なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「なるほどなるほど~、そのような事が。それは大変お気の毒にと申しましょうか、はたまた良い体験を致しましたね、と申しましょうか?」
「……そういう台詞を言える辺りが、流石琥珀さんと言うか……」
「いやですねぇキーアさん。そんなに褒めてもなにも出ませんよ?」
「いや別に褒めてはないですね」
「ありゃりゃ?」
和やかに会話を交わす相手は、今回の立役者でもある琥珀さん。
彼女が『キック力増強シューズ』にあれこれと細工を仕掛けてくれていなければ、こちらとしては手詰まりになっていたところだろう。
そういう意味で、彼女を讃える意図がないわけでもない。ないのだが……。
「なぁんで私、杖状態で吊るされているんでしょう?というか下に油鍋って、もしかして五右衛門風呂ですかぁ~ッ!?」
「
今回は功罪のうちの罪が大きいんだよ!!
そもそも今回話がややこしくなったことの一因は、琥珀さんがゆかりんに
「そうよそうよ!悪いのは琥珀さんなのよ!……だから下ろしてぇ~っ!!」
「絶対に
「ノーとしか言わない女、ってわけでもないでしょ貴方ーっ!!」*2
なお、その隣にはゆかりんが、同じように天井から吊るされているのだった。
だって特に議論する余地もなくゆかりんも悪いからね、仕方ないね!
「なんでよー!私二人に遊んでおいでって言っただけなのにぃ~っ!!」
「クリスマス前の約束」
「
「おいこら視線を逸らすな、現実を見ろ!ゆかりんが忘れてなければ、もうちょっとやりようがあった話でしょうがこれ!」
「あー!!やめて揺らさないでー!!落ちるぅ~っ!!!」
「……ええと、どういう状況なんじゃこれ?」
「あ、助けてハクー!!殺されるぅーっ!!」
「いや、我に助けを求めるのは、流石にちょっとどうかと思う」
「そんなー!」
元はと言えば、ゆかりんが社長さんからの手紙をちゃんと読んでなかったのが原因でもある、今回のあれこれ。
トップ偏重の運営形式ゆえ仕方ないところもあるが、それならもうちょっと責任やらなにやらを分散させろ、という奴である。
八雲一家の形式に拘らず、もうちょっと役員を充実させなさい……的なことを、彼女を吊るしている紐を揺らしながら滾々とお説教していると、たまたまやって来たハクさんにゆかりんが助けを求めていた。
……まぁ、彼女は区分的には悪役側。
助けを求めるにはちょっと向いてないだろう、ということで彼女はその言葉をスルーして、そのまま奥の方に歩いていったのだが。……面倒くさがった、とも言う。
「おやおや?ハクさんはこちらに一体なにをしにいらしたんです?」
「ああ、VRやりに来たんだよあの人。正確には、アグモンに会いに行ったというか」
「ふむふむ?……いや、どういう繋がりなんですか、それ?」
「さあ?いつの間にか仲良くなってたみたいだし、私からはなんとも」
なお、彼女が向かったのは、ゆかりんルーム併設の娯楽室。
空間拡張によって新たに作られたものであるそれは、色々な計測器なども備えられた特別な場所と化している。
完成したのはつい最近で、時々居なくなっていたBBちゃんは、こちらの調整に掛かりきりになっていたのだとかなんとか。
……まぁ、あれこれと怪しいところの多いあのゲームに対して、専用の解析設備を用意した方がいいんじゃないのか?……という私からの提案あってのもの、でもあるらしいのだけれど。
こっちとしてはすっかり忘れてたので、『褒めてくださいせんぱ~い♡』などと言いながらスマホの中で踊るBBちゃんに、なんのこっちゃ?と首を捻ることになったりもしたが。
「その言いぶりですと、キーアさんは直接設計などには関わっていらっしゃらないので?」
「まーねー。私はデジタル系は門外漢だし」*3
琥珀さんが杖の体をハテナの形にくねらせ、こちらに質問を投げ掛けてくる。
そもそもの話、あのゲームを研究するならそれくらいした方がいいよ、と言い出したのは結構前の話だ。
今になって完成したことに、なにか意味があるのかはわからないが。なんというかタイミングがいいなぁ……と、ちょっと懐疑的になっているのも確かなわけで。
「『新秩序互助会』、でしたっけ?どうやら『tri-qualia』の運営とは、繋がりがあるとかないとか?」
「あーうん。向こうの幹部にタマモキャットやらドクター・ウエストが居る、ってわけではないと思うけど」
「ほほう。それで、その心は?」
「あの二人が内部にいて、まともに纏まるわけがないでしょ?」
「……んー、まさに!正論!ですね☆」*4
「ちょっとー!!?駄弁るんなら下ろしてよー!」
「ダメです」
「そんなー!!」
なお、二人の吊り下げそのものは、大体十分ほど続きましたとさ。
「……なるほど。それはまた災難だったわね」
「いやホント。ゆかりんがちゃんと覚えててくれれば、もうちょっと警戒とか対処とかも上手くできたと思うんだけどなぁ」
──『tri-qualia』内部、侑子のミセ。
久しぶりの訪問は、そんな感じの愚痴りから始まったのだった。
扱いとしてはあくまでハクさんの付き添い、といった感じだが、中々
「
「今のところは一切変化無しね。データの世界で石化してるからか、特に命に別状もないみたいだけれど」
「ふぅむ、なるほどねぇ……」
侑子に問い掛けるのは、先日このミセに増えた
問い掛けた結果は芳しくなく、それが現状維持を続けていることが果たして喜ばしいことなのか、はたまた悲しむべきことなのかもわからないままなのだった。
性質的に類似例となる荷葉ちゃん達でも連れてくれば、もしかしたらなにかわかるのかも知れないが……。
「んー、あの子達を
「……そうね、やめておいた方が無難だと思うわよ?」
「やっぱりぃー?」
いやまぁ、いきなり話してもなんのこっちゃ、としかならなさそうだけども。
そうしてため息を吐きながら、見詰める先にあるもの。
それは、
それが物言わぬ石像と化して、ミセの中に鎮座している光景……というものなのであった。
自身の所属と正体を明らかにした夏油君は、
それを
突然目の前に、カーテンの如く現れたそれにこちらが驚いている間に、相手側はまんまと逃げおおせていたというわけだ。
で、その謎のオーロラカーテンは、私達を煙に巻くように現れたかと思ったら、背後で固まっていた社長親子達を巻き込んでいったのである。
え?とこちらが困惑すると同時、巻き込まれた二人は姿を消していた。……そう、忽然と居なくなってしまったのである。
状況の移り変わりの速さに呆気に取られていた私達は、もはやなにかをすることもできず、そのままゆかりんに連絡を取って、スキマで郷に帰ることになったのだった。
一応、残された『エメ』に関してはお国の管轄になったようだが……既に廃線になっているものだ、処分に関しても
ともあれ、デンライナーに乗ってスキマを通った私達に、ゆかりんが腰を抜かしたのも今は昔。
モモちゃんはよろず屋預かりとなり、現在は銀ちゃんと意気投合したりしながら過ごしているらしい。……
深掘りするとこっちにも飛び火するので、話題に触れるのも怖いし。
まぁともあれ、そうして郷に帰った私に対して、侑子から突然の連絡が飛んできたわけである。
その内容というのが──、
「突然石像が送られて来たんだもの。貴方の差し金*5だって思うのは仕方がないと思わないかしら?」
「……いや、流石にそこまで私もわけわかんなくはないと言うか」
彼女のミセに、突然一組の石像が現れた……というものだったわけである。
てっきりなにかの対価かと思ったという、彼女からのメールに同封されていた
そこに写っていた石像の顔が、丸っきり社長親子の物だったために、私は慌てて『tri-qualia』にログインを行うことになったのだった。
「いやホント。あの時は頭の中クエスチョンマークだらけだったからね?消えたと思ってたら電子の世界に居るってんだから。それも石化っていうおまけ付き!」
「まぁ、そうね。私も貴方に言われて初めて確認して、これが
お互いに小さくため息を吐きながら、飲み物に口を付ける。
……あの二人は、あのままでは消えるしかなかったはずだった。
父親に関しては言わずもがな、娘に関しても願いを叶えるイマジンとの契約により、その命を散らす寸前だった。……聖杯もどきとは言ったものの、その魔力の供給源は彼女だったのである。
それが、呪霊操術により『呪霊である』という更なる概念の上書きを受け、イマジンと彼女との繋がりは分断された。
結果、互いに繋がりを保持することで保たれていた存在のバランスは崩壊し、彼女達はこの世から消える以外の選択肢を奪われていた……はずだったのである。
まぁなんの因果か、今の彼女達はこうしてこの『tri-qualia』の世界にあるわけなのだが。
石化状態が無事か?……と言われると、なんとも承服し難い部分もあるけど……少なくとも電子の世界でならば問題は無いだろう。
……ここまでされると、この世界のキナ臭さが増してきたような気がしてくる。
こちらの手が間に合わないのが確定的だった二人を助けた、という意味ではありがたくもあるのだけれども。
「……ややこしいもの転がり過ぎでしょ、ホント」
「そうね。でも、そういうものでしょ?」
こちらの小さな愚痴に、侑子は静かに微笑んで見せる。
遠くで楽しげに笑うハクさんとアグモンの声を聞きながら、時間はゆっくりと過ぎていくのだった──。