なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
潜入任務だ!ダンボールに隠れろ!
さて視点は移りまして、
そんな私の目の前には、なりきり郷とはまた違った趣の、明らかに秘密基地とでも言うべき空気を醸し出す入り口が*1。
その先にあるのは、自身に起きた事象を『憑依』ではなく『転生』であると解釈した者達の楽園──。
「ようこそ、キリアちゃん。これが私達『新秩序互助会』の居城、ターミナルドグマだ」
「『
「まさか、単なる肖りだよ。そういうのが好きな者が集まっている、ということを否定するつもりはないけどね」*2
地下に伸びるエレベーターに乗り込み、深く深い場所へと下っていく私達。
ミラさんの挙動が怪しい気がするのは……彼女の心情が揺れているから、ということなのでしょうか?
ともあれ、隣の金田さん……もとい夏油さんは、呑気に自身の顔を剥いでいる真っ最中。
いきなりの行動に少しギョッとしましたが、彼のそれが特殊メイクの類いだというのは、予め言っていらっしゃいましたし、いきなり頭蓋骨を持ち上げるよりはマシだと思いましょう。*3
「……あー、なるほど。
「汚点……ですか?」
「ああ、汚点だよ。若気の至りと言い換えてもいい。……私は思考を狭めていた、故にその行為には常に傲りが付きまとっていたのだからね」
「言い切りますね?」
「ああ、言うとも。だって私は、ここに来て答えを得たのだから」
「──答え?」
降りていくエレベーターから、外を眺める私達。
場の静寂を嫌ってか、はたまたこちらに気を遣っているのか、夏油さんは先ほどから、ずっとこちらに話し掛けて来ていらっしゃいます。
その瞳には理性の光が見え、とてもではありませんが非術師を『猿』と呼んだ、彼の苛烈さは感じられません。*4
そのことを口にすれば、彼は非常にバツの悪そうな表情を浮かべながら、頬をポリポリと掻いていらっしゃったのでした。
「……まぁ、その辺りはうちのリーダーを見て貰えれば、自ずと理解できると思うよ。──とはいえ彼は多忙の身。実際に謁見を許されるのは、それなりに後のことになるだろうけどね」
「……なるほど。では、その間に心の準備を済ませておくことに致しましょう」
「それがいい。そうでなくとも、ここには様々な人間達が集まっているんだ。心の準備というのは、幾らしていても足りないというものさ」
「なるほど。
「……あちら、か。確か、私達とは別の答えを得た者達の集い……だったかな?」
「あれを答えだと言うのは、世の宗教家に対しての侮辱以外の何物でもないと思いますが」
「ははは。辛辣だねぇ」
私の言葉に、和やかな笑みを見せる夏油さんですが……まぁその、実際に目にした時に笑っていられるか、わりと見物のような気もしますね。
そんな感じに、微妙にすれ違った会話を続ける私達から離れた位置で、ミラさんは変わらず逡巡を繰り返していました。
なにかを言おうとして、それを止めて、また言おうとして……。
余りにも挙動不審なその姿に、流石の夏油さんもスルーしかねたらしく。
「……大丈夫かい、ミラ君」
「ほわっ!?なななななんでもない!なんでもないぞ!」
「……いや、その様子でなにもない、という方が嘘だと思うのだが」
努めて軽い調子で声を掛けた夏油さんですが、対するミラさんは更に挙動不審に。……これでは例え鈍感主人公並の鈍さであっても、なにかあると気付いてしまうことでしょう。
すなわち──
「ミラく「ところで夏油さん、あちらの方は大丈夫なのでしょうか?」……ん?なにかあったか……あー……」
ミラさんに近付いて、彼女の様子を確かめようとしていた夏油さんの背中に、小さく声を掛ける私。
行動を邪魔された夏油さんは、特に気にした様子もなくこちらに視線を向け、そのまま私の指差している先に視線を移して行き──そこで起きていることを見た瞬間、僅かに天を仰いだのち、疲れたようなため息を吐いたのでした。
さて、夏油さんが思わずため息を吐くような面倒事とは?
「おい、テメェ……覚悟は出来てんのか?」
「……は?そっちこそ何様のつもりだ?」
……そのものズバリ、誰かの諍いなのでした。
私の視線の先では、
見ただけでどなた様なのかわかってしまったのですが、ここってこんな方ばっかりいらっしゃるんです……?(死んだ目)*5
思わず精神が死にかけましたが、お二人により近い立ち位置である夏油さんは、小さく頭を振ったのち、そのままふわりと浮くように彼等の方へと向かって行きました。
言い忘れていましたが、私達が乗っていたのは斜行エレベーター。バイオハザード2の終盤の方でレオンさんが乗っていたタイプのやつだったりするので、途中で降りることも一応は可能だったりします。*6
ともあれ、こうして夏油さんが二人の仲裁に向かった以上、ミラさんへの追求は暫くお預け、ということになるでしょう。
彼女には、その間に精神の均衡を取り戻して頂かなければ。
「なにをいけしゃあしゃあと!元はと言えば、お主のせいじゃろうが!」
「おやおや、なんのことやら。私
「ふ、ふふふ、ふざけるでないわーっ!!!」
「おおっと、大声はノーですよミラさん?」
「ぬぐぐぐ……」
まぁ、彼女はこちらが落ち着かせようとする度に、烈火の如く気炎を上げているわけなのですが。
はてさて、どうしてミラさんがここまで怒っているのか。
それを説明するために、少し時を巻き戻してみることと致しましょう──。
「──『新秩序互助会』に連れていってほしい、とな?」
こちらの言葉を鸚鵡返しのように投げ返して来たミラちゃんに、小さく頷き返す私。
タイミングとしては、『エメ』から飛び降りるよりも前。
具体的には、駅の構内で土産を探したり、買い食いをしたりしていた辺りのこと。
駅構内にあるコンビニのイートイン*7で、目ぼしいコンビニスイーツを突っつきながら、私はミラちゃんにとあるお願いをしていたのだった。
「そうそう。正確にはキリアの方を連れてって欲しいんだけども」
「はぁ、それはまぁ、なんというか……別に構わぬが、なんで
「いや、説明がめんどくさくないでしょ、キリアだと」
「んん?……あー、そういえばあやつ、確かアニメが存在しておったな……」
そのお願いと言うのが、『新秩序互助会』への橋渡しだったわけである。
聞いているだけで頭の痛くなってくる組織だが、確認の一つもしないことにはおちおち寝てもいられない。
あくまで今回の一件が片付いたあとの話にはなるが、ちょっとしたスパイ活動の予定を入れておく……というわけだ。
なお、それを聞いたミラちゃんは、最初はちょっと渋っていた。
どうやら自身の所属組織がわりと危険物である……という自覚はあったらしい。
まぁ、基本的に多少の危険ならどうにでもなる、と過去の経験をあげ連ねていったら、最終的には了承してくれたのだけれど。
ともあれ、そこから話はトントン拍子*8に進み、彼女にフォローして貰っての潜入任務が決まったわけなのだけれども……。
「よもや、金田の奴が夏油だったとは思わなんだぞ……」
「そのせいで色々作戦変更ですからね。本来なら貴方の紹介でここに来るつもりでしたが、あれこれとカバーストーリーを付与した結果、私自身の中で仲間割れした、なんて扱いにすることになりましたし」
「自分同士の戦い、というのは琴線に触れやすいからのぅ、特にわしらみたいなのには」
まさかまさかの金田君が『新秩序互助会』のメンバーだった、などという横紙破り*9を受けてしまったため、仕方なく向こうへ行く流れを変更することとなったのだった。
キーアが意味不明な存在であること自体は彼にバレてしまっていたため、下手な芝居は打てなくなっていた……というのも事情には含まれているわけなのだが。
ただまぁ、転んでもただでは起きないのが私。
そこから話を発展させて、『キーア』は『マジカル聖裁キリアちゃん』で後々登場する
で、それと敵対している
ちょっと誤算があるとすれば、夏油君も『マジカル聖裁キリアちゃん』を見ていた、ということだろうか。……下手な嘘は通じない感じだったので、極秘資料という体でCP君から預かっていた資料まで晒す羽目になったりしたのだった。……やめろー!黒歴史を呼ぶんじゃない!*10
ともあれ、こうして私はここに居るわけで。
あとは上手いことここの状況を調べ上げて、調書にまとめて終わり!
……え?口調が変わってる?
ふふふのふ……!
「待たせたな」(小声)*11
「小声で叫ぶとはまた器用なことを……」
おいアンタ、キャスリングって知ってるか?*12
チェスにおける特殊な手の名前でね。こいつを使うと、たったの一手でキングとルークの位置を動かすことができるんだ。
そしてその位置関係は、
もうお気付きだろう。
今ここに居るのは、カルマ値が極善であるキリアではない!カルマ値はその反対、
ふはははは!!……ふぅ。
まぁ一通り高笑いを上げたところで、改めまして。
「こちらキーア、『新秩序互助会』に潜入した。大佐、指示を頼む」
「ああもう、どうなっても知らんぞ……」
頭を抱えるミラちゃんと、ウキウキわくわくしている私。
ここに、世紀の大ミッションが始まったのだった!(アニメ映画の宣伝風な表現)*13