なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……ええと、なにやら真剣に悩み始めたキーアは放っておくこととして、じゃな。そっちはシャニマスの芹沢あさひ……ということで、間違いないのかの?」
「いや、間違いっすよ」
「うんうん間違いな……なんと?」
キーアが自身のあれこれについて唸り始めたのを横目に、他の面々は自己紹介を行っていた……のだが。
突然現れた少女……見た
これには思わず困惑してしまうミラである。
だがそれも無理はない。
だからこそ、先の金田青年が本人では(今のところ)無いことにも困惑したし、彼女の正体にも困惑することになる。
「この名はミラボレアス。原初を語る、始祖の龍。その意思を宿し世界を歩く、無垢なる人の似姿って奴っす」*1
「……??????????」
故に、困惑しすぎた結果宇宙を見た。
話を進めていた中心人物二人が、揃って意識を別世界に飛ばしてから数分後。
ようやく意識を取り戻した私は、何故か隣で虚空を眺めていたミラちゃんの肩を揺すって、その正気を取り戻すことに成功したのだった。
「……ふうむ。で、彼女が件の?」
「ああうん、『突然現れた金田一少年は、本当に金田一少年なのか』説を確認しに行ったところで出会った、余所からのお客様です」
「なんで○曜日の○ウン○ウン風……?」*2
で、いの一番に声をあげたのがライネス。
彼女は椅子に座っているミラちゃんの周囲をくるくると回りながら、しげしげと彼女の姿を観察している。
その様子に複雑そうな空気を醸し出しながら、ミラちゃんがこちらを見てくるのだが……見世物にでもなった気分、とでも言いたいのだろうか?
「ふむふむ。特に私達と違いがある、というわけでもなさそうだ」
「……そりゃどうも」
「不貞腐れるなよ、他人からの視線なんて慣れっこのはずだろう、君。その見た目で他者からの衆目を集めないだなんてこと、あるわけないんだから」
「……いやまぁ、そりゃそうじゃがのぅ」
「ふふっ、冗談だよ冗談。ちょっとからかっただけさ。改めて、私はライネス・エルメロイ・アーチゾルデだ。親しみを込めて『チノちゃん』と、呼んでも構わないよ?」
「…………」
「……あ、あれ?おーい、もしもーし?」
まぁ、ライネスはいつも通り相手を観察していただけ、なのだけれど。弄りやすい人物かどうかの見定め、とも言えなくもない。
ともあれ、時間としては数分にも満たないそれは呆気なく終わり、彼女の自己紹介へと話は流れていく。
……行ったのだけれど。ライネスが冗談めかして告げた言葉に、ミラちゃんの目が死んだのを見て、私達は首を捻ることになる。
いやその、お茶目な冗談ですよミラちゃん?
確かにこのライネスはちっこいけど、少なくともチノちゃんじゃないってことは、その姿を見ればわかることでしょう?
……みたいなことを述べつつ、彼女の肩を揺すってみるものの、ミラちゃんは「こわい……なりきり郷こわい……」と
なんか変なスイッチを押しちゃったんだな、ということしかわからなかった私達は、仕方ないので先に昼食を食べたメンバーがここに残って彼女の様子を見る……という取り決めをしたのち、一時解散することになるのだった。
無論、外に出ていった面々は遅めの昼食タイムである、暫くは帰ってこないだろう。
……なーのーでー、
「なんでそうなる……わしらか?わしらの方が変なのか……?」
「そうか、なりきりとは、逆憑依とは……!そうかそうか、世界とはこんなにも簡単じゃったのじゃな」
「いや待て、ではあれがこれでこうしてそうなって……」
的なことを延々と繰り返し呟き続ける彼女を横に、マシュやバソとこの列車についての話をしていたわけなのでありましたとさ。
途中であれこれと挟まって話が二転三転したけれど、元はと言えばこの列車に纏わる怪異について調べる、というのが現状の目的だったはずなので、漸くそこまで話が戻ってきた形になる。……いやまぁ、ホントの大本を語るんならバレンタインについて、だけどさ?それはまぁ今は棚上げ、ということで。
「次の駅に着くのが一時半頃、だったっけ?」
「はい。駅に到着後暫く停車して、会社所有の路線への切り換え作業を行い、その後件のカーブがある方へと向かうそうです」
「ええと確か……なんちゃら岬、だったっけ?」
「
マシュに手渡されたパンフレットに載っているその岬は、確かに左手側が大きく開けており、日本海を一望できるようになっていた。
元々はもう少し内陸側に走っていた線路を、会社所有した時に国の許可を得て改装し、海沿いの崖を走るようなルートにしたのだという。
結果、母なる海の威容を、視界の隅々まで堪能できるようになった……と。
確かに、この大きな窓いっぱいに広がる海、というのは見応えがあるだろう。
……とまぁ、そこまで説明された結果として、一つ気になることが出てくる。
「はい?どうされましたか、せんぱい?」
「いやね?この線路、
「……言われてみれば、そうですね」
小首を傾げるマシュに示して見せるのは、パンフレットに載っている一枚の写真。
この列車が件の間波岬を通るところを、ドローン*4かなにかで上空から撮ったものだ。
それをよーく確認してみると、この路線にはどうにも
「これ、そもそも他の列車とすれ違えなくない?」
「あ!た、確かに」
そう、線路が一つしかないということは、すなわち列車は一つしかこの路線に入ることができない、ということでもある。
他のページを捲る限り、あくまで幾つかの箇所で線路が一つになることがある……みたいな感じであり、運行そのものに問題が出ることはないようにしてあるみたいだが……。
「ふむ、だから『幽霊列車』なのか。本来自分達以外に列車が走っているはずなどないから、すれ違ったのは見間違いか、はたまた幽霊か……ということになると」
「でしょうね。ほら見てよこれ」
「トンネル……ですね」
「ああ、あの刑事が言っていた奴か。……ふむ、こちらも線路は一つきり……すなわち、こうして線路が一つになる場所全てが、『幽霊列車』とすれ違う可能性がある場所……だと?」
「多分ね。で、丁寧にもそういう箇所には、なにかしらの絶景が合わさっている……と」
バソが得心したように声を漏らしたので、それに頷きつつ。線路が一つになる場所を、一つ一つピックアップしていく。
トンネルだけちょっと他と趣が違うように思えるが、これもまた明治だか大正だかに使われた鉱山用のトンネルが、列車運行用に転用されたものだと横に記載されていたので、歴史的文化財として名所である……ということだと言えなくもないだろう。
……みたいな感じに印を付けていったところ。
線路が一つになる場所は、いずれもなにかしらの見応えのある景色がセットになっている、というのが明らかになっていったのだった。
恐らくだが、クルーズトレインが通る場所として買い取ったモノであるため、すれ違う列車を気にすることがないように・かつ絶景のみに気を向けられるようにと、線路が一つしか存在しない場所を作った……ということなのだろう。
よくよく写真を見ると、トンネルなどの幾つかの線路に関しては、二つあった線路を一つに改装した跡、のようなものが残っていたりするし。
と、言うことは。
すれ違う『幽霊列車』とは、廃線になる以前にその路線を走っていた列車が、なんらかの理由によってその記録を現実空間に投影したモノ……なのではないだろうか?
そして、それをたまたま見掛けた他の車掌や乗客達が、『あれは幽霊だ』と喧伝したのではないだろうか。
以前ならオカルト以外の何物でもないと切って捨てる所だが、今の私達は『逆憑依』された身。……こういう意味のわからない現象を起こすモノには、心当たりがある。
「となると……【顕象】、もしくは以前報告されていた迷い家のような
「どっちにしろ、なんのためにこんなことをしているのかはわかんないけどね」
思い当たる節としてバソが呟いた言葉に、小さく頷きを返す。
特殊な
なんらかの目的を持ったものなのか、たまたま偶発的に発生し、ただ赴くままに以前の線路を走り続けているのか。
いずれにせよ、周囲に悪戯に噂を振り撒いているというのであれば、こちらとしてはそれを確保・収用・保護せねばなるまい。……財団員かな?
そんな感じに、改めてこの事態の解決を誓いつつ、もう一つ気になったことを口に出す私である。
「はい?」
「いや、蘭さんが言ってたじゃん?『幽霊列車から無線が返ってきた』って」
「……そういえば」
それは、カーブで出会う『幽霊列車』にのみ付随していた、『バレンタイン』『急行』『死』という、無線から聞こえてくる音声。
刑事さんに聞いた噂話では……そこまで子細はわからなかったものの、あくまで
すなわち、向こうから反応が返ってくる可能性については、なにも言っていなかったのである。
これは単なる彼の伝え忘れなのか、はたまたカーブで出会う『幽霊列車』だけ、なにかが違うのか。
「……うーむ、わからん」
「私達はまだ、実際にその『幽霊列車』を見てもいないですしね……」
……まぁ、最終的に『全部憶測で語っているからよくわからない』という、いつもの結論に至ってしまうのだが。
場当たり対応だけ上手くなっているような気がして、大変複雑な気持ちになってしまうわけなのです、はい。