なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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出張先でさらに出張とか怒られるやつ

「解せぬ……」

「それ、サウザーさんの台詞では?」*1

「喧しい!こんな単純な文章にまであれこれ言われては堪らぬわ!……って、そういうことではなくてじゃのぅ!!」

「まぁまぁ、落ち着いてください。そんなに怒っては折角の可愛い顔が台無しですよ?」

「むぅ、わしかわわしかわ……って、そうでもないわ!」

「もー、ああ言えばこういうんですから」

「誰のせいじゃ誰のっ!!」

 

 

 初っぱなから言い争っている(正確には一方だけが捲し立てている)状況に、気のせいか二人が唖然としているような気がしないでもない今日この頃。皆様如何お過ごしでしょうか?

 

 二人の仕事だという外への出向に、ミラちゃんを交えて付いていくことになった私。

 唯一ハブられる形になったアスナさんからの見送りを背に、私達は意気揚々?と『新秩序互助会』の施設から外へと出たわけなのですが……。

 

 

「冷静に考えると、土管の裏からこんな格好の人物達が出てくるとか、ヤバい案件以外の何物でもないと思いませんか?」

「……気にすんな。この辺りには予め、認識阻害の結界を張ってある」

「寧ろ張ってない方があり得ないですからね?防犯意識どうこう以前の問題です」

 

 

 立地が立地(空き地の土管の裏)なだけに、出てくる時の姿を周辺住民に見られてしまったら、とんでもない騒ぎになるだろうなぁ……と苦笑してしまう私である。

 

 変な格好の人物達という時点で大概だが、それに加えてなんの変哲もない土管の裏から、人がわらわらと飛び出してくるのである。……一体その土管の裏はどうなっているんだ、と気になってしまうのが普通だろう。

 いやまぁソルさんの言う通り、認識阻害などの対策はしっかりと行っているのだろうけども。

 

 

「世の中には見えないからこそ見える、とかいう訳のわからない勘を持つ人もいらっしゃいますし。警戒はもっと厳にすべきだ、と思わなくもないんですよね」*2

「……その分の人員が足りてねぇ」

「積極的にやりたがる奴もいねぇしな」

「あー、なるほど。マンパワーの不足……」*3

 

 

 もしもの時のために、入り口付近に緊急用の詰め所でも作っておいた方がいいんじゃないかな?……なんて風にも思わないでもなく。

 その辺り、関係者以外はそもそも立ち入れないような造りになっている*4向こう()とは違うんだなー、と思わざるを得ないというか。……意外と資金的には潤沢だよね、なりきり郷。

 

 そんな些細な差異を確認しつつ、二人の背中を追って歩き始める私と、ぶつぶつとなにかしら呟きながら付いてくるミラちゃん。

 

 

「まぁまぁ、ほらこれあげますから、いい加減機嫌を直してくださいな」

「……お主、わしのことを幼女かなにかと思っておらぬか?」

「……?○ピコ好きですよね?え、もしかして嫌いでした?」*5

「答えになっとらんのじゃがのぅ……まぁ、貰うが」

 

 

 仕方ないので、御機嫌取りに懐に忍ばせていた、わけあえるアイスを片方差し出しておく。

 どうやって保存しとったんじゃそれ、という疑問には「禁則事項です♡」と返しておきつつ、蓋を千切って中身を吸い始める私であった。

 

 ……なお、前方を歩いていたハジメ君が、こっちを見て『やっぱり』みたいな顔をしていたが……食べ歩きするのはキリアのイメージではない(イメ損)*6、とでも思っているのだろうか。

 まぁ、そうやってこちらのことを気にしている辺り、順調に墓穴を掘っているようなものだとも言えるため、私としては特に気にすることもないのだが。

 

 そんな感じで歩きながら、二人の背を付いて歩くこと暫し。

 人気のない場所から、徐々に人気の多い場所へと移動している私達だけれど……。

 

 

「ふむ、これに関しては羨ましい限り……ですね」

「仕事の時でもないと借りれないんじゃがの」

「……それはまたなんとも」

 

 

 時折周囲の人達がこちらに視線を向けた来たりするものの、特に興味を持たれた様子もなく、それゆえに騒がれることもない。

 ……コスプレイヤーだとすら言われない辺り、中々に高性能なアイテムだ、と舌を巻かざるを得ないだろう。

 

 そう思いながら見つめる先にあるのは、自身の胸元に飾り付けられた一つのブローチ。

 

 これは、対象範囲はそれを身に付けている当人のみ……と極短距離ながら、BBちゃんのごまかしに勝るとも劣らない隠蔽性能を持つ、高性能ジャミング機器なのである。

 その辺りのごまかしに関してはBBちゃん頼りのこちらとしては、わりと喉から手が出そう*7な感じの便利アイテム、と言えなくもないだろう。

 

 ただ、ミラちゃんの言うようにそもそもの総数が少ないらしく、たまの休暇に外に出る……というような用途では、貸し出しをして貰えないとのこと。

 それゆえ、前回の列車云々の時にミラちゃんは、こちらに自身が何者であるかをということを、そのまま晒す結果になってしまったのだとか。

 

 

「夏油さんの変装は、これ以外の方法も使われていたので?」

「恐らくはのぅ。わしを含めて『新秩序互助会(あそこ)』の面々は、()()()()について随分と疎い。……ゆえに、お主達からしてみれば瞭然のものであったとしても、わしらに取っては未知のモノ……ということも頻発するでな」

 

 

 なお、夏油さんの場合はこれを使っていたかはよくわからない、とのこと。

 このブローチにあるのは、自身の姿をごく普通の一般人のモノに偽装する、という機能のみ。

 姿形、その触感に至るまで偽装していた彼の場合、単純になにかしらの変装・変身系の異能なりなんなりが関わっていると思われるのだが、それを誰が施したのかまではわからない……とのことだった。

 

 一応は特殊メイクだったのだから、全部自分でやったんじゃ?……という予想もないではないが、あのレベルになるとそれ専門の人物が手を貸したと考える方が普通。

 そして、変身したと誤認するレベルの特殊メイク使い、となれば知っているキャラである可能性が上がるわけで、そういう意味でもちょっと気にならなくもなかったのだが……。*8

 どうにも『新秩序互助会』に所属する面々は、自身が今の姿になる前……彼等で言うところの『転生前』の知識に関して、思い出せない・ないし思い出そうとしない人物が多いらしく。

 

 結果、自分と同じ世界観の人物でもない限り、どれほど世界的に有名なキャラクターであれど、一目見ただけではわからない……というようなことが頻発するようになっていた、とのことだった。

 これは、『新秩序互助会』でやけに『マジカル聖裁キリアちゃん』の知名度が高いことにも関係しているらしく……。

 

 

「──知識の補填のために?」

「アベンジャーズシリーズ*9と似たようなもんだな。複数作品のキャラクターが、基本的にそのままの性質・性格で登場するってんだから、とにかく人相を覚えたいって奴にはもってこいなんだよ」

 

 

 態度こそ素っ気ないが、口調の方はわりと熱い感じでそう語ってくれたのが、なにを隠そうちょっと目が輝いているハジメ君である。

 ()()()()()()、という以上は記憶は自身の中にある*10わけで、それを思い出すのに複数の作品が登場するクロスオーバー作品、というのは色々と都合が良いものらしく。

 

 積極的に思い出そうとしない人物も多いため、その対処として『新秩序互助会』では件のアニメが、ヘビーローテ*11でずっと放送され続けているチャンネルを用意する……という、暴挙以外の何物でもない行為が罷り通っているのだという。

 

 なので、自分がキリアをよく知っているのはおかしくないんだよ、というのがハジメ君の主張なわけだが……、ミラちゃんがその話を知らなかった辺り、彼が積極的にアニメを見ていた、ということの否定にはならないわけで。

 幾分片手落ち感のする言い訳だな、としか思えないのであった。

 

 ……ところで、やっぱりこの潜入任務、私を恥ずかし殺すためのモノなんじゃないかな?

 つい先ほどの食堂のあれこれもそうだが、予想以上にこちらでの知名度が高い理由を知った私は、頭を抱えたくなる気持ちを抑えつつ、ハジメ君をからかい続けているのだった。

 

 

*1
『AC北斗の拳』におけるサウザーの勝利ボイスの一つに該当。が、別に彼が発祥というわけでもない

*2
『空の境界』黒桐幹也など。違和感がないことが違和感、なんて意味のわからない理由で見破ってくる者も居るので、結界術に妥協点なぞ存在しないことを教えてくれる

*3
何事もそれをやる人員が居なければなりたたない、という話。最近は機械化が進んで必要な人員も少なくなってきているが、それが『0』になることは恐らくないだろう。限りなく『0』に近付くことはあるだろうが

*4
エントランスは普通の雑居ビル。正面ロビーから各階に移動する際、許可のない人物は『雑居ビル内にしか』入れないようになっている(雑居ビル部分は名目上の会社が居を構えており、そちらへのアクセスは普通にできる。無論、その会社は国の機関)

*5
『パピコ』は、『江崎グリコ』が1974年から発売しているチューブ型氷菓の名前。冷蔵庫で固めてもシャーベット状になるだけである為、基本的には冷やして食べるのが一般的。二本一セットである為、他者とわけあうことも多い。……同じく二つしか入っていない『雪見だいふく』に対し、わけあうことへの抵抗感が薄い気がするのは、そもそも一本でもわりと満足できる量があるから、なのだろうか?

*6
『イメージを著しく損なう表現』の略。『イ著損』とも。元は『ウマ娘』関連のネットスラング。実在の競走馬をモチーフにしている為、それらの競走馬のイメージに被害を与えるような表現(主にR18)を『イメ損』と表して注意していたのが始まりだと言われている。……公式が一番損なっているのでは?とか言ってはいけない

*7
飢餓状態が由来とされる言葉。喉から手が出るほどに空腹である、腹が減りすぎて手でモノを持って食べる手間すら惜しい、といったような状況からのものだとされるが、詳細な由来は不明。『衣食足りて礼節を知る』という言葉があるように、礼儀やマナーを気にできるのは余裕があってこそ、というのも確かではある。同時に空腹に耐え兼ね犬食いをする人がいても、おかしくはなかったのだろう。そんな感じに、由来を考えるとちょっと闇深かもしれない表現

*8
因みに、特殊メイクを主題とした作品、というものも幾つか存在している。例としては『週刊ヤングジャンプ』にて連載していた、原作・金成陽三郎氏、作画・薮口黒子氏の『ギミック!』や、高岡佳史氏の『倉本さんはどうして死体をつくるのか?』など。作品単位でなく作中に登場しただけ、となれば該当作品はさらに増える為、ちょっと気にして読んでみるのも面白いかもしれない

*9
『マーベル・コミック』にて連載されている、複数のスーパーヒーロー作品の主人公達が一同に介したクロスオーバー作品。その中でも、今日に至るまで映像作品などが発信され続けているものの一つ。実際はクロスオーバー作品である、ということを知らないと、よく分からない設定なども数多い。映像化されているものに関しては基本シリアスだが、作品によってはヒーローとヴィランの立ち位置が入れ替わったもの(『アベンジャーズ&X-MEN:アクシス』)、敵味方の区別なくゾンビになってしまったもの(『マーベル・ゾンビーズ』)など、結構はっちゃけた作品も多かったりする

*10
『知らない』のではなく『思い出せない』のであれば、その記憶は脳のどこかに眠っているだけだ、というお話。記憶と言うものは消した(忘れた)つもりでも『それを記憶した時と同じ状況を整える』ことなどによって、思い出せることがある。その記憶を保持している脳細胞が物理的に失われた(例:『とある』シリーズの上条当麻など)わけでもないのなら、記憶はどこかに残っているわけである

*11
『ヘビーローテーション』の略。特定かつ単一の作品を繰り返し長時間視聴すること、及びそうなるように何度も繰り返し放送すること


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