なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……バソ、あれ金田一君だよね?間違いないよね?」
「ああ、彼がついさっき新しくこの列車に乗車した人物、ということは間違いないだろう。……だが、あちらの少女は……」
食堂車の入り口近くの壁に体を隠して、こそこそと中を窺う私達。
平川さんの代わりのパティシエも配置し直されたその場所では、ちょうどお昼前の時間ということもあり、少しずつ賑わいが溢れ始めていたが。
件の人物……金田一
……いや、その理由は彼ではなく、その彼の連れ──話を聞く限り、たまたま相席になっただけと思わしい少女の方にあるわけなのだが。
彼の相席となったその少女の見た目は、あまりにも可憐で。身に纏う服もまた、キラキラと輝く可愛らしいもので。
鮮やかな銀髪を棚引かせ微笑むその姿は、男女の区別なく、誰しもの視線を釘付けにする……のにも関わらず。
「うぅむ甘い!もう一杯!」*1
「……いや、飲み過ぎじゃないかお嬢さん。そういうの、後に引くぜ?」
「ふははは、甘いものは別腹じゃよ別腹!アップル・オ・レやストロベリー・オ・レなどがないのは
「……子供舌ー」
「なにか言うたかの?」
「いや、なにもー?」
彼女の口から飛び出すのは、老人のような言葉遣い。
不思議と似合っているが、周囲に困惑を与えるのも確かな話で。
……というか、あれだよね。これ、ちょっと前に話題になってた噂『
こちらの困惑を他所に、少女はドリンクバーから注いできたラ・フランスのドリンクに口を付けては、美味い美味いと声をあげており、それを間近で見ている金田一(仮)は、微妙に呆れたような視線を彼女に向けていた。
……うん。これは……ネタ空間じゃな?
「君まで老人口調にならずともいいだろうに……」
「いや、私のこれはネタだし、あっちみたく普段使いしてるわけじゃないし……ともあれ、こうなると声を掛けたり近付いたりもし辛いなぁ」
「……ん?なんでだい?別に普通に近付いて、堂々と話し掛ければいいのでは?」
思わず溢れた私の言葉に、バソが微妙な声をあげるが、視線の先の銀髪美少女と違い、私の爺口調はあくまでネタの範疇。
それ
バソは現状が膠着状態であることがわからず、困惑の声をあげたが……よく考えて頂きたい。
今のあの二人は、片方が
必然、あの二人に話し掛けようとすると、周囲の視線を私達も集めてしまうわけである。
……いやまぁ、それだけならまだマシなのだが。
そうして目立った結果、ここから離れない限りは周囲の人が私達の話に聞き耳を立てにくる……ということになるのは、ほぼ間違いないわけで。
そうなると聞きたいことの半分も聞けない上に、仮にどこかに移動して……という話になってしまうと、今度は金田一(仮)とコナン君が遭遇してしまう可能性の方が高まってしまう。
周囲に聞き耳を立てられないように、ということを気にする場合、どうしても客室に移動するしかないからだ。……よもや、列車の上に飛び出すわけにもいくまい。
現在列車は、次の目的地に向けて運行中。
件のカーブはその駅の次に見えるというので、時間的余裕もそう多いわけでもない。
だからといって、この場所から迂闊に近付くのも宜しくない。
あの美少女が予想通りの人物であるのならば、至近距離に近付き過ぎると警戒される恐れがあるからだ。
「……ふむ?その言いぶりだと、君は彼女の正体を知っていると?」
「まぁ、銀髪美少女って情報だけだと、ちょっと判別が難しいけど。流石にあの一人称に該当する人物は限られてくるからね。……だからこそ、下手に近付くと警戒されると思うんだよね、普通に気配とか探れるタイプのキャラだから、彼女」
「ふぅむ?……む?いや、
「良くない良くない。だって、相手はファンタジー世界の住人だよ?私達みたいな怪しいのが近付いて行って、最初から友好的に話が進むはずなんてナイナイ」*2
「……それはそれで偏見だと思うのだが。まぁ、周囲から好奇の視線が向く状況下では、下手に不穏な空気を滲ませるのは得策ではない……というのも道理ではある、か」
あれこれと述べたものの、
食堂車が
相手の経歴やら内面やらを探ろうとしているこの状況において、そういった周囲の視線が気になるような状態と言うのは、相手が素直に喋る可能性を削るモノでしかない。
なので、二人には早急に食事を終えて、外に出て来て欲しいわけなのだが……。
「これ、そこのシェフよ。このラ・フランスのドリンクは、客車に持ち帰りとかは出来んのかのぅ?」
「はい?……ああ、客室での飲料用に、ということですね。そうですね……食堂車の外に車内購買がございますので、そちらに恐らく取り揃えておりますかと」
「ほほぅ!それはそれは……ところで、そこにはアップル・オ・レなんかは、置いていないのかのぅ?」
「んー……どうでしょうか……。色々と取り揃えているはずですが、生憎向こうの品揃えについてまではちょっと……」
「ふぅむ……まぁ、シェフと売店では管轄が違うのも道理か。うむ、時間を取らせて済まなかったのぅ」
「いえいえ、お気になさらず」
近くを通り掛かったシェフに、何事かを聞いている銀髪美少女。
生憎とここからではなにを話しているのかは聞き取れないが、外に出てくるかどうかはよくわからな……殺気!
「おっぶぇ!?いきなりなにを……」
「しーっ!なんか知らんけど突然こっちを見てきたから隠れて!」
「なぬっ……り、了解」
(売店は外にある、などと言うておったのぅ。……ここからでは見えぬが、こやつが食い終わったら覗いてみるかの。……それにしてもこやつ……なんともえげつのない運命を背負っておるのぅ。興味半分で覗くんじゃなかったわい)
「……そんなに見詰められると、流石に照れるんだけど」
「おおっと、あい済まぬ。他人を不躾に眺めるのは、些か礼を欠く行為じゃったの。……とはいえ、美少女に見詰められるというのは役得じゃろう?」
「ははは、お嬢さんは確かに見た目は美少女だけど、不思議と嬉しくはないかなー」
「はっはっはっ、失礼なやつめ」
突然こちらに視線が飛んできたため、慌ててバソの頭をひっ掴んで壁の内側に引っ込めさせる私と、それによって髪を引っ張られたために、若干痛そうな顔をしたバソ。……一応、小さく謝罪を入れておく。
ともあれ、幸いにしてこちらに気付かれたりはしていないようだが。突然の彼女の行動には、思わず肝を潰しそうになった感じである。
そーっ、と壁から顔を覗かせて再度確認すると、彼女は変わらず金田一(仮)と楽しげに話を続けていた。……席を立ちそうには思えない。
「……ぬぅ、こういう時BBちゃんが居てくれれば……」
「無い物ねだり、という奴だね。……というか、こうして隠れている時点で、随分と衆目を集めているような気がするのだが……」
「ぬ、それもそうか。……んー、気は進まないんだけど、近付くしかないかぁ」
思い通りに行かない状況に、思わず歯噛みする私だが、バソからの言葉によって、漸く周囲から見詰められていることに気が付いた。
場所が場所だけに、向こうに気付かれるような事態には陥っていないが……このままここに留まり続けるのであれば、向こうにバレるのも時間の問題だろう。
なにせ、時折食堂車に入っていく人々が、こっちを見て立ち止まるのである。
……向こうの銀髪美少女ばかり槍玉にあげていたが、そもそも私も絶世の美少女(自画自賛)、衆目を引くのは向こうと同じ。
ついでに言えば、横のバソも浅黒の美丈夫。
金田一(仮)も美形だが、それを上回る美形である彼が私の横に居るというのは、周囲からの視線を余計に集める理由としては上々……というわけで。
要するに、ここで留まれば留まるだけ、こちらの思惑の外で相手に見つかる可能性が増える……というわけなのである。
そうなると、いっそこちらから相手に近付いてしまう方が、遥かに話を進めやすい、ということになるのだが……個人的には、私が彼女に顔を見せるのは躊躇われるので、あまり取りたくない選択肢だったりする。
とはいえ、最早それ以外に選択肢がないのも事実。
良くないことが起きそうな予感はあるけれど、そのあたりを向こうが感付いてくれる可能性に賭け、意を決して壁から離れる私。
「……いや、待ちたまえレディ。先ほどから君は、一体なにを警戒しているのかね?……って、ちょっと?」
そんな私の背に声を掛けながら、慌ててこちらを追ってくるバソ。
けど、彼に構っている余裕はない。
正直こちらは心臓バクバクなのである、
内心の震えを外に出さないように注意しつつ、努めて友好的な笑みを浮かべながら、件の二人のテーブルに近付いていく。
……さて、ではここで。
私が一体なにに対して、一番頭を悩ませていたのか……ということを開示しよう。
それは、私の──キルフィッシュ・アーティレイヤーに定められた
実際の中身がどうであれ、キーアという存在に付与されている設定は、私が『魔王』──すなわち
魔族、それは大半の作品において、人類種の敵対者として定められている種族。
作品によっては、単なる一種族として扱われていることもあるが。……基本的には、世界から悪役として定められているモノだと言える。
さて、目前の銀髪美少女。
私の推測に間違いがなければ、彼女の出身世界においても、他のファンタジー作品群の例に漏れず、魔族は人類の敵対者として設定されていたはずだ。
……作中においては一応絶滅している、みたいな話があったような気がするが、時折ふらりと現れては、強力な敵として彼女らと対峙していたはずなので、あんまり信憑性はないだろう。
一応彼女の能力的に、単に『生体感知』するだけでは、相手の種族まで調べることはできないはずだが。
……そもそもの話。その手の作品に共通の
彼女の持っている解析系のスキルが、どのくらいの深度までの情報を得られるものなのかはわからないが。
仮に相手の所属や、原作なども調べられるようになっていた場合。
例えば出身が『魔界戦記ディスガイア』で、名前が『ロザリンド』だった場合、とりあえず迂闊に殴り掛かるような真似は控えるはずだ。……彼女の出自を知っているのなら特に。*5
そうでなくとも、創作のキャラクターが現実になっているのであれば、おおよそ自身と同じ
──さて、そこまで語ってからのクイズです。
目の前に突然現れた、
その常人離れした容姿を見て、思わず
そうして得られた目の前の少女の種族は、まさかの魔王・すなわち人類の敵対者の極みであるという事実。
思わずギョッとして、そのまま相手がなんの作品出身かまでを確かめたところ、解析結果に踊るのは『オリジナル』の五文字。
……『逆憑依』という現象において、『オリジナル』という区分が与えられるのは
他は半分オリジナルみたいな【顕象】組であったとしても、大本の作品名が記されるはずである。
ゆえに、『オリジナル』という区分が存在すること自体、彼女は
というか、下手すると他の一般人も彼女の解析では『
つまり。
今目の前にいる
自身の前に姿を現したのは、自分を抹殺するため……という風に
──以上、目の前で百面相をする銀髪美少女が、内心で思っていそうなことをアテレコ*7したわけなのですが。
これ、正解カナー?不正解カナー?
「……逃げよ
「えっ、ちょっ!?」
「【仙術歩法:縮地】!!」
「ワーッ!!*8やっぱりこうなったーっ!!」
──結果は大正解!
滅茶苦茶深刻な表情を浮かべた銀髪美少女により、私は食堂車の天井をぶち破る形で、車外に連れ出されましたとさちくしょーめっ!!