なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……ふん、やはりお前達だったか」
「ということは、やはり貴方はあの場所で出会ったジャックさんなのですね!?」
「キングだ、今はそう呼べ」*1
公園から離れ、喫茶店ラットハウスにやってきた私達。
目の前で席に座る彼、ジャック・アトラスは、カップに注がれたコーヒーを優雅に飲んで見せていた。
……え?試合?いや、普通にマシュが負けましたが何か?
いや、だってさぁ?
「前回はその護りに煮え湯を呑まされたが、今回はそうは行かん!レベル8【レッド・デーモンズ・ドラゴン】*2に、レベル2【クリムゾン・リゾネーター】*3、レベル1【チェーン・リゾネーター】*4、そしてレベル1【シンクローン・リゾネーター】*5を、トリプルチューニングッ!!!」*6
「と、トリプルチューニング?!」
「王を迎えるは三賢人。紅き星は滅びず、ただ愚者を滅するのみ!荒ぶる魂よ、天地開闢の時を刻め!──シンクロ召喚!出でよ、新たな我が力!【スカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴン】ッ!!!」*7
とかリアルでやられたんですよ、めっちゃ格好いいとこ見せられたんですよ、二人して放心ですわあんなの。
まさしくフィール*8を叩き付けられた、って感じだったよホント。
「ふん。お前達に褒められても特に意味はないが……まぁ、感謝の言葉くらいは返してやろう」
「あ、はい。素晴らしいデュエルでした。……あの時よりも更に、腕を磨かれていたのですね」
ジャックさんが照れ隠しのようにそっぽを向けば、マシュが自身の胸に手を当て、しみじみと彼を讃える言葉を紡ぎだした。
それにまたジャックさんが「ふん……」とそっぽを向いて……といった感じの応酬が、さっきからずっと続いている。
……いや、ちょっと面白くもあるけど、話が進まないので続けてもいいかな?
「……よかろう。俺に答えられる範囲であれば、お前達の質問に答えるのも吝かではない」
「あ、ありがとうございますキングさん!」
いいから、要件をさっさと話せ、と声を上げるジャックさんに思わず苦笑しつつ、彼に会えたなら聞こうと思っていた事を尋ねていく。
「まず、貴方はあの板でマシュとデュエルしたジャック・アトラスで間違いないのね?」
「如何にも。キングにあるまじき苦戦を見せてしまった、あのジャック・アトラスに相違ない。……忌々しいことにな」
「え?えっと、キングさん、もしかして怒っていらっしゃるのですか……?」
「怒る、だと……?」
初めの質問は、彼が私達が知る人物と同じであるか否か。
記念祭でマシュとデュエルをした彼であるというのなら、聞きたいことが幾つかあるのだ。
そうして尋ねた結果は……ビンゴ!彼はあの「ジャック・アトラス」だった。ならば、この先の質問にも意味が出てくる……と、ちょっと期待が持てていたのだけれど。
……あの、何をそんなに怒っていっらっしゃるのです?
目の前のジャックさんは、肩をわなわなと震わせ、憤怒の形相を浮かべていたのだ。
「そうだ、俺は今怒りに打ち震えているッ!!──不甲斐ない、自身への怒りにな!!」
「え、ええっ!?」
事実、彼は怒っていた。但し、それは私達──正確にはマシュに対してのものではなく、彼自身の不甲斐なさに対してのものであったが。
曰く、今日の決勝戦でのマシュのプレイングに、幾つか思うところがあったらしい。
「あの時の俺は、お前の『聖騎士』デッキの前に敗北を喫した。その日より俺はキングではなく挑戦者となった。──だが、お前の真の切り札は『焔聖騎士』!!あの時の、無様な敗北を喫した俺はッ!!お前の全力を引き出すことすらできぬ、お飾りのキングだったというわけだ!!これが、自身への怒りを生む動機とならぬのであればッ!!
そこまで聞いて、「ジャック・アトラス」のエピソードの一つを思い出した。
彼は原作において、ある人物が仕組んだ八百長によってキングの称号を得たのだと知らされるのだ。*9
それに関しては、様々な事情からの仕方のない出来事であったし、なによりその対戦相手とは再戦して全力でぶつかり合い、打ち破ってはいるのだが。
……相手が全力を出せないデュエルと言うものに、彼が思うところがあるというのは、わからないでもない。
更に、相手が全力を出さない内に負けたというのは、そもそも彼のプライドに傷を付ける行為だろう。……並べれば並べるだけ、彼が怒らない方がおかしい話だった。
「あ、その……」
「マシュ、謝罪はダメだよ」
思わず謝りそうになるマシュの肩に手を置いて、謝ろうとする彼女の言葉を止める。
……遊戯王から離れた私でも、そこで謝るのが良くないことはわかる。こちらの言いたいことを察したマシュは、眉根を下げつつも、決して謝ることだけはしなかった。
そんな彼女の様子に、ジャックさんはフッ、と笑みを浮かべ。
「そうだ、それでいい。全力を出せなかった理由など、俺がお前を本気にさせられなかった……それだけで十分だ。お前が気に病むことはない。──一勝一敗だ、今度はお前の全力で向かってくるがいい」
「──はい、
……なんとか、いい感じに話が纏まったようだ。
思わずうんうんと頷いて、勘定をして帰ろうか、なんて気分になって。
「……いや、君達もっと違う話の為にうちに来たんじゃなかったのかい?」
「はっ!?なんかいい感じの終わりになったからこれで解散でいいやって気分になってた!?」
「……む、そういえば別の話だったか。では店員、このコーヒーをO☆KA☆WA☆RI☆DA!」*10
「はいはーい!ただいまお持ちしま……って、あれ?」
「……むっ?」
「え、なになに?」
店のカウンターに立っていたライネスからの、呆れたような声を聞いて本題を思い出す。
と同時に、ジャックさんが飲み物をおかわりしようとココアちゃんを呼び止めて、呼び止められたココアちゃんが元気に挨拶をした……と思ったら不思議そうに首を捻って。
そんな彼女の姿を見たジャックさんが、驚いたように微かに片方の眉を上げ。
なんか変な連鎖を起こしたらしい一連の流れを見て、私が声を上げた。
……いや、何が起こったのこの空気は?
「ほら、ここ」
「……確かに、これは俺が書き込んだものだ。……なるほど、やはりお前だったか」
「えへへ、まさかキングさんがうちの常連さんだったとは思わなかったよー」
ココアちゃんのガラケーを皆で覗き込む、という変な状況にちょっと困惑しつつ、二人は納得したように頷いていた。
……ふむ、
さっきの反応は、ジャックさんのおかわりの声になんとなく既視感を覚えたココアちゃんと、改めてココアちゃんの姿を見たことで、自分が過去に閲覧していたスレの主をジャックさんが思い出したから、だったようだ。
そんな事を隣のマシュと、カウンターからこっちに近付いて来ていたライネスと確認し合う。
「……どうしたの三人とも?なんだか顔色悪いみたいだけど……」
「んー、ジャックさんにこれから聞こうとしてた事にも関係あるんだけど……」
ココアちゃんがこっちの顔を見て心配そうな声を掛けてくるのを聞きながら、ライネスに目配せ。
彼女はそれに頷いて、店の扉の外側に「
彼女が店の外から戻ってきて、私達の隣に座るのを確認して、改めてジャックさんたちに向き直る。
「それで?お前達は、俺に何を聞こうとしていたのだ?」
「……ゆかりんからある話を聞いて、ずっと思ってたことがあるんだよね」
ジャックさんからの言葉に、私は静かに語り始める。
なりきりと言うのは、そもそもキャラクターを演じる者と、それに質問を落とす名無しとで原則成り立っている。
余所の掲示板ならば、キャラクターのみで集まってるところもあるかも知れないけれど、私達の居た場所では名無しとスレ主の二種が基本形だったはずだ。
なので、自分がキャラクターを演じていない
……さっきの掲示板内でのココアちゃんとジャックさんのやり取りみたいなモノが普通だった、と言うことだ。
「そうだな、気になったスレがあれば名無しとして質問を落とす。それはなりきりをするものにとって、ある種の礼儀のようなものだ」
「基本的には自分のスレに籠もってるものだから、意外とそういう機会は少ないとも言えるけどね」
「はい、なりきりは基本的に遊びに分類されるものです。……ですので、自身のスレから出てこないという方も、一定数存在すると思われます」
ジャックさんの頷きと、ライネスとマシュの補足。
それらを受けて、私はこう告げる。……自分のスレ以外のスレの住民について知る機会とは、どのようなものがあるか、と。
「えっと、普通に板のトップとか?」
「そうだね、それと初心者用のスレとか、交流用のスレとか、紹介用のスレとか。……基本的には、自分から探しに行く必要性がある感じだよね」
「……話が随分と遠回りだな。結局、何を聞きたい?」
「まぁ、そんなに急かさなくても今からするよ。……
「む……っ?」
「記念祭って言うと、越境禁止ルールが解除されて、色んな所から人が集まってた奴だよね?」
ココアちゃんが私の言葉を受けて自身のガラケーを操作し、件のスレを表示した。
それを
「私はね、確認しには行かなかったんだ。祭の時だけの付き合い……って面もあったけど、そもそも昔来てた人も多く居たから、消えちゃってて見に行けないスレも合ったし」*11
「……ああ、確かに。祭の時だけ戻ってくる者も多く居たからな」*12
そういう人は会話や演出などが上手い人達だったから、彼等の帰ってきた祭の盛況ぶりは、半端なスレでは太刀打ちできない程のものであった。
無論、祭終わりのなんとも言えない寂寥感も、桁違いのものだったりしたけど……それはまた別の話。
ここで重要なのは、
「なに……?」
「そもそも祭の速度が早いからそんな暇がないっていうのもあるけど、最初の挨拶として自身の出身を明かしても、祭中元のスレに人が増えるってことは殆どないと思う。……まぁ、それに関しては祭中はみんな祭に集中してるからってのもあるわけだけど。で、それを踏まえて。──そこの私のスレ、開いてみて貰える?」
私はココアちゃんのガラケーを指差し、比較的スレの最初の方で自己紹介をしたのちに祭を楽しんでいる私のレスの、そこに記載されたURLにアクセスしてみるように呼びかける。
ジャックさんとココアちゃんは互いに顔を見合わせた後、そのURLをクリックして──、
「『そんなスレありません』……だと?」*13
ドラゴン族・闇属性