なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「もうダメだ、おしまいだ……こんなのどうしようもない、奴は伝説の
「お、落ち着いてくださいせんぱい!まだきっと、まだきっとなんとかなります!」
「ははははー、俺はもうダメだと思うー」
「コナン君しっかりして!?」
慌てて部屋に戻った私達は、しっかりと部屋の施錠をしたのちに、各々が思い思いに意気消沈していた。
膝から崩れ落ちる者・もうダメだと嘆く者・他の皆に声を掛けてどうにか立ち直らせようとするも、内心では多分ダメだろうなと諦める者。
反応はそれぞれだが、言いたいことは共通している。……要するに、この列車はもうダメだということだ。
彼が単なる他人の空似であるのならば、まだどうにかなるだろう。だが、例えば琥珀さん達のような……のちに『彼』を迎え入れることが決定しているようなタイプだったり、はたまた実際に『彼』本人だった場合、私達に待っているのは確実な破滅である。
知っているだろうか?かつて、そこにいる
知っているだろうか?そのゲームでは、作中においておよそ三十人ほどの死者がでたことを。*2
爆発炎上なんのその、怪盗・マフィアに突拍子もない犯人。とかく事件のバリエーションに事欠かないコナン君と。
身内バリアも関係無し、死ぬときゃ死ぬとばかりにバサバサ人が死んでいく金田一少年。
この二人の探偵が揃った時、私達にできるのは、ただ巻き込まれないように祈ること……だけなのである。*3
……え?そいつらから逃げるんじゃダメなのか、ですって?
はっはっはっ、遠景で爆破されるビルとかタワーに巻き込まれる可能性を思えば、単に逃げただけじゃなんともならんのは自明の理なのですよ(白目)
爆発などによって広域に被害をもたらすコナン君と、身内だから安心なんて油断を狩り取る金田一少年の組み合わせは、遠近両方に対応しているため逃げ場などないのです……つまり、少年よ、これが絶望だ。*4
下手すりゃ地球の反対側に居たとしても、事件の導入のためにあぼーん*5する可能性があるというのだから、正直対処法と言ったら二人を同じ空間に揃えないこと……くらいしかないのである。
「なのになんで、よりによって向こうから列車に乗り込んでくるのですか……っ」
なおお察しの通り、現在私達が居るのは列車の中。
……走る密室、逃げ場はどこにもなし。迫る両雄、迫る列車崩壊の危機。
たった一つの真実見抜く、見た目は子供、頭脳は大人。その名は、名探偵コナン!
「せんぱい!現実逃避をしている場合ではありません!とりあえず降りましょう!早急に、大至急!」
「恋はスリリング・ショッキング・サスペンス……」
「せんぱい!?J◯SRACに配慮とかしてなくて良いですからせんぱい!?」*6
マシュに両肩を捕まれ前後に揺すられるが、正直どうにでもなーれーとしか言えねー。
「さて、一通り嘆き尽くしたところで、対策を練ろう」
「あ、あれ?」
「どうしたのマシュ?」
「え、いや、あの、さっきまでの混乱は……?」
「いいかいマシュ、こういうのは切り替えが大事なんだぞ」
「あ、はい。そういえば私達は、そういう感じの集まりでしたね……」
一通り絶望したあと、ピタッとそれを止めて居住まいを正す私達。
マシュだけちょっとさっきの混乱が尾を引いていたが、すぐに気を取り直していた。……そうそう、立ち直りの速さが私達の取り柄なのです。
ともあれ、状況はあまり芳しくない……ということは変わらない。
ライネスもポジション的には探偵を名乗っていたが、彼女の出身作的には彼女の義理の兄の方が、探偵役として相応しいだろう。
なので、
「……えっと、何故この場でごまかしの話が出てくるのでしょうか?」
「場のこじつけ、という奴だよマシュ」
「は、はい?こじつけ?」
その会話の内容に、マシュが首を傾げていたため、ライネスからの補足が入る。
そもそもの話、『探偵が二人揃ったら不味い』というのは、私達が『
言ってしまえば私達それぞれが、現実の法則を
逆に言うと、予め穏当なフラグを踏んで、再現の芽を摘んでおけば、不要なトラブルは起きないかも知れない……というわけでもある。
今回の場合、『本来交わらないはずの探偵が二人揃う』という状況が、お互いの作風──コナン君側であれば、(端から見ている分には)エンタメ性の高い事件が起きやすいとか。
金田一少年側であれば、(トリックが力業であることを除けば)割りと現実味のある事件が多い(ので創作物的な登場人物の保護が働かない)だとか。
そういう、互いの作品においての『お約束』が、本来交わらないはずのものなのにも関わらず、同じ画面に写ってしまうことにより、その空間内において両方の『お約束』が適用されてしまう……という、ある種の地獄を産み出してしまう可能性こそが問題なわけである。
だから──例えば『異世界かるてっと』*7のように、互いの作品の『お約束』は一時棚上げにして、あくまでその舞台のために新たに用意された『お約束』に従って現在は動いていますよ、という風に状況を操作できれば、例え二人の探偵が揃おうとも殺人事件の幕は上がらないはず……という理論が成り立つわけだ。
「な、なるほど?筋は通っているような、通っていないような……?」
「雑に言ってしまえば、この空間内の
こちらの説明に、小さく首を傾げつつも納得を見せるマシュ。
続くライネスの解説により、よりその理解は深まっていく。
そう、そういう世界観ですよ、と予め【継ぎ接ぎ】できるのであれば、さっきまでの問題は全て杞憂と化していたはず、だったのである。
……まぁ実際には、ライネスの探偵という肩書きは、あくまでも『自称』という前置きが付くもの。
現状の打破には繋がらないだろう、と結論付けられた……というわけなのだが。
なので、対処法としては別の方向に持っていくしかない、ということになる。
「コナン君がコナン君らしくなるのを出来得る限り阻止するのは大前提として……」
「問題はあっち、金田一の方か……」
コナン君については、彼が探偵っぽいことをなるべく避けるようにして、再現度の上昇を少しでも遅らせる……というのがベストだろう。
どこまでその遅延策が持つものか、正直疑問視しないでもないが、やらないよりはやるべきということで、以降の聞き込みなどもコナン君は外して行う……ということが決定した。
それと、そうは言っても巻き込まれる可能性は零ではないので、そこの対処のために基本私が付いて回る……ということも一緒に決定。
本当なら蘭さんと一緒に回って頂きたいところなのだけれど、コナンワールド的な属性からすると、蘭さんは事件を
コナン君にそもそも
とまぁ、こちらの問題に関してはそんな感じで、もう一方の金田一少年の対策について、なのだが……。
とりあえずやらなければいけないことは、彼が本当に『金田一少年なのか』の確認だろう。
「見た目のせいで半ば盲目的に確信しちゃってたけど……一応、他人の空似の可能性は残ってるわけで」
「こちらの思い過ごしなら、問題はない。けれど、もし本当に『兆し』だったり、罷り間違って『逆憑依』だったりしたら……」
「警戒態勢は更に強化、最悪の場合無理にでもこの列車を止めて、他の乗客達を逃がす……」
「別に決戦が始まるわけでもないのに、随分と大袈裟な対応しかできないのだね?」
「相手と戦うんじゃなくて、相手の背負う空気と戦う形だからね……ある意味では世界との戦いみたいなもんだから、余計な負担は減らしときたいってわけよ」
「……違いない」
あれこれと語ったものの、相手が単なるそっくりさんだったら、私達の心配は無意味なものになる。
……個人的には無意味になってほしいものだが、可能性としては五分五分だろう。寧ろ、今ここに『逆憑依』組が複数居る時点で、どちらかと言えば悪い可能性に傾いていると思っておく方がいいはずだ。
なので、これからの私達の行動方針を定めるためにも、ここはあの金田一少年(仮)が、果たしてどういった人物なのかを確かめなければなるまい。
……流石に近付いただけで事件が起きたりはしないだろうが、一応安定を取ってなにが起きても対応できる私と、幼女(姿)が一人だけでうろちょろしているのも変なフラグが立ちそうなので、保護者役としてバソも同行することとなった。
「では、大船に乗ったつもりで任せてくれたまえマシュ。君のせんぱいには、傷一つ付けさせやしないさ」
「いえその……バーソロミューさんがなにか騒動を起こさないかの方が、心配だと言いますか……」
「ははは、ちょっと傷付くなぁ……」
「諦めたまえ、日頃の行動の結果という奴だ」
コナン君の警護を頼みつつ、後ろ手に戸を閉める。
ふと見上げたバソは、なんとも落ち着いた表情を浮かべていた、正に余裕綽々といった風情である。
……が、その右手を見ると、じんわりと汗が滲んでいるのがわかる。
まぁ、気持ちはわからないでもない。
仮に彼が本当に金田一少年であった場合、その周囲は『探偵もののお約束』という法則によって、通常の現実とは些か違うモノになっている可能性があるからだ。
その場合、海賊である彼がどんな目に遭うのか、想像すら困難である。
その恐怖を押してまで、彼は同行を願い出てくれたのだ。……メカクレするのも吝かではあるまい。
「はは、それはどうも。ともあれ、彼が居るのは恐らく食堂車だろう。客室に案内されるまで、途中乗車した者はそこに集められるようになっているらしいからね」
「なるほど。んじゃま、気を引き締めて行きますか」
そうして、気を引き締めて直した私達は。
「へぇー、観光を、一人で?そりゃまた楽しそうな……」
「そういうお主も一人旅であろう?まぁ、ここであったのもなにかの縁。気軽に頼るとよいぞ。わし、お主より歳上じゃからな」
「またまたぁ~」
「……なにあれ」
食堂車で同席になった少女と駄弁る金田一少年、という光景を見ることになるのだった。