なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「えっと、整理すると。……マシュ達は、ココアちゃんが元のスレを見ることができる希少な人物だと知っていた、と?」
「はい。彼女がこの謎を解く鍵の一つなのだろうということは、ライネスさんから初日にお窺いしていました。……彼女以外にも見える人が居なければ、詳細な検証はできないだろうと言うことで、本人にもお伝えはして居ませんでしたが」
マシュに聞いた結果返ってきた答え。
……いや、恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしい。
ドヤ顔まではしてなかったけど、謎を解き明かす探偵ムーブしてたのは確かだからすっごい恥ずかしい。コナン君とか居なくてよかったとしか言えない。
なお、話題の中心であるココアちゃんは、今更ながらに自分が重要人物だったらしいことを知って、なんというかすごくビックリしていた。
「つまり、私がこの事件の犯人だったりするの?!」
「論理が飛躍しすぎだ、ココアに探偵役は求めていないから、今まで通り普通にしていたまえ」
「ええー!?私が中心なのに、蚊帳の外なのはひどいよー!」
「いや、俺もお前にそういう役割は求めんと思うぞ」
「……いや、よりによって君がそれを言うのかい?」*1
こちらが二人で話す間に、彼等は彼等で和気あいあいと会話を連ねている。……むぅ、私も楽しい話がしたい……。
とはいえ、とりあえず今までの会話のまとめをしとかないと、色々こんがらがりそうというのも確かな話。
仕方ないので、ちゃんとまとめようと気合いを入れ直す。
「えっと、まずは憑依者の能力値についてかな」
「今までは演者の知識や元のスレでの人気・及びキャラクターの再現力が、能力値に影響を及ぼすのだと考えられていました」
「そこに、『名無し』というフィルターが関わっている可能性が浮上してきた」
そもそもの話、なりきりというモノを言葉通りに受け取る場合、質問を受けて答えを返すというのは、
作品内でラジオ番組の質問コーナーを受け持っている、とかでもなければ、質問を受けて答えを返すという行為自体が
だが、現実には
というか、ゆかりんみたいな
どういう基準でその辺りの能力値の決定が行われているのか、そこに一つの解をもたらすものが、今回の『名無しも居るよ』説だということだ。
要するに『名無し』成分が、本来外れているハズの原作以外の部分を再現する際に、その核になっているのではないか?という考え方だ。
原作の再現力を『憑依者』が担うとすれば、
そして、それゆえに──、
「この『名無し』、ほぼ同一であって、本人そのものではないんじゃないかなって」
「本人……というと、演者とは違うものだと?」
マシュの言葉に小さく頷きを返す。
そもそも、この『名無し』というフィルターの存在を思い付いたのは、シャナちゃんの言動が発端だ。
ゆかりんのことを、あちらの命名法則に従ったかのような名前で呼んでいた彼女。
知識の更新という考え方の上では、本来起こり得ない現象。
それを解消、ないし説明付けるためのものが『名無し』というフィルターだ。
だけど同時に、これを全ての人に当てはめるとすると、とある問題が浮上する。
「
「あ、はい。スレがないという異常を眼にするまで、ジャックさんもココアさんも、疑問を抱いている様子はありませんでした」
「疑問を抱かなかったということは、少なくともあの二人は演者と『名無し』にズレは無いか、もしくは少ないってことになる」
「……なるほど。演者と『名無し』が同一であるならば、気付くという過程が発生すること自体がおかしい、ということですね」
……マシュの頭の回転が良すぎて怖い。
演者と『名無し』が同一であるならば、知識の範囲も同じはず。
だがそれが正しいとすると、シャナちゃんの動きがおかしいことになる。
それが、気付くという過程が発生すること自体がおかしい、という言葉の真意だ。
なので、演者と『名無し』の間でも、知識の範囲に差があると考えた方がいい、というわけである。
「で、ふと思ったんだけど。……レベル4以上の人の精神の不和って、『名無し』の不調って言う方が正しいんじゃないかなって」
「……それは、何故そのように思われたのですか?」
「『名無し』の役割って、ある意味制御システムみたいなものでしょう?演者と憑依者間の調停役というか。で、その二者はそもそも別の存在で、混じり合うなんてことあるはずがない、根本的にはなりきりなんだから。だから、その調整を担う部分が誤認している……と考える方がしっくりこない?」
まぁ、そもそもそんなに小難しいこと言わなくても、一発で『名無し』が制御用だってことがわかる理由があるんだけど。
なんてことを呟けば、マシュがそれは一体?と聞いてくるので、そのまま彼女を指差すことで答えとする。
「え、私……ですか?」
「あのハリセン、不和の原因を『場面転換』で吹っ飛ばしたってことだったけど。……不和の原因が本当に両者の食い違いだけで起きてたなら、下手するとどっちの人格も吹っ飛ばして、最悪廃人化してた可能性もあるのよ」
「ひっ!?」
おっと、正確なところを話したらマシュを怖がらせてしまった。別にシオニーちゃんしたかった*2訳じゃないんで許してね?
「基本的にあれ、特に指定せずに使うと
「せんぱい!?せんぱい!!さらっと恐ろしい事を言い出すのは止めて下さい!?」
「大丈夫大丈夫。もし失敗してたら責任取って私も首斬ってたから」
「せんぱいそれ何も大丈夫じゃないです!?」
あの煙も『名無し』がオーバーヒートして煙出してたとかじゃないかなー、なんて笑う私なのであった。……え、空笑い?なんのことやら。
「お話は終わった?」
「なんとなくは。見えてきたような気はするんだけど、まだ足りてない感じかな」
マシュとの会議(途中でライネスも加わってきた)も終わり、そろそろラットハウスも閉店の時間。
店内にそもそも私達以外の客は居ないので、食器とかをしまえば終わり……ということで、二人が片付け終わるのを外で待っていると、ココアちゃんが缶ジュースを持ってこちらに近付いてくるのが見えた。
はい、と渡されたココアをありがたく受け取って、そのまま蓋を開けて一口。
薄暗い通りを視線から外して、上の方を見る。
……ここもまぁ、不可思議な場所で。
住人の要望に応える為なのか、建物の立地毎に天井の設定が違うらしい。
ラットハウスの場合、近隣の建物も合わせて、地下だと言うのに夜空が見えている。
ちゃんと星が見えているし、時間が立てば朝日も上る。……
そんな空を眺めていたら、隣のココアちゃんがふふっ、と笑みを溢した。
「んー?どしたのココアちゃん、楽しそうだけど」
「そうだねー、実際すっごく楽しいよ。毎日が遊園地みたい♪」
こちらに満面の笑みを向けてくる彼女。
……なのに何故だろう?彼女の笑みが、どこか寂しげに見えるのは。
「ずっとこんな日が続けばいいのになぁ。……なーんて、そんな事言ってたらマシュちゃんに怒られちゃうね?」
「そんな二次創作のマシュみたいな事は言わないと思うけどなぁ」*6
「あははっ。そうかな?……でも、キーアちゃんも、事件の解決を目指してるんでしょ?」
こちらを覗き込んでくるココアちゃんに苦笑を返し、缶の中身をもう一口。
確かに、私達は何がどうなってこの異変が起きたのか、それを調べようとしている。
「でもまぁ、調べたからって解決するかどうかは、まだわからないけどね」
「え、そうなんだ?」
「まぁ、元の体に戻れないのは不都合だけど。……今の生活にもう馴れちゃってる人も居るだろうし、原因探して即解決って訳にはいかないよね」
「そ、そっかー。なーんだ、心配して損しちゃった……。……はっ!?な、なし!今のなし!!」
自分が何を言ったのかに気付いて、慌てて弁明をするココアちゃん。……『マシュ』と『永遠』について口に出した時点で、こっちとしては気付いてたとは言い出せない空気。
なので、「ワタシハナニモキイテナイヨー」と返しておく。……いや、そこであからさまに安心するのはどうかと思うよココアちゃん。
こちらに手を振りながら、去っていくココアちゃんとライネスを見送って。
私とマシュ、それからジャックさんは、自分達が泊まっている部屋に戻るため、道を歩き始める。
「……おい、キーア」
「なに?ジャックさん?」
そんな中、ジャックさんが視線を前に向けたまま、こちらに声を掛けてきた。……こっちも視線を前に向けたまま、返事を投げる。
「……気付いたか?あの娘──心愛の纏う空気を」
「戻りたくない、って感じかな。多分だけど」
投げ掛けられた質問に、感じたままの答えを返す。
……夢想の絵画なんてモノを見せてきた夢魔が、初めてその姿を夢に見せたのは何時だったか。
あれが
「……ゆかりん、
一筋縄ではいかないのだろう、この異変の全貌に思いを馳せながら。
私達は、夜の街を静かに歩いていくのだった。
二章はこれにて終わりにございます。
また幕間を挟んで三章に続きます。