なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
引き続き、微妙に空気の悪い食卓よりお届け致します。
……うんまぁ、食事中に食べること以外で口を開くのはマナーが悪いと言えなくもないし、別に構わないんだけどさ?
「……その、綾波さん?」
「なに?」
「嫌いというか苦手なのは知っていますが……だからといって、私の皿にお肉を積み上げていくのは止めて下さいよ!」*1
「……プレゼント。お近づきの印」
「言い訳が雑ですねぇ、実に雑ぅ!!」*2
「!……怖い、近寄らないで」
「こっちからしてみれば、貴方のその反応の方がよっぽど怖いですよっ!!無茶苦茶してるのそっちですからね!?」
だからって人の皿に、無言で自分の
そう憤る私の皿の上には、彼女がカレーライスの中からちまちまと取り除いていった結果である、鶏肉達の塊が。
……そもそもの話、肉嫌いなのになんで最初から野菜カレーとかにしなかったんですかねぇ!?っていうか、エミヤさん辺りに言えば普通に肉抜きにして貰えたでしょう?!
そんなこっちの反応に対しても、彼女は至ってマイペース。
名前を名乗ったのでもう友達……とでも思っているのかと勘違いしそうになるくらいの無遠慮っぷりである。……誰だよこの子のこと無口系だって言ったやつ。
確かに口数は少ない方だけど、やってることだいぶ無茶苦茶だよこの子!
「えっと、すみません。その、レイはちょっと遠慮がないと言うかですね……?」
「無いのは本当に遠慮だけですか……?」
「
「露骨に視線を逸らさないで下さいよ!?」
そんな彼女の蛮行に対し、フォローを入れてくるのはルリちゃんである。
なんやかやでこの面子の中では一番コミュ力が高い方になるからか、彼女が纏め役的なモノをしているらしい……というのは会話の端々から感じられた。……纏めきれているかと問われると、ちょっと首を捻ってしまうわけなのだけれども。
因みにここにいるもう一人──ウサ耳カチューシャが特徴的な霞ちゃんはと言えば、さっきの轟沈後はずっと、トボトボとした様子でシチューを口に運んでいる。
本来は綾波さんとどっこいレベルの取っつきにくさを持つ人物のはずだが、ここでの彼女は妹みが強いらしく、ちょっとぽややんとした感じになっているようだ。
その結果として、わりと親しみやすい性格に変化しているようなので、特に問題はないとは思うけど。……親しみやすくなった代わりに、精神的に打たれ弱くなってそう?それはそう。
「葛藤を後回しにする愚行だな、それは」
「……ん、気を付ける」
(一言足りない言葉を理解している……だと……?!)
それはそれとして、黙々とチキンカレー(チキン抜き)を食していた綾波さんに、再びカルナさんが声を掛けていたわけなのだが。
……多分色々と抜けてしまっているのだろう、煽り以外の何物にも聞こえないそれを、綾波さんは素直に頷いて受け止めている。……やっぱりこの人達、なにかこっちに通じない意志疎通手段持ってない……?
プルプルと震えながら、取り除こうとしていた鶏肉の欠片を口に運び、なんとも言えない表情を浮かべる綾波さんと。*3
それを見て小さく、それでいてどこか満足そうに頷くカルナさん*4を前に、私は『声を掛けるのは早まったかなー』という後悔を、少なからず感じ始めていたのだった……。
「なるほど、必然的にゲーム転生系の方が多くなるので、システム的な調整役が必要になることが多い……と言うことですね?」
「はい。私は博士の補助をしていた記憶もありますので、多少はそちらのお手伝いもできます。ですので、そちら方面で活用して頂いている次第です」
「私の場合は、そもそも『電子の妖精』*5なんて風にも呼ばれていましたので。……テッサさんやかなめさんが居てくだされば、もうちょっと楽ができるとは思うのですが」
「天下の『ウィスパード』を、IT仕事のヘルプのノリで呼ぼうとするのは止めません……?」*6
一緒に食事を摂っていれば、ある程度は仲も深まるというもので。
同じ釜云々*7、というほどではないだろうが、それなりには会話も弾むようになった私達。
そうして現在は、彼女達がここでなにを担当に仕事をしているのか、ということに耳を傾けている最中なのだった。
なおそうして会話をしている私達に対して綾波さんはというと、黙々とカレーを食べ続けていたため、いつの間にか食器を片付けるところまで終わってしまっていたのだった。
……そのまま部屋に帰らずに元の席に戻ってきている辺り、彼女達と仲が良いのだろうというこちらの予想は、そう間違ったモノでもなかったようではあるが。
ともあれ、適度に食事を口に運びつつ、彼女達の話に時折相槌を打つ私。
この分なら食堂の稼働時間を大幅にオーバーする……という、昼間みたいなミスを犯すこともないだろう。
そう胸を撫で下ろしつつ、改めて彼女達からこれまでに聞いた話を、豚カツを一切れ口の中に運びながら、脳内で反芻してみる。
なんでも、霞ちゃんとルリちゃんの二人は、この『新秩序互助会』において、電子機器関連の仕事を任されているのだという。
ルリちゃんに関しては言わずもがな、霞ちゃんに関しても電子機器には強い部類の人物であるため、結果として異なるフォーマットのゲーム世界を由来とする、覚醒者間の調停役としての役割も担っているのだとか。
……本来なら、アスナさんに投げられていたはずの仕事であるせいなのか、こちらがチラリと向けた視線に対してアスナさんは、そっとそっぽを向いていたのだった。……そのナーヴギアが使えたら楽だったろうに、ねぇ?
まぁ、彼女の所持品判定をされているナーヴギアが、現代科学的にはブラックボックスの塊であるというのも事実。
そのままでは複製も量産もままならない以上、負担は全て彼女に降り掛かる形になってしまうので、彼女がそれを断るのは仕方のない話でもある。
なので殊更に責めるようなことはせず、チラリと視線を送るだけに留めておく私であった。
……琥珀さんに投げたら、どうにかなるような気がする?
実際にどうにかなったとして、そこからやらなきゃいけないことが多すぎるのでとりあえずは保留です()。
そんな感じに、なんだかんだで和やかな空気を醸し出していた私達だったのですが。
「……おっと、もうこんな時間ですか」
「あ、本当ですね。そろそろ外に出ないと怒られてしまいます」
お喋りというものは、ついつい長くしてしまうもの。
いつの間にか食堂の閉鎖時間が近付いてきていることに気が付いた私達は、残っていた僅かな食べ残しを綺麗に平らげて、少し急かされるように返却口にトレイを差し出し、そのまま食堂の外に出る。
深夜には夜食用に縮小営業をするらしいが……それまではまた、食堂は一時閉鎖となる。
その辺りも関連しているのか、チラリと見えた厨房内は、あれこれと忙しそうな雰囲気となっていた。
この状況下で食器を返却するとか、ちょっと睨まれても仕方ないので、小さく断りを入れながら食器を置いて、逃げるように外に出ることになったわけなのだが……。
「……絶対エミヤさんには顔を覚えられてしまいましたよね、悪い意味で」
「今日二度目、なんでしたっけ?御愁傷様です」
「ぬぐぅ、なにか名誉挽回策を考えなければ……」
「返上?」
「挽回です。なんでそんな不思議な聞き間違いしてるんですか」
「……さっきまでのやり取り。貴方に挽回するような名誉があるとは思えなかった」
「とんでもなく失礼だこの人!?……いや褒めてませんよ照れないで下さい!」
そうして食器を渡した相手が、よりにもよってエミヤさんだったため、恐らくというかきっとというか確実にというか、ともかく彼に悪い意味で顔を売る結果になった……というのは間違いなさそうというか。
浮かべていたのは苦笑だったので、どっちかといえば手の焼ける問題児、くらいの印象で留まっているのだろうけど……。
食堂という、三大欲求のうちの『食』を司る場所の人間に悪い印象を与えたまま、というのは非常に宜しくないので、どうにかしてその印象を拭い去らねばなるまい。
その方法について小さく頭を悩ませる私に対し、綾波さんからの反応は変わらず遠慮がない。……こっちもわりと言葉を選ばないツッコミを繰り返していたため、その反応も仕方なくはあるわけだが。
そんなやり取りを見たその他二人はと言うと、ちょっと驚いたような表情をしていた。……珍しいものを見た、とでも言うかのような表情である。
「その、実際に珍しいものを見ましたので……」
「レイが楽しそうな顔をするのは、中々ありませんので。……実はキリアさん、レイの生き別れの妹だったり?」
「いや、なんでナチュラルに妹なんですか。あれですか、惚けた姉と確り者の妹だとでもいいたいのですか?」
「妹を名乗る不審者。怖い」*8
「私から名乗ったわけじゃありませんよね今の!?」
内容は、このように会話が弾む綾波さんは珍しい、というもの。……基本的にこっちがレシーブを受け続けている感じなのだが、それでもまずレシーブを打ってくること自体が稀であり、それを受けられる時点で、わりと寄特な人物扱いになっているらしい。
褒め言葉なのかは微妙なところだが、友人としては認められているようなので結果オーライ……なのだろうか?
「おや、認めてしまわれるんですね?」
「元々『仲良くなりたい』という下心ありありで近寄ってますし。その辺りも踏まえて受け入れて頂いているようなので、口ではどうあれそこまで気にしている訳でもないんですよ」
「そう。マゾなのね、貴方」
「前言撤回この人やっぱり性格悪いですよね!?」
「……ふ、ふふふっ」
無口系と揶揄される彼女達が、小さく笑みを浮かべ始めたのを見て。
漫才染みた先ほどまでのやりとりも、決して無駄ではなかったのだな、などと感慨深くなってしまう私である。
まぁ、綾波さんが無口系ってより不思議系に片足突っ込んでるため、心労は倍になった気がしないでもないけど。……お前が言うな?ですよねー。
「では、今日はこの辺りで」
「はい、お休みなさいお三方。またお話しましょうね」
そのまま、これから仕事があるという三人に別れを告げて、部屋に戻った私。
中では何故かトランプをしているアスナさんとミラちゃんの姿があって。
『──はい、こちらマシュです』
「はい、一日の終わりの報告ですよー」
それを横目にしながら、私は郷への報告のための連絡を取り始めるのだった──。