なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「これ、で、どうだぁ!!」
「ぬぅ、意外と重いのが入っているはずなんじゃが……想像以上にタフじゃのう」
都合何度めかのストレートがイノシシに命中するのを眺めながら、ミラちゃんがポツリとぼやきを漏らす。
戦闘開始から五分ほど経過したが、相手が倒れる気配はまるでない。
純粋な生き物であれば、執拗な顎狙いの攻撃は脳を揺らし、その行動を強制的にキャンセルさせたりできるものなのだが*1……見た目ほどクリーンヒット*2していないのか、はたまた別の要因か。
ともかく、相手のイノシシは未だ健在。倒れるような気配は、今のところ見られないのであった。
「ゲームだったら、体力の減り具合もわかるんですけどね。そういうもののない現実ですと、相手が気迫で立っているだけなのか、実は全然ダメージが入っていないのかがわからないと言いますか……」
「……やっぱり、全部焼いちまった方がはえーんじゃねぇか?」
「……ソルさんはなんで科学者なのに、解決方法が全部物理なんです?」*3
「んなもん、ある程度考えて『殴った方が早い』って結論付けてるに決まってんだろうが」
「熟考した結果脳筋に至る、というお約束のパターンじゃな」*4
「後ろであーだこーだ言ってんじゃねぇよテメェら!!真面目にやれっ!」
まぁ、メインアタッカーはハジメ君一人。
彼の隙をフォローするのに専念している私達は、大して疲れてもいないため、わりと余裕がある感じなのだけれど。
相手がボスとはいえたった一体、数の暴力には敵わないのである。*5
無論、ずっと矢面に立たされ続けているハジメ君からは、次第に苛立ちと疲れが見えてきたわけなのだが。
……うーむ、相手の撃破フラグも立っていないうちに、こちら側の切り札を切るのは余り良くないのだけれど。*6
このまま泥試合*7を続けていては、その内ハジメ君がキレて
そうなると魔王一直線なので、できればそのフラグはへし折っておきたいところである。
「……仕方ありません。向こうの切り札より先にこちらの切り札を切るのは、できれば避けたかったのですが……」
「え?……あ゛っ、ちょ、ちょっと待てキリア。気が変わった、もう少し様子を見よう!なっ!?」
「いいえ、南雲さんの身体的疲労も恐らくはピーク。……これ以上の様子見は互いのためになりません。──行きますよ、南雲さん」
「話を聞けぇっ!?って、うおわっ!?」
敵方にこちらの切り札を破られてしまうフラグも立っているような気がするが、逆に言うとそのフラグを踏まない限り、この膠着状態は進展しない……ということでもある。*8
であるならば、そのフラグのあとに逆転へのフラグが待っていることを信じて、ここは臆せず攻めざるを得ないのだ。
……というような理由より、ハジメ君の制止を意図的に無視して、彼の隣に近付く私。
こちらに声を向ける彼を横目に、その義手に自身の手を添える。……恋愛経験のない男性みたいな驚き方してるんですけど、その見た目で純情なのはわりとあれでは?みたいな内心を押し隠しつつ、そのまま彼の義手に意識を向け続ける。
──前に言っていた、『キリアの方がFFR』である。
『──【
「ちょっと待て!これ過剰火力だろどう考えても!」
『出力調整はこちらでしますので、南雲さんは単に思いっきり殴って頂くだけで大丈夫です!』
「本当だな!?信じていいんだな!?」
彼の義手と一体化した私は、そのまま義手の構成概念を上書き・成長させ、黄金に輝くモノへと変じさせる。……アガートラムとかヒートエンドとかできそうな感じ*9のその輝きに、ハジメ君は焦ったような声をあげるが……、出力調整は私が行うため、彼には難しいことを考えずに相手を殴ることだけを要求しておく。
その言葉を反芻しながら、彼はイノシシへと向けて歩み始める。その速度は次第に増し、歩きから走りへ、走りから疾走へと変わっていき。
「いい加減、くたばりやがれぇぇぇえっ!!!」
大きく振りかぶった拳は、そのままイノシシの鼻っ面に向けて突き進み。
──謎の光の壁のようなものに、甲高い音を立ててぶつかることになるのだった。
「んなっ!?」
『これ、はっ!南雲さん、下がって!』
殴り付けたハジメ君はわからないのかもしれないが、義手に憑依している私には、この光の壁がなんなのかすぐに理解できた。──そして、次に起こる現象も。
ゆえに、彼に退避を推奨するも……
神秘による反応装甲*10とでも呼ぶべきそれは、こちらの物理攻撃を受け、活性化し。
「キリア、南雲!双方無事か!?」
「吹き飛ばされる直前で
後ろに控えていた他二人の元まで吹き飛ばされてきた私達だったが、その派手な爆発によって憑依こそ解除させられたものの、ダメージ自体はさほど受けていなかった。
それもそのはず。憑依して全力全開……とでも言う風に振る舞っていたものの、殴りの威力自体は先ほどまでの──ハジメ君の普通の殴りと同程度に抑えていたため、本来相手が想定していたであろう威力の、半分にも満たない爆発になっていたのだから。
向こうはこちらの切り札に対し、後出しで切り札を撃ってくるだろう……という、事前の予想通りになった結果、上手くあしらうことができたというわけなのだった。
そしてそうして相手の反応を誘うことで、相手がなにを切り札にしていたのかについても、なんとなく予想が付いたわけで。
「と、言うと?」
「さっきの光の壁、私が触れていたので解析が叶いましたが……恐らくですが、
「……ふむ?」
ミラちゃんからの問い掛けに、自身が先ほど光の壁に義手と一緒になって触れた時、感じ取った情報を伝える。……あの光の壁は
告げられた二つの単語に、ミラちゃんは訝しげな色をその顔に浮かべる。
それもそのはず、その単語が二つ並ぶと言うことは……。
「お察しの通りですよ。……恐らくですが、あのイノシシには
「それは……なんとも厄介な」
結論を述べた私に、ミラちゃんは露骨に嫌そうな表情になった。
今回はそうでもないが、『神』『ポケモン』が一緒に語られる状況と言うのは、本来あまり宜しくない状況なのだから、彼女の反応ももっともである。
創作界隈において、『神』という言葉はわりと色々なところで頻出するものである。
本来の『神』──一神教のそれだとか、はたまた神道などにおける八百万の神々だとか、そういう超常のモノ以外でも、単に凄い力を持つ者に対する称賛としても使われるのが『神』という単語だが。
その実、『神』という呼び方で本当にヤバいモノ、というのは意外と少ないものである。
本来の
概念だとか現象だとか、人が幾ら集まっても変えられないようなモノであるのが本当の『神』であり、数々の創作の
……が、例えばハジメ君のところの神と呼ばれたモノのように、創作界隈に登場する『神』というものは、基本的に(たゆまぬ努力や相応の力量は必要だとはいえ)倒せるモノ、殺せるモノであることが多い。
雑に言ってしまえば、神として
ところが、ポケモン世界の『神』というのは──作中の描写からすると、その本来の『神』に近しい存在だと思われるモノが存在しているわけで。
それが、『神』と『ポケモン』という単語が一緒に語られると、なんとも嫌な気分になる理由の一因……ということになるのだった。
……一因ってことは、他にもあるのかって?勿論、
ともあれ、目の前のイノシシが神の因子を持っていても、あの創造神とは別物であるのは見ればわかる。
混ざっているのは……うり坊からマンモスに進化するアイツだろう。*13
そう確認しながら、これからどう対処していくかを話し合う私達なのであった。