なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「む、なんじゃなんじゃ。相当にお疲れのようじゃのぅ」
「一応まだ一日目のはずなのに、色々とイベントが起こりすぎなんですよ……」
山じい達との会話を終え、彼等の居住地を後にした私。
彼等は基本的には普通に過ごしつつ、不穏分子が再び現れないように内部を見張っているのだという。
新人に当たる私に声を掛けてきたのも、一応はその辺りの確認の面が強かったようだ。
まぁ、こことは別の場所を知っているため、そこの情報を知りたかった……という部分も少なからずあったようだが。……メルクリウスさんの場合はやる気の補充、というところもなくはなかったようだけど。
ともあれ、これからもある程度の連絡を取り合うことを約束した私は、他の人に見付からないように外に出て、他の人に見付からないように部屋にまで戻ってきた……というわけなのである。
一応その辺りの隠蔽については、あれこれと配慮されているらしいとは聞いたけれど、やらないよりはやっといた方が気分的にマシ……というか。
とにかく、無事に万魔殿*1より帰還を果たした私が目にしたのは、ベッドでナーヴギアを被り横になっているアスナさんと、その隣で椅子に腰掛け、フォウくんと戯れるミラちゃんの姿なのであった。
先の彼女の言葉は、部屋の中に入ってきた私の顔を見た時のものだった、というわけだ。
現在の時刻は、既に日は沈んでしまっているくらい。
要するに、暫くすると夕食の呼び出しが掛かるくらいのタイミング……ということになる。
「……これはあれでしょうか、『アスナー、もうすぐご飯よー』という
「いや、何故に母親?……そもそもお主、そっちの喋り方はもう良いのではないか?誰もおらんのじゃし」
「いえ、何故かはわからないのですが、口調を解くべきではないという謎の予感がですね?」
「なんじゃその予感は……」
呆れたようにこちらを見つめるミラちゃんに、小さく肩を竦める私。
確かに意味はわからないかもしれないが、こういう時の予感に逆らうと、大抵良くないことが起きる……というのも、今までの経験上よくわかっているため、残念だが慣れて頂きたい。
それはともかくとして、もうじき夕食の時間であり、それは昼食と同じく『時間を遵守すべきものである』というのが事実である以上、アスナさんにその辺りの注意を促した方がいいのは確かな話。
……なのだけれど、私達が使っていたただのVR機器と違って、彼女のそれはナーヴギア……疑似ダイブではなく、歴としたフルダイブタイプの機器である。
外からの刺激も認知したままでいられるこっちと違い、確か脳内の電気信号をジャックして、五感を誤認させる……という形式の装置だったような気がする*3ので、はたして外から声掛けをしたとして聞こえるのだろうか、という疑問がなくもないというか。
それと、ナーヴギア自体が迂闊に触るとレンチンしそうで怖い(小並感)……という面もあり、ちょっとばかり対応に困る感じである。
というか、フルダイブ系の機械ってなんか悪用されているイメージしかない(主に薄い本のせいで)ので、今一信用度に欠けるというか。*4
ゲーム体験としては確かに最高峰なのだろうけど、その行き着く先がデジタルドラッグだの昏睡だの洗脳だのだと、負の面が目立つのはどうにかならないのだろうか……?
「……ちょっと気が早いんじゃないかな、その辺りを心配するのは」
「おおっと、おはようございますアスナさん。ご飯になさいますか?それとも、ご飯になさいますか?それとも……ご・は・ん?」*5
「ふぉふぉーうっ!!」
「全部ご飯ではないか。腹ペコキャラかなにかかお主」
そんなことをうだうだと考えていたら、いつの間にやら起きていたアスナさんが、ナーヴギアを外しながらこちらに苦笑を向けてきていた。
仕方がないのでお決まりの文句を述べてみたものの、周囲からの反応はよろしくない。……むぅ。これがマシュだと、喜んで食事の準備を手伝ってくれるんだけどなー。
他者とのコミュニケーションって難しいなー、とため息を吐きつつ、二人+一匹に声を掛ける。
「腹ペコキャラでも構いませんので、さっさと出ましょう。……余裕、あまり有りませんよ?」
「ぬ?……ぬぉっ!?結構時間が経過しておる!?」
「あっ、ごごごごめんなさい!すぐ準備するわ!」
「ふぉふぉーう」
「やれやれ……」
なんやかやと話していたため、意外と時間が経過していたことを示せば、二人は慌てて食堂に向かう準備を始めるのだった。
「ウサ耳……」
「ぬ?どうしたキリア、誰かを見つめておったようじゃが……」
「……いえ、ちょっと、気になる人が居たもので」
「ふむ?……ああなるほど、無口組じゃな」
「幾らなんでもそのまますぎませんかその呼び方……」
「わしが決めたわけじゃないわっ」
夕食をトレーに乗せ、食事スペースへと運ぶ最中。
視界の端を過った一人の少女に思わず視線を引き付けられた私を、怪訝そうな声で引き戻すミラちゃん。
不思議そうな顔をしている彼女に返したのは、チラリと写った少女の姿が、旧版の方だな……なんて感想を抱いたという話だったのだが、彼女はそちらには気付かず、少女が駆けていった先──同席する他の少女達もまた、気質的に近い者達で集まっているという事実の方を返してくるのだった。
なお、最初に視界に入ったのは社霞で、彼女が向かった先に居たのはホシノ・ルリと綾波レイだった。……私の知ってる方のタバサは混ざれなさそう。*6
「貴方の交遊関係も大概謎だけど……あの子達は止めておいた方がいいわよ、会話が続かないし」
「続かないというか、どちらかと言えばテレパスしてませんか彼女達?」
「……ああうん、そうかもしれないわね……」
アスナさんは一度会話をしようとして撃沈した記憶でもあるのか、微妙に苦い顔を浮かべていたが……、そもそも霞ちゃんが超能力者だった気がする*7し、無口組にのみ伝わる、謎の意志疎通手段を発揮している可能性もなくはない。
基本的には他者との交流とかを進めていくのが、現状の基本方針である私としましては、とりあえずいきなり戦闘とかになりそうもなければ、積極的に声を掛けに行かなければならないわけでですね?(典型的トラブルメイカーの思考)
そんな謎の言い訳で論理武装しつつ、彼女達の席に近付く私。
「その、ご一緒しても?」
「……構いません。楽しい話題は提供できないかもしれませんが、それでも良ければ」
「大丈夫です。──皆さんは、いつも一緒に?」
「そうですね。行動的な
「なるほど……」
最初に声を掛けた霞ちゃんの方は、特に大きな反応も示さず、そのまま席を横にずらした。……私の座る場所を開けてくれたらしい。
それに小さく頭を下げつつ、滑るように座った私。
所在なさげに片手をあげていたアスナさんには目で謝罪をして、そのまま次の相手に声を掛ける。
次の相手……ルリちゃんはと言うと、いわゆる綾波系の中でも殊更に無口なタイプというわけでもなく、それゆえに返ってくる反応は至って普通のモノだった。
なので、この組み合わせの問題は、恐らく彼女──綾波レイにあるのだろう。
彼女はと言うと、他の二人が会話しているにも関わらず、特に視線を向けることもなく、黙々と食事を食べ進めていた。
……我関せず、という感じだろうか?
他二人がちょっと気不味そうな空気を醸し出している辺り、どうやらいつものことらしい。
別に嫌々一緒に居るわけではなさそうなので、反応が悪いだけであって、殊更に人嫌いを発症しているわけではない……と思うのだが。
「……その、レイちゃん?」
「なに」
「えっと、新人の……」
「知ってる」
「……あがー」
「これはひどい」
(そりゃ私の台詞だよ……)
そんな風に静観していた私の目の前で行われたのは、あまりにもサツバツ!*8……としたやりとり。
……よもやリアルで霞ちゃんの『あがー』に遭遇するとは思わなかった*9が、その喜びもどこかに吹き飛ぶほどの、取り付く島のなさっぷりである。
横のルリちゃんがマイペースなのもあって、涙目の霞ちゃんの可哀想度数が酷いことになっているような気がするでござる。
「綾波レイ」
「……なに」
「他者との関わりに忌避を抱いたところで、お前の世界には何の影響ももたらさない」
「……そう」
そんな風に微妙な空気が流れていたのだけれど、なんと横からカルナさんが口を挟んでくる、という謎のイベントが!
……カルナさんも口の少ないタイプなので、なにかしら共感するところでもあったのだろうか……?
ともあれ、いつも通りなにか足りてない感じのする彼の言葉に、綾波さんは持っていたスプーンを机に置いて。
「──綾波レイ。宜しく」
「……あ、はい。宜しくお願いします……?」
突然に私に自己紹介をしたかと思えば、そのまま食事に戻ってしまったのだった。……いやコミュニケーション下手くそかっ!!