なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「じゃあ、改めてまして。私は結城 明日奈、貴方が『tri-qualia』で出会ったアスナとは、同一人物で間違いないわ」
「あ、はい、これはこれはご丁寧に……こちらこそ、宜しくおねがいします。……それと一つ質問なんですけど、
「それは、私が何時から
改めてベッドに腰を掛け直した私(と、その横に立ってるミラちゃん)は、向かいに座るアスナさんと情報交換を行っていた。
もろっそ*1バレとるやん的なところもあり、口調のごまかしもやめてしまっているわけなのだが、この状況で余所様に見付かってしまうと大変ややこしいことになるため、現在この部屋には
……で、アスナさんはなんで、こっちにそんなことをさせるのを許しているのかというと。
「……よもや、何時か
「あはは。……まぁ、言い出す機会もなかったから、何時かタイミングが合えば……みたいな、気の長い話だったんだけどね?」
彼女は、
電脳空間での感覚というものは、例え疑似フルダイブ状態とはいえども、現実空間で感じるそれとは明確に違うもの。
例え現実で鋭敏な感覚を持っていたとしても、それがそのまま電脳空間での察知スキルになるかと言われれば、それは違うわけで。
……要するに、ゲームシステム的に最初から用意されているわけではない、電脳空間由来の察知技能を──それを持たない人間が認識することは難しい、というわけで。
雑に言ってしまうと、以前『tri-qualia』内で食べる時のモーションが変わった云々の話をしていた時に、彼女は密かにこちらへと解析系のスキルを使用しており、私が『
で、その仕様外スキルの補助をこなしていたのが……。
「……その、ナーヴギアだったと?」
「まぁ、そうなるのかな?このナーヴギアは、私という存在に付随して現れたものだから、他のデジタル系列の存在には、結構強気に出られるみたい」
彼女が膝の上に乗せている、灰色のヘルメット……もといナーヴギアは、彼女・結城 明日奈がアスナとして成立するための、最低条件として同時に顕現したものなのだという。
この世界において唯一の
結果、現実にあるVRデバイスに『逆憑依』が親和する……という形式であの世界に触れていた私たちよりも、遥かに電脳世界に適応した形で能力を行使できるのだとか。……スーパーアカウントかなにか?*2
……小難しい話を抜きにして言うと、電脳空間において彼女に勝つのは(あらゆる面で)難しい、ということになるようだ。
例え電子の妖精BBちゃんであれ、現在の彼女と真っ向勝負をするのは分が悪いかも……という話には、ちょっと眉唾な空気を抑えきれなかったけども……。
「まぁ、とにかく。私が向こうで鑑定とか解析を使っても、大体の人に気付かれない……って言うのは間違いないかな」
「はぁ、なるほど。……ってことは、キリトちゃんになる前の彼と一緒に居たのも……?」
「ううん、それは逆。普通に遊んでいる仲間の一人に、やけにキリト君ぶってる人がいるなーって思っていたら、いつの間にか解析結果が変わってた……って感じかな。……そういう例も知ってたから、結構前から自分が『転生者』ではないってことには気付いてたんだ」
「はー、なるほど」
ともあれ、この場の彼女がこちらを拘束したり、はたまた上司に報告をしようという素振りがないのは、そもそもに彼女がこの場所の理念に対して、既に疑いを持っていたがため。
自分達は『転生者』である、という前提を既に捨て去っているのだから、とっくに『新秩序互助会』に対する義理立てを失っていたというわけなのである。
まぁ、居住地に関しての問題があるため、積極的な敵対を選ぶつもりもないらしいのだけれど。
さて、話を戻して。
何故、
似たような出身となるキリトちゃんとハセヲ君は、両名とも現実に存在するVR端末を利用して、『tri-qualia』を遊んでいる。
私達が『逆憑依』であること、及び彼らの原作が電脳空間を舞台にしたものであること。その二点が相乗効果を生み出し、彼らはトッププレイヤーとしてのスペックを発揮できるようになっているわけだが。
単純な出力面では、その二人よりも遥かに強いらしい彼女の、その理由となるナーヴギア。これは、こちらで作られたモノではなく、
──何故、彼女なのか。何故、彼女だけなのか。
その理由が、彼女が
「……おおぅ、原作に『テイルズ オブ ザ レイズ』がある……」*3
「キリト君は見た目がGGO基準、かつ女の子になってるからちょっと事情が違って。ハセヲ君の方も原作が『G.U.』だけ……
「はへー……」
見せて貰った
そこにある『原作』のタブには、堂々とした様子で『ソードアート・オンライン』と併記されている『テイルズ オブ ザ レイズ』の文字があった。
……要するに彼女の現在の状態は、『結城 明日奈』の『
結果、このナーヴギアは『閃光のアスナ』としての力を発揮するための、一種の変身アイテムとしての用途も持ち合わせることになったようだ。……脳チン物騒アイテム*5からの、まさかのランクアップである。
まぁ、これの一番の利点というか恐ろしい点は、『閃光のアスナ』としてのスペックを変身という形で、現実に持ち出せてしまうということにあるのだろうが。
「ほら、うちのリーダーって『ゲーム世界から異世界転生』した人でしょ?……私みたいなのって、彼の論説の補強になっちゃうんだよね」
「あー……」
苦笑するアスナさんに、こちらも思わず苦笑を返す。
伝え聞くここのリーダー、もといギルドオーナーは、自身が遊んでいたゲームの終末を眺め、そのまま異世界に送り出された人物である。
現状のアスナさんの状態は、ある意味その彼の境遇に近いものがある。
ゆえに、彼の論説と思わしき『我々は転生者である』という言葉の、有用な生き証人となっている彼女は。
役職としてはヒラになるのにも関わらず、わりと自由な環境を与えられているのだった。
私がここに来るまで、彼女が二人部屋を一人で使っていたのも、その権利の延長線上にあったらしい。
「他の人が血気盛んなのも相まって、私に調停者の役割も与えたかったみたいだけど……それは流石に遠慮させて貰っちゃった」
「なんかさっきから、随分と世知辛い話を聞かされている気がする……」
「組織運営なんてそんなもんじゃろ」
いつの間にやらどこからか持ってきたらしい、アップル・オ・レをストローから啜っているミラちゃんと、その横で大層疲れたような気分になっている私。
単なる『結城 明日奈』なら、もう少し責任感が強いのだろうけど。
なまじ『本人そのものではない』と明言されている『ザレイズ』の要素が混じっているからか、わりと緩い部分のある彼女の様子に、これから先の波乱の予感を感じざるを得ない私なのであった。
「よし、じゃあとりあえずお昼にしよっか?」
「ん?……あ、ほんとだ。もうお昼時だわ」
あれから他にも色々なことを聞き・話した私達。
そうしている間に、時刻は流れてお昼時となっていたため、アスナさんから食堂に向かおう、という提案が飛んできたのだった。
所属する人員全てが寮生活をしている、と言い換えてもよいような運営形式の『新秩序互助会』では、食事の提供される時間が明確に決まっているらしい。
我の強い人物の多そうなこの場所で、そんな規律がキチンと守られているのか甚だ疑問だったのだが……。
「嘘でしょ、サウザーがトレイ持って並んでる……」*6
「ああ、サウザーさんは目立つよね。……最初の内は、色々と揉めたらしいけど。我が強い人が多いからこそ、ルールはちゃんと守るようにってリーダーが徹底させたらしいよ?」
「うーむ、中々の経営手腕……」
案内された食堂で目にしたのは、皆が規則正しくトレイを持って、配膳を受けるために並んでいる姿。
あまりに規則正しくならず者達が並んでいるものだから、一瞬刑務所かなにかかと錯覚したが……実際は揉め事こそ起こさないものの、皆好き勝手に周りと喋ったりしていたため、どっちかというと男子の学生寮のような雰囲気だな……と考え直すこととなったのだった。
で、話に上がったサウザーさんはと言うと、楽しそうに高笑いしながら、大人しくトレイを持って並んでいる。
そんな彼が、話し掛けている相手はと言うと……。
「諸星の!今日も貴様は元気そうだな!」
「そういうサウザーちゃんもー、今日もハピハピそうだにぃ☆」
「ふははは!貴様のそれには負けるがな!」
「……も、諸星のきらり……!?」
「言うと思うたわ」*7
「まぁ、そうなるよね……」
彼よりも身長が高くて、それでいて可愛らしいという不思議なアイドル、諸星きらりだったのだ!
「……ん?あー!キリアちゃんだー!初めましてだにぃ☆」
「ふぇっ!?えあっちょ、ふふふふりまわさないでくださいーっ!?」
「あ、ごめんなさいなんだにぃ。杏ちゃんを思い出して、ついやっちゃった☆」
「謝る前に下ろしてやれ、きらり。目を回しているぞ、そいつ」
「え?……わぁっ!?だだだ大丈夫キリアちゃん!?」
「大丈夫じゃ、ないです……がくり」
なお、突然目線の合った彼女に捕まったかと思えば、まるで彼女の相方である、飴好き少女代わりと言わんばかりに振り回されたため、私は暫くグロッキーになるのであったとさ。