なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ちょっ、大丈夫コナン君?!」
「……んあっ?あれ、キーア?ってか、ここは?」
「『エメ』の中だよ、私達の勘違いじゃなければね」
倒れていたコナン君達に、慌てて駆け寄る私達。
ざっと見たところ、外傷とかがあるようには見えないが、ならば何故彼らは倒れていたのだろう……なんて風に彼らの状態を確かめている内に、倒れていた者達が意識を取り戻し始める。
その内の一人であるコナン君は小さく頭を振ったあと、周囲を見渡して小さく「上手く行ったか……」と呟いた。
……彼の口振りからするに、この内装の状態は彼らがなにかを解決したから、ということのようだ。
ゆえに、その内容について問い掛けたところ、コナン君は微妙に渋い顔をしながら、これまでのことをこちらに説明し始めるのだった。
「……キーア達、遅いな」
「そうだね。もう噂のカーブも過ぎちゃったけど……」
時間は遡り、キーア達がクルーズトレイン『エメ』から飛び降りて、少し時間が経った時のこと。
探偵力の高まりを抑えるために、部屋に閉じ籠っていたコナンと蘭は、噂となっていたカーブを過ぎてもなお、他のメンバーが戻ってこないことに、若干の不安を抱き始めていた。
彼女達が戻ってきたら、蘭はキーアと交代で外に出ることになっている。
狭い部屋の中だとお互いに意識してしまう……というのもあるが、そもそもに
……とまぁ、ここまで思考していたコナンは、とある疑問を脳裏に浮かべることとなった。
そう、郷の中でも(特定のタイミングを除いて)二人きりになることは避けている自分達が、なんで『噂付きの列車』などという、どう考えても劇場版かスペシャルエピソードかの舞台にしかならないような場所に居るのか。
恋人であるという繋がりを前面に押し出したとしても、舞台の持つ空気の方が強固であれば、そちらが優先される──。
何時だったか、琥珀という科学者が「多分そうなんじゃないでしょうか?」と示してみせた、再現度上昇の優先度。
特に『探偵』という事件──舞台と密接に関わる存在であるコナンは、状況による再現度の加算値は高いはず。
ゆえに、
「え?いやコナン君、忘れちゃったの?これは八雲さんからのお願いで……」
「五条さんの変化にため息を吐いていた八雲さんが、
「……あ、あれ?」
そう、蘭も今首を捻ったように、無秩序な再現度の上昇を
五条悟の再現度の上昇による変化に頭を痛め、仮に再現度を上げる機会に恵まれたとしても、それらは慎重に行うように……というお触れ*1を出したのは、紛れもない彼女なのである。
そんな彼女が、彼らに『噂付きの列車』の調査など、本当に頼むのだろうか?
確かに、現状の同行者にはしんのすけという、他の世界の
だがしかし、考えてもみてほしい。……彼もまた
「……最悪、最終的に生きてた……って扱いで、殺人事件みたいなものが起きてもおかしくない。人的被害が出ないって点では、問題ないかもしれねーけど……種明かしするまでは
再現度とは、後から減らせるものではない。
だからこそ『レベル4』以上の者達は、解決策が見えるまで封印を選ぶ者もいたのだ。
即ち、幾ら結末がギャグオチであったとしても、その過程の中で再現度が上がるような状況が頻出すれば、その分彼のコナンとしての完成度は上がっていく。
──つまり、正真正銘の
そうなってしまえば、本来のコナンが持ち合わせない『その姿のままでの蘭との交際』という裏技も、
そこまでたどり着いてしまえば、最早止める手段は存在しない。
より多くの法則を含むがゆえに、ただ一つの法則に染まりきることのないなりきり郷以外に、彼が安息を得る場所は無くなってしまうだろう。
だからこそ、今ここに
「なるほど……」
「さっきキーアが食堂車で天井に穴が空いたことに、乗客が一切反応を示さなかったって言ってただろ?……多分、俺達の認識も弄られてるんだよ、これ」
例え日頃の労いとはいえ、八雲紫が外出を薦めるのなら、それはもっと大人数で行うことになるはず。
後からキーア達が乗ってきたことで、大人数と呼べるほどにはなったものの、逆に言うと五人かそこらなら
どころか、しんのすけが言っていたように『かすかべ防衛隊』とか、
ゆえに、この時点で『噂を調べるためにデートと称して二人を乗り込ませた』などという、二人の間にある共通認識は、何者かによって思考を誘導された結果のものなのではないか?……という推論が立つのであった。
「……じゃあ、私達はなんのために、この列車に乗り込んだんだろう……?」
「そこなんだよな……」
まぁ、そこまで思考を巡らせたところで、今度は『じゃあなんで自分達はここに居るのか』という疑問にぶち当たってしまうのだが。
先ほどまでの推論により、自分達が郷の外に出るということは、ほぼあり得ないことだというのがわかる。
……だが、現実には自分達はこうして外に居て、なおかつ列車の中に乗り込んでいる。これは、一体どういうことなのだろうか?
むむむ、と唸りながら理由を考察する二人。
そうして頭を捻る中、ころりと蘭の服の胸ポケットから転がり落ちたのは、コナンが彼女にクリスマスプレゼントとして送った指輪。
安物の宝石が付いたそれは、しかしそれでも彼女を喜ばせ──。
「……いや、
「どうしたのコナン君?……ってあ、いけない。落としちゃったのね」
転がり落ちた指輪を拾い、そのまま薬指に付ける蘭。
どうにも、洗顔などの際に付けていたモノを外していたのを、忘れたまま胸ポケットに入れていたらしい。
先ほど考え事をする中で、前傾姿勢になった拍子に零れ落ちたのだろう。
そんな理由がコナンの脳裏に思い浮かぶが……現状、大事なのはそちらではない。
「……そうか、そういうことだったのか!」
「えっ、ちょっ、コナン君?」
思わず『わかったぜ、この事件の真相が……!』とか言い出しそうなコナンの様子に、慌てるのは蘭だ。*4
何故ならば、その姿はどう考えても
迂闊な再現度上昇を厭う彼が取るべきではない、丸っきり原作に近付いた行動だったのだから。
だが、対するコナンの方はと言うと、その指摘を受けてもなおその笑みを崩さない。
どういうこと?と蘭が首を捻ると同時、彼は静かに口を開き、こう告げたのだ。
「いいんだよ、これで」
「いいって……コナン君は、死神とかみたいに呼ばれたくなかったんじゃ……?」
「ああ、言いたい奴には言わせておけばいい。……なにせ今回のあれこれは、初めから
「え?」
彼が告げるのは、彼の再現度の上昇は望まれたものであった、というもの。
そんなバカな、と驚愕する彼女の前で、彼は自分達が失っていた理由──即ち、この列車に乗った真の目的を口にする。
「今回の事件には、主に三つの思惑が絡んでいたんだ」
「一つ目は坂田さん達のあれこれ。──そう、全うなバレンタインのイベントとしての面。坂田さん達はあくまでそれらの代表ってだけで、この列車に引き寄せられる人々が求めていたのは、基本的には
初めに口にするのは、この列車がバレンタインを祝うためのものだった、という事実。
乗客の中でその空気を特に強調していたのは、後から乗り込んできたキーアと銀時の一団だ。
彼らはいっそ見事なまでに、バレンタインだけを目的としてこの列車に乗り込んでいる。
つまり、バレンタインの話が一番
「二つ目。『幽霊列車』に代表される、オカルトめいた噂達。始点から終点まで、ずっと続いているハプニング──すなわち、いわゆる物語のスパイスとなるモノ」
次に口にするのは、現在一番大きな扱いとなっている『幽霊列車』周辺のあれこれ。
複数の
各作品のスケールを揃え、同じ方向を見るようにと誂えられた導。
──そう、それはある意味では、
その実態がどうであれ、物語の流れとしては一番外様、後から被せられた『尤もらしい理由』だとも言える事件達。
それが、『幽霊列車』回りの話なのだ。
「……つ、つまりそれって」
「──三つ目。途中で話題にあがったのにも関わらず、ここまで不自然なほどに本題に関わって来なかったもの」
そうして口にするのは、三つ目の思惑。
バレンタインイベントである、という土台を作り上げた一つ目の思惑。
話を転がす理由として求められた、『幽霊列車』とそれに纏わるあれこれを指し示す二つ目の思惑。
──そして、三つ目の思惑とは、最後の最後……物語の〆として、更には複数の物語を繋げる鍵として。
その生誕を望まれ、ひたすらに息を潜めていたもの。
そして、
「俺達は、
「……なるほど。自分で蒔いた種とはいえ、こうも尾を引くとはなぁ」
「え?し、社長さん?」
自分達は、『怪盗』という偶像を生み出そうとしていたのだと、そう告げたコナン達の前に。
苦虫を噛み潰したような表情を見せながら現れたのは、自身を鈴木財閥の副社長だと述べていた男、鈴木黒雲斎だった。