なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
山が哭いている、とでも言うかのような木々のざわめきを耳にしつつ、揺れる地面の先……木陰に隠れた巨大な何者かの姿を見つめる私達。
暫しの時の後、地響きと共に私達の目の前に姿を現したのは……。
「なるほどのぅ。……こやつが山の主、というわけか」
「言ってる場合か。想像以上にデカイぞ、コイツ」
「なんだ、怖じ気づいたのか?」
「──誰がっ!」
「はっ、そんだけ吼えられるなら上等だ。──来るぞ」
単純な体高*1にして三メートル級、重さにして二トンに迫るだろうかという、巨大なイノシシなのであった。
その真っ白な姿には、もののけ姫の
私達に認知できるのは、同族を痛め付けた敵対者に対しての限りない憎悪に染まった、深紅の瞳のみ。
……どう考えても正気ではないが、仮に正気だったとしても近隣の田畑などを荒らしていたイノシシの元締めが、このデカブツであることに間違いないはずで。
ゆえに、こちらが取る対応も、端から決まっている。
──近隣住民の間でまことしやかに囁かれていた、『白き神』のウワサ。*3
既に
「──っ、やはり止めきれませんか!」
とりあえずとばかりに放った『影縫い』だが、どうにもこの巨大イノシシには効き目が薄いようで。
影を縫い止めていた釘達は暫し拮抗したかと思えば、カタカタと震えたのちに粉々に砕けてしまった。
……勢い余って引っこ抜かれるとかではなく、バラバラに砕け散ってしまった辺り、このイノシシは最初に感じた印象──乙事主のようという感想そのままに、その身に神秘でも纏っているのかもしれない。……聖属性のボスとなると、
ともかく。こうも簡単に拘束から逃れられてしまうと、キリアとして行えることは、原則目眩ましに程度に限られてしまう私としては、打つ手がほぼないと言い換えてしまってもたいして問題がないわけで。
「……仕方ないですね、私は
「はっ、アニメみたいなことになってきたな!」
「しゃらくせぇ、とにかくぶっ飛ばせばいいんだ
「まぁまぁ、落ち着くがよいぞソル。お主はなにも突撃するだけが能の男では……ない?はずじゃぞ?」
「おい、なんだ今の間は」
「漫才してなくていいですから!突撃来ますよ!」
「……やれやれだぜ」*4
仕方がないので、アニメでの
こちらの宣言に小さく笑みを溢したハジメ君と、その背後からイノシシに向かって
……ソルさんの
その際にミラちゃんから微妙な慰め?をされていたが……効果があったかと言われれば、微妙なところだと言えるだろう。
ともかく、こちらにがむしゃらな突進を繰り返しているイノシシを、ある程度の距離を保ちながら迎え撃っているのが現状だ。
まともに当たってしまえば、私達でもただでは済まないだろう……と感じさせるだけのモノがある突進だが、迫力こそあるものの思ったよりも速度がないため、まともに直撃する可能性はほぼゼロだと言ってしまってもいいかもしれなかったりする。
……まぁ、そうして
ともあれ、ソルさんをアタッカーに据えるのは過剰火力であるため、残った二人のどちらかにアタッカーを務めて貰いたいわけなのだけれど……。
「わしは補助に回った方がよいじゃろ?」
「このメンバーの中で、数を用意できるのは貴方だけですからね。……となると、南雲さん!貴方がメインです!」
「……なるほどな、つまりはコイツの
一人で三人分以上の撹乱が行えるミラちゃんには、どちらかと言えば引き続き、ターゲットを分散する役目をこなして貰いたい。……いざという時に相手の突進を受け止めることも、ダークとホーリーの二騎のナイトの力を合わせれば、問題なく行えるだろうし。
なにより、わざわざ生身の人間を危険に晒す必要性から解放される……という時点で、彼女が補助役から外される可能性は低いわけで。
これで、原作と同じく精霊王の加護も持ちあわせていれば、もはや『もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな?』*8……という言葉が飛び出していてもおかしくはなかったが。
残念ながらここのミラちゃんが使えるのは、原作開始時点で使えた術式がほとんど。
……
代わりに、その下げたレベルに合わせて、騎兵達の大きさまで小さくなってしまう……とのことなので、実際に取れる戦略とは言い辛いのだった。
絵面的にも、おもちゃの兵隊を指揮しているようにしか見えなくなるらしいので、手数補充をどうしても優先したい、という場合でもなければ選ぶことはないだろう。
……それぞれ一体に絞って召喚する分には問題がないらしいのと、現状の魔力……召喚容量?的な問題からして、前回彼女が見せた二騎召喚+仙術使用が、ここのミラちゃんの最強形態になるらしい。
一応、
それらの情報を加味した結果、残ったハジメ君の方を補助するという話に、自然と纏まっていくわけなのだが……。
そちらはそちらで、ドンナーを強化するのはやり過ぎかつ騒音をごまかし切れない……などの問題が予測されるため、結果として彼の素殴りを強化することになったのだった。
目指せサイタマ先生ばりのワンパン、というわけである。……いや、ホントに彼レベルになられても、それはそれで過剰火力なのだけれども。
「ではとりあえず、前準備を。──『ガード・レインフォース』!『マイト・レインフォース』!『レデュース・パワー』!『レデュース・ガード』!も一つおまけに──『シールド・クリティカル』!」
「……なんでヴァルプロ?!」*9
「え?お好きかと思ったのですが……」
「なに言ってんのか全然わかんねぇけど、とにかく補助ありがとよ!」
(……ごまかしたなこいつ……)
ともあれ、メインアタッカーが決まったのならば、こちらがするべき行動も自ずと決まってくる。
手始めに、こちらへのバフと相手へのデバフを一息にこなす……ものの、
そんな戯れ言は置いておくとして、とりあえずの下準備は整ったわけなのだが、それらのバフ・デバフの付与を見ていたハジメ君からは、なんでその魔法達なのか?……という疑問が飛んでくる。
なんでって、そりゃ中二
まさかまさか、ハジメ君の興味を引きそうな類いのモノだなー、とかそんなこと一切これっぽっちも思ってませんよ?
そもそも新作が出るとは言え、第一作目は今から二十年以上前が発売日。
最近の若い人が知っているかどうかは……スマホゲーも合ったしコラボもしてたし、案外知ってる人もいるかもしれないけれども、それでもそこまで有名かと言われれば微妙なところだし。
区分的には若い人に含まれるだろうハジメ君が、そわそわした感じに話を聞いてくることを想定していたとか、そんなことは臍で茶を沸かす*12くらいにありえないことなのでございます。
……え?なんかどこかから頼れる後輩の『……せんぱい、以前『見てみてマシュー!臍で茶を沸かせたよー!』とかなんとか言って、お臍の上で沸かしたお湯でお茶を入れてくださったことがあったような……?』みたいな台詞が聞こえてくる?
……
欺瞞にも程があるでしょ、というどこかから聞こえてきた
対するハジメ君はと言えば、自分が余計な反応を見せたことには気が付いたのか、殊更に平静を装いながら、バフの効果によって輝き始めた義手を振りかぶりつつ*13、イノシシへと突撃していくのだった。
……ハジメ君の勇気が、世界を救うと信じて!ご愛読、ありがとうございました!*14
と、ボソッと呟いてみたら、「勝手に終わらすな!」という言葉が返ってきたが。……正直そこまでやっといてごまかせてると判断するのは、ちょっとどうかと思うキリアさんなのでした。