なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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想像するのは常に最強の自分

「……なんでこんなことになってしまったのでしょうか……」

 

 

 思わず、といったばかりにぼやいてしまう私と、そんな私の両サイドに立つ二人の男性。

 両者の間に会話はなく、その間に挟まれてしまった私としては、思わずため息をついてしまう次第である。

 

 さて、なんでこんなことになってしまったのか。

 その一端となる出来事は、今日の朝食の席に始まっていたのだった……。

 

 

 

 

 

 

「ええと……お二人揃って、私になん用でしょうか……?」

 

 

 朝食のメザシ*1を対面のミラちゃんに噴き出す、という珍事(謝罪代わりにデザートを一品奢っておいた)を経て、冷静さを取り戻し……取り戻せてないけども、とりあえず形だけは繕った私は、対面から隣に移ってきたミラちゃんに肘で小突かれつつ、彼女が退けた位置に座った二人の人物──ハジメ君とソルさんに、一体何用かと声を掛けていたわけなのですが。

 

 

「「………………」」

「えーと……?」

 

 

 人一人分のスペースを開けて座っている彼等は、見ただけでわかるくらいにイライラしている様子で。

 ……ここに来たばかりの時に、彼等が一触即発の関係だというのは知っていたが、同時にそれが『キャラとしての体裁を保つ』ために半ば強制されているものだ、ということも、後々の話でなんとなーく理解はしている。

 ……しているので、彼等が揃って私に話し掛けてくるという状況そのものは、起こりうることだろうと納得はできるのだけど。

 そのあとの話が続かないのは、まっったく想定していないんだよなぁ……。

 

 そんなこちらの微妙な空気を知ってか知らずか、ソルさんが小さく舌打ちをしながら口を開いた。

 

 

「……挨拶が、まだだったな。俺はソルだ、好きに呼べ」

「あ、はい。ではフレデリックと……」*2

あ゛あ゛?

なんでもないです……

 

 

 内容は呼び方は好きにしろ、というものだったので、ちょっと場を和ませるために彼の本名を呼んだのだけれど……そんなにキレなくてもいいじゃないですか……。

 

 思わず涙声になりながら、苦笑いを返す私。

 対するソルさんはと言えば、再度小さく舌打ちをしたあと、「……好きにしろ」と小さく言ってきたのだった。……泣き落としが成功したわけではないにしても、随分とあっさり引き下がった感じである。

 もしくは名前の件はあくまでも些事、それよりも優先すべき事柄があるため、そちらの話に早急に移りたいから……か。

 

 なんでそう思ったかと言うのは、とても単純。

 好きにしろと言ったあとの彼が、明らかに次の話題について、『言いたくないけど言わなきゃいけない』的な逡巡を繰り返しているのが窺えたからだ。

 筋肉モリモリのマッチョ科学者が、こちらの見ている前で(全体的に渋い感じが多いとはいえ)百面相をしているというのだから、寧ろ気付かない方がビックリするというか。

 

 対し、話し掛けてきた方のもう一人──ハジメ君の方はというと。

 そんな感じで慌てているようにも思えるソルさんを、嘲笑するかのような冷たい視線を向けている……なんてことはなく。

 

 

「……おい、南雲の」

「っ、な、なんだよ」

「……それ、塩じゃぞ」*3

「は?……ってしょっぺえっ!!?」

 

 

 朝食(ここのおばちゃんは洋食も作れるらしい)についてきたブラックコーヒーに、砂糖と間違って大量の塩を入れるという、ある意味典型的な緊張状態を示す行動を見せていたのだった。

 

 無論、塩を大量にぶち込んだからといって、おばちゃんにお残し(廃棄)を許されるはずもなく。

 泣く泣く、新しくコーヒーを貰ってきて、薄めながら飲む……という、なんとも悲しい状況に陥ることとなったのである。

 ……まぁ、あんまりにも可哀想だったので、近くに居た黒子ちゃんにコーヒーと塩の分離(テレポート)を頼むことになったのだけれど。

 

 

「と、言われましても。私、自身に触れた物しか移動は出来ませんわよ?」*4

「それに関してはお任せを。私を誰だと思っていらっしゃいます?」

「誰って、キリアさん……って、あ」

 

 

 そうして頼まれた黒子ちゃんはと言うと、彼女の能力である『空間移動(テレポート)』は、自身が触れた物しか移動できないため、コーヒーの場合はカップしか動かせないし、そもそも液体中に混ざり込んだ塩のみを飛ばすのは──実際(原作)の彼女がどうなのかはいざ知らず、ここにいる自分ではレベルが足りない……と断る気配を見せていたのだけれど。

 そこで『私がどういう人物なのか』ということを尋ねてみると、彼女は信じられないとでも言いたげな表情で、こちらを見詰めてくるのだった。……よせやい、照れるだろ?

 

 

「え、いえでも、確かにアニメでは多種多様、魔術だろうと科学だろうとお構いなしに強化していらっしゃいましたが……ホントに?」

「お任せあれ、です。今回必要なのは、『接触対象の範囲拡大』と『溶液内の個体の分別』ですね?」

「え、あ、はい」

「では、そちらの観測と貴方に対しての感覚の変換器の役をしますので、黒子さんはそれを使って塩だけを取り除いてください」

「う、承りましたわ……」

 

 

 未だに驚愕の表情が抜けない彼女に、思わず苦笑をしつつ。

 改めて、自身が現在『キリア』であることを意識する。……自身の組成というか、霊的な感覚というかが組み変わったことを認知しつつ、そのままコーヒーへと意識を向ける。

 

 その内に溶けた塩の粒子を『掴んだ』私は、視線を逸らさぬままに黒子ちゃんに手を伸ばした。

 アニメでの()()と同じ行為に、やるべきことを悟った黒子ちゃんが、小さく頷いて。

 

 

「……できましたわ」

 

 

 呆けたような彼女の言葉と共に、いつの間にやらこちらに視線を向けていたらしい、周囲からの歓声が重なる。

 彼女の視線の先には、テーブルの上のティッシュに、山のようにこんもりと盛られている塩の塊が。

 

 つまり、彼女は直接触れていない液体内から、特定の物質のみを個別に移動させることに成功した、というわけである。

 ……うんうん。私は黒子ちゃんはやればできる子だと思ってたよ?

 

 

「……なるほど。これは確かに、大変な能力ですわね」

「そう?誰かを助けるだけの能力だし、そう凄いモノでもないと思うんだけど……」

「……はぁ。当の本人がこれでは、周囲の苦労が偲ばれますわね……」

「……???」

 

 

 そうしてうんうんと頷いていたら、黒子ちゃんから返ってきたのは呆れたような顔。……あれー?やったー、って反応が返ってくるのならわかるんだけど、そこでそんな残念な生き物を見るような視線が飛んでくるとは思ってなかったなー?

 

 

「当たり前でしょうに。……人型の『幻想御手(レベルアッパー)*5……いえ、副作用がないのですからそれ以上。先ほどの感覚は、私の限度を超えたモノだった──ともすれば、これの為だけに貴方を囲いこみたい、という誘惑をもたらすほどに」

「……はえ?」

「わかりませんの?……貴方を巡って戦争が起きかねない、と申したんですのよ、私」

「え゛」

 

 

 ところが、彼女が続けて述べた言葉に、私は思わず驚愕する羽目になったのである。

 その内容とは、下手するとここで私を巡っての聖杯戦争が勃発するかも、というもの。

 

 ここにいる面々は、自身の『覚醒度』に困窮している者が多い。

 それゆえに、自身の能力を高めることに、わりと積極的なのである。……ハジメ君やソルさんの態度も、その鍛練の内の一つであるそうだし。

 

 そんな状況下で、単に触れるだけで能力を──しかも魔力や気、科学や超能力の区別なしに強化できる存在が居たとして。

 それが争いの火種にならないはずがない、と彼女は告げているのだった。……要するに平和ボケしてるぞお前、ということである。

 

 

「……その、さっきまでの行為を無かったことには……?」

「無理ですわね。皆さん確りと見ていらっしゃいますし」

「……ぬ、ぬぐぐぐ!仕方ありません、この手は使いたくなかったのですが……平和に過ごすには、仕方ありません!」

「……え?ちょ、キリアさん?一体何をするおつもりなので……」

助けてメルクリウス(カモンバーニィ)!」*6

「え゛」

「ふははははお呼びかな我が華!」<ガシャ

「窓ガラスがっ!?」

 

 

 進退窮まった私は、仕方がないので苦渋の選択でどうしようもないので唯一最後の選びたくない対処法を、この期に及んで躊躇しつつも選び取る。

 黒子ちゃんは私がなにをしようとしているのかわからないため、困惑と共に声をあげていたけど。……食堂の窓ガラスを砕き(最後のガラスをぶち破れー)ながらシュタッ、と着地したとある人物の姿を見て、思わずといった風に眉を顰めていた。

 

 ……そう、私が選んだ対処法とは、既に私は傅かれていますよー、と示すことだったのだ!(ヤケクソ)

 

 

「その通り。我が華に謁見を望むことは、私の屍を越えることと同義と理解するがいい。──無論、兄等にそれが叶うのであれば、という注釈は付くがね」

 

 

 バチコーン、という擬音が付きそうな感じのウインクをこちらに飛ばしてくるメルクリウスさんに、引き攣った笑みを返しつつ。

 どうしようもないので、彼の背に隠れるような位置に移動する私である。

 ついでに、そっと彼の背に触れて彼の威圧感を嵩増しすることも忘れない。……よもや身の危険を別の方面で感じる羽目になるとは思わなかったのだ、背に腹は代えられまい。

 

 

……ふむ、我が華はやはり……

 

 

 あと基礎スペック的にこっちの事情見通してるっぽいメルクリウスさんは、やっぱりヤベーやつなので今後この手は使わないでいたいと強く願う次第である。……どうせならマステリさんの方を呼べば良かったかもしれない。

 

 ともあれ、単純スペックのみなら現リーダーすら凌ぎ得る、とされるメルクリウスさんの威容に、瞳の中に危険な光を宿し始めていた者達も、こりゃ無理だと諦め始めていたので、対処法としては正解だった、と言うしかないだろう。

 ……問題があるとすれば、

 

 

「……知るかよ。テメェの骸を越えろ、だぁ?……上等だ、消し炭にしてやる」

「……ほう?吼えたな残り火風情が」

「え、ちょっ!メルクリウスさん!ストップストップ!!」

「む?……まぁ、我が華に言われては仕方ない」

 

 

 その剣呑なやり取りを求める者の内に、対面の席の二人が含まれていた、ということだろう。

 

 そのまま戦闘が始まりそうになったのを、どうにか収め。

 改めて、なにかを言いたげにしている二人に視線を合わせる。

 

 そうして、犬猿の仲である二人は、その異なる口で、同じ言葉を発したのだった。

 そう、『自分を鍛えてほしい』と──。

 

 

*1
干物の一種。イワシ類の小魚を塩漬けにしたあと、目から下顎へ串や藁を通して数匹纏め、そのまま乾燥させたもの。すなわち『目刺』である。基本的には焼いて食べる

*2
ソルの本名は、フレデリック=バルサラ。基本的にはそちらの名前で呼ぶのはごく少数、彼と親しい間柄の人物のみ。名前の元ネタは、英国のロックバンド『queen』のヴォーカリスト『フレディ・マーキュリー』及び彼の本名『ファルーク・バルサラ』から

*3
ごくごく稀にある間違い。一応、一般的な上白糖と塩であれば、塩の方が粒子が大きいらしい……が、味見をせずに見分けるのは、意外と困難である。なので、容器にラベルを貼るなどしてキチンと区別して置かないと、意外と頻発する間違いになったりもする

*4
『空間移動』系の能力の場合、自身に触れていないモノも動かせるようになると、レベル的には『5』相当になるのだとか(他にも条件はあるが)。『とある』シリーズ作中にも該当する人物は存在するが、トラウマから全力を出せない為レベル4に甘んじている。仮に全力を出せた場合、地球規模での能力行使ができるようになる可能性があるとかなんとか

*5
『とある科学の超電磁砲』に登場したアイテム。能力者のレベルを上げるとされるもので、実際に使用者は無能力者が能力を使えるようになったり、自身のレベル以上の現象を起こせるようになったりした。……その分、デメリットがキツかったが。なお、名前の似たアイテムに『巨乳御手(バストアッパー)』が存在する。元々は同作の佐天涙子が原作では控えめな体型だったのが、アニメになって大きくなったことに対してのネタのような言葉だったのだけれど……?こちらの方の類語には、『BLAZBLUE』発の『夢盛り』が存在する

*6
『カモンバーニィ』は、『スターオーシャン』シリーズに登場する特技の一つ。謎の生物『バーニィ』を呼び出し、その背に乗る。ワールドマップでしか使えないが、乗っている間はエンカウントが発生しない・移動速度が上がるなどの恩恵がある


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