なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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目と目と歯と歯、量刑は難しく

「ある程度の実力を持った変態とか、もはやどうしようもない奴ですよね……」

「……否定はせぬ。こいつの場合は自身の時に変態とまで評される行動力によって、その存在の強さを確固たる物にした類いの者であるのだからな」

「うーん覇道神……」

 

 

 完全に気絶してしまったメルクリウスさんを、近くのダンボールの上に寝かせつつ、改めて話をするために、ダンボールに座り直した私。

 ……ダンボールの活用度が高すぎる……。

 

 

「ダンボールは戦士の必需品だ、古来より数多の戦士がダンボールに命を救われている。ダンボールをどう活用するか。それこそが任務の達成率を左右すると言っても過言ではない」*1

「……!?」

「ダンボールは建築材としてもすぐれておる。これをうまく活かせば、東京スカイツリーだって建設できるじゃろうな」*2

「山本さん!?山本さん!!よくわからないけれど他にも誰か居ませんかここっ!!?」

「ああ、無害なダンボールの妖精じゃ。気にせぬように」

「ダンボールの妖精!?」

 

 

 まぁ、こんな感じに謎の幻聴が聞こえてきて、思わず山じいに詰め寄る羽目になったけども些細な話。

 あれこれと話を聞いた結果、ここでの彼等がどういう活動を行っているのかの一端を、窺い知ることができたのだった。

 

 

「では、皆さんは別にこの組織の転覆を狙っている……というようなことはないと?」

「うむ。ここ以外の安息の地があるということを知れたものの、そちらに全ての責を投げるような無責任は出来ぬ。──我等のような半端者、彼奴等(きゃつら)のような尖り者。それを悪戯に放逐するのは、最早単なる災厄でしかなかろうて」

「はぁ、まぁ、確かに……?」

 

 

 吐き出すような彼の言葉に、納得できるような微妙なような、どっち付かずの返事を呟く私。……いやまぁ、向こうも大概アレだし……ね?

 

 ともあれ、少なくとも彼等がこの組織を転覆させて、自分達がその舵を握ろう……というような思想は持ち合わせていないということは確からしい。

 一般的な『逆憑依』と違い、大本の存在達が強大無比である彼等は、再現度の仕様(比率型)的にそれ以上成長(覚醒)をしない代わりに、最初からそれなりの戦闘力を得ているため、ここで下克上を目指すこと自体はそう難しくもないらしいのだが。

 

 

「先のビジョンを確りと見据えている、現リーダーであれば問題はない」

 

 

 とのことで、基本的には現状に甘んじるつもりであるとのことだった。

 じゃあ、この集まりはなんのためにあるのだろう?……と疑問に思ったのだけれど。

 それに関しては、先代のリーダーに問題があったのだそうだ。

 

 

「うむ。典型的な覚醒者……もしくは狂信者か。少なくとも、彼奴がこの組織の頭であり続けていたのであれば、この日の本の国は瞬く間に修羅の国と化していたであろうよ」

「……それはまた、なんとも物騒な話ですね」

 

 

 鷹揚に頷く山じいの言によれば、この組織の創設者たるその人物は、典型的な『なろう系の主人公』気質の人物だったのだという。

 

 自身を転生者だと思っていることの弊害──器となった人物の抱えていた鬱屈との共鳴により、そのエゴを肥大化させたその人物は、甘言と謀りを巧みに使い、在野に隠れていた転生者達を掻き集め、この組織の雛形となるものを作り上げた。

 

 その目的は、表向きには転生者達の保護であったが……無論、それは耳障りのよい単なる方便に過ぎず。

 ゆくゆくは今の政府を打倒して、転生者達による『正しい統治』を目指していた……というのが実情らしい。

 

 実際、自身を転生者だと思っているこちらの者達は、向こう()の憑依者達に比べて戦力的な意味での能力値の質が、若干高いように思われる。

 そんな者達が、徒党を組んでいるのだ。

 確かに、甘言を耳元で囁かれて道を踏み外してしまえば、自分達こそがこの世界の支配者だ……なんて勘違いを起こしても、仕方のない話なのかもしれない。

 

 世に出回る『なろう系の主人公』達は──強さを誇示する者は特に、転生した世界での『神』とでも呼べるような存在へと、鍛練を続け邁進することが多い。

 基本的にはそのまま異世界に残り、そこで神として世界を眺め続ける者が大半だが……時にその力を持ったまま、元の世界に戻ってくる者もいたりする。

 その辺りが、ある意味問題の一因となっているのだろう。

 

 人間というものは、基本的には未知を恐れるものである。

 わからないもの、得体の知れないもの。それらを自身の尺度に貶め、理解した気にならなければ安心できない生き物であるとも言える。*3

 

 ゆえに、もし仮にそうして、異世界から現実に舞い戻った存在がいたとして──その彼に待っているのは、ほとんどが()()という対応だろう。

 

 復讐譚を面白いものと定めつつ、仮に自身の近くに復讐犯が居た時に、その正当性に関わらず彼等が排斥されるのは、それが()()()()()()()だ。

 復讐をしたことのない人間にとって、復讐をしたことのある人間の思考回路とは、『よくわからないもの』以外の何物でもないのである。……まぁ、これに関しては別に復讐に限らず、あらゆる物事において『自分が経験していないこと』を経験した相手の心情など、経験していない人間にとっては想像でしか語れないのだが。

 

 ともあれ、感情論による行為の是非を認めてしまうのであれば、そこに善悪の区分は必要なくなってしまう。自身に()()をしてくる者は全て悪、という論理が罷り通るからだ。

 

 例え相手がどれほどの悪人であれ、彼等が家族や友人を持つことそのものが『悪』になることはない。

 そしてそれらの親しいものが、彼等『悪』と称される者達を愛することもまた、それ自体が『悪』にはなることはない。

 ゆえに、例え相手が悪人であれ、勝手にそれを排除するのは、その周囲の者達の『益を奪う』ことにも繋がるわけである。

 

 それぞれの人物の善悪を別として、行動の是非のみを問う場合、悪いのはやはり『奪った側』になるのだ。……例え奪った側が、既に奪われた側であっても。*4

 無論、世間はそうとは思わないだろう。被害者が加害者を加害したところで、自業自得だとしか思わないはずだ。

 

 ──が。それを法を通さず判断するのであれば、話が違う。

 行動の是非だけで言えば悪になる行為を、それが『そうされても仕方なかった』から許してしまうのであれば、その果てに待つのは末法の世だ。*5

 

 人の感情によって、加害の是非が決まってしまうのであれば、必要なのは周囲を味方に付ける背景(事情)、ということになる。

 本当は悪いのはこちら側なのに、相手を悪者に仕立て上げれば、こちらの加害は善となる。

 それが罷り通るのであれば、復讐は全て『是』となるはずだ。*6

 

 それを踏まえて──もし仮に、以前正当な復讐を果たした者が居たとして、その者がまた復讐に手を染めた時、周囲の人は彼のことをどう思うのだろうか。

 恐らくは、また彼に対して不当な行為を働いた者が居たのだろう、と思い至ることだろう。

 

 ──実際は、とても些細な行き違いで、彼の側が必要以上の加害を加えたのだとしても。

 それを知り得ぬ状況下では、周囲は彼が正しいことをしたのだ、と思い込むことだろう。

 

 一種の正常性バイアス*7とでも言うべきか。

 ともあれ、『普通の人』は復讐なんてしない*8という原則を忘れてしまうと、人の認知は容易く歪んでしまうのである。

 ()()()しないはずのことを、実際にやってしまった時点で、その人は最早『普通の人』からしてみれば『未知の存在』に成り果てているというのに。*9

 

 だから、一般的な感性を持つ人々は、例えそれが正当な行為だったとしても、自分の手を汚した復讐者を排斥するのである。

 ──その()()()()()が、いつ自分に牙を剥くかわからないから。*10

 

 その辺りも踏まえ、国はそれらの『罪に対しての罰』を当人達から取り上げる、という対処を行っているわけである。

 少しでも情があれば、行為の悪は状況の善に流されてしまうことを知っているがゆえに。*11

 

 纏めると、今の世界から排斥され、外の世界に放り出された転生者達は、もし仮に元の世界に戻ってきたのなら、無自覚に復讐を行う可能性が高く。

 それ故に、そもそもの『他世界帰還者という未知』と『復讐をする者の精神構造という未知』が重なり、世界からもう一度排斥される可能性が高くなり。

 それゆえに彼等は正当性を得て、更なる復讐の輩と化す可能性が高い……ということだろうか。

 

 小難しいことを抜きにすれば、基本的には復讐に正当性なんてないぞ*12、なのだけれど。

 そんなことを怒りや憎しみに目が曇った者達が、理解してくれるはずもなく。

 

 転生者に対しての排斥、転生する前の排斥……。

 それらが一種の正当性と化し、その前リーダーは暴走を続けていた、ということになるようだ。

 

 

「その暴走を止めたのが、現リーダーというわけじゃ」

「……一応聞いておきますが、言葉で止めたわけではない……のですよね?」

「まぁ、それはの。……言葉で止められるのであれば、もっと早い時点で止められておる。──現リーダーは力で捩じ伏せた。貴様のそれは単なるわがままだ……と見せ付けたと言うべきか」

 

 

 そして、その前リーダーの邁進を止めたのが、現在この『新秩序互助会』を取り仕切るリーダーであるところの、例の骨の人ということになるらしい。

 ……キャラクターのイメージ的に、そういうまともなことをできるような人には思えないのだけれど、そこら辺にもなにか秘密があるのだろうか?

 

 そんな私の疑問は、毎度「会えばわかる」と流されてしまうわけなのですが。

 ……だから、会えるの何時だよぉ!!

 

 

 

*1
そのままではないものの、概ね『METAL GEAR』シリーズの主人公・スネークの台詞。ダンボール一つあれば潜入も工作もできちまうんだ!

*2
『魔人探偵脳噛ネウロ』より、本城二三男。ダンボールで家から戦車まで、なんでも作り出せるタイプの人。『ダンボール戦機』における強化ダンボールを渡したら、下手すると宇宙船まで作れるようになるかも……?

*3
『病魔』が原因のわからない謎の病を『未知』にしない為に生まれたもの、と言うのは有名か。妖怪なんかも、基本的には『わからないもの』に対しての説明・人格付与に当たる。『言葉がわからない』ので天狗にされた外国人なども類例か

*4
感情論を抜きにした場合、『復讐』は犯罪である為、やった側も罰せられることになる。よく復讐関連の話で引き合いに出される『ハンムラビ法典』も、あくまでやったことと同じことを返す(目には目を、歯には歯を)だけであり、その本質は『必要以上の罰を与えない』ことにある。ここで考えなければいけないのは、『罪に見合った罰』を与えるというのが実際には難しいということ。誰かを殺害したので犯人を殺します、というのは『犯人が死を恐れていない』場合に等価とは言い辛くなる。また、親しい者が殺傷された時、被害者側が望むのは『実際に被害者が受けた傷と相応の罰』……()()()()()、それを見聞きして傷付いた遺族や親類達の心の傷を含めたモノ、ということになる。当事者のみでの話ではなくなっている為、必要以上に加害者側へ希求される罰が大きくなっている、ということは頭の片隅に置いておくとよい。これを認知していないと、加害者だけでなくその周囲の人物達への攻撃、という形に波及する可能性があるからだ。要するに、やりすぎるというわけである

*5
『殺さなければ止められなかった』というような相手が居たとして、それを当事者だけの視点で決めてはいけない、ということ。第三者が挟まればあっさりと片付くこともあるし、第三者を挟むことができない・許されないこともある。特に殺害にまで至ると取り返しがつかない為、本来人殺しの汚名を被る必要性が無かったのにも関わらず、その汚名を得たことで別の事件の引き金になった……という負の連鎖を起こすことも少なくはない。無論、だからといって我慢していればよかった等と言うのも無責任であり、故に司法としては『悪いことは悪い』としか言えないのである

*6
大前提として、復讐はそれをするに至った理由が存在する為。理由のない復讐は単なる暴挙である。なお、『理由が有ればいい』とする場合、どんなに些細なことであっても『理由にはなる』という屁理屈が存在することに留意すべき。きっかけに大小や正当性などを言い始めたらキリがない、とも

*7
予期しない状況に出くわした時に、それを『ありえない』と否定して自身の平常心を保つ認知バイアス(先入観)の一種。基本的にはいわゆる『天災』に相当する出来事に遭遇した時に起こるもの。悪いことが起きるのには悪い理由があるはずなのに、それらを無視して唐突に起こる災害……それに対して『そんなはずはない』とする心の防御機構。悪因なしに悪果が起こるのであれば、善因を積む意味がないじゃないか、というような心の動きが関係しているとも

*8
選択肢として存在しないものは選べない、の意味。学校の授業が『選択肢を増やす為のもの』と言われることがあるが、基本的にはそれと同一。『やり返された』経験あってこそ、『やり返す』選択肢が取れるということか

*9
聞いたことのない職業の人が居たとして、話を聞かなければその人が何をしているのかはわからない。先の学校の話の通り、『職業』と『選択肢』は類似している為、その選択肢(職業)を知らない人からしてみれば、それを選んだ人もまた『未知』なのである

*10
ここでの未知は、正確には『相手の許容範囲』について。どこまでが許されて、どこからがキレられるポイントなのか。普通の人間関係でもそこを探るのは変わらないが、相手が『復讐者』である場合、地雷を踏んだ時に返ってくるのは……と考えた時に、『関わりたくない』となる……という話

*11
本人達の手から問題を取り上げることで、そこに掛かっている『感情論』を一端取り払う、という効果が期待される。……うまくいっているとは言えないかもしれない。ともあれ、罪に対しての罰も、『死刑』のような場合は『罰を行うことの罪』が生まれる為、その所在を一般市民から切り離す、という意味では必要不可欠なわけなのだが

*12
ちょっとした嫌がらせくらいならアレだが、大体何かしらの犯罪に引っ掛かる方法での復讐が主である為、気持ちの問題は別としてやっていることそのものに正当性はないぞ、の意


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