なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……落ち着いたので、離して貰えると助かるのじゃが……」
「ダメです、大人しくしていてください」
「ぬぅ、子供扱いされておるような気がする……」
マシュに背後から羽交い締めにされ、漸く落ち着いた銀髪美少女。額がうっすら赤いが、怪我をしたりはしていないようである。よかったよかった(?)
ともあれ、これでまともに話ができる、というのも確かなわけで。
羞恥に染まったわけでも、敵愾心に染まったわけでもないフラットな精神状態であれば、元々賢者とも称えられる彼女のこと、冷静な判断は容易に叶う。
──すなわち、こちらの言いたいことくらいは簡単に察してくれる、というわけだ。
「あー、そのじゃな?」
「はい、なんでしょうか?」
「わ、わしは……」
「わしは?」
「ぬ、ぬぐぐぐ!わ、わしはーっ!!」
「はい、わしは?」
「……リゼ・ヘルエスタである!!」
「はいはいミラさんで……ってあれ?」*1
なお、そんな賢者の弟子を名乗る賢者さんは、とても往生際が悪かったのでございましたとさ。……そこで逃げるのは良くないと思います。
「ぬぉわっ!?なんだなんだっ!?」
思わずちょっと呆れ顔を晒してしまったところ、足下──具体的には右側下の方から、
それと時を同じくして、下から上に飛び出してくる桃色の閃光、すなわちそれは!
「な、なんじゃこやつ!?」*3
「ぬ、ぬぅっ!?」
突然現れた周央ゴコは、こちらの展開やら空気やら知ったこっちゃねぇ、とばかりに高速で捲し立てていく。
その剣幕に、銀髪美少女は思わずたじたじになっていくのであった!
「え、いや、そのじゃな?」
「た、助けてくれ!こやつ話が通じぬ!?」*4
「諦めたら?」*5
「そんな殺生な!?」
なお、このタイミングでごまかすことを選んでしまった、彼女の自業自得以外の何物でもないので、こちらに彼女を助けるような意図は一切ございません。
慎んで、その旨ご報告させていただきます。
時間にして都合五分も掛かっていないと思うが、高速であれこれと銀髪美少女に捲し立てて行くゴコちゃんの迫力と来たら、まるで丸一日滾々とお経を聞かされるかのような、精神的過大ダメージを彼女に与えていたわけなのでございますが。
「待てーっ!!」
階下へ……この場合
……ええと、要するに真下。
食堂車の中から響いてきた聞いたことのない男性の言葉に、彼女は一瞬表情を無にしたあと、色々と後ろ髪を引かれるような空気を残しながら、こちらに挨拶を残し。
あっと声をあげる間もなく、彼女は走る列車の上から飛び降りて行ったのであります。
いやそんな無茶な、と私達が身を乗り出して彼女の行方を追うと、彼女はどうやら柔らかい地面に、上手いこと受け身を取りながら着地していたようで、
……などという、お前どこの世界的に有名な怪盗だよ*6、という捨て台詞をドップラー効果*7で響かせながら、遥か彼方に走り去って行くのだった。……いや、どういうこっちゃ?
「……正直、もう戻って寝たいんじゃが」
「うんうん気持ちはよくわかる。だけどここでは敢えてこう言いましょう。──知らなかったのか、大魔王からは逃げられない……っ!」
「……ノリが良いのぅ、お主」
心底うんざり、といった感じの表情を見せる銀髪美少女さんだが、残念ながらお話はまだ終わってねーのです。
こちらの笑みを見て、小さくため息を吐く彼女と一緒に、天井の大穴から下に戻る私達。
いきなりこんな大穴が空いたのだから、さぞや大騒ぎになっているのだろうと思っていたのだけれど……。
「……あれ?」
「ふむ……?」
下に降りてもなお、周囲の視線がこちらに向くということもなく。
どころか車内の乗客達は、仲間内で会話することに夢中になっているかのように、天井にすら興味を示していない。
……というか、話の流れで視線が天井に向いたとしても、
その異様な光景に、私達は思わずダイスロールを……。
「やらぬわっ!一時的発狂などせぬわっ!!」
「えー?でもゴコちゃんに会った時は
「あれはあやつがおかしいだけじゃろうが!……ええぃ、とにかく金田じゃ!奴はどこに……」
「おーい、こっちこっちー」
「……ぬ?」
……しようとしたら、横の銀髪美少女にツッコミを入れられてしまった。
中身と外身のずれが是正されたのか、ノリが良くなっているような気がしないでもない。
そのことに密かに安堵を深めつつ、ツッコミを返せば。
彼女はこちらに小さく憤慨したのち、さっきまでの連れ──金田一少年のそっくりさん?を探し始めるのだった。
まぁ、探し始めた途端に彼の声が返ってきたため、所要時間としては一秒も掛からなかったのだが。
声に視線を向ければ、先ほどとは違う席に件の金田一(仮)が手を振る姿と、その対面に座っている
……男二人でなにを話していたのだろう。
意外と真面目なバソのことだし、あれこれと彼から情報を引き出そうとしていたりしたのだろうか?
そんなことを考えつつ、隣の彼女と連れ立って二人の座る席に向かう私達。
その間に周囲から向けられる視線も、あくまで『美少女が居るな』という好奇からのもののみ。
天井から降りてきた、という非常識な部分については、会話に持ち上がってすらいないことを、聞き耳を立てていた私は確認している。
無論、精神的にフラットな今の彼女もまた、周囲の会話が
「……さて、では改めて自己紹介するかの」
どうにも自分一人の手に負える状況ではない、と悟った彼女は、席に着くなりそう口を開く。
そうして彼女から告げられた名前は、こちらの予想を裏切らないものだったのでした。
「わしはミラじゃ。……その、
「再現度的にはどれくらいだろうね、マシュ?」
「え?えっと、スカウターのようなものがあるわけでもないので、推測になりますが……それなりにお高い方なのではないでしょうか?」
「……わし的には、今の状況が転生ではない、と言うのが未だに信じられんのじゃがな。『逆憑依』と言うたか?改めて解説をされてもなお、意味のわからん部分が多すぎるのじゃが」
「それはこっちも同じなので……」
「ふむ、難儀じゃのぅ……」
改めて自己紹介をして、それから情報交換の時間となったわけなのですが。
一応、自身がどういう存在なのかはわかったらしいが、それはそれとして疑問が残る……と、難しい顔をしている銀髪美少女、もといミラさん。……ちゃん?
まぁ呼び方はどうでもいいとして、あれほど悶えに悶えて、結果として一度納得したはずなのにも関わらず。
こうしてまた、こちらに疑いの目を向けてきているあたり、なんというかちょっと私達とは感覚がずれているんじゃないかなー、と思わなくもないというか。
「つまり、彼女自体が特殊な例だと?」
「はっきりとは言えないけどね。……
隣のバソからの言葉に、小さく頷きを返す私。
今まで私達が出会ってきたなりきり組達は、寧ろこちらが説明する前から、自身の状況に納得している者が殆どだった。
自分から封印を願い出たシャナでさえ、自分は自分ではないという確信を持っていたわけである。
それと比べると──今のミラちゃんは、『自分が自分ではない』という疑いには至ったものの、未だ半信半疑である。……いやまぁ、こちらに謝罪を入れているあたり、信か疑では信の方に傾いてはいるのだろうけれど。じゃなきゃ、謝罪などせずに逃げているだろうし。
要するに、事実を知ってなおそれを
そんな私の言葉に、彼女は暫し瞑目したのち。
小さく息を吐いて、こちらにその
「……そうじゃな。わしらはわしらで、別の
「……別の組織?」
「うむ。わしらが保護されておったその場所。──その名は『
「しんちつじょごじょかい」
なお、彼女の口から飛び出した言葉を、まるで幼女のように反芻したため、ちょっとだけ心配される羽目になったが、些細な話である。