なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「どうしてこんなことになってしまったのでしょうか……」
「ふぉーう!ふぉふぉーう!」
突然やって来たコズミック変態……もといメルクリウスさんにより、半ば強制的に模擬戦を組まされてしまった私。
彼の覚醒度がどれほどなのかはわからないものの、規模の大きすぎる能力持ちは、そもそも再現しきれないと言われている以上、そこまで戦力的な脅威はないのかもしれないけど……。
(それは私の方にも言えるんだよなぁ)
根本的に、ここにいるのは『キリア』の方。
キーアの方がヤバい、みたいな話はこっちにも伝わっているかもしれないが、対するキリアのイメージはアニメのそれ……すなわち補助タイプというものだろう。
……例え弱体化していたとしても、他所の世界ではその全てを支配するとまでされている*1彼と、戦闘と呼べるようなものが行えるわけがないのだけれど、なんで私模擬戦なんてものに誘われてるんです……?
まさか彼にも私が、実際はキーアの方だって見抜かれてるの?なんなのバトルジャンキーなの?
……いやまぁ、そもそもここにいる彼が、彼の根本的行動原理である
「……む?運命……?」
と、適当にぼやいている内に、気付いたとある事実。
……ふぅむ?
「おーい、いい加減着替え終わったかー?」
「あ、はい。すぐ出まーす」
むむむ、と考え事をしている間に、結構な時間が経過していたらしい。
外からこちらを呼ぶアリューゼさんの声に、慌てて返事を述べた私は、小さく息を吐いた。
……先ほどの気付きが本当だとすれば、私はしっかりと
そう小さく決意をして、私は更衣室の扉を開けるのだった。
「しっかしまぁ、嬢ちゃんも災難だねぇ」
「……アリューゼさんは、あの人達と会話をしたことが?」
「いや、特に親しいってわけでもねぇさ。……ただまぁ、あの二人が
「…………」
リングの上で試合開始の合図を待つ
彼はここでは古株に当たる人物であり、それなりに事情通でもある。
故に、『
返ってきたのは、彼等が本来の力を
──ここにいる彼等は、『転生者』などではない。
その事を自覚できている者はほとんど居らず、故にここに居る者達はそのほとんどが、転生によって自身の
だがしかし、目の前の二人──永遠を貪るこの両名に関しては、些か事情が異なってくる。
彼等は共に、無限に等しいどころか無限そのものの生を、飽きを抱えながら生き続けていた者達である。
原作が原作故に、ルート次第ではその永遠を終わらせることもあるが……同時に、その精強さには彼等が過ごしている無限の生が、強い関わりを持っている……というのも事実。
要するに、彼等は本来
この一件を『転生』であると見なすのであれば、それは自身が今まで経験してきた永遠と、露程も変わらないモノであるはず。
にも関わらず、自身の身に起きた変化を見て、彼等がそれをそのまま受け入れている……という状況自体が奇異でしかないのだ。
特に、【水銀の蛇】の方。
彼は、とある人物に
で、あれば。
ああしてリングの上で、ニヤニヤとした笑みを浮かべていること自体が、あまりにも薄気味が悪いのである。
そもそもに何を考えているのか分かり辛い人物であるが、現在はそれに輪を掛けて何を考えているのか、全くわからないのであった。*3
「……わからないと言えば、なんでキリアちゃんに絡んだのかもわからないんですよね」
「ん?見知らぬ新人に興味を抱いた、ってだけじゃねぇのか?アイツら基本的には
「そんな言葉で彼等を定義するのは、貴方くらいのモノですよ……」
思わず口に出した、もう一つの疑問。
なんでわざわざ、彼等はキリアという新参者の少女に、ちょっかいを掛けようと思ったのか。
アリューゼの言う通り、彼等が『生に飽いた』者達である以上、初めて目にする相手に興味を抱く……というのはわからない話でもない。
……だが、【水銀の蛇】の方は基本的には『
わざわざ二人でやって来て、その両方が一人の少女に興味を抱くなど、どこぞの
などと考えた彼女は、ここで(変な)結論に至った。
「……え、まさか、そんな?」
「…………なにがなんだかよくわからねぇが。アスナの嬢ちゃん、多分思考が明後日の方向に飛んでるから軌道修正した方が……って、聞いちゃいねぇな、こりゃ」
「ふぉう。ふぉふぉふぉーう」*4
横合いからツッコミが入るものの、当のアスナは完全に自分の世界に入ってしまって、こちらの言葉に聞く耳を持たない。
「そ、そそそ、そんな破廉恥な!は、母はっ!許しませんよーっ!!!」
「どわっ!?暴走し始めやがった!!誰か、止めるの手伝えっ!!」
「んー、アスナちゃんは時々機関車みたいになっちゃうのがー、玉に傷かなぁー?」
「下手に覚醒度が高いモノですから、止めるにも一苦労……というわけですわね」
錯乱状態でリングに飛び乗ろうとした彼女を集団で抑え込みつつ、彼等はリングから離れていくのだった……。
「……ふむ、無粋な喧騒はこれにて
「誰にモノを言っている背徳の。私は常に覚悟を持ち、冷静にここに立ち続けている。──求めるものが手に入らずとも、それ故にこそ私はあり続けるのだからね」
「…………」
背後でわちゃわちゃしていたのを聞き流しつつ、私は前方を睨み続けている。
ジャージ姿の水銀、などというちょっと意味のわからないものを見せ付けられている私は、更にその隣──何故かハゲのカツラと眼帯を装着したマステリさん*5、という意味不明なモノまで見せ付けられているわけである。
そもそも律儀に着替えているメルクリウスも意味がわからないし、それに合わせてセコンドスタイルのマステリさんも意味がわからない。
……一体私に、どういう反応を期待しているのだろうか。
正直まっっったくわからないのだけれど、一応はスパーリングの形式を守るつもりらしいので、突然隕石が降ってきたりブラックホール創造してきたりとかはしなさそうである。*6
……かといって、普通に殴りかかって来られても困るのだけれど。
ともあれ、なんだかちょっとイラッ、とした表情を浮かべた気のするマステリさんが、景気付けにメルクリさんの背中をバシンと叩いたのを皮切りに、模擬戦は開幕のベルを鳴らすのだった。
(──早っ!?)
そしてそれと同時、油断していたこちらの虚を突くかのように、メルクリウスはこちらに急接近。
慌ててガードをした私の腕を、グローブをしたその手で思い切り殴り付けて来て、
「ぐっ!?」
「……なるほどなるほど。こうして拳を交えてみれば、やはりと言ったところ……かな」
「……」
体重の軽い私はそのまま吹っ飛ばされて、ロープに背中を強かに打ち付けることになる。
追撃が来るかと思われたが、彼は腕を振り抜いた態勢のまま、何事かをぶつぶつと呟いていて。
「──無限の寵姫よ。我らは貴方を待っていた」
「──はい?」
構えを解いた彼は、いつの間にかその手に持っていた花束を手に、私の前に
差し出された花束に、困惑を浮かべた私は。
……次の彼の言葉に『うわこれめんどくさい話になった』と確信する。
なにせ、
「あなたに恋をした
「うわっ」*7
どう考えても、完全にネタ以外の何物でもない台詞だったのだから。
遠くの方でアスナさんが『ご禁制~!!』と叫んでいるのを聞いて、思わず額を押さえる私。
その両サイドには、さっきリングの上で向かい合っていたはずの二人。
半ば連行されるような形で彼等に同行している私は、とある一つの部屋へと足を踏み入れてようとしていた。
『──合言葉は』
「メルクリウス超うぜぇ」*8
『よし。……毎回思うんだが、自分で言ってて悲しくならないか、それ?』
「何を言う。
「いいからさっさと入れ、メルクリウス。後がつっかえるだろうが」
「……さっきも思っていたのだけどね、マスターテリオン。君は一々私に当たりが強すぎやしないかね?」
「やかましい、コズミック変態*9を尊敬している時点で、貴様も大概変態だ。……外では仕方なく仲良くしているが、できれば余はお前とは距離を置きたいんだ」
「何をぅ!?元はといえば君が
「はー!?それを言うなら、貴様が水銀なんてやってるからだろうが!」
「いやあの、いいからさっさと入って下さいよ」
「「あ、すみません」」
入り口付近で言い争いを始める二人に、思わず呆れたような視線を向けてしまう私。
一応、入り口付近では既に視線避けの魔術なりなんなりが、機能しているのは認識していたけれど、それでも周囲にバレる危険を減らすように動いた方がいい、というのは確かだろう。
そんな思いを込めた私の視線は、正しくその意図を果たし。
言い争っていた二人はすごすごと頭を下げ、大人しく中に入っていった。
それを見送って、私は一つ深呼吸をする。
……どうにも、ここからが本番だぞ、と。
私が見上げた先、扉の上に掲げられたプレートには、『目覚め』なる言葉が刻まれていたのであった。