なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

217 / 995
願いはいつも一つとは限らない

「ちょっ、大丈夫コナン君?!」

「……んあっ?あれ、キーア?ってか、ここは?」

「『エメ』の中だよ、私達の勘違いじゃなければね」

 

 

 倒れていたコナン君達に、慌てて駆け寄る私達。

 ざっと見たところ、外傷とかがあるようには見えないが、ならば何故彼らは倒れていたのだろう……なんて風に彼らの状態を確かめている内に、倒れていた者達が意識を取り戻し始める。

 その内の一人であるコナン君は小さく頭を振ったあと、周囲を見渡して小さく「上手く行ったか……」と呟いた。

 ……彼の口振りからするに、この内装の状態は彼らがなにかを解決したから、ということのようだ。

 

 ゆえに、その内容について問い掛けたところ、コナン君は微妙に渋い顔をしながら、これまでのことをこちらに説明し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……キーア達、遅いな」

「そうだね。もう噂のカーブも過ぎちゃったけど……」

 

 

 時間は遡り、キーア達がクルーズトレイン『エメ』から飛び降りて、少し時間が経った時のこと。

 探偵力の高まりを抑えるために、部屋に閉じ籠っていたコナンと蘭は、噂となっていたカーブを過ぎてもなお、他のメンバーが戻ってこないことに、若干の不安を抱き始めていた。

 

 彼女達が戻ってきたら、蘭はキーアと交代で外に出ることになっている。

 狭い部屋の中だとお互いに意識してしまう……というのもあるが、そもそもに()()()()()()()列車の中で、『毛利蘭』と『江戸川コナン』が一緒にいる……という状況自体が(二人の内心に関わらず)コナンの()()()()()()()再現度の上昇に寄与してしまうため、できることなら離れていたいという部分が大きかったりする。

 

 ……とまぁ、ここまで思考していたコナンは、とある疑問を脳裏に浮かべることとなった。

 そう、郷の中でも(特定のタイミングを除いて)二人きりになることは避けている自分達が、なんで『噂付きの列車』などという、どう考えても劇場版かスペシャルエピソードかの舞台にしかならないような場所に居るのか。

 

 恋人であるという繋がりを前面に押し出したとしても、舞台の持つ空気の方が強固であれば、そちらが優先される──。

 何時だったか、琥珀という科学者が「多分そうなんじゃないでしょうか?」と示してみせた、再現度上昇の優先度。

 特に『探偵』という事件──舞台と密接に関わる存在であるコナンは、状況による再現度の加算値は高いはず。

 

 ゆえに、()()()()で塗り潰せるような存在が一緒に居ない限り、外には出ない方がいいだろうとまで忠告されていたコナンが、どうして外に居るのだろうか……という疑問が吹き上がってきたのだ。

 

 

「え?いやコナン君、忘れちゃったの?これは八雲さんからのお願いで……」

「五条さんの変化にため息を吐いていた八雲さんが、()()()()()を本当に俺達に頼むのか?」

「……あ、あれ?」

 

 

 そう、蘭も今首を捻ったように、無秩序な再現度の上昇を()()()()()()()()()()

 五条悟の再現度の上昇による変化に頭を痛め、仮に再現度を上げる機会に恵まれたとしても、それらは慎重に行うように……というお触れ*1を出したのは、紛れもない彼女なのである。

 そんな彼女が、彼らに『噂付きの列車』の調査など、本当に頼むのだろうか?

 

 確かに、現状の同行者にはしんのすけという、他の世界のお約束(ルール)ごと塗り替えてしまいそうな人物も存在してはいる。

 だがしかし、考えてもみてほしい。……彼もまた()()()という特殊な状況を、呼び込む余地を持ち合わせた存在であるということを。

 

 

「……最悪、最終的に生きてた……って扱いで、殺人事件みたいなものが起きてもおかしくない。人的被害が出ないって点では、問題ないかもしれねーけど……種明かしするまではこっち(コナン世界)の作風に寄る可能性の方が高いはず。……要するに、今が良くても後に響きかねない」*2

 

 

 再現度とは、後から減らせるものではない。

 だからこそ『レベル4』以上の者達は、解決策が見えるまで封印を選ぶ者もいたのだ。

 

 即ち、幾ら結末がギャグオチであったとしても、その過程の中で再現度が上がるような状況が頻出すれば、その分彼のコナンとしての完成度は上がっていく。

 ──つまり、正真正銘の事件を引き寄せる災禍(探偵という舞台装置)となる可能性が高まっていくのである。

 

 そうなってしまえば、本来のコナンが持ち合わせない『その姿のままでの蘭との交際』という裏技も、()()()()()()()()()()()()()()という可能性を引き寄せるものでしか無くなってしまう。*3

 

 そこまでたどり着いてしまえば、最早止める手段は存在しない。

 より多くの法則を含むがゆえに、ただ一つの法則に染まりきることのないなりきり郷以外に、彼が安息を得る場所は無くなってしまうだろう。

 

 だからこそ、今ここに自分(コナン)が居る理由が、『なにかおかしい』と思い至ったのだ。

 

 

「なるほど……」

「さっきキーアが食堂車で天井に穴が空いたことに、乗客が一切反応を示さなかったって言ってただろ?……多分、俺達の認識も弄られてるんだよ、これ」

 

 

 例え日頃の労いとはいえ、八雲紫が外出を薦めるのなら、それはもっと大人数で行うことになるはず。

 後からキーア達が乗ってきたことで、大人数と呼べるほどにはなったものの、逆に言うと五人かそこらなら()()()()()()()のである。

 どころか、しんのすけが言っていたように『かすかべ防衛隊』とか、こちら(コナン)側の子供達の集まりである『少年探偵団』としての性質の方が高まるだけとなるだろう。

 

 ゆえに、この時点で『噂を調べるためにデートと称して二人を乗り込ませた』などという、二人の間にある共通認識は、何者かによって思考を誘導された結果のものなのではないか?……という推論が立つのであった。

 

 

「……じゃあ、私達はなんのために、この列車に乗り込んだんだろう……?」

「そこなんだよな……」

 

 

 まぁ、そこまで思考を巡らせたところで、今度は『じゃあなんで自分達はここに居るのか』という疑問にぶち当たってしまうのだが。

 

 先ほどまでの推論により、自分達が郷の外に出るということは、ほぼあり得ないことだというのがわかる。

 ……だが、現実には自分達はこうして外に居て、なおかつ列車の中に乗り込んでいる。これは、一体どういうことなのだろうか?

 

 むむむ、と唸りながら理由を考察する二人。

 そうして頭を捻る中、ころりと蘭の服の胸ポケットから転がり落ちたのは、コナンが彼女にクリスマスプレゼントとして送った指輪。

 安物の宝石が付いたそれは、しかしそれでも彼女を喜ばせ──。

 

 

「……いや、()()?」

「どうしたのコナン君?……ってあ、いけない。落としちゃったのね」

 

 

 転がり落ちた指輪を拾い、そのまま薬指に付ける蘭。

 どうにも、洗顔などの際に付けていたモノを外していたのを、忘れたまま胸ポケットに入れていたらしい。

 先ほど考え事をする中で、前傾姿勢になった拍子に零れ落ちたのだろう。

 

 そんな理由がコナンの脳裏に思い浮かぶが……現状、大事なのはそちらではない。

 

 

「……そうか、そういうことだったのか!」

「えっ、ちょっ、コナン君?」

 

 

 思わず『わかったぜ、この事件の真相が……!』とか言い出しそうなコナンの様子に、慌てるのは蘭だ。*4

 何故ならば、その姿はどう考えても探偵(コナン)らしすぎるもの。

 迂闊な再現度上昇を厭う彼が取るべきではない、丸っきり原作に近付いた行動だったのだから。

 

 だが、対するコナンの方はと言うと、その指摘を受けてもなおその笑みを崩さない。

 どういうこと?と蘭が首を捻ると同時、彼は静かに口を開き、こう告げたのだ。

 

 

「いいんだよ、これで」

「いいって……コナン君は、死神とかみたいに呼ばれたくなかったんじゃ……?」

「ああ、言いたい奴には言わせておけばいい。……なにせ今回のあれこれは、初めから()()()()()()()()()()()()ものだったんだからな」

「え?」

 

 

 彼が告げるのは、彼の再現度の上昇は望まれたものであった、というもの。

 そんなバカな、と驚愕する彼女の前で、彼は自分達が失っていた理由──即ち、この列車に乗った真の目的を口にする。

 

 

「今回の事件には、主に三つの思惑が絡んでいたんだ」

 

「一つ目は坂田さん達のあれこれ。──そう、全うなバレンタインのイベントとしての面。坂田さん達はあくまでそれらの代表ってだけで、この列車に引き寄せられる人々が求めていたのは、基本的には()()だった」

 

 

 初めに口にするのは、この列車がバレンタインを祝うためのものだった、という事実。

 乗客の中でその空気を特に強調していたのは、後から乗り込んできたキーアと銀時の一団だ。

 彼らはいっそ見事なまでに、バレンタインだけを目的としてこの列車に乗り込んでいる。

 つまり、バレンタインの話が一番()()となっているのだと言えるだろう。

 

 

「二つ目。『幽霊列車』に代表される、オカルトめいた噂達。始点から終点まで、ずっと続いているハプニング──すなわち、いわゆる物語のスパイスとなるモノ」

 

 

 次に口にするのは、現在一番大きな扱いとなっている『幽霊列車』周辺のあれこれ。

 複数のお約束(ルール)を持つ人々の交差──すなわちクロスオーバーとしての体裁を整えるための、ある意味では()()()()と呼べるモノ達。

 各作品のスケールを揃え、同じ方向を見るようにと誂えられた導。

 ──そう、それはある意味では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()モノ、という風に受けとることもできる。

 その実態がどうであれ、物語の流れとしては一番外様、後から被せられた『尤もらしい理由』だとも言える事件達。

 それが、『幽霊列車』回りの話なのだ。

 

 

「……つ、つまりそれって」

「──三つ目。途中で話題にあがったのにも関わらず、ここまで不自然なほどに本題に関わって来なかったもの」

 

 

 そうして口にするのは、三つ目の思惑。

 バレンタインイベントである、という土台を作り上げた一つ目の思惑。

 話を転がす理由として求められた、『幽霊列車』とそれに纏わるあれこれを指し示す二つ目の思惑。

 

 ──そして、三つ目の思惑とは、最後の最後……物語の〆として、更には複数の物語を繋げる鍵として。

 その生誕を望まれ、ひたすらに息を潜めていたもの。

 そして、自分(コナン)達がこの列車に乗り込んだ、一番の理由。

 

 

「俺達は、()()()()()()()()()()この列車に乗ったんだ。──違いますか、鈴木黒雲斎さん。……いや、この列車の本当の持ち主である社長さん?」

「……なるほど。自分で蒔いた種とはいえ、こうも尾を引くとはなぁ」

「え?し、社長さん?」

 

 

 自分達は、『怪盗』という偶像を生み出そうとしていたのだと、そう告げたコナン達の前に。

 苦虫を噛み潰したような表情を見せながら現れたのは、自身を鈴木財閥の副社長だと述べていた男、鈴木黒雲斎だった。

 

 

*1
『多くの人に触れて回る』ことから、役所などの偉い人達から、庶民に向けて発表された命令や通達のこと

*2
ギャグ漫画などでたまに見掛ける殺人現場詐欺のこと。大体足を滑らせたりして、勝手に気絶していることが多い

*3
コナンという作品の終わりに辺り、彼が元に戻るのか、はたまたコナンのままなのかはわからないが、彼がコナンとして完成に近付くと、それが真実であるかは別として、彼の行為自体が原作にあるものだと()()()()()かもしれない、という話。基本的には杞憂

*4
CMの前か、前後編における前編の終わり辺りか。どちらにせよ、事件の真相がわかった為に閃き顔を晒すコナン君の姿は、よく想像できるはずだ


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。