なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「そうこうしている内に、次の駅に到着っと」
長い間列車の中で座ったまま……というわけではないが、車内に居続けると気が滅入るでしょう、と車掌さんに促された私達は、駅の構内で売店を覗いたりしながら時間を潰していた。*1
出発はこの駅に到着してから三十分後……それまでに戻ってきて下さいね、と笑顔で送り出してくれた車掌さんへ担保代わりの手荷物を一部預けた私達が、この駅に降り立って早五分。
昼食は既に食べ終えているため、買い食いをしようという気分ではない……なぁんてことは一切なく、ここの名物だというあんずソフトクリームとやらに舌鼓を打つ、私とミラちゃんである。
あ、ミラちゃんはあれから暫くして『よし……見なかったことにしよう』みたいな感じに立ち直りました。……それ立ち直ってないやんってツッコミは禁止で。
「甘いものー、甘いものを脳が欲しとるんじゃー、脳を酷使しすぎたんじゃー」
「いや、脳を酷使してなくても、いつでも甘いものにまっしぐらじゃんミラちゃんって」
「ぬ。……むぅ、これでも自重しとるんじゃがのぅ」
「どこが?」
こちらの言葉に、はて?とばかりに首を傾げるミラちゃんだが。
私としては、彼女が両手左右に持った袋の中に、詰めるだけ詰め込まれた多くの甘いもの達を見て、流石にちょっと胸焼けがしてきたりしているわけで。
……いやまぁ?私も今の姿だと、味覚に関してはお子ちゃまな方だけどもさ?……流石に、ミラちゃんほど甘味に命を掛けているわけではないというか。
というかミラちゃんって、別に甘いものだけに目を輝かせるような人……ってわけでもなかったような気がするんだけどなぁ?
確か大きな列車に乗る時に、オススメの駅弁とか買ってたような気がするし。……いやまぁ、ベリー・オ・レとかを大人買いしていたような記憶もあるけども。
ともあれ、そんな愉快なやり取りを経てもなお、出発までにはまだ時間がある。
部屋から外に
そうして駅の構内を歩く中で、ふとすれ違った人物に目を惹かれたのだった。
「……?せんぱい、どうなされましたか?」
「いや、なーんか気になったというか……」
隣を歩いていたマシュから声を掛けられるが、私は謎の既視感に襲われていたため、生返事を返してしまう。
髪の一部だけが、メッシュになっている若い女性。
言ってしまえばそれだけしか目立つところのない、普通の女性だったのだが。
なんというかこう、視線を引っ張られたのである、そうなんとなく。
「いや、幾らなんでも説明が抽象的過ぎやしないか?」
「そうは言われても、実際になんとなーく目を惹かれたってだけだから、説明しろと言われても……ってひぃっ!?マシュの目付き怖っ!」
「メッシュ……私もちょっと染めたりした方が良いのでしょうか……」
「YA☆ME☆TE!?マシュはマシュのまんまが一番だから!変わらないで!!」
「なんと!?ありのままの私が一番だとっ!?」
「なんか誤解されてるような気がしないでもないけど、そのままのマシュが一番素敵だと思うな私は!」
なお、なんか要らぬ誤解をマシュに与えてしまったようで、彼女を宥めている内に出発の時間になったということを、ここに記しておきます。
「……いよいよ噂のコーナーが近付いてきたわけか」
横のバソの言葉に、小さく頷く私達。
線路の切り換えも無事に終わり、会社所有の独自路線に無事突入した列車は、緩やかな速度で件のカーブまでの道を進んでいた。
あたりの風景は木々が多かったものから、次第にそれらが疎らになっていき、ちらちらと青い景色が見え始めている。
窓を開ければ潮風が吹き込んでくるのだろうが──生憎と今の季節は冬。寒い空気に当てられて震える羽目になるだけなので、流石に窓を開放するような真似はしない。
……まぁ、景色を楽しむだけならこの大きな窓からでも十分だし、そこまで気にするようなモノでもないのだが。
さて、ここでちょっと私達が乗っているこの列車『
描写が無かったのでわからないと思うが、この列車何気に二階建てである。
一般的な寝台特急の場合、寝る場所の確保のために客室が左右どちらかに偏っている、というのが普通だ。
左右に最低限の寝るスペースだけを確保して、中央に通路が走るタイプの個室型……というのも存在するが、クルーズトレインを名乗る以上は最低限寛げるスペースというのも必要となるため、結果として通路を左右のどちらか一方に設け、空いた二席分のスペースを一つの部屋として纏める……という形式を取っていることがほとんどである。
……いやまぁ、稀に一車両丸々一部屋分、という豪快かつ豪勢なクルーズトレインというものも存在したりするが。*2
ともあれ、そんな構造ゆえに窓というものは通路の反対側──
日本における列車の車体の幅の限界値は、在来線が大体三メートルほどで、新幹線だと三.五メートルほど。高さになると在来線四メートルに対して新幹線が四.五メートルが、それぞれの最大値となる。
なので、
どう足掻いても、普通の線路を走れないからである。重さとか、広さとかの面で。
また普通の列車に関しても、トンネルの大きさや他の線路との間隔など、車体の造りが例え限界値ギリギリであったとしても、他の車両や沿線の建造物との接触事故を起こさないような設計になっているが。
そうして設計上の余裕があるからと言って、その限界値目一杯まで車体を大きく作るようなことは、普通はしないだろう。
車体が大きければ風を受けて左右に揺れやすくもなるし、カーブで車体が外に引っ張られる力も強くなる。
安全を取って更に余裕を空けておく、というのは一つの事故が大惨事になりやすい運搬系の車両にとっては、必須の勘案事項と言ってもいいはずだ。
……ここまで言えばなんとなくわかって貰えるだろうが、この列車はなんと、その限界値目一杯の大きさとなっている。
何故そんなことをする必要があるのか。
その答えが、いわゆるスイートルーム*3に区分される、二階部分の部屋にあった。
そう、クルーズトレインとは、旅を楽しむための列車。
旅というものにおいて、景色というものは特に大きな楽しみでもある。
それが、従来の寝台車では、左右どちらかの景色しか楽しむことができなかった。
最近は二階部分を展望車とすることで、その問題を解決した車両も存在するが、どうせなら一人占め・ないし親しい者達とその景色を楽しみたい、という意見もあるはずだ。
それを叶えるための設計思想。
それが、二階部分を一部屋としてしまう、という考え方なのであった。
一つの車両につき三部屋あるそのスイートルームは、一階部分の客室の間にある扉、更にその奥にある階段を上った先にある部屋であり、内装としては
各部屋を繋ぐ通路を一階部分に集めることで、二階部分をほぼ丸々部屋として使えるようにした、と言えばわかりやすいだろうか。
普通の客室よりも更に広いその部屋は、揺れさえなければホテルのスイートルームとなんら変わらないもの、と言っても良いような設備を備えている。
正直、こんな上等すぎる部屋に泊まって良いものか、とちょっと不安になったりもしたのだが。
ゆかりんから『いいのいいの。たまには羽伸ばしなさいよ』とおすすめして貰ったため、ありがたく泊まらせて頂いている次第なのであった。……まぁ、土産話に期待をされている、というところもあるのだろうけど。
なお、ゆかりんからの紹介でこの列車を予約した私達と違い、自分で予約して自分のお金でこの列車に乗っているコナン君達と金田君は、一階の普通客室に寝泊まりしているらしい。
コナン君達に関してはなんで?と思うかも知れないが、彼等は
私達と銀ちゃん達みたいに、二部屋取ればよかったのでは?という問いには、『それだと生々しすぎる』という蘭さんからの言葉が返ってきたが……今の普通客室二つ分も大概なのでは……?
いやまぁ、男女別々に寝泊まりしているようなので、『生々しさ』はないのだろうけども。……戦力バランス的にも、男女で均衡が取れてるような気がしなくもないし。
まぁつまるところ、この一行と一緒になったのは偶然以外の何物でもないわけで。なんというか変な巡り合わせだなぁ、と困惑するほかない次第なのでありましたとさ。
なお、ミラちゃんは原作での旅好きを大いに発揮した結果、普通に一人でスイートルームに泊まっているらしい。
基本的に娯楽には金に糸目を付けない*4人物なので、らしいと言えばらしいか。
長々と語ったけど、この『
線路に対して左右どちらに名所があったとしても、二階のスイートルームに泊まる限りはわざわざ一階に降りたり、はたまた展望室がある車両に移る必要もない。
贅沢極まりないそれは、ある意味で
一階にある扉を施錠してしまえば、外界に繋がるのはこの大きな窓だけ。無論それに関しても、遮光カーテンが各部屋に備え付けられているため、室内を外界から隠すことは、あまりにも簡単にできてしまう。
だからこそ、探偵達には探偵力を発揮しないようにして貰いたい、ということになるわけだ。
彼等の法則が火を吹いたが最後、どう考えても密室殺人事件の開幕にしかならないのだから。
……というような注意をしたのは、みんなが集まった昨日だったか。
え?なんで今さらそんなことを言い始めたのかって?そりゃもう勿論、単純に
遠い目で見詰める先にあるのは、さっきから散々話題に上がっている大きな窓。
丁度木々の間を抜けたその先には、本来ならば雄大な日本海が映る……はずなのだけれど。
気のせいかな?空中にレールが伸びて、その上を走る新幹線が見えるような気がするんだ。
「気のせいではありませんせんぱい!!実際に
「いやだー!!現実なんてみたくなーい!!幻想もみたくなーい!!やめろー!面倒事をもってくんなー!ぶっとばすぞぉ~!!」*5
マシュが現実を見るように迫ってくるが……そんな非現実的なもん、できれば見たくないわ!!と嫌がる私なのであった……。