なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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やっぱり暴走特急じゃないか!

「まぁ、とりあえず予想外の事態が起こる可能性も含めて、警戒を怠らないように……ということが言いたいんだろう、キーア?」

「そうそうそれそれ。口下手でごめんねー」

 

 

 横合いからこちらの発言にフォローを入れてくれたライネスに感謝しつつ、改めて今回の案件について纏めてみる。

 

 目標となるのは、今現在追い掛けている『幽霊列車』。

 こちらが向こうから離脱してすぐ、あちらは唐突に速度を上げ、遥か前方に走り去ってしまった。

 デンライナーは暫く砂浜に停車していたため、その時間分距離を離された、ということになる。

 

 ……え?デンライナーは新幹線なのだから、一応は単なる在来線であるはずの『エメ』には簡単に追い付けるんじゃないのか、ですって?*1

 それがまぁうまく行かないことに、向こうはこちらより微妙に速いらしく。

 向こうは既に次のチェックポイント……もとい、噂となっていたトンネルにまで到達してしまっているとかなんとか。……え?なんで向こうの位置がわかるのか、ですって?

 ふふふ、舐めて貰っては困りますよ。(わたくし)、腐っても魔王ですのよ?

 

 

「大言壮語*2は自身を安っぽくするだけだよ、キーア。……いやまぁ、本当はできるのにやってないだけなんじゃ、という疑いもなくはないけども。……今回のは、そういう話ではないのだろう?」

「むぅ、ライネスは遊びがないねぇ。……いやまぁ、確かに今回のに関しては私の手柄でもなんでもないけども」

 

 

 ……まぁ、ライネスの言う通り。

 別に私が探知とか千里眼とかを使っているわけではなく、琥珀さん(コハッキー)謹製探偵アイテム『DBバッジ』をコナン君が持っているから、その電波を探知している……というだけなのだが。

 更に言えば、『犯人追跡メガネ』的な機能を発揮しているのも、マシュが掛けている眼鏡の方だし。*3

 

 

「……これも一種の科学と魔術の交差、というものなのでしょうか?」*4

 

 

 そうぼやくマシュの眼鏡の大体数センチほど前に、投影型モニタのようにレーダーが写し出されており、それをマシュが確認している……というのが現在の私達の状況である。

 こっちも琥珀さん謹製だが、それゆえに型月魔術的なアプローチが加わったものであるため、そういうものに慣れ親しみかつ詳しそうなマシュに、道具の扱いは任せっきりな状況なのだった。

 

 ……なお、あくまでもマシュが使う方が魔術要素を含むというだけで、コナン君が使っている方は普通にただの科学技術の結晶である。……まぁ、端的に言えば発信器と受信機ってだけだし、そこまで大層なモノでもないわけなのだが。スマートグラス*5とかのあたりに機能を追加したもの、と考えれば普通に出回っているものと代わりはないわけだし。

 

 ……え?それでもやっぱり投影用の筐体が眼鏡サイズで、かつ触れる空中ディスプレイはおかしい?そっちの方がカッコいいから是非もないよネ!*6

 

 

「……いや、お主らそんなわけのわからんもん作っとるんかい……」

「え?なんでミラちゃんが驚くの?使うでしょ、投影メニュー」

「ありゃわしらに付随する能力というか設定じゃろうに。実際に作ってみる奴があるかっ」

「それはほら、お国に文句を言ってほしいというか……」

「おのれジャパニーズ……!」

 

 

 なお、ミラちゃんは何故か嘆息していた。

 元がゲーム系の作品のキャラ達なら、空間投影ディスプレイなんて、慣れ親しみ過ぎて見飽きているかと思ったのだけれど。

 あくまでもゲーム世界で見ていたモノだからかなのか、驚きとか呆れの方が強いらしい。

 厳密にはあれらはVRじゃなくてARだから、ということなのだろうか?*7

 

 よくわからないが、『新秩序互助会』がなりきり郷みたいな運営形式ではない、というのは間違いなさそうである。……横の繋がりが薄そう、というか?

 

 ともあれ、探偵(DB)バッジを持っているコナン君の現在地は、私達よりも遥か前方。

 自動操縦のデンライナーで追い付くのは、事実上不可能そうである。なーのーでー。

 

 

「はい、モモちゃんのー、ちょっと良いとこ見てみたい!」*8

「いや、なんなんだよいきなりお前は。……言われなくても運転するっつーの」

「え、その格好で?」

「……お、おう」

 

 

 このデンライナーがどういう理屈でここに有るのかはわからないが、確か操縦権限を持ってないと動かせないはずのモノなのも確かなので、速度を上げようとするのならばモモちゃんに頼むしかあるまい。*9

 そのあたりを踏まえて、彼女の活躍を見てみたい、みたいなことを主張したのだけれど……あれ?変身しないの?

 こちらの疑念を込めた視線を受けたモモちゃんは、殊更に困惑した様子を見せている。しどろもどろと言うか、はたまたなにかを誤魔化すような動きと言うか。

 

 ……んー?

 そもそもさっき、運転席に居たよねモモちゃん?しんちゃんと一緒に。

 

 シルエットだったからあくまで人がいる、ということしかわからなかったけど、それでも小さい影と(比較的)大きい影が並んでいたのは、はっきりと視認している。

 だから、彼女がこのデンライナーを運転できない、ということはないはずなのだけれど。それにしては、なんというか躊躇っているように見えると言うか……?

 

 ますます疑念を深めていく私の視線が、徐々に鋭くなる中。

 モモちゃんは、いつの間にやら冷や汗を滝のように掻き(ダラダラ)、目は左右に忙しなく泳ぎ(キョロキョロ)……という風に、どんどんと余裕のない状態に陥っていく。

 

 ……なんでこう、私が彼女を虐めている……みたいなことになってるのだろう?

 単に『仮面ライダー電王』としての活躍が見たい、と言っているだけのはずなのだが。

 

 

「……!は、はわわ……?!」

「突然どうしたのライネス、お兄さんみたいなことをいきなり口走って」

(孔明)違いだよそれは*10。……じゃなくて、わわわ私はちょっと具合が悪くなったので休ませて貰おう「……仕方ねぇ!やってやらぁ!」ひぃっ!?フラグを立てるのは止めてくれないかっ!?」

「フラグ?」

 

 

 そんなやり取りをしていた最中、突如奇妙な声をあげたライネス。

 それ君のキャラ(司馬懿)と違うやん、的なツッコミを入れたところ、唐突に体調不良を訴え始めたのだが……はて?

 

 彼女の言葉を遮るように、なにか重大な決心をしたかのような悲壮な表情で立ち上がるモモちゃんと、それに殊更に怯えるような態度を見せるライネス。

 全くもって意味がわからないが、どうやらライネスにはここから起きることが予測できている、ということらしく。

 それが何らかの悪影響を及ぼすのではないか、と彼女は警戒し、恐れているということのようだ。

 

 ──ふぅむ?ライネスが借りてきた猫のような状態になる、彼女が恐れるもの……?……って、あ。

 

 私がライネスの怯えの理由に思い当たるのとほぼ同時、深く息を吸い、深く息を吐きながら精神統一を済ませたモモちゃんは、どこからともなく変身アイテム(ライダーパス)を取り出した。……何故か、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()それを。

 

 

「──変身!」

 

 

 独特なポーズと共に放たれた言葉。それをトリガーとして、ライダーパスが光を放つ。

 

 本来ならば『電王』の変身は、ベルトの中央部に──あたかも改札を通るかのように、ライダーパスを翳すことで行われる。

 が、今ここで行われているそれは、全くの別物。

 ライダーパスそのものが輝きを放ち、そこから溢れた光の帯が、彼女の体を包むようにして行われている。──そう、それは奇しくも、『ライダーシリーズ』が放映されているのと近い時間帯に放映されている、少年向けと言うよりは少女向けの番組で見られるような光景で──。

 

 彼女の体を包む光の帯と、謎発光。

 見ているとこっちの心胆をも寒からしめるその光景は、そういうのを初めて見たらしきミラちゃんには、唖然と困惑を与え。

 そういうのに覚えがあるなりきり郷出身の者達は、あっという呟きと目を逸らす時間を生み。

 結果、私達の前には、髪の毛の赤いメッシュがその全体に広がり、かつライダースーツを元にしたのではないかと思われる、少女らしさが全身に見え隠れする独特な衣装に身を包んだ少女──モモちゃんの姿が現れたのであった。

 

 

()()、参上!!」

 

 

 自身の呼び名まで変わってしまったモモちゃんの姿を見て、思わず遠い目をしてしまう私と、部屋の隅に逃げ込んでガタガタ震えているライネス。

 ……うん。どっちかーつーとライダーってよりはプリキュア(魔法少女)ですね、これ。敢えて名付けるとしたら『ライドオン(Ride on……)☆プリキュア』とかカナー(ヤケクソ)*11

 

 

「…………」(プルプル)

「……うん。ごめんねモモちゃん、すごく酷なこと言ってたんだね私は……」

「謝らないでよ!?余計に惨めになるでしょうが!!」

プリズマは嫌だプリズマは嫌だプリズマは嫌だプリズマは嫌だプリズマは嫌だプリズマは嫌だ……

「ら、ライネスさんが壊れたラジオのように……っ!」

「いやー……いやー?わしも流石にあのバンクをさせられるのは嫌じゃのぅ……」

「わー!!もうやだーーーっ!!!」

 

 

 この混乱が収まるまでは、おおよそ二十分ほどの時間が必要となると予測されます。

 周囲の方々は、申し訳ございませんが白線の外側でお待ちくださいませ。

 繰り返しお伝え申し上げます、本日はデンライナー・日本の夜明け行きにご搭乗下さいまして、まことにありがとうございます。

 当列車は現在運行を見合わせております。

 この混乱が収まるまでは……。*12

 

 

 

 

 

 

「酷い話だった……」

 

 

 混乱が収まったのは、それから数分後。

 皆のダイヤ調整能力(建て直し力)に驚きつつ、可愛らしいふりふりの服を着たキュアピーチ*13……もとい、モモちゃんが泣きながら運転席に走っていくのを見送った私達は、現在手持ち無沙汰のため窓から外を眺めている最中。

 

 ……イマジンと『逆憑依』の相性が良すぎることもあり、他のモノを【継ぎ接ぎ】しないと現在憑依している一般人の子に宜しくない影響が出る……ということを彼が意識したのかは定かではないが。

 少なくとも、原作主人公である良太郎以外に憑依することが、あまり良い影響を及ぼすとは思えない……くらいのことを無意識に思ったらしく、結果として彼は同じニチアサ組*14であるプリキュアの要素を、知らずの内に組み込んでしまっていたらしい。

 

 これがまぁ、憑依されている側の意識がしっかり出てくるタイプならば、あくまで恥ずかしいのは中の人だけ。

 モモタロスとしては単に冷やかすだけで済んでいた、のかもしれなかったのだが……。

 

 結果はご覧の通り、『逆憑依』においては意識の主体は憑依してきた側にあること、及びイマジン自体が他者の意識を乗っとるものであること、その二点が上手いこと噛み合い、現状恥ずかしいのはあくまでもモモタロス、もといモモちゃんだけ……ということになっているのだった。

 多分、魔法少女モノのマスコットの要素も混じっているのだと思われる。

 

 そうして、自身の意識まで変革する()()という要素も手伝って、彼は現在新米プリキュアとして電車を運転している、というかなり珍妙なことになっているのだった。

 ……出力不足(再現度足らず)、恐るべし。

 

 

*1
参考までに、JRの在来線における最高速度は130km/h。新幹線の最高速度は320km/h

*2
大袈裟に(大言)威勢のいいこと(壮語)を言う』ことを意味する言葉。自身の実力に見合わない物言いや、威勢だけがよく中身の伴わないホラ話という意味でも使われる。中国の故事成語……ではなく、『大言』と『壮語』の二つの言葉が合わさってできた言葉。『大言』の意味を『壮語』で強調している四字熟語だと言える

*3
どちらも『名探偵コナン』にて登場するツール。探偵バッジもとい『DBバッジ』は、『Detective Boys(少年探偵団)』の頭文字からのネーミングで、江戸川乱歩氏作の『少年探偵団』が持っていた『BDバッジ(DBバッジと名前の由来は同じ)』が元ネタとなる。単なるバッジではなく、様々な活用法があったようだ(いざという時の武器・居場所を伝える為の証代わりなど)。コナン側の方はトランシーバー機能、及び発信器としての機能にのみ用途が絞られている

*4
『とある』シリーズのキャッチコピー、『魔術と科学が交差するとき、物語は始まる──!』より。『fgo』におけるカルデアも、『魔術と科学の交差』によるものなので、よく話題に上げられたりする

*5
眼鏡型のウェアラブル端末のこと。基本的には眼鏡のレンズ部分に画像を表示する形式のモノが多いが、場合によっては眼鏡のように耳に掛けるだけで、ガラス部分は存在しないという、音声再生にのみ使われるようなタイプのものも存在する

*6
現状の主流は透過型と網膜投影型。空中投影型は(多分)眼鏡タイプでは存在しないと思われる。できないというよりは、プライバシー保護や周囲の迷惑にならないように、という部分の方が大きそうだが。なお、空中投影かつ触れる(正確には本当に触っているわけではないが)タイプのディスプレイ自体は既に実用化されているが、小型化の面においては流石にスマートグラスサイズにまで小さくする、というところまでは進んでいない

*7
ヴァーチャル()リアリティ()』・仮想現実に対して、『オーグメンティド()リアリティ()』・拡張現実と呼ばれるもの。現実世界に特定のデバイスを介して情報を投影することで、現実世界を()()する技術。『ポケモンGO』や『ドラゴンクエストウォーク』などがARを使ったゲームとして有名

*8
元々はバブル期に飲み会で流行ったイッキ飲みコールが元ネタ、らしいが詳細は不明。『HUNTER×HUNTER』のゲンスルーの台詞としても有名だが、少なくともそれより前から存在する言い回しであるのだとか

*9
基本的にはオーナーが運転を管理しているが、彼から許可を得た一部の者達も、運転を行うことが可能。但しオーナー以外には利用期限が設けられており、あくまで運転はさせて貰っている……すなわち貸与に近い扱いのようだ

*10
『恋姫』シリーズにおける孔明の口癖から。そのせいで彼女は『はわわ軍師』等とも呼ばれている。『スーパーロボット大戦UX』でもネタにされていた為、意外と知名度は高いのかもしれない……。ライネスの義兄が諸葛亮孔明の疑似サーヴァントであることからのネタ

*11
『プリキュア』シリーズと、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のオルガの台詞(正確には空耳。実際にはライド・マッスを呼ぶ声。それが『Ride on(ライドォン)……』と聞こえるというもの)から。また、『プリキュア』とは『プリティ&キュア(可愛く癒す)』という意味の造語である

*12
電車の上での事故なので、そういう感じの台詞

*13
同名のキャラクターが『フレッシュ!プリキュア』に存在する。まさかの桃被り

*14
『日曜日の朝』の意味。その時間帯に放送されている子供向け番組の集まり『ニチアサキッズタイム』のことでもある。この呼び方そのものは現在使われていないが、愛称として『ニチアサ』と呼ぶ習慣が残っているようだ


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