なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「──ってわけで、車内の全てを薙ぎ払いながらボールは進んでいき、気が付いたら俺達は倒れてたってわけさ」
「いや、そんなのただの自殺志願者じゃん……」
起き上がったコナン君から、彼らがこれまでなにをしていたのかの状況報告を受けていた私は、思わずそんな言葉を口から漏らしていたのだった。
……いや冗談でもなんでもなくて、イナイレとかテニヌみたいな
というか琥珀さんの技術力も意☆味☆不☆明なことになってるし、私に一体どうしろと言うんです……?
郷に帰ってからの仕事が、更に増えたことに内心でため息を吐きつつ、とりあえず無事……無事?でよかったとコナン君を慰める私。
彼の証言に間違いがないのであれば、車内の椅子やら机やら壁やらを流星ブレードで一掃した結果、中で暴れられるのを嫌った『魔列車』が、依代である『エメ』から分離した……という風に見るのが正しいのだろう。
すなわち、現在のあれは本当の意味で『幽霊列車』になっている、ということ。
中になにも居ないのであれば、それこそフェニックスの尾*3でも投げ付けてやりたい気分なのだが……。
「一応聞いておくけど、金田君は見てないんだよね?」
「ああ、俺達のところに来たのは社長さん達だけ。こっちとは別室で待機していたはずの金田については、ちょっとわからないかな」
こちらからの問い掛けに、言葉そのものの軽さとは正反対の、深刻な表情を浮かべるコナン君。
それもそのはず、彼らとは別室で待機していたはずの金田君の姿が、車内のどこにも見当たらないのである。
よもや流星ブレードによって、調度品達と諸共に薙ぎ払ってしまったのでは?……と一瞬震えが走ったものの、そもそも彼には
彼女からこちらへの救援要請などが無い以上、一応は無事ではあるはず。……もし仮に
つまり、状況証拠から判断するならば。
キリアと金田君は、未だあの『魔列車』の内部に取り残されていると判断するのが正しい、ということになるわけで。
……乗客が居る状態で迂闊に成仏とかさせた日には、中身ごとあの世送りになりそうな悪寒がするので、『ゾンビに聖水』作戦は取り止め無期延期である。
まぁ、仮にその作戦を実行しようにも、今現在フェニックスの尾も聖水も持ってないし。聖属性の魔法を使うにしても、そっち担当のキリアは向こうなので、ここに居る私にはどうしようもないんだがね!
「……えっ、使えねーの?」
「うむ、そうなのだ。私が使ってるのは単なる多重影分身じゃなくて、自分の
「いや、不思議生命体過ぎるじゃろお主……」
なお、コナン君達からはなんで使えないの?……みたいな顔を向けられたわけなのだが。
私の使ってる影分身が『属性分身』みたいなものだから、現在聖属性適正が無いのです……というだけの、とても単純な話だったりするため、そんな顔で見られても困るというかなんというか。
あとミラちゃん、もののけ扱いは止めてくれんかね?
『──なかなかやるじゃねぇか!』
そうして若干ぐだついた私達が話を切り上げ、外に飛び出した結果目にしたのは。
天空を駆けながら、何度もぶつかるように交差し続けている二つの龍……もとい、二つの列車の姿。
無論改めて確認するまでもなく、その二つの龍とはデンライナーと『魔列車』のこと。彼らが怪獣映画さながらに、何度も互いの車体をぶつけ合っている光景が、現在私達の目の前で繰り広げられているものだというわけなのですが……。
「モモちゃん、加減して加減!多分、中に人がまだ居るから!」
『……ああ?んなこと言ってる場合か、よっ!』
ほぼ確実に金田君(と、
それが大変よろしくない展開であることは、皆様お察しの通り。
ゆえに、モモちゃんには多少の手加減をして欲しい旨を、叫んで伝えたわけなのだが、結果はご覧の通り。こちらの発言は暖簾に腕押し、糠に釘。*5現状、こちらの忠告通りに彼が手を緩める様子は見られない。
……口調が先ほどまでのキャルちゃん*6っぽいものではなく、普通のモモタロスのものに戻っているのは、周囲が彼の姿を認識できない状況においては、彼の外見は『シュレディンガーのモモタロス』状態になっているからだとかなんだとか言っていたが。
その辺りから察するに、現在の彼はあまり精神的に余裕がない……ということになるのだろう。
ゆえに、さっさと雌雄を決してしまいたいモモちゃんは、常よりも更に過激にファイヤーしている、というわけなのだった。
「ふむ、
「……いや、別に洒落を言ったわけじゃないんですけど?」
なお、中身的には男性区分のハズのミラちゃんはというと、この通り自分から『わしかわ』とか言っちゃうタイプの人なので、モモちゃんの焦りとかについては、今一ピンと来ていらっしゃらないご様子。
……『逆憑依』の仕様上、モモちゃんの現状に
他の面々の自意識は憑依している方にあるので、(他者に逆)憑依して更に(イマジンの能力的な)憑依をしているモモちゃんは、ある意味孤独な戦士なのだった。
『ちちちげーし!別にさっさとこの服から着替えたいとか思ってねーし!』
「はいはい。……モモちゃんに手加減を期待するのは無理があるみたいだし、あさひさんお願いできます?」
「思ったより龍使いが荒いっすね?……後が怖いっすよ?」
「……お手柔らかにお願いします」
「あいあいー」*8
まぁ、モモちゃんに手加減を期待出来ないというのなら、こっちが動くしかないだろうというのも道理。
キリアに関しては最悪分身を解除すればいいとして……金田君を連れて帰る必要があるということを踏まえ、ここはあさひさんもといミラルーツさんの力を再び借りる必要があるだろう。
……あくまで
龍種の要求って地味に怖いよなー、なんてことをぼやきながら、再び大きめのワイバーンくらいのサイズに変化した彼女の背に跨がり、一路空へ。
真横を仙術を用いて付いてくるミラちゃんと一緒に、いざ『魔列車』内部!……とばかりに突っ込んで行った私達は。
「……すり抜けたぁっ!?」
「あれーっ!!?」
入り口に突っ込んだにも関わらず、中に入ることができないことに、思わず困惑することになるのだった。
『だから言ってんだろうが!んな暇はねぇってよぉっ!!』
モモちゃんの言葉と共に、再びデンライナーは『魔列車』との衝突……もとい、接触を繰り返す。
……よくよく考えてみると、デンライナーには先頭車両が
何故変形しないのだろうと思っていたのだが、もしやこちらが勝手にモモちゃんの精神状態を察したつもりになっていただけで、最初から手加減をした上で戦っていたのだろうか……?
『……そ、そそそそうだよ手加減してたんだよ!』
(……嘘だな)
(あからさまに嘘じゃな)
(わかりやすすぎますよモモタロスさん……)
『な、なんだよテメーら!手加減してたんだって!ホントに!』
……などというこちらの推測は、次の瞬間モモちゃん自身の言葉によって否定されたわけなのであった。わかりやす過ぎるでしょ貴方……。
まぁ、要するに。
このデンライナーは見掛けこそ
そう、現在の彼の状態に合わせ、内蔵武装が全て
つまり、それを使用すると言うことは、同時に中に乗っている存在の属性を示すことにも繋がるわけで。
……端的に言ってしまえば、『シュレディンガーのモモタロス』状態が崩れてしまうらしい。
その結果、口調という抵抗すら奪われた彼は、戦闘という本来ハイテンションで行えるはずの行為すら、だだ下がった気分で行わなければならなくなるというわけである。
結果として、デンライナーのほとんどの機能を自分から縛る形になっている、というわけなのだった。
つまり、手加減なんてしたくないけど、手加減しないとうまく戦えない、というのが真実らしい。……なんとも悲しい話である。
で、
現在の『魔列車』は、依代を離れた霊体状態。
そもそもに、その中になにかを積むことはできないはず、なのだという。
つまり、本来居た場所に居ないのであれば、それは積み荷の方が動いたということ。
つまり、金田君達の方が勝手にどこかに行った、ということになるわけだ。……と、モモちゃんが説明をしてくれた。意外とよく見ていらっしゃる……。
ともあれ、彼の見立てでは手加減など必要なく、そのままこの『魔列車』をぶん殴るのが一番手っ取り早いとのこと。
問題があるとすれば、前述の通り彼には本気を出したくても出せない事情がある、ということだろうか?
「……ぬぅ、これは困った」
この報告には、キーアさんも困り者。
実は、キリアによる聖属性魔法をあてにしていた部分が、結構大きかったのである。
どっこい、彼女が居るはずだった場所はもぬけの殻。
先ほどまで念話が繋がらないのは、『魔列車』による妨害だと思っていたのだが、実際は向こうが着信拒否していただけだったわけで。
こうなってしまうと、微妙に対処に困ってしまう私なのだった。
……軽く言ってるけど、これって結構ピンチなのでは?