なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「
「ふぅむ、なるほどなるほど。……で、この人達が彼を発見したという?」
無惨な姿を晒した平川さんが、私達に発見されてから大体十分ほど。
地元の警察が通報によって呼び寄せられ、車内の検分を進めている中、私達は今回の事件の担当だという警部さんから、事情聴取を受けようとしている最中なのであった。
「はい、彼等は今回のツアーの参加者で、皆が皆顔見知り、かつ唯一今日の朝食堂車を利用していた方々となります」
「ふぅむ。なら怨恨などの可能性は薄いか。……皆さん、ご職業などはなにを?」
「ライン商事*2で会社務めなどを。宜しければ、社員証を提示しましょうか?」
「ああ、あの。……確かエネルギー開発関連の会社、でしたかな?一応、拝見させて頂きます」
なので、流れるように偽造社員証を取り出す私である。
……偽造っつっても、お国の承認は貰っている、正真正銘の正規発行品だけどね!
そこに書いてある名前とか経歴とかが、実際のそれとは違って偽証だ、というだけで。
ともあれ、手渡した社員証に書いてある『八雲ライン商事』の名前を見た警部さんは、記憶を探るように視線を頭上に向けたあと、得心がいったように両手を一つポン、と打っていた。
なお『八雲ライン商事』とは、世間向けに私達『
前々からお国向けに営業していた名も無き会社を、一般向けにも業務を拡大する際に正式に会社として登録したものだとかなんとか。
いやまぁ、一般向けにやってるのはほぼほぼエネルギー供給関係の仕事だけ……らしいけど、そのあたりはゆかりんとその上司さんの管轄なので、私はよく知らんというか。
ただ、以前はるかさんに自己紹介した時の、私の『秘書』の肩書き。
あれは今も有効らしいので、現在の私の役職は『ライン商事社長付き秘書』という、やけにエリートっぽいモノになってしまったりしているのだった。
そこも踏まえた結果なのか、社員証を検分した警部さんからの視線が、若干困惑混じりのモノに変化したのを私は見逃さない。
「……あー、気を悪くされたら済まないのですが、お宅成人していらっしゃる……?」
「そこに書いてある通り、社長秘書の一人ですので。……まぁ、見た目が頼りない、と思われてしまうのは重々承知ですが」
「いやいや、そいつはとんだ失礼を。改めまして、
(……見た目で怪しいと思ってたが、こっちの関係者じゃねーのかこの人……?)
なお、こちらへの謝罪と共に告げられた彼の名前に、コナン君がすっごい微妙そうな顔をしていた。
……まぁ、わからないでもない。
その恰幅のよい体格や喋り方から、彼──江戸川コナンのよく知る人物、目暮警部を思い出すのは仕方のない話なのだから。
まぁ、彼本人とは違って服の色が黒いため、どちらかというとウォッカの方を思い出さなくもないのだけど。*3
まぁ、琥珀さんみたいに、たまーにいるそっくりさん?だろう。こちらが怪しんでも仕方ないので、素直に取り調べを受ける私達である。
「では、発見当時の状況について、詳しくお聞かせ願えますかな?」
「はい、それでは僭越ながら私が」
「……ええと、君は?」
「あ、申し遅れました。私はマシュー・ポプキンスと言います、ミスター・ヒグレ」*4
「……ええっと、海外の方で?」
「生まれも育ちも日本です!……ご覧の通り、親の血筋に関しては海外になりますが」
「なるほど。……ええと、そちらの銀髪の男性も、海外の?」
「いや、俺は普通に日本人だ。ハーフでもねーぞ」
「なる、ほど?……ええと、お名前をお伺いしても?」
「ラグナ=ザ=ブラッドエッジ」*5
「日本人要素はどこに!?」
「冗談だ冗談。俺は堺 銀次郎ってんだ、宜しく」
なお、他のみんなも名乗るのは偽名である。
創作物のキャラクターの名前を言われても、変に疑われるだけだからね、仕方ないね。
というわけで、以下みんなの名乗りである。
「ほっほーい、オラ野口しんたろう!しんちゃん、って呼んでねぇん」
「は、はぁ……?」
「もー、警部さんってばノリが悪いゾー!」
「ライラック・エルフリーデだ。リラで構わないよ」
「り、リラ?」
「ムラサキハシドイのフランスでの呼び方ですよ、警部」
「な、なるほど。ということはフランス出身だったり?」
「いや?生まれも育ちもイギリスだが?」
「なんで!?」
「警部、そもそもエルフリーデ自体がドイツ語での女性名です、妖精とか不思議な力って意味の」
「なんだねそれは?ってことは偽名では?!」
「おや、どうも警部殿の知識の中には含まれていなかったようだ。ライラック・エルフリーデは作家としてのペンネームでね。本名はマリア・エルリッヒという」
「……作家?」
「『コーヒー探偵はティーブレイクに微睡む』などの作品を発表している女流作家ですね。いやー、まさかこんなに小さなレディが、あれほどの名作を書いているとは思わなかったなー」
「……やけに詳しいな、君」
「警部の方が疎いんですよ」
「私はそこの堺さんの恋人の
「こ、今度は中国の人?国際色豊か過ぎないかね君達?」
「『ライン商事』は、
「……?????」
「警部、からかわれてますよ」
「な、か、からかわれてるだってぇ?!」
「あーと、次は私が自己紹介をしても?」
「え、ああええとはい、お願いします……」
「では。私はアルトリア・イーストウッド。そこの堺さんの恋人です」
「……??????????」
「おい、変なこと言ってんじゃねーよお前ら。警部さん困ってんだろうが」
「えー?でもこの旅が銀ちゃんの思いを確かめるモノ、というのは間違いないじゃないですかー?」
「そうですそうです。はっきりさせますからそのつもりでっ」
(……警部さんの目が、ゴミを見るような目になってるな……)
「ええと、そちらの方は……」
「(すっかり疲れてんな、この人……)僕、土居 乱太郎だよ、警部さん」*6
「私は土居 蘭です。この子の姉になります」
「ほっ……(良かった、普通の人だ)」
(……とか思ってんだろうなー)
とまぁ、こんな感じ。
紹介作業だけで三十分ほど使ってしまったあたり、向こうも情報の洪水に翻弄されていたのだろう。お疲れさま、というやつである。
「……ええと、自己紹介の方が終わったので、話を進めたいと思うのですが、構いませんね?」
「はい、大丈夫ですよ。彼を発見するまでの行動とかを話せば宜しいですか?」
「……あ、はい。宜しくお願いします……」
まぁ、こちらもこれ以上長い間拘束されたくないので、そんなお疲れの警部さんのことを、慮るようなことは一切しないけれども。
こちらが自身の聞きたいことを先んじて口にしたため、出鼻を挫かれたような顔をする警部さんの顔が、なんとも哀愁を誘う中。
私達は、朝の出来事を子細に話し始めるのだった。
「ふぅむ、つまり朝食が温かいにも関わらず、料理人の姿が見えなかったためにキッチンに向かった、と?」
「乱太郎君が不思議そうにしていたので、私達も気になってしまって。そうしたら、平川さんがあんなことになっている現場を見付けてしまって……」
朝に起きたこと……とは言っても、三十分も掛からないような内容しかなかったそれを話し終えた私達は、小さく唸る警部さんの様子に苦笑を浮かべていた。
聞いたことを総括する限り、今回の
「あのチョコケーキ自体も、ほぼ出来立てでした。要するに、完成直後に何かが起きた結果、顔面からケーキに突っ込む形になったのだ、と」
「ただ、キーアさん達の話を総括するに、キッチンからの大きな物音というのはあがっていない。……足を滑らせて自分から突っ込んだ、という風に見るのが普通でしょう。……ただ」
「そうなると、
こちらの言葉に、日暮さんが頷きを返してくる。
あのあと、チョコケーキから引っ張り出された平川さんは、白目を向いて
どこかを強く打ったのかとも思われたが、病院での検査結果では打撲すら見付からず、心因性の気絶だと判定されていたのである。
例えば、アレルギーなどによって呼吸困難に陥り、そこから脳に酸素が送られなくなって気絶したのでは、などという仮説も持ち上がったのだが……そうだとすれば、単に
──まるで、なにか恐ろしいモノに出会って、
取り調べがこんなに緩いのも道理。
なにせ、警察側は基本的に事故だと思っているが、被害者である平川さんの容態がおかしいために追加で捜査をしているだけ、なのだから。
そもそも取り調べを受けている私達も、容疑者などではないのである。
「……まぁ、平川さんが目を覚ませば済むんですが。どうにも眠り続けている理由がわからん以上、こちらもどうしていいやらと言うわけでして」
「なるほど。……ところで警部さんは、この路線に纏わる怪談話に聞き覚えは?」
「はい?怪談話?」
なので、目下この状況に一番関わりが深そうだと思われる『幽霊列車』について、警部さんにも話を聞いてみるが。
反応から察するに、彼はこの話は知らない様子。
「ああ、この先のトンネルですれ違う奴ですね」
「……トンネル?」
が、代わりに彼の同行者、部下と思わしき男性の方から声があがる。
……あがるのはいいのだけれど、その内容は私達が聞いていたものとは別のモノだったため、こちらも困惑する羽目になるのだが。
それを口にした男性はと言えば、頭を掻きながら『あれ、違いました?』と首を捻っている。
「『幽霊列車』ですよね?この線路ができてから、ずっと噂になっているという」
「……ずっと?」
そうして、私達は新たな情報に、頭を悩ませることになるのだった。