぱい」
「ああ、いよいよキングのお出ましだ」
舞台袖に立つマシュに近寄って、声を交わす。
色々と濃ゆい一日だったから忘れそうになっていたけれど、そもそも今回の目的はキングとの会話にある。
マシュは真面目なので、ちゃんとデュエルにも向き合っていたけど、半ば部外者な私にとってはここからが本番だ。
「では、観客の皆様方!どうぞ大声で、彼をお呼び下さいッ!!キング・オブ・Dホイーラー!!ジャックゥゥゥ、アトラスゥゥゥゥッ!!」
公園内に響き渡る、キングを呼ぶ大合唱。
それに応えるように、反対側の舞台袖が舞台下から噴射された白煙に染まり、一つの影がこちらに歩みってくる。
──威風堂々、絶対強者の誇りを見せ付けるように、悠然と歩んでくる男。
「お前が、俺とのデュエルを望む挑戦者か!!」
「──はい、マシュ・キリエライト。貴方に挑む者です!」
ジャック・アトラス。
孤高のデュエルキングが、不遜なる挑戦者を踏み潰さんとそこに立っていたのだった。