なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

250 / 1003
まっくのうち!まっくのうち!

「これ、で、どうだぁ!!」

「ぬぅ、意外と重いのが入っているはずなんじゃが……想像以上にタフじゃのう」

 

 

 都合何度めかのストレートがイノシシに命中するのを眺めながら、ミラちゃんがポツリとぼやきを漏らす。

 

 戦闘開始から五分ほど経過したが、相手が倒れる気配はまるでない。

 純粋な生き物であれば、執拗な顎狙いの攻撃は脳を揺らし、その行動を強制的にキャンセルさせたりできるものなのだが*1……見た目ほどクリーンヒット*2していないのか、はたまた別の要因か。

 ともかく、相手のイノシシは未だ健在。倒れるような気配は、今のところ見られないのであった。

 

 

「ゲームだったら、体力の減り具合もわかるんですけどね。そういうもののない現実ですと、相手が気迫で立っているだけなのか、実は全然ダメージが入っていないのかがわからないと言いますか……」

「……やっぱり、全部焼いちまった方がはえーんじゃねぇか?」

「……ソルさんはなんで科学者なのに、解決方法が全部物理なんです?」*3

「んなもん、ある程度考えて『殴った方が早い』って結論付けてるに決まってんだろうが」

「熟考した結果脳筋に至る、というお約束のパターンじゃな」*4

「後ろであーだこーだ言ってんじゃねぇよテメェら!!真面目にやれっ!」

 

 

 まぁ、メインアタッカーはハジメ君一人。

 彼の隙をフォローするのに専念している私達は、大して疲れてもいないため、わりと余裕がある感じなのだけれど。

 相手がボスとはいえたった一体、数の暴力には敵わないのである。*5

 無論、ずっと矢面に立たされ続けているハジメ君からは、次第に苛立ちと疲れが見えてきたわけなのだが。

 

 ……うーむ、相手の撃破フラグも立っていないうちに、こちら側の切り札を切るのは余り良くないのだけれど。*6

 このまま泥試合*7を続けていては、その内ハジメ君がキレて()()()ハジメ君になってしまいかねないと言うのも事実。

 そうなると魔王一直線なので、できればそのフラグはへし折っておきたいところである。

 

 

「……仕方ありません。向こうの切り札より先にこちらの切り札を切るのは、できれば避けたかったのですが……」

「え?……あ゛っ、ちょ、ちょっと待てキリア。気が変わった、もう少し様子を見よう!なっ!?」

「いいえ、南雲さんの身体的疲労も恐らくはピーク。……これ以上の様子見は互いのためになりません。──行きますよ、南雲さん」

「話を聞けぇっ!?って、うおわっ!?」

 

 

 敵方にこちらの切り札を破られてしまうフラグも立っているような気がするが、逆に言うとそのフラグを踏まない限り、この膠着状態は進展しない……ということでもある。*8

 であるならば、そのフラグのあとに逆転へのフラグが待っていることを信じて、ここは臆せず攻めざるを得ないのだ。

 

 ……というような理由より、ハジメ君の制止を意図的に無視して、彼の隣に近付く私。

 こちらに声を向ける彼を横目に、その義手に自身の手を添える。……恋愛経験のない男性みたいな驚き方してるんですけど、その見た目で純情なのはわりとあれでは?みたいな内心を押し隠しつつ、そのまま彼の義手に意識を向け続ける。

 ──前に言っていた、『キリアの方がFFR』である。

 

 

──【過剰黎明(アストラライズ・エヴォケーション)】!さぁ、行きますよ南雲さん!』

「ちょっと待て!これ過剰火力だろどう考えても!」

『出力調整はこちらでしますので、南雲さんは単に思いっきり殴って頂くだけで大丈夫です!』

「本当だな!?信じていいんだな!?」

 

 

 彼の義手と一体化した私は、そのまま義手の構成概念を上書き・成長させ、黄金に輝くモノへと変じさせる。……アガートラムとかヒートエンドとかできそうな感じ*9のその輝きに、ハジメ君は焦ったような声をあげるが……、出力調整は私が行うため、彼には難しいことを考えずに相手を殴ることだけを要求しておく。

 

 その言葉を反芻しながら、彼はイノシシへと向けて歩み始める。その速度は次第に増し、歩きから走りへ、走りから疾走へと変わっていき。

 

 

「いい加減、くたばりやがれぇぇぇえっ!!!」

 

 

 大きく振りかぶった拳は、そのままイノシシの鼻っ面に向けて突き進み。

 ──謎の光の壁のようなものに、甲高い音を立ててぶつかることになるのだった。

 

 

「んなっ!?」

『これ、はっ!南雲さん、下がって!』

 

 

 殴り付けたハジメ君はわからないのかもしれないが、義手に憑依している私には、この光の壁がなんなのかすぐに理解できた。──そして、次に起こる現象も。

 

 ゆえに、彼に退避を推奨するも……忠告が遅すぎた(もう遅い)

 神秘による反応装甲*10とでも呼ぶべきそれは、こちらの物理攻撃を受け、活性化し。

 圧倒的な暴威(閃光と爆風)を以て、私達を吹き飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

「キリア、南雲!双方無事か!?」

「吹き飛ばされる直前で防御壁(バリアー)を張りましたのでなんとか。……とはいえ、こうなってしまうと攻め辛さが跳ね上がってしまいますね……」

 

 

 後ろに控えていた他二人の元まで吹き飛ばされてきた私達だったが、その派手な爆発によって憑依こそ解除させられたものの、ダメージ自体はさほど受けていなかった。

 

 それもそのはず。憑依して全力全開……とでも言う風に振る舞っていたものの、殴りの威力自体は先ほどまでの──ハジメ君の普通の殴りと同程度に抑えていたため、本来相手が想定していたであろう威力の、半分にも満たない爆発になっていたのだから。

 向こうはこちらの切り札に対し、後出しで切り札を撃ってくるだろう……という、事前の予想通りになった結果、上手くあしらうことができたというわけなのだった。

 

 そしてそうして相手の反応を誘うことで、相手がなにを切り札にしていたのかについても、なんとなく予想が付いたわけで。

 

 

「と、言うと?」

「さっきの光の壁、私が触れていたので解析が叶いましたが……恐らくですが、()()()()()()()()()()()の合わせ技です」

「……ふむ?」

 

 

 ミラちゃんからの問い掛けに、自身が先ほど光の壁に義手と一緒になって触れた時、感じ取った情報を伝える。……あの光の壁は物理衝撃を受け止め(リフレクター)、削られた耐久値を倍にして相手に返す(カウンター)、一種の反応装甲である可能性が高い……ということを。*11

 

 告げられた二つの単語に、ミラちゃんは訝しげな色をその顔に浮かべる。

 それもそのはず、その単語が二つ並ぶと言うことは……。

 

 

「お察しの通りですよ。……恐らくですが、あのイノシシには()()()()混じって(【継ぎ接ぎ】されて)います」

「それは……なんとも厄介な」

 

 

 結論を述べた私に、ミラちゃんは露骨に嫌そうな表情になった。

 今回はそうでもないが、『神』『ポケモン』が一緒に語られる状況と言うのは、本来あまり宜しくない状況なのだから、彼女の反応ももっともである。

 

 創作界隈において、『神』という言葉はわりと色々なところで頻出するものである。

 本来の『神』──一神教のそれだとか、はたまた神道などにおける八百万の神々だとか、そういう超常のモノ以外でも、単に凄い力を持つ者に対する称賛としても使われるのが『神』という単語だが。

 その実、『神』という呼び方で本当にヤバいモノ、というのは意外と少ないものである。

 

 本来のそれら()は人の手の届かぬモノ。

 概念だとか現象だとか、人が幾ら集まっても変えられないようなモノであるのが本当の『神』であり、数々の創作のそれら()のような、打倒することは勿論、殺害することなど本来できるはずもないのが普通なのである。

 

 ……が、例えばハジメ君のところの神と呼ばれたモノのように、創作界隈に登場する『神』というものは、基本的に(たゆまぬ努力や相応の力量は必要だとはいえ)倒せるモノ、殺せるモノであることが多い。

 雑に言ってしまえば、神として()()()()のである。

 

 ところが、ポケモン世界の『神』というのは──作中の描写からすると、その本来の『神』に近しい存在だと思われるモノが存在しているわけで。

 それが、『神』と『ポケモン』という単語が一緒に語られると、なんとも嫌な気分になる理由の一因……ということになるのだった。

 

 ……一因ってことは、他にもあるのかって?勿論、創造神(アルセウス)英雄(レジギガス)を解放しろ、とか色々言いたいことはありますが?*12

 

 ともあれ、目の前のイノシシが神の因子を持っていても、あの創造神とは別物であるのは見ればわかる。

 混ざっているのは……うり坊からマンモスに進化するアイツだろう。*13

 

 そう確認しながら、これからどう対処していくかを話し合う私達なのであった。

 

 

*1
いわゆる脳震盪。脳に外部から力が加わった結果、一時的な意識障害などを発症した状態のこと。顎を殴るとテコの原理で脳が大きく揺れて頭蓋骨に衝突する為、より脳震盪になりやすい。頭を直接殴っても頭蓋骨に阻まれるが、顎による脳震盪は寧ろその頭蓋骨こそがダメージの元になる、という話

*2
野球や商売、ボクシングなどの用語。基本的には『上手くいった』ことを指し、それが使われる状況によって、意味が少しずつ変わる、といった形になっている

*3
ソルはそもそもとある場所で研究員をしていたが、その頃からマッシヴな肉体を持っていた。いわゆるインテリマッチョ、というやつである。そのわりには解決方法が大抵『ぶん殴る』である為、周囲から突っ込まれることもしばしば

*4
『何事も暴力で解決するのが一番だ』(ニンジャスレイヤー・レッドゴリラ)というわけではないが、解決手段として力業に出るのがある程度有効、という状況は少なくない。とはいえ、それで()()()()()()()()()()()()()()()ということは覚えておくべきである。考えた結果として殴った方がいい、というのはそこまで間違いとも言い切れない、という話

*5
多数決の暴力、という言葉もあるように、徒党を組むというのはそれだけでも、ある程度の抑止力などを発揮するものである。少数精鋭で相手を打ち倒す、というのは相手に隙があるからこそできること、という話

*6
『幽々白書』の蔵馬の台詞『切り札は先に見せるな、見せるならさらに奥の手を持て』など、色んな作品で述べられているもの。作劇的にも、逆境を打ち破る姿を書く方が人気を得やすい為、『先に優位に立った者ほど負けやすい』というのは確かな話。また、切り札を切って勝ちきれなかった時(の、勝てなかったという精神状態や疲労状態で)、返しの相手側の切り札を凌ぎきれるか、という問題もあり、それらを総合すると『切り札は出し惜しんだ方が良い』という話になる。無論、確実に相手を倒しきれる切り札を持つようなキャラも居たりはするし、それを出されないようにする、という形での駆け引きもありはする

*7
元々は歌舞伎用語だとされる(舞台に泥田を作り、その上で立ち回りを演じることから。次第に泥塗れになって行く姿を『醜く争う』ことに見立てたのだとされる)言葉で、綴りは『泥仕合』。本来の争点を忘れ、互いに相手の秘密や欠点を指摘しながら醜く争うこと、及びその争いそのものを指す。なので、この場での『色々とぐだぐだとした争い』を指す場合は、本来『泥臭い試合』などと記載するのが正しいと思われる。なお、最近はこの『色々とぐだぐだとした争い』を『泥試合』と表記することも増えてきているようだ(実際に『泥塗れになった試合』を『泥試合』と呼ぶこともあるようである)

*8
いわゆる新必殺技フラグ。旧来の必殺技が通用しない敵に出会し、それに対抗して新しい技を作る……という一連の流れのこと。『昔の技が敗れる』ことが次のフラグのトリガーになっている為、踏まずに進むことはできないものであると言える

*9
前者は『fate/grand_order』に登場する宝具の一つ『剣を摂れ(スイッチオン)銀色の腕(アガートラム)』、後者は『機動武闘伝Gガンダム』における主役機・ゴッドガンダムの必殺技『ゴッドフィンガー』の締めの台詞。両者とも腕が金色に光り輝くのが特徴

*10
リアクティヴ・アーマーと呼ばれる追加装甲の一つ。砲弾などを受けることで爆発し、弾を横合いから爆風で殴りつけて無力化する、というもの。装甲の内側に衝撃やダメージを通さないようにする目的の為に増設されるもので、簡易なわりに効果は結構高いのが特徴。ただし、内部は無事でも外部に爆風を撒き散らすのは確かな為、場合によっては味方に被害をもたらすことも

*11
どちらも『ポケットモンスター』の技の一つ。『リフレクター』は物理ダメージを半減し、『カウンター』は受けた物理ダメージを倍にして相手に返す。なので、一緒に使うのは実は微妙だったりする(受ける(基準の)ダメージが半減するので、与える(反射)ダメージも半減する)

*12
『Pokémon LEGENDS アルセウス』での描写より。同作では第一世代・ピカブイと同じくポケモンの『とくせい』がオミットされているが、何故かレジギガスのみ彼のとくせい『スロースタート』が状態異常扱いで再現されている、という謎の待遇を受けている。……これまでの作品内で、アルセウスがレジギガスの仲間達である他の巨人達を倒し、その体を使ってプレートを作った、というような話が昔話として語られており、アルセウス(シンオウ様)と戦った古代の英雄、という形で語られるレジギガスは、アルセウスから歪んだ愛情を持たれているのでは?(類似例・ライナー)という予想が立ったことからのネタ。今作では『神』っぽさ全開で動いているアルセウスなので、それに立ち向かったというレジギガスの株が勝手に上がった、という形でもある。なお、レジギガスは登場作品のほぼ全てにおいて、人間の味方として描かれていたりもする

*13
ウリムーとマンムーのこと。鉄砲魚(テッポウオ)からタコ(オクタン)に進化するのに比べれば、まだわからないでもないが、どっちにせよイノシシからマンモスに進化している為、意味がわからないのは一緒だろう。その巨体の理由の一つとして、因子が【継ぎ接ぎ】されているようだ


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。