なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「爽やかだけならまだしも、『転生』ってところをすっごく重く捉えてる辺り、これって結構根深い話だよねぇ……」
「……そうだね。私は比較的早い内に自分が『転生者』じゃないって気付いたけど、ここに長く居る人は、それだけ
「……迂闊にその辺りの話をしない方が無難、かなぁ……?」
周囲の目から隠れるようにしながら、次なる施設へ向けて足を進めている私達。
周りの目がないので、私もキリアとしての口調を崩しているが……そうして得られた解放感は、口にしている話題によって、ほぼ相殺されてしまっていたのだった。
先ほどのエミヤさんが語った、自身への不満と、それをバネにして前へ進もうとするポジティブさ。
……どちらも原作の彼からすると、ちょっとずれた方向性の思考であるのだが、本人はそれを
普通なら、そういう
そこに『自分は転生者である』という認識が挟まることにより、自身の存在に隠された
今まで出会ってきた人達が、郷の人々──自身の特異性について、真っ先に気付いていた人達だったからこそ、ちょっと思い違いをしていたけれど。
先の事件の時のミラちゃんのように、『逆憑依』という言葉を
今でこそ
ゆえに、
「……その辺りのことを、私が彼らに説明したとしても。一笑に付されるか、最悪の場合は自身の認識との齟齬ゆえに、暴走する可能性がある……ということですよね、これ?」
「んー、そうだね。そういうことになっちゃう……かも?……ところで、なんで口調を戻したの……って、ああ。なるほどね」
そんなバカな、と笑われるのならまだマシで、最悪のパターンだとそんなことあるわけないだろ、とぶちギレられる可能性があるわけである。……迂闊に話をふれないなぁ、これ。*2
そうして突然口調を戻した私に、アスナさんが一瞬怪訝そうな表情を浮かべるが……、話に夢中になっていた結果、いつの間にか人の多い場所に差し掛かっていたことに遅蒔きながら気が付いた彼女は、得心したように一つ頷くのだった。
ともあれ、状況としてはあまり宜しくない状態である。
まだ理性的なエミヤさんですら、あんな感じなのだ。……ここに多数在籍しているとされる、いわゆる『なろう』な感じの人々に同じ話をした時、返ってくるのは一体どんな反応なのだろうか?
ミラちゃんと同じように、怪訝そうな顔をする?
それとも、そんな訳のわからないことを言う奴は敵だ、と攻撃される?
そんな不安を抱きながら、一歩踏み出した私は。
「ふみゅっ!?」
「あっ」
前方不注意により、見知らぬ誰かに激突。勢い余って尻餅をつく羽目になったのだった。
痛みから思わず鼻頭を擦る私の前に、差し出されるのはぶつかった相手の右手。どうやら、こちらが立ち上がるのを手助けしてくれるらしい。
ぶつかってしまったのはこちらだと言うのに、優しい人だな……。
なんて思いをお礼と共に告げながらその手を取り、立ち上がらせて貰った私は。そこで漸く、天井の明かりによって逆光になり、認識できなかった相手の顔を視界に収め。
「……おう。大丈夫か?」
「アッアッアッ……ダダダダイジョブデスヨ?」
「……いや、全然大丈夫そうには見えねぇんだが?」
その特徴的な
「はぁ、ここの案内……ねぇ」
「ソウナノデスヨ。ワタシハシンジンナノデ、ハヤクココノコトヲオボエタイノデス」
「……いや、そのだな?」
「ハイ,ナンデショウカナグモサン?」
「頼むから普通に話してくれ……」
あのあと、こちらの手を引っ張ってくれた相手の向かう先と、私達の向かう先が同じだったため、道中を共にすることになったわけなのだけれど。
その相手が相手だっただけに、私はこんな感じにカタコト状態に陥っていたのだった。
……それもそのはず、私がぶつかった相手と言うのは、ここに来て一番最初に他者と争っているのを見た、二人の男性のうちの片割れ……そう、ある意味話題に上っていた人物の一人、南雲ハジメだったのだから。
──南雲ハジメ。
彼は『ありふれた職業で世界最強』の主人公である少年で、元々は単なるオタク趣味の少年である。
それがなんの因果か、とある事件を切っ掛けに今の彼の──言い方は悪いが中二病っぽい姿へと変貌を遂げることとなった。
話の造りに微量ながら追放系の要素が含まれる*3ものの、基本的には普通の異世界転生系の作品であるのだが……。
主人公であるハジメ君は、今の姿になる過程で経験した出来事により、とにかく性格が苛烈になってしまっている。
その姿は、最終的に本当に人類種の天敵*4にまで発展しそうな危うさを持つが……まぁ、その辺りは今はあまり関係あるまい。
ここで問題なのは、彼が
別に私がボロ雑巾になるのは
なので、こうして彼の癪に触らないように、極力平身低頭の姿勢を崩していない私なのだけれど……彼から返ってくるのは、若干の鬱陶しそうな空気と、それから何故か申し訳なさそうな空気なのであった。
……ふむ?返ってくるのなら、鬱陶しそうという空気だけだと思っていたのだけれど。
「では、お言葉に甘えさせて頂きます。そちらは南雲ハジメさん、でお間違いないでしょうか?」
「……俺のこと知ってんのか。まぁ、こっちもそっちについては知ってるけどよ」
「……いや、なんでそんなに知名度高いんですか私……」
彼の言葉に甘え、片言状態を解除する私。
そのまま自己紹介に移るも、互いに互いを知っていたため省略。……確かに全国ネットで放送してるって聞いてたけど、それにしたって『マジカル聖裁キリアちゃん』の知名度おかしくない?
そんな疑問に内心首を捻りつつ、とりあえず差し出された右手を握って握手を交わす私達。
「…………」
「……あの、南雲さん?」
「っ、いや、なんでもねぇ。……それと、別に畏まらなくてもいいぞ」
「……では、ハジメさんと呼んでも?」
「ああ、構わねぇ」
彼は私と握手した右手を無言で眺め、何事かを考えていた。……感じ入る、とでも言うのだろうか。高々小娘一人と握手したにしては、どうにも変な反応だった。
……んー?
なんだろうか、こちらのイメージと随分反応が違うような……?
違和感だけが積み重なるけれど、なにが理由でそうなっているのかがわからないので、あくまでも積み重なっていくだけ。
解消できないその違和感に、少なからず不快感を覚えつつ。それでも、歩を進める私達。
そうして、お互いの目的地にたどり着いた私達は、その扉の上にあるプレートを眺めていた。
「トレーニングルーム、ですか」
「外では荒事になることもあるしね。あと、単純に体を動かすのが好きって人も多いから、そういう人達を中心によく利用してるみたい」
私は汗を掻くのはそんなに好きじゃないから、あんまり使わないけどね。
……というアスナさんの言葉を聞きながら、廊下の窓から中を覗き見る私。
内部は普通のフィットネスジムと言った感じで、ウォーキングマシンとかダンベル、それから簡易的なリングなどが備え付けられているのが見え、それを使う人々も見覚えのあるキャラクター達ばかりで、ちょっと目眩がしてきそうになる。
……というかサウザーさん、何故か知らないけどきらりさんとスパーリングしてない?しかもきらりさんが
「きらりさんが、捕まえて……きらりさんが、画面端……?!」*6
「相変わらず綺麗なループコン*7だな。つーか元々戦闘系の作品でもないのに、よくやるわ」
窓に張り付いて中を覗き見る私と、いつの間にか横に来て、中の様子を実況し始めるハジメ君。……ノリがいいのかなんなのか。
ともあれ、近付いてきたアスナさんも加え、三人で二人の対戦を眺める。
トレーニングルームの中の人達も、いつの間にやらリングの方に視線を向けており、ある種の試合観戦の様相を呈しはじめていた。
「きらりんビーム、相手は死ぬ……」
「途中で切り返したのは流石だが、愛されボディ*8には敵わなかったな」
「当たり判定とかどうなってるんだろうね、あれ」
最終的な結果は、きらりさんが
……いや死んでないけども。ともかく、諸星のきらりが勝利を収めたのは確かな話。模擬戦とはいえ、高度な戦いであった。
その見ごたえの良さは他の観客も認めるところであり、外にいる私達にもわかるくらいの歓声が、中で響いていることが窺えた。
……さて、ここまでの一連の流れを見て、私からの一言。
「ウソでしょ……」*10
「いや、ツッコむタイミング遅ぇよ」
思わずそう呟いた私に、横のハジメ君が呆れたような声をあげるのだった。