なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「まぁ、とは言っても暫くは様子見なのですが」
「まぁ、リーダーも居らぬしのぅ」
張りきって潜入ミッションをこなしていこー。
……ってなばかりに閧の声*1を上げた私なのですが、本格的な探索に関してはまだまだ先。
不発爆弾みたいな人物マシマシのこの魔境を、無闇矢鱈に闊歩するような命知らずではございませんので、暫くはキリアとして過ごすつもりなのでございましたとさ。
……え?キリアとして闊歩とはどういうことなのか、ですって?
そりゃ勿論、前回は入れ替わりと言ったけど、実際には再融合って奴でしてね?
「極善も極悪も、共に他者と関わり合うには不適……ということですね」
「あー、まぁ確かに。極端な正義も極端な悪も、共に他者を蔑ろにしておるという面では、大差ないかもしれぬのう」
私の呟きに、ミラちゃんがうんうんと頷いている。
ロウもカオスも、共にそれと決めたらまっしぐらな奴らばかりだ。
そしてそれゆえに、それらの主張には折り合いと言うものが付けられない。
どちらか一方が完全に折れるまで止まらないそれは、他者との距離感の調整を完全に放棄したものであるとも言える。
これからなるべく騒ぎを起こさずに立ち回ろう、としている最中では、単なる火種にしかならないわけである。
そのため、両者を足してプラマイゼロにした基本型キーアさんとして出張る必要性があった……というわけなのでございます。
……え?ニュートラルだとどっちも滅ぼしに掛かるだろうって?知らんなぁ……。*2
ともあれ、中立を保つのはとても大事。
片方に肩入れせず、物事をフラットに見るというのは、実は処世術としては微妙なのだけれど、それでも暴走した善意や悪意、そのどちらにも待ったを掛けられるポジションというのは、結構重要なのですよ。
「まぁ、普通はどっちも一人で担当する、なんてことはしないのですが」
「……話がずれておらんかの?」
「おおっと」
ぐだぐだと管を巻いていたところ、いい加減に動かぬか?……とのミラちゃんからのお言葉が。
確かに、エレベーターは目的地に到着し、その動きを止めている。『新秩序互助会』の一日の活動内容がどうなっているのかはわからないが、このままエレベーター内に居ると、再び地上の入り口部分に戻ってしまうことになるだろう。
それでは意味がないので、慌てず騒がずエレベーターから降りる私。……一応キリアのフリ、ということでおしとやかにするのも忘れずに。
横のミラちゃんが微妙な顔をしてこちらを見てきているけれど、できれば慣れて頂きたい。……少なくとも、この場所を離れて向こうに戻るまでは、私がキリアのフリを続けるのは確定なのだし。
「……まぁ、良いが。おーい夏油、こやつを部屋に案内するが、なにか他に伝えておくことはあるかの?」
「ん?ああちょっと待ってくれないか。もうちょっとしたら終わるから」
「
色々と見て見ぬフリを決め込んだらしいミラちゃんは、視線を私から移して夏油君の方に声を掛ける。
先ほど喧嘩の仲裁に向かった彼は、あれこれと騒いでいた二人──ソル=バッドガイらしき人物と、南雲ハジメらしき人物の両名を
……思わず素が漏れ掛けたが、なんとも意味のわからない光景である。
確かに夏油君は汎用性の塊、手札が多ければ多いほど強くなるタイプの人物であるため、その両名に勝つ可能性は決してゼロではないだろうが……。*5
彼らは曲がりなりにも『背徳の炎』と『魔王』である。……場所が場所なら、設定がーとか戦力差がーとか言われそうな光景であった。
「ああ、彼らは
「レベル……ですか?」
そうして疑問に思っていることを感じ取ったのか、夏油君から簡単な説明が入る。
曰く、この二人は自分よりも
そのため、自分でも抑えられる程度の戦力になっているのだ、と。
……こちらでの考え方では、私達は『憑依者』ではなく『転生者』だとされている。
そのため、向こうでの『再現度』という言葉が『覚醒度』という単語に置き換わっているみたいだ。
要するに、彼ら二人は
わー、なんかもうすでにあたまがいたいぞー。
……とばかりに額を押さえたくなってきた私ですが、とりあえずは自重。
説明する彼の背後に視線を向ければ、猿轡変わりに謎の生き物を口に突っ込まれた二人が、もがもが言いながら藻掻いているのが見える。
その内の一人──ソル君と視線があった私は、とりあえず曖昧な笑みを返しておいた。ダイジョウブ、ワタシテキジャナイヨー。
そんな感じに友好的な感情を込めた笑みだったのだが……返ってきたのは鬼のような眼光だった。……怖いんでやめて貰えますか()
場所柄なのかなんなのか、好戦的な輩が多いことに先が思いやられる感じである。
「おおっと失礼。女性にそういう扱いは良くないぞ君達ー?」
「
「
「おや、リーダーから通達が来てなかったかい?」
なお、そうしてガン付けて来ていることがバレた彼は、縛っている縄?のキツさが上がったらしく、小さく呻いていた。
……
ともあれ、吊り下げられたもう一人──ハジメ君が聞き取れない言葉で喋っているのを耳聡く聞き付けた夏油君は、朗々と私の設定について語り始めたのだった。
その語り様は、まるでどこぞの花の魔術師のよう。……そんなによく見てるんだ、『マジカル聖裁キリアちゃん』。
まぁ、こちらの情報を知るのに都合がいい……ということで流し見している可能性も否めないが、他者との交流に際して『貴方のことは知っていますよ』と主張しておくのは、円滑な関係構築の手段としては中々手慣れている、と評価せざるを得ないだろう。
ただ一つ、惜しむことがあるとすれば……。
「……おい、夏油」
「ん、どうしたのかな、ミラ君。彼等に聞かせて置くべき話はまだまだ尽きないのだが……」
「その辺で勘弁してやってくれ、死ぬほど恥ずかしがっておる」*6
「ん?……おや」
キリアの話はほぼほぼ黒歴史なので、楽しげに語られても私のメンタルへのダメージが嵩むだけ、ってことかなー!
プルプルと顔を真っ赤にして震える私の姿を見て、夏油君は『あれ?もしかしてやらかした?』みたいな苦笑いを浮かべていたのだった。
「ふ、ふふ。これが『新秩序互助会』のかわいがり、ということですか。新人に対しての熱い洗礼恐悦至極ですよ、ふふふ……」
「いかん、超目が死んでおる……」
施設内をミラちゃんに先導して貰いながら、てこてこと歩く私。
あのあと気不味くなった空気の中、夏油君は縛られた二人を連れてそそくさとどこかへ行ってしまった。……なにか説明することがあるような雰囲気だったが、いたたまれなくなったので後回しにされたのかもしれない。
なので、今現在はこれから私が寝泊まりすることになる部屋へと案内されている途中、というわけである。
こちらは
一番上位の存在であるリーダーを頂点として、その下に幹部やその候補生達が連なり、更にその下には『覚醒度』の低い面々が並ぶ……という形の、ピラミッド型の権力構造をしているこの組織。
住居の自由も、その権力に沿う形で増していくとのことで、一応下っぱにあたる私もまた、他の『
「わしが同じ部屋じゃったら、ある程度融通も利いたのじゃが……」
「ミラさんは幹部候補生でしたか。随分とエリートでいらっしゃったのですね?」
「覚醒度が低いと、そもそも
「なるほど……」
ミラちゃんの解説に、なるほどと一つ頷きを返す私。
原作の彼等と比べても、おっかなさが一段階くらい上だったような気がしていたが、彼らが彼ららしさを出すために、特徴を強調していた結果……だったらしい。
演じる時にはちょっと大袈裟な方がウケがいい……みたいな感じ、ということだろう。中々に涙ぐましい努力である。
「オルガをやるのであれば、とりあえずは射たれておけ……という感じですね?」
「それはMADのお約束じゃしのぅ……」*7
思い付いた例を口にしてみたが、ミラちゃんからの反応はいまいち。……むぅ、良い例だと思ったのだけれど。
とまぁ、そんな感じに会話を続けながら、歩くことおよそ五分ほど。
性別による区分けは見た目に従う、但し問題を起こした場合は相応の対処を取る……ということで、リーダーの定めたというルールに従い、私に振り分けられた居住地。
……端的に言ってしまえば女子寮。
その一区画にたどり着いた私は、現在とある部屋の扉の前に立っていたのだった。
「つかぬことをお伺いするのですが」
「む、なんじゃ?」
「……中に入ったらいきなり木刀で殴られる、といったようなことがあったりは……?」
「どこの暴力系幼馴染みじゃ、どこの*8。……ここでの私闘は禁じられておる。元がそういうタイプの人物であれ、ここではそういうことは起こらぬよ」
「なるほど。それを聞いて安心しました。では──南無三!」*9
「それは安心してない時の掛け声ではないかのぅ!?」
実はルームメイトが居るらしいと聞いていた私は、内心ちょっとドキドキなのであった。
なにせ、こっちの人々は自分のことを転生者だと思っている人々である。……作中の描写に準ずる行動をしてくる人物、というものが溢れているわけで、こうして警戒心を抱いてしまうのは仕方のないこと。
ゆえに、予めミラちゃんに確認を取っておいたのだが…少なくとも、私のルームメイトが箒ちゃんだったりはしない様子である。……いやまぁ、別に私は一夏君ってわけでもないので、例え彼女がルームメイトでも木刀の洗礼を受けたりはしないだろうけど。見た目は同性だし余計に。*10
ともあれ、不安点は出来うる限り潰しておく、というのはこういう状況では大事なことである。
お墨付きを貰えた以上は躊躇っていても仕方ないので、清水の舞台から飛び降りるような心境で、思い切って戸を開ける私。……背後から飛んでくるミラちゃんのツッコミはスルー。
そうして、部屋の中に一歩足を踏み入れた私は。
「貴方が新しく入ってきた子ね。私はアスナ、結城 明日奈よ。宜しくね」
「……よ、宜しくおねがいします」