なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「うーむ……」
「せんぱい、やはり気になりますか?」
「うーん、そうだねぇ……」
取り調べも終わり、今の時刻はお昼前。
警部さん達が現場の検分を終えて、署に戻っていくのをみんなで見送りつつ。
私達は食堂車を後にし……ようとしていたのを一旦取り止めて、改めて席に座り直していた。
色々な事情から一時姿を隠していた鬼太郎君とバソも、今は合流して他のみんなと同じように席に座っている。
無論、こうして集まったのは他でもない。
さっき日暮警部の部下と思われる人が口にした、『幽霊列車』についての新情報を、改めて考察するためである。
「私達が事前に聞いていた噂話だと、『幽霊列車』はカーブ付近ですれ違うモノだった。……けど、あの刑事さんが言ってたのは、そもそもにこの路線自体が『幽霊列車』と関わりが深いものだということだった……」
得られた情報を、再び紙に書き記していく私。
そうして私が書き記していくのを、他の皆が覗き込んでいるわけなのだが……。
ともあれ、新たに記すことはそう多くない。
コナン君達が最初に聞き及んでいた噂、『この先のカーブで『幽霊列車』にすれ違い、それがなにかしらの警句のようなものを発していた』というモノが。
その先のトンネルでも、同じような目撃情報がある……どころか、更にその先──話に間違いがないのならば、終点である北海道までずっと──『幽霊列車』との接触は可能性として残り続ける……という形になっただけなのだから。
だけ、とは言うものの、その話から涌き出る疑問というものは多岐に渡る。
「ええと……この路線って、どういう経路を走るんだっけ?」
「そうですね……観光用の特殊編成・かつ特定の期間のみ走る列車であるため、線路を新設するのは費用対効果*1的にも得策ではない……ということで、従来線の線路を借用することを前提に、運用計画がスタートされていたらしいのですが……」
「その方式だと、風景を楽しむクルーズトレインとしての用を果たせない……ってんで、全国各所の廃線になった線路を譲って貰って、それを清掃・補修して特定期間だけ使える限定路線として復活させた……とかなんとか書いてあったな」
マシュやコナン君の説明(主にこの列車の運行会社のホームページやパンフレットに記載された情報)によれば。
このバレンタイン特別運行を企画した会社は、全国各所の廃線となった線路を、許可を得て補修・清掃・点検などを行うことで、臨時で使える特殊路線として多数保有している……らしい。
今みたいに列車そのものの点検を行う際などには、最寄りの鉄道会社が運営している駅などに停車するが、一度そこから離れれば基本的に独自確保している線路を走り、乗客の目を楽しませるクルーズトレインとしての役目を果たすのだそうだ。
まぁその独自路線を使う前に、政令指定都市などの近くでは市内観光を踏まえた運行を行うらしく、旅のスタートしたばかりの一日目では……その自慢の独自路線とやらには、まだ差し掛かってすらいないわけなのだが。
で、件のカーブやトンネルというのは、その独自路線側にあるもの、なのだという。
……そりゃまぁ、なんか出るわけである。だって、使われなくなった廃線を再利用してるんでしょ?
人が長い間寄り付かなくなっていたところだというのなら、なにか良くない気が集まっていてもおかしくはない。
その結果として、『幽霊列車』というものが現れたというのなら、一応の話の筋は通るわけである。
「そういえば、他の車両の車掌さんが気味悪がってたー、とかなんとか言ってたけど、それは?噂のカーブが廃線の方にあるって言うなら、そうそう話題になるものでもないと思うんだけど……?」
ただ、廃線側で目撃情報があったのだとするのなら、この列車内の乗客達に、それなりに噂が広がっている……というのもおかしな話である。
なにせ、今回私達が乗っているのはバレンタイン限定の車両。かつ、廃線を利用した特殊な運行形式のものである。
そもそもにこの列車以外の列車が、同じ道を通ることがあるのか?……という疑問が生まれてしまうため、噂の信憑性に疑問符が付随してしまうわけなのだが……。
「それについては簡単さ、バレンタイン以外にもクリスマスに花見観光、紅葉に夏の避暑地巡り……今回限定の路線というわけではなく、他のイベントの時にも名前を変えて運行してるんだよ、線路全体の維持費の問題からしても、たった一度のイベントで運営費を賄えるわけがないのだからね」
「なんと」
そこに関しては、他の季節のイベントでも、名前を変えて同じ列車が運行しているから……という説明が付いたことで氷解した。
……まぁ、言われてみれば確かに。
複数の廃線が利用できるとポジティブに認識したものの、鉄道会社がそれらの線路を廃線にしたのは。
老朽化の問題もあるだろうが、一番はそのまま運行を続けても採算が取れない場所だったから、というところにあるだろう。
安く買い付けたのだとしても、運用を間違えれば維持費は嵩むばかり。それなら他の季節のイベントでも、順路を変えて新たな路線として活用するのが、一番の活用法だと言えるはずだ。
──つまり、それらの別の
それならば、路線そのものに纏わる噂話、と刑事さんが言ったことにも一応の説明がつく。……のだが。
「それじゃあ、他の乗客達はなんで『この先のカーブでの噂』しか知らなかったんだろう……?」
「ふむ。単純に思い付く理由としては、この列車か噂そのものに、認識阻害の魔術や妖術などが施されている……というパターンかな?」
そうなってくると、昨日の情報収集の際に、他の乗客達がカーブ以外の噂に付いて、一切言及しなかったことが気になってくる。
特にオカ研の人々がなにも言わなかった、というのが気になる。
好奇心や探求心から来る高揚で目が曇っている(超失礼)な彼等が、他の噂に付いて匂わせすらしない……というのは、逆に奇っ怪なわけで。
そんな思いから私が溢した言葉には、魔術師としての見地からライネスが一つの考えを述べてくる。
確かに、乗客達がみんなで示し合わせている……というわけでもない限り、なにかしらの認識阻害をされている、という風に見るのが、少なくとも私達に取っては普通だろう。
ただ、それはそれで疑問が残る。
「外から来た刑事さんが、普通に噂に付いて知ってたあたり、影響範囲が狭すぎるというか……」
「確かに。列車内だけ阻害されているのだとしても、少なくとも私達は後から知ることができた……すなわち、認識阻害が仮に機能しているのだとしても、あくまで初期に知っている噂の量、についてしか縛っていないということになる」
「ふーむ……?」
調べればすぐにわかるという点からしても、阻害するにしてはどうにも片手落ち感が酷いのである。
まるで、後から知ることに問題はなく、あくまでカーブの噂から、もっと言えば
そっちの案を採用するのなら、噂を流した相手は阻害しているのではなく、知る順番を誘導しているということになるが、それもそれで理由がよくわからない。……百物語の再現でもしているとか?*2
「それっていわゆる夏のイベントってやつだろう?……というか、それもツアープランに実在しているよ、ほら」
「……ホントだ、じゃあ違うかな……」
なお、その呟きはバソが提示したチラシによって、即座に否定される。……夏の暑い頃、そのものバッチリ『百物語』をテーマにしたツアーが、普通に企画されていたからだ。
仮に『百物語』に関連する話なのだとすれば、普通に夏にやった方が成功率は上がるだろう、再現度的にも。
とまぁ、話はふりだしに戻ってくるわけで。
「……とりあえず、午後からはまた他の乗客に話を聞いてみる?カーブ以外の噂話についても添えて」
「それで反応が以前と変わらなければ、何者かの介入があるってことで」
「逆に反応が変われば、記憶になにかしらのロックが掛かっているということになるわけか」
「後者に関しては、私達にも掛かってた可能性がでてくるけどね……」
とりあえず、また聞き込みをしてみることとなった。
もしかしたら、以前とは違う反応が返ってくるかもしれない。……また同じ反応が返ってくるかもしれない。
どちらにせよ、考察材料にはなる。そう結論付けて、私達は席を立った。
……なお、銀ちゃんは途中から寝ていたので、両隣から二人にハリセンでぶっ叩かれていた。
そうして、食堂車から部屋に戻る途中。
ホームに市内観光から戻ってくる最中の、他の乗客達の姿を見ることができた。……のだが、なんだかその人数が多いような気が?
「ああ、途中から乗車してくる人も、少なからず居るようだよ。その逆に、途中で下車する人も居るようだ」
「一応ツアーなのに?」
「まぁ日程が長いわりに、船の上のように常に擬似的な密室、というわけでもないからね。……いやまぁ、船の上もずっと離れられない場所、というわけでもないのだが」
「ふーん……」
横合いからバソが言うには、このツアーは途中参加も途中離脱も認められている、らしい。
無論、事前に届け出る必要はあるものの、途中参加及び途中離脱の場合、掛かる費用は『自身が乗った区間』のみになるのだという。
そのため、ちょっとした記念に乗ってみる……という人も多いのだとか。また、その形式のために乗車料金などは、降りた時に纏めて徴収する形になっているらしい。
基本的に事前予約かつ事前支払いが殆どの列車にしては、珍しい運営形態である。*3
そんな話をしながら、新たに乗り込んでくる客達の姿を眺める私達。
その中で、一人の人物が視界に入った途端、
「ぶふっ!!?」
「わっ!?せせせ、せんぱい大丈夫ですか!?」
私は思わず大きくむせてしまっていた。
突然咳き込み始めた私に、マシュが慌てて背中を擦ってくれるが、こちらとしてはそれどころではない。
私が視界に入れたモノ。
それは──堂◯剛に似ているような、はたまた松◯潤や亀◯和也、山◯涼介にも似ているような絶妙なイケメン。
IQが百八十ありそうな、彼の名は……!
「……この列車、谷底に落ちるかも」
「はははは。……帰りたくなってきた」
──
現代に名高い名探偵の一人、それによく似た人物を見付けてしまった私は、隣のバソと乾いた笑みを交わし合うのだった。*4