なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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送り火を天に、稀人はただ軽やかに

「娘……さん?」

「本来、死人が『逆憑依』などの依代になることはあり得ない。……それは、彼らが現世に楔として立ち続けることができないからだ」

 

 

 今回の騒動の犯人(発端)とでも言うべき相手を指差し、コナンは種明かしを続けていく。

 

 死人は本来『逆憑依』の対象足り得ない、というのはつい先日キーア達が体験した事件などから判明した、比較的新しい情報である。

 

 発生した【兆し】の中に埋め込まれるのは、肉体を持つ人間か、はたまた周囲より依り集められし想念か。

 いずれにせよ、『逆憑依』と呼ばれる存在達が、その中身に()()()()()()()を収めている、ということに変わりはない。

 ゆえに、肉を持たぬ魂だけの存在では、その外側に投影される異界の稀人──創作物のキャラクター達を宿すことはできないのである。

 

 では、同じ【兆し】より発生するモノであるところの、【顕象】はどうなのか。

 こちらは周囲より集められた形のない想念を、器に合わせて圧し固めていく……という言い方が近いものだが──ゆえにこそ、その成立には酷く不安定な部分がある。

 

 先ほども述べた通り、とある科学者(琥珀)はそれを無限の成長性と一先ず結論付けたが……否。

 それは成長などでは決してない。

 絶えずひたすらに想念を纏め続け、至らぬ(100%)に手を伸ばし続けるモノ。──伸ばし続けなければ、成立できないもの。

 それこそが、本来の【顕象】というものなのである。*1

 

 それは、栓の無い湯船と同じ。

 ひたすらに次の水を注ぎ続けなければ、やがては中身が枯渇し空となるはずのもの。

 敢えて類似例達と違う点をあげるとすれば……排水口から抜けた水も、【顕象】が成立している間はずっと()()()()()()()()()()()()、ということだろうか。

 

 彼らの体を湯船そのものではなく、流れた水が川に至り・そこから海へと合流し蒸発して空に登り・雨水となって川に流れ・最終的に蛇口に戻ってくる──という、一連のサイクルそのものである、と考えればわかりやすいだろうか。

 そこまで肥大化する前に対処されることがほとんどであるとは言うものの、最終的に至るのは循環系*2というシステムそのものである可能性が高いと思われる。

 

 要するに、底の抜けた湯船として見るなら危なっかしいが、やがて自然のシステムそのものにまで至るものであると見れば、それがどれだけ規格外のモノなのかがわかる、ということだ。

 ……まぁ、このあたりもとある科学者(琥珀)の推論でしかないので、詳しい解説は次の機会に回すとして。

 

 重要なのは、【顕象】というシステムがなにかを()()という行為に対して、殊更に強い面があるということだ。

 

 以前、キーアは自身の力を使い、とある少女の蘇生という奇跡を起こして見せた。

 様々な要因からの、本当に奇跡としか言い様のない出来事であったが……その被験者である荷葉という少女は、現在『逆憑依』という存在ではない。

 彼女の今の状態を一言で纏めるのなら、【顕象】であるとするのが正しい。

 ──そう、彼女の現在の主体はもう一人の少女、れんげの方にこそある。

 

 では何故、そんなことになったのか、そんなことができたのか。

 それは【顕象】による魂の保存……いや魂の拡散の阻止が行われていたから、というのが一番の理由となる。

 

 あの場所の【兆し】は、始めに荷葉と言う少女を核として成立するはずのモノであった。

 それが機を逃したことにより、『逆憑依』ではなく【顕象】へと成立の方向性がずれたわけである。

 ……が、あまりにもそのタイミングが悪すぎたために、一つのモノとして成立するはずだったそれらは、四つの別々の存在に割れてしまった。

 

 その四つを元に戻すことにより、一つの存在として確立させた。……細かな部分を無視すれば、彼女達に起こったことはこのように一言で纏めてしまえるわけである。

 無論、別たれた当初ならばいざ知らず、それなりの時間経過を経ていた彼女達がもし仮に猫箱の外に居たのならば、あのような奇跡は起こりえなかっただろうが。

 

 閑話休題。

 ここで重要なのは『逆憑依』として成り立たずとも、【顕象】にスライドすることは可能である、もしくは可能なのではないかと推測できる、という点。

 

 死を迎えた男の魂を、【顕象】の性質による拡散阻止によって現世に留め置いた……留め置いて欲しいと願った者がいたとすれば。

 彼が死を迎えてなお、こうしてコナン達の前に姿を見せることが、可能となった理由になるのではないだろうか?

 そして『お父さんの無念を晴らしてあげたい』と願ったのが、彼の娘であったとするのならば。

 すなわち、今回の事件の首謀者が娘である、という風に言うことも可能なのではないだろうか?

 

 

「……ふぅ。ご明察よ、探偵さん。流石は江戸川コナン、日本で知らぬ者の居ない名探偵、ってところかしら?」

「……!秘書さんの姿も……」

 

 

 あれこれと語って見せたコナン達の前で、社長の横に立っていた秘書の姿もまた、その形を蜃気楼*3のように掠れさせたのち、全く別の……高校生くらいの少女のモノへと変じさせていた。

 

 恐らくは、これが彼女の本来の姿。

 思春期真っ盛り・親にも反抗期真っ盛りな、ふてぶてしい少女が一人。静かに、こちらを見据えるようにして立っているのだった。

 

 

 

 

 

 

「……父さんが、綺麗に終わらせようと頑張ってたのは知ってる。それが避けられないってことに、ずっと母さんが不満を抱えてたのも知ってる。……でも、だからって父さんがあんなことになる理由にはならないはずよ」

 

 

 彼女は酷く疲れたようなため息を吐きながら、静かに列車の天井を眺めている。

 そこに込められた思いが、どれほどのモノなのかはコナンには想像するより他ないが……。

 

 

「……俺は、今回の一件が貴方の私怨から来るものだと思っていた。ただ、だとすると解せないことが幾つかある」

「……と、言うと?」

()()()()姿()だよ。確かに他人の姿を被っていた貴方達だけど、それでも鈴木黒雲斎もその秘書も、()()()()()()()()()だ。……なりきりには、確かに実在の人物を模倣するものもあるけれど。それでも、貴方の父親が黒雲斎氏の真似をしていたとは思えない」

 

 

 模倣とは、本来相手への敬意を殊更に必要とするものである。

 直接顔をあわせるわけでもない普通のなりきりではなく、取引先として顔を突き合わせる必要のある相手の真似をするなど、全うな感性をしていれば早々選ぶことのできない行動だろう。

 であるならば、彼らの姿は恐らく……。

 

 

「……そっちもご明察。私達の姿は、()()()()()()()()与えられたもの。父さんの願いを叶えるために、それに必要な役割を被せられていたってわけ」

「……じゃ、じゃあ、もしかして……?」

 

 

 娘さんの言葉に、蘭がなにかに気付いたような声をあげる。それに小さく頷きを返し、コナンもまた天井を見上げる。

 ──いや、正確には天井を見上げているのではない。

 彼は空を仰ぐように、天を仰ぐように、()()()()()()()()()()()だけだ。

 

 

「【顕象】が楔を必要としないというのは本当だろう。だけど、それが内側に()()()()()()()()()()()という証拠にはならない。──()()()()。それこそが、今回の事件を()()()()()()()引き起こした真犯人だ……!!」

 

 

 突き付けるようなコナンの言葉は、車内を静かに響き渡り。

 ──次の瞬間、けたたましい汽笛の音に、四人は耳を塞ぐこととなった。

 

 

「お、怒ってるのこれ?!」

「違う、単純に暴走してる!ここで俺達が理由に触れたから、怪盗の発生(求めるもの)にたどり着かない可能性に気付いて、こっちを排除しようとしてるんだ!」

 

 

 動揺する蘭に、コナンは鋭い声を投げ掛ける。

 この列車……いや、ここは敢えてこう呼ぶとしよう。この『幽霊列車』は、社長親子の祈りを叶えるために生まれた【顕象】だ。

 それゆえに、その祈りの成就(父親の無念の払拭)のために必要なこと──すなわち『怪盗』を発生させるのに、コナン達に対しての執着が一際強かった。

 途中まで『再現度を上げたくないのに何故この列車に乗っているのか』という疑問をコナン達が一切抱いていなかったあたり、彼らに対しての精神操作は、結構な強度のモノだったのだと思われる。

 

 が、現状コナン達は記憶を取り戻し、彼らの祈りが叶えられる機会は失われてしまった。

 何故か?それは恐らく──。

 

 

「幾ら俺の再現度が上がり、江戸川コナンとして完成して行こうとも……『怪盗』が現れることは、無かったからだ」

「え?」

 

 

 八雲紫が、初めからコナンの再現度の上昇によって『怪盗』が現れることはないだろうと、知っていたからだ。

 

 確かに、コナン達のような事件に巻き込まれることを主題としたキャラクター達は、その性質上再現度が高ければ事件を引き寄せる者と化す恐れがある。

 ……が、それはあくまでも()()()()()者であって、事件を自ら()()()()者ではない。

 彼らは紛れもなく善なる人々であり、ゆえに彼らの存在が事件や悪人を引き寄せるのだとしても、それがイコール悪を生むもの(諸悪の根元)であるということに繋がるわけではない。

 

 ──つまり。

 例え彼らが、真に創作の探偵達そのものにまで至ったとしても、それで起きるのは騒動の発生確率が上がる、というだけのこと。

 今回の社長親子が望んだような、『怪盗』を生み出すことは叶わないのである。……まぁ、世間に隠れている普通の『怪盗』をこの場に引き寄せることは叶うかもしれないが。

 

 だがしかし──例えば今現在この世界には居ないはずの『怪盗キッド』や、『ルパン三世』をこの場に降臨させる……ということは、コナン達が成長したとしても起きないことなのである。

 仮に後々彼らが現れたとしても、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

「え、じゃあなんで八雲さんは、社長さんの話を受けたの……?」

「琥珀さんの不満の声を聞き入れたってのが一つ。それから……最終的には()()()怪盗役をすれば良いって思ってたんだろうってのが一つ、かな」

 

 

 コナンの想像通り、八雲紫は最終的にこのクルーズトレインをスキマで郷に持ち帰ろうとしていた。

 

 マジックにおける種とは、確かに存在しているものの、それを周囲に巧妙に隠すことで成り立っている。*4

 そう、奇術(マジック)魔術(マジック)で行っても、それは周囲から見ればわからないのである。どっちにしろ、種は見えないのだから。

 ……無論、彼女が使うのは魔術ではなく『程度の能力』ではあるが、それを知らない人間からしてみれば、さほど大きな違いはない。

 

 ゆえに、『怪盗』の好みそうな大掛かりな奇術(マジック)により、クルーズトレインの最後を奪ってしまえば。

 それは紛れもなく『怪盗』の所業であると言えてしまうという、わりと脳筋な解決策を八雲紫は画策していたのだった。

 

 つまり、今回の事件はそもそも発端の時点で破綻していたのである。

 幾ら【顕象】が周囲から想念を集め、肥大化していくのだとしても、それは己に定められた【兆し】に沿ったもの。

 生まれた【兆し】は最初から『怪盗』を生むものではなく、ゆえに彼らの願いは外からでしか叶えられない。

 

 ──内に全てを巻き込んでいくこの『幽霊列車』は、ただ終点にたどり着くまで全てを留め置くだけの、それだけの存在でしかなかったのだ。

 

 

「そうだろう?乗せた乗客をあの世に連れていく、そのためだけにここにある列車──『魔列車』さんよ!」

 

 

 ……そう。

 始まりは単なる祈り。

 無念を晴らしたい。そして、心安らかに成仏してほしい。

 そんな善なる願いを受け、【兆し】が固めた死出の旅路をなぞる『幽霊列車』。

 

 その真なる姿は、『エメ』という列車に覆い被さった、願いを叶えるもの(イマジン)の暴走体だったのだ。

 

 

*1
『私、以前彼らにとっての【継ぎ接ぎ】は成長の限界(リミット)、蓋だと申し上げましたが。……もしかするとですよ?実際は底にある排水口を閉じるための栓、なのかもしれません』とはとある科学者の弁

*2
本来は生物の体内における、体液を身体中に巡らせる器官を含む系のこと。この場合の系とは体系、すなわちシステムを指す言葉である。星を一つの生命と見る場合、水の移り変わりはまさに生物にとっての循環系を構築していると言える

*3
『蜃が吐く気によって作られし楼閣』の意。自然現象の一種。温度が違う二種類以上の大気を光が進む場合、それらは密度が違う為に複雑な屈折を起こす。結果として、本来見えない位置にある建物などが見えてしまうことにより、幻像が浮かび上がるという仕組み。水気のある場所で起きやすい為、蜃という伝説上の存在が起こすものだと思われていた

*4
奇術も魔術も昔は同じものだった、という話。種を見せない奇術のあり方を、『本当に種などない』と見たのが魔術であるとも言えるかもしれない。その為、魔術が一般的な世界で奇術を見せると、()()()使()()()()()()()()()()()可能性があったりする

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