なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「えーと、つまり……お二人が今日話し掛けてきたのは、そもそもに私に協力を取り付けるため、だったんですか?」
「まぁ、そういうことになるか」
あわや大惨事、という状況から数分後。
メルクリウスさんがいると、和やかな会話とはならないのは目に見えていたため、あとで構ってあげますからと言いくるめ*1て部屋に戻したあと。
改めて座り直した私達は、彼等が今日声を掛けてきた目的について、あれこれと話を聞いていたのだけれど……。
その内容は、先ほどの黒子ちゃんが言っていたこととそう大差の無い、『自身の覚醒度の底上げ』──そのための仕事のお誘い、といった感じのモノだった。
さっきのあれこれを見る前にやって来ていた辺り、アニメの方の『マジカル聖裁キリアちゃん』をよく知っている人物がいる、ということで間違いなさそうである。……切腹していいカナ?
「落ち着かぬか!そもそもどこから出したその
「止めないで下さいミラさん!我が恥は末代なれば、ここにて禊ぐが定めなのです!」
「キャラまで意味不明になっておるじゃと!?」
黒歴史以外の何物でもないというのに、現在進行形で増え続ける『キリアちゃん』のあれこれ。
最近映画化まで決まったとか言ってた気がするし、これ以上積み重なる前に終わらせなければならないのかもしれない……!
そんな私とミラちゃんの楽しいやりとりを見て、二人はポカンとした間抜けな表情を晒していたのでしたとさ。
「……あー、話を続けてもいいか?」
「はい、構いませんよ。あの二人のあれは、一種のじゃれあいのようなモノですから」
なお、アスナさんからの扱いはご覧の通りである。……やっぱりこの人、
「え゛、お二方はチームなのですか?」
「そうだが……なんか文句でも?」
「……
「……今、なんかニュアンスがおかしくなかったか?」
「其奴の戯言を一々気にしておると、胃が持たぬぞ」
「……そういうもんなのか?なんか、イメージと違うような……?」
改めて二人から話を聞く内に、彼等がチームであることを知った私。
犬猿の仲、もしくは竜虎のような間柄*4の二人を、同一の集団に入れる……という現リーダーの采配に、思わず首を捻ってしまうわけなのだが。
その片割れであるハジメ君はと言えば、何故かこちらを見ながら、時折眉根を寄せているのだった。……えっと、またなにかやっちゃいましたかね、私。
そんな風に、暫し見つめ合う二人。
「……目と目が合う」
「……瞬間好きだと気付いた……?……って、あ」
「…………」*5
……あー、うん。
あからさまにしまった、という顔をするハジメ君と、そんな彼の様子に気付かず、これからの行動について話を続けているソルさん他二人。
他には気付かれていない、ということを確認した私は、視線で彼に「話に戻りましょう」と告げ、それを受けた彼は、不承不承といった様子で一つ頷いてくる。
どうにも、彼は私が『キリアじゃないんじゃないか?』という疑念を抱いていたらしい。
アニメの中の生真面目なキリアしか知らなかった彼は、幾分フランクな今の
その結果が先ほどまでの行動であり、それをやった結果として──、
(……このハジメ君、
こちらにも、
ちょくちょく変だな、と思う点はあったものの、姿形が変貌したあとの彼の姿だったので、そこまで深く追及はしていなかったのだけれど。
変貌後の彼に、アニメや漫画を積極的に楽しむようなイメージはない。そんなことをしている暇があるのなら、自身の戦力アップに努めるなり、嫁達に貪られるなり、もっと別のことをしていることだろう。
……つまり。今の私に違和感を覚えるほどに、
(……【継ぎ接ぎ】、かな?)
例えば五条君のような、あとから
すなわち、今の彼は。
変貌前の彼に、変貌後の姿を被せた存在……だということになるのだろう。
こちらに違和感を覚えていたのも、彼が
そうなると、彼が私に接触を求めてきた理由は、わりと切実なものになるのかもしれない。……と、隣で熱く議論を続けているもう一人、ソルさんの方に視線を向ける。
ソル=バッドガイは、その名に反して別に
圧倒的な火力を持ち、敵対者を焼滅する……というイメージが付き纏うが、根が科学者であるためか、実は戦闘センスが高い訳ではないらしい。
それゆえに、
今の彼を見て貰えればわかるが、こうしてあれこれと会話をしている今の彼に、さっきまでの苛烈さは見えない。
科学者としての知性は見えるかもしれないが、話も聞かずに全部燃やせばしまいだろ、とでも言いそうな部分は、少なくとも見えてこない。
と、なれば。
この二人がチームを組んでいるのは、
色んな意味で、似た者同士。鏡の如く互いを写すことで、自身の問題点に気付かせようとした、みたいな?
まぁ、お察しの通り、その企みが上手くいっているとは、現状言えないわけなのだけれど。
「おい、ふざけんなソル。そりゃ俺の領分だ」
「あ?……うざってぇ。だったらどっちが上か、今の内にはっきりさせとくか?」
「……上等だ、表出ろこの燃えカス野郎」
「……泣かす」
……ハリネズミのジレンマかな?*8
いや、この場合の針は
端から見ればまさに売り言葉に買い言葉、一触即発の光景にしか見えないそれに、周囲が慌てふためいているけれど。
よーく会話を観察してみると、所々に数瞬、言い淀んだあとが窺える。……己の存在を確固足るものにするために、攻撃的な言葉を使わなければならないけれど。本当は、そこまで他者を攻撃したいわけでもない……。
まさしくジレンマ、というやつになるのだろうか。
ここまでわかってて一緒のグループにしたというのなら、そのあとのアフターケアも確りして欲しい、と愚痴りたくなるレベルである。
ともあれ、二人が内心では「もうちょっと歩み寄りたい」と思っているのは、ほぼ間違いないだろう。
なので、ここで私が取るべき行動は……。
「……はぁ。わかりました。お二方の仕事への同行、でしたよね?──お受け致します。それが貴方方の成長の糧となるのなら、喜んで力をお貸ししましょう」
「……随分と急な心変わりだな」
「自身の使命を思い出しただけです。ですから、お二方は席にお戻りになってくださいな」
「……ちっ」
「お、おお……一時はどうなることかと……」
今にも外へ飛び出し、殴り合いでも始めそうな二人の背に、声を掛けること。
元々、彼等が言い争う結果になったのは、私が彼等への同行を渋った……というと語弊があるが、暫くそれを熟考していたがためである。
その結果、あれこれと彼等がこちらの気を引くような案を出し始め、それが互いの不和を呼んだ……という、まさしく『
ともあれ、私が彼等への同行を表明したことにより、言い争う必要のなくなった二人は、渋々といった様子で席に戻ってきた。……表情こそ不満げだが、なんとなく嬉しそうな気配がある辺り、やはりこの二人、外見はともかく内面的にはそこまで好戦的な人物、というわけではなさそうである。
まぁそうなると、ハジメ君が変貌前のモノだとするなら、ソルさんの方がどうなっているのか?……という疑問が浮かび上がらないでもないのだが……。
こっちには居ないのではないか、と思っていた【継ぎ接ぎ】らしき人物が居る以上、
「その場合の問題は……
「……?なにか言ったか?」
「いえ、単なる独り言です。お気になさらず」
「……まぁ、いい。で、だ。同行を願いたい案件についてだが……」
こちらの呟きに、ソルさんが小さく眉根を寄せるが、なんでもないとごまかして、話の先を促す。
暫し怪訝そうな表情を浮かべていたソルさんは、小さく舌打ちをしたのちに、話の続きを述べ始めた。
そんな彼の話を聞きながら、私は隣のミラちゃんの脇腹を小突く。突然の衝撃に軽く跳び跳ねたミラちゃんが、恨めしそうな視線をこちらに向けてくるが……すまんなミラちゃん。恨むんなら恨んでくれてよいぞ。
突然にこやかな笑みを浮かべた私に、ミラちゃんが怪訝そうな表情を向けてくるが……もう遅い!
「ところで、同行するにあたって一つ、お願いがあるのですが……」
「……なんだ、なにかあんのか?」
「はい。私一人ではお二方のサポートをするには不十分かと思います。ですので、」
「ぬ?」
「あ?」
ソルさんに意見を告げながら、するりとミラちゃんの右手を掴み、それを天に掲げさせる。
……端的に言うのであれば、挙手させた。
「彼女の同行も、許してくださいね?」
「は?」
「……好きにしろ」
「ありがとうございます。……一緒に頑張りましょうね、ミラさん?」
「……は?」
究極的には、自分は部外者である。
……そんなスタンスでいたはずなのに、いつの間にか騒動の渦中に放り込まれていたミラちゃんはといえば。
暫くの間、「は?」と言い続ける機械となっていたのだった。
……悪いなミラちゃん。一緒に地獄に落ちてくれ……!