なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「意味がわからなさすぎて困惑しっぱなしですよ私」
「ん~?あ、キリアちゃんだ!こんちゃ~☆」
「む?……おお、先ほどぶりだな、娘よ」
「ああはい、お疲れ様ですお二方」
トレーニングルームの中に足を踏み入れた私達一行。
周囲から微妙に突き刺さってくる視線をスルーしつつ、観客達の
きらりちゃんの方はともかく、サウザーさんの方はあれだけボコボコにされていた割には元気そうである。
「ああ、きらりの使う拳法は、他者を痛め付けるモノではないからな。形式上殴られ続けてはいたが、内部的には治療行為のようなもの、というわけよ」
「ちりょう……?」
「そうだにぃ☆きらりんの発する、ハピハピ☆ぱわぁ~を相手にちゅにゅーすることで、みんなを元気にしちゃうんだぞ☆」
「言葉だけ聞いてると危ないモノにしか聞こえないんですがそれは」
真顔で放った私の言葉に、「えー、危なくないよー」ときらりちゃんは
……いやまぁ、よく言われる「捨ててしまった」*2にしても、自身の心情と深く結び付いているものを、メンタルが不安定な時に捨ててしまったという話なので、視聴者が思う以上に精神的ダメージが大きかったんだというのは、わからない話でもないのだけれども。
ハピハピとかスマイルとか、そういう正の方向の感情は己の裡から発生させないと、若干?胡散臭くなるのは仕方ないのである。……ある種の宗教に見える、というか?*3
「……あ、あー、宗教。よくねぇよな、宗教。うんうん、わかるわかる」
「……そう言えば、ハジメさんはエヒトという一神教の神を討ち滅ぼしたんでしたっけ」
「そ、そうだけど……なんだよ?」
「いえ、特にはなにも。……神様が神様らしく振る舞うと大体邪神になる、というのはどこぞの
「はぁ……?」
なお、宗教みたいと口にした時点で、ハジメ君が話に混じって来たりもしたわけなのだが。……内容は彼のところのラスボスポジションの神様についてだったけど……どことなく目が泳いでいる気がするのは、一体なんなのだろうか?
他の三人にチラリと視線を向けてみるも、返ってくるのはわからん、という意味の左右への首振りのみ。
……まぁ、特に追及するつもりもないので、どこぞの鬼!悪魔!アルセウス!*5……な地方の名前を出して、有耶無耶にしておく私である。残念ながら通じなかったけどね!……テレビは見れるのに、なんでゲームの方は通じないんです……?
ともあれ、ジャージでスパーリングを行っていた二人が、着替えるために更衣室へ向かったのを見送りつつ、改めて周囲を見渡してみる私。
トレーニングルームを利用しているのは、主に男性。
少ないながら女性も居るには居るが、私やアスナさんみたいな、線の細いタイプの女性の姿は更に少ないモノとなっている。
「……えと、なにか私の顔に付いているかしら?」
「いえなにも。──不肖キリア、思わず感服致しました次第にございます」
「は、はぁ、感服……?」
例えば、近くのルームランナーで軽快に走りながら汗を掻いているのは、格闘ゲームプレイヤーなら一度は見たことがあるだろう、バキバキおみ足のチャイナポリスさんだったりしたし。*6
「チュンリーよ、この間は色々とすまなかったな」
「あら、さくらちゃん。いいのいいの、女の子なんだし、たまには可愛いモノだって着てみたい、っていう気持ちはよーくわかるから」
「……かたじけない。ただその……あのようなスリットは我、どうかと思うぞ」
「いいじゃないいいじゃない。女の太ももなんて、見せ付けてなんぼなのよ!」
(……さくら違いだし……)
一時休憩として汗をタオルで拭っていた彼女に声を掛けたのが、さくらはさくらでも
……照れてる姿がちょっと可愛かった。
「……なんで私、こんなところでベンチプレスなんてやってるんだろ」
「行き場がない、みたいな顔してたでしょ?……そういう時は、体を動かしてればどうにかなるものよ」
「そういうもの……なのかな?」
チャイナポリスな彼女が気に掛けている少女が、死人に死の恐怖を叩き込む系女子*8のような気がして、思わずちょっと宇宙猫になったりもした。
……まぁそんな感じで、数少ない女子の面子ですら、割りと濃ゆい感じのモノを醸し出しているわけなのだけれど。
「サウザー、次は俺とやれ」
「む、庵か。……でもなー。貴様わりと痛くするからなー。……優しくしてくれるのなら、構わんぞ?」
「気色の悪い言い方をするな、ふざけているのか貴様っ」
「ふははははっ、戦いと言うのは始まる前から始まっている……と何度も俺が口にしているというのに、いつまで経っても学習せぬ貴様が悪いという奴だ」
「ちっ、減らず口を……その口、即刻閉じさせてやる」
「むぅ、相変わらず血の気の多い男よなぁ」
「ぬかせっ」
私達が居る位置とは反対側からリングに近付き、着替えを終えて休んでいたサウザーさんに声を掛けてくる、赤髪の男性。
……異世界転移したあと、こちらに戻ってきていそうな感じその男性*9に模擬戦を申し込まれ、渋々といった表情でそれを受けるサウザーさん。
彼らが再び更衣室へと向かったのを確認しつつ、戻ってきていたきらりさんを伴って少し離れた位置──窓際の方に移動し、そこにあった椅子に座る私達。
「おう、見ねぇ顔だが……新入りか?」
「あ、はい。キリアと申します。そちらはえーと……」
「ああ、俺はアリューゼってんだ。ここは結構長いから、聞きたいことがあればいつでも話しかけてくれていいぜ」*10
「……ハイ,キカイガアレバヨロシクオネガイシマス」
「……?この嬢ちゃん、どうしたんだ?」
「あはは……まぁその、アリューゼさんがいることにビックリしたんじゃないかな……」
「はぁ……?」
その近くの壁に背を預けて水を飲んでいたのは、特徴的なアーマーを付けていないので、一瞬わからなかった大剣使いの人。
なんか気さくすぎる気がしないでもないけど、傭兵やってないのならこんなものなのだろうか。
……まぁ、そんな感じで、色んな人達に巡りあった私はと言いますとですね?
「…………」
「え、えっと……その、大丈夫?」
「なに一つとして大丈夫な要素がないです……」
「あっ、はい」
リングの上で全力を出しきったかのように、真っ白に燃え尽きている私。*11……実際は、次から次に襲い来る情報にキャパオーバーを起こしただけなので、なに一つ充実感などないわけなのだけれど。
いやね、よく考えて頂きたい。
これから来る嵐を予感させたミラちゃんとの出会いに始まり、金田一君に変装していた夏油君に、睨みあうソルさんとハジメ君。
貧者の見識バリバリなカルナさんに、やベーの二人組と向こうでは見ることの無かった『とある』系のキャラである黒子ちゃん。
それからイチゴ味なサウザーさんと、ハピハピしているきらりちゃん。
んでもって黒いフォウ君に、それからさっきまでの面々。
……この中で特にツッコミが必要なのは、黒子ちゃん・眞姫那ちゃん・アリューゼさん達三人だろう。……やベーの二人は除外。
夏油君も怪しいと言えば怪しいけど、こっちの常識的に意味がわからないのは彼ら三人である。
向こうでは一切見たことがないため、『逆憑依』の対象になっていないのではないか?……なんて風にも思われていた『とある』シリーズ。
そこからの憑依者である黒子ちゃんの存在は、こっちの常識とかを大きく塗り替える可能性のある存在である。
……いやまぁ、当初の予想とか想像とか、大体穴ぼこになってしまっていてほぼ原型無いけども。
それよりもヤバいわよ!*12……なのが、後者の二人。
この二人、作中に生前の姿が描かれているとはいえ、その活躍の大部分は『死んだあと』にあるタイプのキャラなのである。
……いや、どういうことになってるのこの二人?
転移転生系のキャラ達も大概意味不明だけど、この二人に関しては輪を掛けて意味不明である。
琥珀さんが居ればわかるのかもしれないけれど、流石にここに彼女を突っ込むのは気が引ける。……主に
別の意味で信頼されていますねぇ、なんて風に笑う琥珀さんが脳裏に閃くが、頭を振って追い払う。
ともあれ、一応は普通に過ごしているにも関わらず、次から次へと問題が飛んでくる辺り、こちらも大概ヤバいなぁ、なんて風にため息を吐いて。
「──え、えと。なにかご用でしょうか……?」
「…………」
──悲鳴を上げなかった私を褒めてほしい。
俯かせていた顔を上にあげ、正面を向いた私の視界の全てを覆うかのような、とある人物の満面の笑み。
肩に乗っていた黒フォウ君が無茶苦茶威嚇しているけれど、そんなことは気にしたことではないとばかりに、吐息が直に触れそうな位置にまで近付いてきているとある男性。
……見た目だけならイケメン以外の何者でもないのに、威嚇しているかのような笑みを浮かべているせいで、そんな感想はどこかに吹き飛んでしまう彼は。
「……ふむ。なるほどなるほど」
「……その、勝手に納得する前に、離れて頂きたいのですが」
その後ろに、
……どう考えても厄介ごとでしかないこの状況に、思わず助けを求めて周囲に視線を向けてみるも、みんな露骨に視線を逸らしていく始末。
私だってこの状況で部外者だったらそうするけどさぁっ!!……とは言い出せず、大人しく彼の視線を受け続ける私。
「……では
「マジですか……」
数分後、満足したのか顔を離した彼は、こちらに張り付いた笑みを浮かべたまま、リングに上がれと遠回しに告げてくるのだった。……ええ……。