なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「さて、たった一人の尊い犠牲によって、私達は件の『幽霊列車』へと接近を続けているわけなのですが……」
「せんぱい、モモタロスさんはまだ亡くなってはいらっしゃいませんよ。社会的には……その、微妙な
「マシュも時々妙に辛辣だよね……」
どうして
……みたいな、胡乱なことをぼやきつつデンライナーに揺られる私達。
悲しみの慟哭が、何処からともなく聞こえてくるような気がしないでもないが……多分それ、幻聴です。
ともあれ、操縦者が舵を取ったことにより、デンライナーは更に加速。
道なき道を踏破するその車体は、遂に地面を離れて宙を闊歩するのだ!……闊歩しているだけだと案外有り難みが薄い、とか言ってはいけない。
そのまま地上からおよそ五十メートルほどの高さまで上昇したデンライナーは、まるで
……この速度ならば、相手に振り切られるなんてことはもうないハズ!
「……そういうことするなら、先に言って欲しかったかなぁ!!」
『あ、わりぃわりぃ』
……お陰さまで中に乗っている私達は、車体に揺さぶられてすっごいことになったんだけどね!!
あまりにも急に上に登って、そこから更にジェットコースターのような速度で下に落ちていくモノだから、周囲に掴まる準備すらしていなかった私達は、まるでシェイカーにでもぶちこまれたかの如く、上下に
まぁ、上に登ってる途中で嫌な予感がしたので、向こうの電車から飛び降りた時のように、ミラちゃんにも手伝って貰いつつ。
車内で宙に
ともあれ、それが必要な以上は危険運転をするな、とは言わないが。
一人で乗っているわけではなく、他にも乗客は居るのだから、ちゃんとこっちに予め確認は取って下さい……ということを注意すると、運転席からの車内放送で『ごめんなさい』というモモちゃんの謝罪が返ってくるのでした。
うむ、わかればよろしい。
現在のデンライナーは、未だ地上に向けて疾走中。
……もう暫くしたら着地の衝撃が襲ってくるはずなので、こちらはそのまま宙に浮きっぱなしの方がいいかもしれないと判断し、周囲の様子を窺う私。
「……わりと真面目に、生きた心地がしなかったぞ」
「あー、ごめんごめん。一人だけ隅っこで震えてたから、助けに入るのがちょっと遅れちゃって……」
「いやまぁ、助けて貰っている身で文句とか、言うつもりは無いのだけどね?」
その中の一人、逆さまのまま宙に浮いているライネスが、小さくため息を吐いていた。
彼女は先ほどの魔法少女云々の流れのまま、変わらずに隅っこでガタガタ震えていたので、こちらが助けに入るのが少し遅れてしまったのである。
その結果、彼女だけが空中での急制動により、綺麗にひっくり返ってしまったため、床にぶつかる前に慌てて遠隔で宙に浮かせた、というわけなのだった。……彼女だけ逆さまなのは、そういう理由。
「いや、別に構わないのだけどね?……とりあえず、下ろして貰えないだろうか?多分引力か重力かの操作で浮いているのだろうから、頭に血が上りそうな感じは今のところないけれど。……こう、視界が何時までも逆さま、というのは落ち着かなくてだね?」
「おっと、ごめんごめん。ほいっ」
なお、一応女の子なのでスカートとかが捲れたりしないように、全体を引力操作で浮かせていたのだけど。
それはそれで視界が気持ち悪い、と言われたため、さっさと元に戻しましたとさ。
『おぉい、テメェラ!もうすぐ着くぞ、掴まれぇ!』
「うぉっとぉ、了解っ!」
そうしてみんなが体勢を立て直して間もなく、再び運転席より響いてくるモモちゃんの声。
チラリと窓から外を窺えば、青かった景色はいつの間にやら地上付近にまで近付いた結果緑が多くなっており、その森の中心を『エメ』が走り抜けているのが、少し遠方に窺うことができた……って。
「……えっちょっ、もしかして直接ぶつかる気?!」
「え゛」
相手と並走するのならば、高さ的にはまだ向こうの車両は見えないはず。そうでなくとも、こちらの車体に対して垂直に近いような位置付けになるはずがない。
そんな疑問を脳裏に浮かべた私は、デンライナーが一度『エメ』を追い越し、そこから進路を大きく変えて、向こうと正面衝突しようとしているのではないか?……ということに気付いてしまう。
『今度こそ逃がさねぇぞ、『幽霊列車』ぁっ!!』
車内放送で聞こえてくるモモちゃんの声は、こちらの言葉など一切聞こえていないかのような荒々しいもの。
……彼女が『幽霊列車』を止めようとしたのが、今回が初ではないのだとすると。
今まで何度も相手に逃げられ、並走して止めるのは無理だと結論付けている可能性がある。
──ゆえに正面衝突。
車体が大破してしまえば止まるより他ないだろうという、あまりにも脳筋過ぎる解決法。
……向こうに誰も乗っていないというのなら。
デンライナーが壊れることはないだろうという推測と、周囲が単なる森であるため、被害を出すことなく止められそうだということから、ある意味では仕方のない判断だと納得できたかも知れないのだが……。
「向こうには人が残ってるって言ってるでしょうがー!」
生憎、今回やらなければいけないことは、向こうの車両を
乗客の全てが幻である、というのはあくまでも予想でしかないし、例え仮に乗客の大半が、本当に幻であったとしても、中に蘭さんやコナン君達が残っていることに間違いはないわけで。
──魔法少女への変身を皆に見られた絶望、何時まで経っても『幽霊列車』を止められない絶望、それらが終わっても自分の居場所があるかわからない絶望……。*4
みたいな、半分以上自身の状況に自棄っぱち状態になっているとしか思えないモモちゃんの行動に、止めろと大きく叫んでみるものの、スピーカーの向こうから響いてくるのは、正気を失ったかのような笑い声のみ。
……なんか、他のモノも混じってないかなこれ?!*5
「ええい仕方ない!マシュ、行くよ!」
「え、あ、はい!マシュ・キリエライト、目標を制圧します!」
こうなりゃぶつかる前にどっちも止めるしかねぇ!
そんな結論と共に、マシュに声を掛けながら出入口を開く私。
デンライナーは最早トップスピードであり、あと数十秒もしない内に向こうと衝突するだろう。
躊躇っている暇などないと互いに頷いて、そのまま外へと飛び出す私達。
「マシュはデンライナーを!私はあっちを止めるから!」
「はい、せんぱい!御武運を!」
マシュをデンライナーの上に投げ飛ばしながら、私は宙を駆け抜け『エメ』へと向かう。
向こうは最悪、マシュの盾で空中に逸らせばどうにかなるだろうが、こっちは正面から止めるしかないだろう。
相手が『幽霊列車』なので、すり抜けてしまう可能性も考慮し、霊体干渉などのスキルを重ね掛け、更に電車を正面から止めたことのあるキャラクター達の逸話も重ね掛け!
気分はテリーマン、向かってくるなら受けて立つ!*6
……みたいな感じに空を駆けていた私は。
向こうに近付くにつれ、あちらの列車の様子がおかしいことに気が付いた。
……いや、なんだろう。なんか姿が二つにぶれて見えるような……?
クルーズトレインとしての立派な外装と、それとは別のなにかが上に被さっているかのような、不思議な光景。
思わずちょっと観察に回ってしまった私の前で、
「えっ、ちょっ、のわぁーっ!?」
上に覆い被さっていた方──半透明の列車が、こちらに突撃して来るではないか!
思わず止めようとしたが、どう見ても止められるような速度ではなかったため、慌てて横に飛び退く私。
そうしてさっきまで私がいた場所を、半透明だった列車が通り過ぎていく。
見れば、先ほどまで爆走していた『エメ』は、その様子が嘘のように静まり返り、線路の上で止まっている。
対し、代わりに抜けていった列車は──今やその姿をハッキリとした形あるモノへと変え、まるでデンライナーに相対する龍の如く、天を駆け抜けている。
『へっ、いよいよお出ましってか?『幽霊列車』……いや、『魔列車』!』
「……ええっ!?」
その列車──いや、もう正確に呼んだ方がいいだろう。
どうみても蒸気機関車以外の何物でもないその『幽霊列車』は、モモちゃんの言葉が正しければ『魔列車』なのだという。
──魔列車。
それは、ファイナルファンタジーシリーズに登場する、死者をあの世へと送る列車。
魔と付いているものの、決して邪悪なものではなく。
彷徨える魂達を、あの世へと無事に送り届けるためのものだという。
……まぁ、一度乗り込んだ乗客は、例えまだ命のある者であったとしても、問答無用であの世に連れていってしまう、融通の利かなさも持ち合わせているのだが。
ともあれ、何故に魔列車がここにあるのか、何故に魔列車が敵対しているのか、という問い掛けには誰も答えてはくれない。
なにせ、私が地上でポカンと空を見上げる中、二つの列車は天を駆けながら、互いに激しい攻防を繰り広げていて、こちらのことなど一切気にしていないからだ。
「……電王じゃん!」*7
「なにを唐突に叫んでおるんじゃお主……」
「あ、ミラちゃん」
思わず叫んだ私に声を掛けてくるのは、激しく空を飛び回られる前に、デンライナーから飛び降りてきたミラちゃん。
彼女の背後には、同じように地上に降りてきたとおぼしい、他の面々の姿も見える。
「あっちは任せておいて良いじゃろう。とりあえず、残された方の列車を確認せぬか?」
「ああ、うん。中に無事な人が居るかもしれないしね」
近付いてきた彼女に促され、私達は地上に残っている『エメ』の方に向かう。
……最初に乗り込んだ時のような、思考を誘導される感覚はない。となれば、それらの要素はあの『魔列車』のもの、ということなのだろうか?……魔列車に洗脳能力なんてあったっけ……?
首を捻りつつ、車内に乗り込む私達。
そこで私達が目にしたのは、内装も壁もなにもない、広いだけの空間と。
そこに倒れている、コナン君達の姿だった。