なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……なるほど、失念していた……!」
突然けたたましい轟音が鳴り響いたかと思ったら、天井に穴が空いていることに気付き、彼女が何を警戒していたのかを、遅蒔きながらに理解する美丈夫──バーソロミュー・ロバーツ。
予め上から話を聞いていたからこそ、自分達は彼女を
そういうものが一切ない、在野の人間が彼女を見た時──それも、昨今の作品群に溢れる『解析系』の技能を標準装備している者達が彼女を見た時に、どういう反応をするのか。
改めて思い起こせば、
基本的に他者に頼み事をしない彼女が、そのまま一人で解決しようと動くのも予想できたことだった以上、これはある意味で彼の失態だとも言える。
上司から
とはいえ、今それを嘆いてもしょうがない。
自身は今何をすべきか、それを思考する為に周囲をチラリと窺って。
──彼は、その異常に気が付いたのだった。
「よもや魔王とはのぅ!!わしも年貢の納め時*1かもしれんな!」
「ふふふふ話を聞いて欲しいんだけどー?」
「ともあれ、ただでは殺られぬぞ!貴様の目的、せめてそこまでは口を割って貰う!!」
「聞いてねー!!」
ふへへへ……状況は最悪の一言、思わず笑うしかねぇ。
こっちの種族がなまじ『魔王』などという、『魔族』として最高位に当たる種族なものだからか、彼女ってばこっちの話に一切聞く耳持たないでやんの。*2
いやまぁね?私も
それにしたってなんというかこう、もうちっと取りつく島とかあってもいいんでないかな!?
そうして嘆く間にも、あれこれと対話のルートを探すが、どうにも上手くいかない。
相手が『逆憑依』であることが災いして、彼女の助言者である『精霊王』の加護が付いてきていないのも、事態を悪化させている要因だと言えた。*3
シャナにとってのアラストールのように、特定のキャラに付随・ないし助言する別の存在というのは、再現の枠組みからは外れるらしく、
仮に同行していたとしても、変則的な【継ぎ接ぎ】になるか【複合憑依】として纏められるかがほとんどであり、その場合は別の視点を持った別の存在としてではなく、あくまでも同じ人間に仲良く『逆憑依』した、ある意味での同一存在にしかなりえない。
……有り体に言えば、その両者の会話は単なる脳内会議以上のものになり得ないのである。
ゆえに、一度なにかに対して悪感情を持ってしまうと、それらの人格同士が仲が悪いとかでもない限り、全ての人格が一様に対象への悪感情を持つことになり、それによって相手への印象が凝り固まってしまうのである。
結果、少なくとも悪感情を持たれている側から、その悪感情を是正することはほぼ不可能……ということになってしまうのだ。
そういう意味で、あくまでも彼女単体に敵対行動を取られている今の状況は、まだマシな方でもあるとも言えるのだが……。
同時に、彼女が『精霊王』
単なる魔の者が、善の極致たる『精霊王』に思念だけとはいえ、なんの準備もなしに触れられるはずがない。
なので、それができる者であるという事実さえあれば、向こうの警戒を解くには十分な説得力を持っていたはず、だったのだが……まぁ、無い物ねだりをしてもしょうがない。
とはいえ、そこを思考から外したとして、状況は好転しない。
なにせ相手は所属作品内でのトップクラスの
口調と見た目からするに、相手の再現度は高い部類だろう。
旅好き*5の彼女に倣って列車に乗っている辺り、最早生粋のなりきりであることは疑いようがない。つまり……。
「出し惜しみは、無しじゃ!【召喚術:ホーリーナイト】!【召喚術:ダークナイト】!ついでにダメ押しの、【仙術奥義:開眼】【秘匿仙術:魔眼解禁】!!」*6
「ゲェーッ!!?」*7
それ『精霊王』の加護無しだと、ほぼ全力みたいなもんじゃん!
というこちらの嘆きが届いたかはわからないけど、向こうは不敵な笑みを浮かべていた。
彼女の戦闘スタイルは、【召喚術】スキルによる豊富な手札と数での圧倒、および迂闊に近接戦を挑む者に対しての、
この内彼女がもっとも得意とするのは【召喚術】だが、『逆憑依』という状況においては、そのスキルの
何故かと言えば、召喚系の技能は基本的に
要するに、自分単体で済むはずの再現度の軛の外に飛び出してしまうため、
(ぬ、やはり反応が鈍いか。やはりナイト達には妨害役に撤して貰い、わしが攻めるしかないか)
結果、原作のような高度な連携を取るのは難しくなっている、というわけである。……初っぱなから【仙術奥義】まで使ってるあたり、本体が攻めの起点を受け持つ気でいるのは間違いなさそうだ。
……ただまぁ、だからといってこちらが迂闊に迎撃するのも、うーん?
最悪の場合、説明の
だがご覧の通り、こちらの言葉が届く可能性はほぼゼロ、どうにかしたいのであれば別の手段を講じる必要があるだろう。
(……ん、なんじゃ?難しい顔をして唸っておるが……もしや、こちらの戦力に怖じ気付いておるのか?……魔王が?)
ぬ、ぬぐぐぐ……!
背に、背に腹は代えられん……!*8ここは、こうするしかないんや……!!
正直自分一人でどうにかしたかったところだけど、事此処に至っては最早達成不可能なのは一目瞭然!
自身の不甲斐なさを胸に刻みつつ、現状一番最良であると思われる選択をする!
そうそれは、右手の甲を相手に向けながら、天に翳すこと。
「(……この魔力の流れは)いかん!」
こちらがなにかをしようとしていることに気が付いた少女が、慌てたように飛び込んでくるが──一手遅い!
後ろに飛び退きながら、私はその言葉を告げる!
「──来い、シールダーッ!!」
天に翳した右手に輝くは、赤い特徴的な紋様。
──令呪の機能の一部のみを再現したそれは、その機能……
「──はぁっ!!」
「ぬぅっ!!?」
私の首元数センチにまで伸びた、彼女からの攻撃の全てを、見事に弾き返し。
振り切った盾を改めて自身の横に下ろしつつ、彼女はこちらに声を掛けてきた。
「ご無事ですか、せんぱい」
──そう、頼れる
「うん、大丈夫。それと急に呼んでごめんね?」
「いえ、問題ありません。せんぱいの為ならば、例え火の中・水の中・草の中であっても、私は至急駆け付ける所存ですので」*10
「……頼もしいはずなんだけど、なーんか不安が残るなぁ」
「せんぱいっ!?」
目の前の魔族──否、魔王が話す相手を見て、少女は驚愕の表情を浮かべていた。
何故ならば、彼女が親しげに話す相手──見間違えでなければ清廉なる盾の騎士の後継、マシュ・キリエライトという人物は、
故に、魔王などと言う邪悪の極みに対し、まるで親しきモノに話し掛けられたような態度を取る……という状況が、彼女に取っては意味不明の極み以外の、何物でもなかったのだ。
故に──この意識の空白を以て漸く、彼女は
己が巻き込まれたものが、一体なんであるのかを理解したのだ。
そして、現状を正しく認識した彼女が一番始めにしたことがなんだったのか、と言うと。
「す、すすすすすまぬっ!!!」
二人に向けての、盛大な土下座だったのだ。
「え、ええっ!?どどどどうされたのですか!?なにかしてしまったでしょうか私!?」
「まぁ、攻撃を防いだねぇ」
「せんぱいっ!?いいいえ、それはその、せんぱいに傷を付けられてしまうような事態になってしまえば、私は自ら縛り首か切腹かを選ばなければいけないわけでですね?!」
「大袈裟ー。……いやまぁ、
突然こちらに土下座をして、そのまま微動だにしなくなった少女を見て、マシュが大慌てをしている。
……個人的には、彼女が
……あのタイミングで、魔王である私がどういう対応を取っても、目の前の銀髪美少女の意思を固くする以外の結果には及ばなかっただろう。
回避・防御・迎撃etc。そのどれを選択しても、こうして戦闘を止める……という結果には至らなかったはずだ。
だからこそ、その意識の外──私と相手、そのどちらでもない人物の介入が必要だった、ということになるわけである。
そして、その介入も誰でもいい、というわけではない。
少しでも悪人属性を持っているものが割ってきたのならば、単純に魔王の仲間だと思われてしまうだけ。
かといって聖人系の人を呼び寄せたとしても、それは戦闘を止める理由にはならない。
──だからこその、
積極的に攻撃するのではなく、守りたいモノの為に動く彼女のあり方というのは、敵対者さえも積極的に傷付けるモノではない……ということを証明するものでもある。
要するに、害意がないのだ。彼女のあり方というものには。
だからこそ、彼女が守っているモノが、はたして単に邪悪なだけのモノなのか?という気付きを促すものとなり。
それによって、目の前の少女の視界を塞いでいたベールは取り除かれた、というわけである。
──え?そのベールって一体なんなのか、ですって?
「よもや、この『知識』が本物だとは思わなんだ……」
「は、はい?知識?」
それは、彼女の勘違い。
──自分は、転生したのだという思い違いこそが、彼女の視界を遮るベールだったのだよ、ワトソン君。