なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「あの光の壁が向こうの切り札であるとするのなら、そう一筋縄ではいかないでしょうね」*1
こちらを悠然と見下ろしている相手を前に、ヒソヒソと会話を続ける私達。
その態度は余裕の現れ、ということなのだろうが……確かに、先ほどまでのタフさが、こちらの火力の低さに依るものだとすると。有効打をカウンターで封じる……というその行動方針は、確かに隙の見え辛いものだと言えるだろう。
ソルさんは『全部燃やしちまえば手っ取り早い』と言っていたが、恐らくは向こうに有効打を与えることを優先するのなら、それくらいのつもりでなければ無理があるのだと思われる。
何度殴っても効いた素振りがなかった理由が、例えば回復系の技能によるものだった場合。
それをどうにかするためには、相手の回復技能を封じるか、その回復速度を上回る攻撃を叩き込む、というのが正答となる。
実際、相手はダメージを与えられそうな状態に変化した途端に、カウンターという切り札を切ってきた。
雑に言ってしまえば大ダメージ無効。
小さなダメージでは意味がないのに、大きなダメージも別の手段で対策している……という隙のないその姿勢には、思わず舌を巻かざるを得ないだろう。
……怒りに猛り狂っているように見せておいて、意外と強かな行動をしてきていると言うべきか。
ともかく、あのカウンターバリアをどうにかしないことには、こちらが相手を打倒することは叶わないだろう。
一番簡単な対処は、あのバリアの適用外となる攻撃……魔法などで攻撃する、ということになるのだろうが……。
「ミラさん、魔封爆石はお持ちですか?」
「持っとるわけないじゃろうが、こっちじゃと一個作るのにどれほどの金額を持っていかれると思っておる……。よもやどこぞの宝石魔術師のような苦労を負う羽目になるとは、思ってもおらなんだぞ」*2
「ですよねぇ……」
一番そういうのを持ってそうなミラちゃんからの返答は、今回はその類いのモノを持ってきていない、というものだった。
彼女が修めている技術は、主に召喚術系統と仙術系統。
それとは別に、生産系技能として【精錬】という技術を彼女は修めている。
物質に宿る属性力や補正力といったモノを抽出・融合・定着させる、言ってしまえばゲームなどでよく目にする『錬金術』系統の技術だ。*3
これにより、彼女は作中において複数の宝石を合成し、『精錬石』と呼ばれる、形のない力をより多く蓄えることのできるアイテムを作っていた。
この『精錬石』に属性力を封じれば『魔封石』に、そこに爆発する機能を付け加えれば『魔封爆石』となる。
この『魔封爆石』は、簡単に言ってしまえば『属性付き手榴弾』と呼べるようなものであり、属性相性をしっかり見極めれば、丸腰の人間でも遥かに格上の存在にも一矢報いることができるくらい、結構な威力を兼ね備えたアイテムである。
召喚術は……特に初契約がそうなのだが、契約する対象となる相手を打倒し、自身の力を認めさせる必要があるのだそうで。
なんの力もない・武器もないようなひよっこ召喚士が、初契約を成功させるのは至難の技。
そこでこの『魔封爆石』と、それから特別な防具を貸し出すことで、一番始めの契約を手助けする……というやり方を、ミラちゃん……もとい、ダンブルフが考案したのだとか。
まぁ、その辺りの詳しい話は、彼女の原作を読んでいただくとして……。
この【精錬】という技術、先述の通り
武具などから属性力などを抽出して、他の宝石に移し替える……みたいなこともできるようだが、基本的には『精錬石』に対してあれこれする、というのが主要な使い道だろう。
……と、なると。
これを現実で使う時に問題になるのが、
ゲーム的な世界観ではよくあることだが、いわゆる宝石類は──確かにそれなりに値が張るものの、あくまで
場合によってはモンスターを倒したらドロップする……なんて作品もある辺り、宝石というものはこちらの想像以上に、生活に紐付いている物品だと言えるだろう。
中には高い宝石というものも存在するが──そういうものは、こちらで言うところの『ピジョン・ブラッド』とか『ホープ・ダイヤモンド』のような、特殊な産地や謂れを持つものが高いだけであり。*5同種の宝石そのものは──少なくとも屋敷が買える値段、なんてことには早々ならないはずだ。
どうしてそんなことになるのか?といえば、ゲームシステム的な問題とかシナリオ的な問題とか、色々理由はあげられるのだろうけども今は置いておいて。
ここで重要なのは、ゲームや漫画などの創作界隈において、宝石というのは多少高額ながら
……結論を言ってしまえば、例え【精錬】や【錬金術】のような技能を持ち合わせていたとしても、現実でそれを活かすのはとても難しい、ということだ。
ざっと思い付くだけでも、材料調達の難や技術を知られた時の命の危険など、ぽんぽん問題点が出てくる辺り、現実世界において『宝石』とか『貴金属』を扱う技能というのは、下手に強いだけの技能よりもよっぽど扱いに困るものだと言えてしまうわけで。*6
結果として、ここのミラちゃんもそれらの例に漏れず、【精錬】技能に関しては若干持て余している、ということになってしまっているのだった。
……まぁ、単なる爆弾一つにうん十万とか、下手をするとうん百・うん千万掛かるかもしれない……なんて言われたら、とりあえずそこら辺のコストが掛からない技術の方を優先するよな、というのはわからないでもないというか。
現状的には、相手への攻撃手段のあてが外れたってことで、できれば納得したくないところなんだけどね!クソァッ!!
……召喚術の方に関しても、白黒騎士以外は召喚不可っぽい辺り、結構縛りがキツそうなミラちゃんである。
仙術は問題無く使えてそうな辺り、初期の方で言っていた『召喚術より仙術の方が目立っとるんじゃが!?』的なことが、こちらでもあったのかもしれないと察してしまう、その哀愁漂う背中になんとも言えない気分を感じる私であった。*7
「……とはいえ、仙術も効くかと言われると微妙ですよね……」
「……まぁ、基本的にはモンク系、打撃主体じゃしのぅ」
察しつつも、思考は止めないわけだが。
彼女の扱う【仙術】系技能は、言うなればモンク系……打撃戦を主体とするものである。
一応【仙術・天】という遠距離系の派生もあることはあるようだが……それらは基本的に、衝撃波を発生させて攻撃するもの。
……要するに、あのバリアをすり抜けられるかは微妙、ということになる。
「……と、なると。ソルさんに法術を使って貰う、というのが最良なのかもしれませんが……」
次いで、対抗手段となりうるのはソルさんの使う法術、ということになるのだが……。
最初から彼の火力は高過ぎるという話をしていた以上、ここで彼に前線に立って貰うのはオーバーキル、やり過ぎとしか言えないだろう。
……いやまぁ、やり過ぎくらいじゃないとダメージが与えられない、みたいな話をしているのだから、彼を駆り出すのが一番だとは思うのだが……。
その結果が一山全焼、などというのは笑い話ではない。
所詮は潜入しているだけの私であるが、変に問題を起こさせたいわけでもない。
避けられるトラブルなら避けて置きたいのが、人情と言うものだろう。
それに、そもそも物理を回避したからといって、
「……神を気取る奴が、
「実際に彼自身が自分を神と自称したわけではないので、あくまでもこちらの想像の結果にはなりますが。……魔力だろうが気だろうが、別の手段で反射してくる可能性は十分にあると思います。
ハジメ君の言葉に、さっきまでの話を無為にしかねない答えを述べる私。
先ほどの解析の結果、相手が使っているのは『リフレクター』と『カウンター』だった。どちらも物理技を対象としたものであり、それゆえにそれをすり抜けるなら特殊技を使うべきだ、という話になっていたわけだが……。
これらの技には、対となる『特殊技』対応バージョンのモノも存在している。『ひかりのかべ』と『ミラーコート』だ。
なんだったら状態異常跳ね返しの『マジックコート』なるモノも存在している。*8
全ての技に対応していないからこそ、読みあいを生むために許されている反射系の技能。
それらをもし、自由自在に使えるのであれば……。
「……いや、どこの
「まぁ、ポケモンって恐ろしい生き物ですので。ゴーストタイプとか殺意に満ち溢れていますよ?」
「向こうの人間が殊更頑丈なのでは、と言われる理由の一つじゃな」*9
自由自在に反射技を使う姿を想像してしまったのか、ハジメ君がげんなりとした表情でぼやき声をあげた。……例えにその人が出てくる辺り、疲れているせいか本性を隠せなくなっている気がしないでもないが、そこはスルーして。
確かに、反射云々で一番にあがるくらい、一方通行の知名度と言うのは高いと言えるだろう。……まぁ、一方通行さんは初期状態だと魔術とか反射できないので、反射技能のみに絞れば、目の前のイノシシの方が危険度は高いわけなのだが。
こちらの会話する姿を畏れているとでも思っているのか、相手のイノシシは泰然と構えたまま、こちらを攻撃してくる気配すらない。
……その余裕から察するに、やっぱり魔法系統も反射すると考えておいた方が良いだろう。
先ほどまでの散発的な突進も、あくまでこちらの出方を伺うためのもの。
こちらが引くのであれば、それ以上追うつもりはない……という、ある種の傲慢さを発揮しているのかもしれない。
「……気に食わねぇな」
「奇遇だな、俺も今そう思っていたところだ」
と、そうして冷静に現状を分析していた私の横で、ギリッ、という音が発せられる。
恐る恐る横を向けば、ハジメ君が視線で人を殺せそうな形相で、イノシシを睨み付けているのが見えた。……魔王フラグやんけ!?
その更に横では、ソルさんが腕をこきゃこきゃ言わせながら、これまたおぞましい笑みを浮かべ、イノシシを見つめ続けている。
……わぁい、二人が仲良くなれたぞー、嬉しいなー。
なんて乾いた笑いすら浮かべられない状況に、思わず現実逃避をしそうになった私だったが。
「……!ミラさん、ホーリーロードは召喚できますか?」
「ぬ?まぁ、できぬこともないが。……いや待て、お主良からぬことを考えておらぬか?!」
「いえ、そんなことはありませんよ?ただ──」
私も大概、負けず嫌いですので──。
そんな私の言葉を聞いたミラちゃんは、思わず天を仰いでいたのだった。