なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
ええと、シャドウフォウ君?*1
顔とかが確認し辛い感じの、真っ黒なフォウ君とでも呼ぶべき小さな獣が、私達の部屋の前にちょこんと座っている。
ちらり、とアスナさんの方を伺ってみるものの、彼女の反応は芳しくない。
なんでフォウ君がここに?……というような、私とそう変わりない困惑の感情が見え隠れしていたため、彼女の関係者であるという線はここで消える。
それと同時に、私の関係者だというのも違うだろう、と断言してしまえる。
ここにいるのがマシュであるとか、はたまた私の姿がキーアである時ならば、もしかしてマーリン関連でやって来たのかな?……という予想も付けられるのだが、生憎と現在の私の姿はキリアの方である。
隣にいる人物も違う上に、私が居る場所も郷の方ではないのだから、フォウ君がここに訪ねてくる理由がないのだ。
ゆえに、今現在私達の部屋の前に佇むフォウ君を、近くの柱からこそこそ窺う私とアスナさん……という、不審者以外の何物でもない状況が繰り広げられているのだった。
「……なんで私達、こんなところに隠れてるんだっけ?」
「なんでって、あのシャドウフォウ君がなんなのかわからないから、とりあえず観察に回っているのではないですか。……聞いたことありません?フォウ君が他の
「えっと……プライミッツ・マーダーだっけ?」
そんな中、なんで私達は物影に隠れて、謎の小動物の一挙手一投足を窺うようなことになっているのだろう?……という疑問が、アスナさんから発せられる。
ふむ、彼女は型月作品には詳しくない方、ということなのだろうか?
まぁ、他の型月作品を知らずとも、作中で『ビースト
ともあれ、設定語りはオタクの
できる限り簡略化しながら、彼女に対してフォウ君の危険性と言うものを伝えていくことにする。
フォウ君の呼び方として、一番最初に列挙されるのは『キャスパリーグ』というものだろう。
アーサー王伝説に登場する怪猫である彼は、同じくアーサー王伝説に登場する伝説の雌豚・
このヘンウェン、蜜蜂と穀物をもたらす豊穣神の性質を持つが、同時にその子供がブリテンに不幸を招くとされ、国を追われる羽目になっていたりするし、産まれた子猫も海に投げ捨てられたあと、奇跡的に生還して戻ってきていたりする。*3
……同じくブリテンを滅ぼす宿命を持っていたモードレッドといい、島流しが結果的に悪手となっているのは、なにかの符号なのだろうか?*4
ともあれ、かの怪猫が生き延び、ケイ卿と戦う前に百八十人の兵士達を食らっただとか、エクスカリバーでもろくにダメージが与えられなかっただとか、鏡の盾に写った自分に戸惑っている内に倒されただとか、そういう話がアーサー王伝説の中で語られているのは事実。*5
エクスカリバーが効かない、とかいう時点で割とその危険性が感じられるが、彼の恐ろしさはそれだけに留まらない。
次なる彼の御名、ビーストⅣ。
人類愛より産まれし人類悪、その頂であるビーストクラスの、四番目に座る権利を持つ獣。
後にその席に座ろうとしたとある獣は、武力にて打ち倒そうとすれば必ず互いを滅ぼすという、相殺の性質を併せ持ったモノであったが、恐らくはそれがフォウ君であっても同じこと。
彼は
それゆえに、争うという手段では決して勝てない存在なのだろう、というのが彼の性質を知る者達の共通認識である。*6
そして、その論を補強する、彼の最後の名前。
それが、かつて旧作の方の『月姫』において死徒二十七祖・第一位の座に在りしガイアの怪物、プライミッツ・マーダーである。
別名である『霊長の殺人者』の名の通り、相手が霊長──すなわち人であるならば、問答無用で殺戮する『権利』を持っているとされ、その速度は型月世界最強に数えられる『ORT』*7にすら匹敵すると言われている。
……結構専門用語が多かったが、ともかくフォウ君が危険物だというのは間違いなく。
fgoの二次創作を作る時、開き直ってオリ主に好き勝手させる作者が多いのは、ある意味
「……とりあえず、危ないんだなーってことは伝わったかな?」
「まぁ、『月姫』の方の彼は設定で語られただけ、実際の描写は存在しないので、どれくらい危険なのかという危険度予測には、想像が多分に含まれているというのも確かです。……それでも、とりあえずティアマト神などと比べられる獣の一角、という時点で警戒に足る情報ではありますよね?」*9
「……それはまぁ、うん」
私の言葉に、曖昧な頷きを返してくるアスナさん。
……まぁ、イメージしろと言われてイメージできるのなら、世の中もっと単純だというのもわからないでもなく。*10
ともかく、警戒を怠ることだけは止めよう、とだけ言い置いて、彼女に向けていた視線を手前に戻し。
「ふぉう、ふぉふぉうふぉう」*11
「っ!?」
こちらの目前に浮かんでいた黒フォウ君に、思わず泡を食ったように慌てる羽目になる私なのだった。
「ふぉうー、ふぉふぉう、ふぉうふぉうふぉう」*12
「……なんだか、凄く胡乱なことを言われているような気がするのですが」
突然目の前に飛んできた黒フォウ君に、完全に憔悴させられた私はというと。
何故かそこから肩に飛び乗ってきて、耳元で何事かをふぉうふぉう喋っている彼から感じられる、謎の悪寒にちょっと身を震わせつつ。
アスナさんが外行きの服に着替えるのを、ひたすら待ち続けていたのだった。
なにがなんだかよくわからないが、この黒フォウ君は私以外に自身を触らせるつもりがないらしく。
肩乗りフォウ君に真っ先に食い付き、その手の甲をぺしんと叩かれて涙目になったアスナさんを筆頭に、部屋の外で彼女を待ち続けているために、その付近を通った人々達が立ち止まって、彼に伸ばしてくる手の全てを、引っ掻いたり噛んだり蹴ったりしているのだった。
……周囲から羨望の眼差しが飛んでくるが、私としては彼を単なる小動物としてモフモフするような気分にはなれず、どうにも居心地の悪い思いをしているのである。
というかこのフォウ君、なんで黒いんだろう?
シャドウサーヴァントみたいな模倣品というか影というか、そういう本人以外のなにかだと思っていたのだけれど、よくよく確かめてみると、単に毛そのものが真っ黒だった……というだけだったし。……二号カラー?
「ふぉうっ」
「あいたっ!?……ええと、二号扱いしてごめんなさい……?」
「ふぉう~」
なんてことを考えていたら、黒フォウ君から飛んでくる肉球ぱんち。……痛くはないが、明らかに抗議されていることはわかったため、素直に謝罪を投げると、彼は満足したように小さく鳴くのだった。
……端から見れば小動物とロリの戯れ、なのだろうが。
こちらとしてはちょっと命の危機を感じないでもなく、とりあえず早くアスナさん出てこないかなー、などと思っている真っ最中。
じみーに精神を削られるため、正直生きた心地がしない感じである。
「ふぉふぉうっ」*13
「うわっぷ、連続肉球ぱんちは止めてくださいぃ~」
「はい、お待たせキリアちゃん……って、なにしてるの?」
「丁度いいところに。すみませんちょっとこのフォウ君引き剥がして貰えますか」
「ええ……?」
先ほどよりも激しくなった、肉球百裂拳*14にほっぺをむにむにされている私と、中から出て来てこちらを見て、そのままぽかんとしているアスナさん。
周囲から飛んでくる好奇の視線を受け流しつつ、彼女に黒フォウ君を一時預かりして貰ってから暫し。
「……さっきは抱っこもさせてくれなかったのに、なんで今はいいの?」
「ふぉふぉうっ」
「うーん、わかんないかな。……この子、多分知能は高めなんだよね?」
「姿通りの存在だとすれば、知識レベルが上がるごとに危険度が増していきますね」
「ふぅん?」
さっきまでの熱烈拒絶はなんだったのか、現在は大人しくアスナさんの肩の上に座っている黒フォウ君。
……いざ居なくなると、ちょっと寂しい……なんてことはなく。いつ突然暴れだすかわからないため、常に彼らの行動に注目し続ける羽目になっている私である。
これなら、自分の肩に乗せたままにしておけばよかった……という悔いは後に立たず。
とまれ、時間を無駄にすることはできないとそのまま案内の旅に繰り出した私達。
道行く人々はアスナさんの肩に(黒いけど)フォウ君が居ることが珍しいのか、ちょくちょく立ち止まってはこちらに視線を送ってくる者が居るのだった。
で、何故かその度に黒フォウ君はドヤ顔。
……目立ちたがりやなのか、はたまたなにか変なことでも考えているのか。
生憎と動物と会話をするためのスキルを持ってない、現状のキリアでは判別が付かないが。
……なんとなーく変なことを言っているのだろうなー、という感覚は未だに続いているため、そっちの意味での監視作業も加わり、始まったばかりなのに既に帰りたい気分でいっぱいの私である。
「あ、あはは……とりあえず、色々と案内したいところもあるし、サクサク行こっか?」
「お任せ致します。……いえ、こう述べておきましょう。──よしなに」*15
「ふぉう、ふぉふぉう」*16
「あ、今のは私にもわかったよ。『ガンダムにお髭はありますか?ありません!』だよね?」
……ネタの反応速度はそこそこだし、まだ頑張ろうかな……などという現金な感想を抱いたりもしたけど私は元気です。