なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……これは、削除されたと言うことか?」
「キャラハン不在時の削除ルールは三ヶ月でしょ?私はひと月ちょっと前の時には普通に居たし、そもそも他の同僚だって残ってたよ」
ジャックさんの言葉に、私は首を横に振って答える。
確かに「そんなスレありません」なんて表示をリンク先で見る事があれば、普通ならスレが削除されたと思うだろう。
実際普通の掲示板と比べると、キャラハンの不在で消える可能性のあるなりきりスレというのは、比較的消えやすいものだと言えなくもない。
……が。今回のこれは、そういうことではない。
「では、これはどういう事なのだ?」
「んー、なんというか……ライネス、
「ふむ。少し待ちたまえ」
こちらの意図を察したライネスが、自身のスマートフォンを操作して、とあるモノを表示する。
……どうでもいいけどロリ状態とはいえ、ライネスが情報端末弄ってるのなんかすごい違和感だなぁ……。*1
さて、彼女がスマホに表示したもの、それは──。
「………?」
「いや、また同じ画面ではないか?」
「ふむ、
彼女がスマホに表示したもの。
それは、またもや「そんなスレありません」という表示。
私とマシュにも、同じものが見えている。……が、実は問題はそこではない。
「今私が表示しているものは、
「……なん、だと?」
「え?……いやいやライネスちゃんってば冗談きついよー。だってこれ、どう見ても……どう見ても……?」
今スマホに表示しているのは、過去ログを他の端末でも見れるようにダウンロードしたものなのだと、彼女は告げる。
それを冗談か何かだと思ったココアちゃんが、笑いながらスマホに近寄って。
画面が切り替わらないのに、右側のスライダが動いている事に気付いて、その笑みを凍りつかせた。
それはあまりに奇っ怪な現象。
スマホの画面を上にスワイプしても、画面上部に張り付いたように表示される「そんなスレありません」の文字と、画面が下に移動していることを告げる、右側に見えるスライダ。
それが一番下にたどり着いてもなお、変わらない画面の表示。
「…………ナニコレ!?」
「むぅ、ここでオカルトだとっ……!?」
その異様な現象を目にした二人が、こちらに困惑の視線を向けてくる。
……まぁ、コレに関しては私達も同じようなものしか見えてないんで、現状単なる推論しか述べられないんだけど。
「おそらくだけど、
「越境先、だと……?」
ジャックさんの言葉に頷いて、改めてココアちゃんのスレとやらを見せてもらう。
……彼女たちの反応から、そこには名無しとキャラハン達の会話が表示されているのだろう。だがしかし。
「私達には「そんなスレありません」って見えてるんだよね」
「え、ええっ!?」
「……嘘は吐いていないようだな。だが、何故そんなことになる?」
さっきのライネスのスマホの画面と同じく、私達にはココアちゃんのスレとやらは
私達がスレとして認識できたのは、さっきの祭スレだけなのだ。
「……いや、まさか、さっきのお前のスレも?」
「実際どうなのかは別として、名無しとしての参加すらもした事のない場所は、多分ああなるんだと思うよ」
「え、あ、もしかして!?」
ジャックさんの疑問に曖昧に頷く私。
……いや、そのね?なんて言い淀む私をジャックさんが訝しむ横で、ココアちゃんが何かに気付いたように声を上げた。
みんなの視線が彼女に向く中、彼女はそんな周囲の視線を無視して、ジャックさんに詰め寄るように顔を近付けた。
「ジャックちゃん!ジャックちゃんのスレのアドレス教えてっ!」
「じゃ、ジャックちゃんっ?い、いやそれよりもだ、近いぞ貴様っ!!」
「いいから教えてー!」
「ええいっ、今見せるっ、少し待てっ!!」
……突然のココアちゃんのジャックちゃん呼びも、近寄ってくるココアちゃんの頭を掴んで、必死に遠ざけようとするジャックさんの行動も意味不明だけど。
そんな謎の空気も、次にココアちゃんがあげた言葉で霧散する。
「あー!?やっぱり!!見れない!!」
「なにィッ!!?」
彼女が叫んだ言葉は、ある種予想通りのものだった。
ジャックさんはココアちゃんのスレに名無しとして参加したことがあるから、彼女のスレを認識できるけど。
それが反対になると、ココアちゃんはジャックさんのスレに参加したことがないので、彼のスレを認識できない。
……となれば、さっきの仮説はほぼ証明されたことになる。
「つまり、端から越境してもいい祭スレを除いて、他のスレは原則認識できない……ということになるわけだ」
「……なるほど。だが、それが事実だとして……どうなるのだ?」
ライネスの言葉に、ジャックさんが疑問を返す。
確かに、余所のスレに対しての認識障害みたいなものがあるとして。
それが何を意味するのかなんて、わかるはずもない……こともない。
「なに……?」
「今まで私達は、自分が演じていたキャラクター達
「憑依として影響の大きい、キャラクターというガワが目立っていたけれど。……そもそもの話
私の言葉にライネスが補足をいれる。
今までの私達の認識では「元の人間」の上に「キャラクター」だけが
実は「元の人間」とほぼ同一な「名無し」というモノも、「キャラクター」と一緒に
……というのが、今回話してみて思いついた説だった。
「名無し」というフィルターが含まれる事によって、私達の視点に補正が掛かっているのではないか、と。
そして、それを認めることにより持ち上がる説が一つある。
「今ここにいる私達、その元になった人々。そこに見える、知識の差。つまり……」
「つ、つまり?」
「私達は、みんな違う世界から
「「「「な、なんだってー!!?」」」」
……うん、みんないい反応ありがとう。
「で、思わず周囲に合わせて驚いてしまったが。……つまり、どういう事だ?」
「あー、私ね?この前シャナちゃん*2とちょっとバトってきたんだけど……」
「いやちょっと待ちたまえ、世間話レベルの気楽さで突然爆弾発言を持ち込むのは止めたまえ」
おっと、ライネスがなんとも言えない顔をしている。
……とはいえ、これ別に自分から望んでやったモノでもないからなぁ。
とりあえずそんな事があったのだと納得して貰って、話を続ける。
「その時にシャナちゃんが原作終了してないところから来てるんじゃないか、って話になったのよ。使ってない技があったから」
「ふむ……?だが技を使わなかったくらいでは、余所の世界の人間だとは言えないのではないか?」
「彼女が普通のカテゴリの人物ならね。レベル5の話について聞いたことは?」
「……?学園都市がどうした?」*3
「いやそっちじゃなくて」
ジャックさんの天然なんだかわざとなんだかよくわからない言葉を聞きつつ、レベル5と呼ばれる憑依者について簡単に説明する。
彼等は演者と憑依者が馴染みすぎた結果、拒否反応を起こして滅茶苦茶になってしまっている人達だ。
逆に言うと、彼等は知識の更新が起きていない──元の情報を保ったままの人間であるとも言える。
「ジャックさんは、『スカーレッド・スーパーノヴァ』を採用されていましたよね?」
「ああ、俺の新しい切り札……いや、そうか。
「え?どういうこと?」
「なりきりはあくまでなりきりだから、自分の知識の外にあるものは知りようがない。同じように、
「…………?」
「『ジャック・アトラス』という存在にとって『スカーレッド・スーパーノヴァ』は未知のカードだ。それを使っている時点で、俺は少なくとも『5D'sやARC-Vのジャック・アトラス』ではない。*4お前で言うのならば、三期で増えた者達を知っている時点で、一期当時の『保登心愛』ではない……という事だ」*5
「なる、ほど?」
私の説明はちょっとわかり辛かったかな?
なんて思っていたのをジャックさんが補足してくれたおかげで、ココアちゃんはなんとなく、くらいには話を理解できたようだった。
要するに、
だが、彼女はゆかりんを『境界の守り手』と呼んでいた。
使っていた技からすると、知識の更新は起こっていないはずなのに、彼女は本来知り得ない
……ゆかりんの当初の予想通り、知識の更新が
憑依者が拒まれている以上、そちらの意識で動いていた彼女が八雲紫について知っているはずがなく。
仮に知識の更新が行われていたのだとするのなら。
少なくともこちらが嫌々展開した『疑装』に関しては、正しい対処を打ってきていた可能性の方が遥かに高い。*6
ならば、
──そう考えたというのが、今回の私の言いたかったことなわけだ。
しかしまぁ、知識の更新がどの範囲で起きているのか、そしてそれに対しての違和感がどうなっているのか。
……そういった違和感をごまかすものが『名無し』というフィルターなのだとすれば、随分と雑ではあるものの、一定の効果をあげていると素直に認める他ない。
実際、見えなくなったり理解できなくなったりしている事を、ジャックさんやココアちゃんと話すまでは認識できていなかったというのは、わりと驚嘆すべきことだと言えるだろう。
とはいえ……。
「なんというか、例外引かなきゃ気付けないって結構酷い話だというか……」
「れいがい?」
ココアちゃんが首を傾げるのを見て、マシュの方を見る。
なんとも言えない表情を浮かべているのは、私と同じことを考えているからか。
とりあえず置いておいて、更にその隣のライネスに声を掛ける。
「ライネスのそれ、元のスレのアドレスとか覚えてる?」
「いや、内容を確かめたからこそ自分のスレだと認識できたけど。正直、元の場所とかは全然」
「だよねぇ。……因みに私達の場合、さっきの祭スレはURL全部バグって見えたよ」
「それはまたなんとも……」
「……いや、待て。お前達は何を言っている?」
遠い目で話し合う私達を見て、ジャックさんが声を上げる。
……うん、彼等には普通に見えているのだろう。
最初に私のレスに書かれた
ゆかりんは
……その大体の人から外れた人物を引かないと気付けないとか、型月じゃねーんだぞってツッコミたくなるというか。*7
「うーん、名無しも憑依してるんじゃ、ってとこまで行けたのは良かったんだけど。……なんか、謎が増えただけな気もする……」
「ふむ?……ああ、そうか。そういえば、君だけが聞いていなかったのだったか」
「へ?なにが?」
「ココアが特別、と言うのは紫もマシュも知っているよ。そもそも、マシュがここでバイトを始めた理由の一つでもあるからね」
「なん、だと……?」
むむむと唸っていたら、ライネスから明かされる衝撃の事実。
……あ、よく見たらマシュの表情、悩んでるんじゃなくて申し訳無さそうにしてるやつだこれ!?
うっわなんか変に探偵役やってただけだこれ、はっず!?
なんてちょっと赤面する私の前で、ココアちゃんは頭を掻きながら首を傾げ、こう告げるのだった。
「えっと、私、なにかやっちゃった?」*8