なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「作戦は先ほど伝えた通り。ちょっとでも加減を間違えると全部パァなので、しっかりお願いしますね」
「ああ、問題はねぇ。……一体どういう風の吹き回しかと思ったが、嬢ちゃんも大概イカれてやがるな?」
「……いや、一応私聖女なんですけど。イカれてるってのは、酷くありませんか?」
「いーや、適切な評価だよ、実際」
「……お主ら、唐突に意気投合し過ぎじゃろ……」
悠然と構えるイノシシを前に、最後の確認をする私達。
作戦を伝えた二人は、最初こそ驚いていたものの……その内容を聞いていく内に、次第に獰猛な笑みを浮かべ、こちらに了承の意を示してくるのだった。
隣のミラちゃんだけ、ちょっと胃痛を感じていそうな感じの表情をしていたが……相手に一泡吹かせる、という方針そのものに不満は無いようで、あくまでちょっと小言を口にするだけで済んでいた。
ともあれ、やるべきことを決めた以上、あとは成功することを信じて、全力を出しきるだけのこと。
最悪の事態にならぬように最善を尽くすことを次いでに誓い、そのまま最初の時の印象とは違う、不気味なくらいに静かなイノシシの神の前に立ち並ぶ私達。
──
──気に喰わないとは、思っていた。
目の前のクソイノシシだけにではない、何かと目障りな
俺は──成りこそこんな感じだが、半端者だ。
そこに自由意思があるかと言われれば……ああ、これを自由だと言うのは大間違い、というやつだろう。
一挙手一投足、
──ああ、
そうだ、鬱陶しい。そうしろだとか、ああしろだとか、こうなれだとか、こうあれだとか。
んなもん、知ったことか。
俺は俺だ、俺以外の何者でもない。……本当は、そう叫んでやりたいんだが。
生憎と、俺の根幹はそういう風にはできていないらしい。
名前に込められた
だから──強さを求めた。
そんな縛りなんざないものとできる、
それを叶える為ならば──俺は喜んで、神だろうがなんだろうが、その全てを消し炭にしてやろう。
「──これは、その最初の一歩って奴だ……!!」
眼前に迫る決着の時を前に、俺は
「まずは、こうします!──勝者は絶えず、前を見続ける者なれば。【
「ぬぉっ!?なんだこりゃ!?」
初手は私から。
特殊なバフスキルを発動し、全体のステータスを向上させる。
無理をしてパーティ全体を対象としたため、効果時間がかなり少なくなっているが……問題ない。
作戦が上手くいけば、効果時間は寧ろ余るはずなのだから。
続いて、上昇したステータスによる……、
「人使いと精霊使いが悪いのぅ!じゃが、限界を攻めるというのは嫌いではないぞ!」
今の彼女では、本来その能力値を半減して召喚する、という形でしか行えないはずのそれを、ブーストしたスペックで無理矢理に行う。
さっきも言っていたように、
その辺りすら加味した、かなり無茶な補助……補強?であるため、このままだと彼女の負担はかなりのモノになってしまう。
「なるほどのぅ、このバフはなんとも
「特別出血大サービスということです!では、お二方!いきますよ──【|双天・過剰黎明《ツインド・アストラライズ・エヴォケーション》】!!」*2
「無茶苦茶だな、本当にっ!」
だがしかし、それをなんとかするのが先ほどのバフスキル。
ソルさんの方は封炎剣に、ハジメ君の方は先ほどと同じく義手に強化を施し、更にその速力にも補助を与える。
ここまでこちらが動いてもなお、相手のイノシシに動きはない。どこまでも悠然と・泰然と、こちらを睥睨するのみ。
「そうかよ。……じゃあ、そのままでいろ」
「お望み通り、抗ってやるよ!!」
走る二人はその姿を睨み付けながら、そのまま自身の指定された位置へと走っていく。
それを追うかのように、召喚されたホーリーナイト二騎もまた、果敢な前進を行っていく。
その結果、イノシシを中心にしてその後方にソルさんが、前方にはハジメ君、左右にホーリーナイト……という形で、それぞれの配置が終了するのだった。
なにをするつもりなのか、とでも言いたげなイノシシに対し、こちらは笑みを溢しながら答えを発する。
「さぁ、弾けるもんなら、」
「弾いてみせな!!」
『──?!』
動揺は、それが無策にしか見えない突撃だったからか。……言葉にすれば『なにしてんだこいつら』、だろうか。
四方に配置された者達は、そのまま遮二無二とイノシシへと向かって走り始める。
反射されることはわかっているだろうに、それでもなお『知るか』とばかりに走ってくるその姿に、イノシシは一瞬虚を突かれたように、呆けた視線をこちらに向けてきた。
……とはいえ、別にそれで反射が緩まる、などとは思ってはいない。
全く動かない以上、それは
ただそこに立っているだけで、相手は自身になにをすることもできずに往生する──。
その神らしい傲慢さは、その反射能力が破られないことを確信しているから、できることでもある。
つまり、ちょっと意識が他のモノに向いたからといって、その反射技能が正常に働かない、などということにはならないはずだ。
──つまり、この無謀にも見える突撃には、別の狙いがある。
そのまま攻撃しても、恐らくは弾かれるだけだろうが……。
「端から、
盾を振り被った二騎のナイトに対し、ミラちゃんが号令を与える。
それに呼応するように、二騎のナイトは眩い輝きに包まれ……その輝きが晴れた時、その二騎の姿は大きく様変わりしていた。
重厚だった鎧は更に重厚なモノへと変化し、剣と盾を構えていたはずの両手には、それぞれ城壁と見紛うばかりの巨大な盾を携えている。
──ホーリーナイトの変異召喚、ホーリーロードの姿がそこにあった。
守護を得意とする武具精霊を、更に防御に特化させた存在。
その防御力は圧巻の一言であるが、同時に余りにも防御に特化しているため、比較的鈍重になってしまうという欠点がある。
その欠点を、敵の目の前で変異させることでカバーした、というわけだ。
二騎のホーリーロードは、主の命じるままにその巨大な盾を地面に振り下ろす。
土煙と衝撃を発生させながら地面に叩き落とされた巨大な盾は、イノシシが左右に逃げることを封じるかのように、ただ悠然とその場に佇んでいた。
目の前で謎の行為をした挙げ句、やることが左右への逃避の阻害。
……意味がわからない、とでも言いたげなイノシシは、左右に向けていた視線を元に戻し。
──先よりも更に獰猛な笑みを宿した、二人の人間の姿に気が付いた。
緩慢な歩みは速度を増し、その笑みは嬉々として輝き、その拳は、不穏な轟きを伴って振りかぶられている。
「いい加減にぃ……っ」
「タイラン……っ」
──わけがわからない。
何故この人間達は攻撃モーションを取っている?
弾かれることはわかっているはず。更には、攻撃が反射されることもわかっているはず。
だというのに何故、この二人は躊躇するでもなく、こちらに向かってきているのか?
そんな困惑が見えるその姿に、私は思わず失笑を──間違った意味の方のそれを浮かべてしまう。*3
『その慢心が、命取りですよ?』
ハジメ君の義手は、先ほどとは違い漆黒の闇を集めたかのような、真っ黒な輝きを放っている。
対しソルさんの腕は、灼熱のマグマの如き赤さを以て、敵対者を地に沈めんと唸りをあげている。
それはどちらも、目の前の敵をぶん殴るためのもので。
「沈めぇえぇっっ!!!」
「レェイブッ!!!!」
その挟撃は、全く同時にそのバリアへと叩き付けられたのだった。
──物事に、絶対というものは有り得ません。
普く全てを反射する、などと。そんなものが許されるのであれば、そこにあるのは絶対なる無。*4
かの一方通行殿も仰っていたでしょう?普通は、反射するものを選んでいるだけなのだと。
もし仮に、そういう形での運用を行っていなかったとしても。
自身の生命維持などのために、いわゆる通気孔とでも呼ぶべきものがあるはず。*5
そういった形で、何かしらの穴はあるはず。……というのが、普通のバリアのお話。
そこに神威を重ねる場合、起きることは即ちそれらの穴の抹消。
有り得るはずの欠陥を、無いものとしてしまえるのが神、というものの理不尽なのです──。
(──確か、んなことを言ってやがったんだったか)
バリアに拳を叩き付けながら、彼はそう述懐する。
本来であれば、なにかしらの穴があるはずのもの。……それを、神という理不尽は閉じてしまう。
先の話であれば、本当に全てを反射し、かつ中の相手は『神』であるがゆえに、生命維持の必要を持たない。
すなわち、全てを反射していたとしても、なにも問題がない。
それは即ち、人の身では絶対に届かない、ということを示しているとも言えるわけで。
(──だから、どうした)
故に、彼は笑みを深くする。
それは、自身が望んだことだ。
己の限界を超越し、真にあるべき姿へ至る為の道程。
分かりやすく立ち塞がってくれた神擬きには、感謝しかない。
「ああぁぁあぁぁあああっっ!!!」
「おぉぉおおぉぉぉおっっ!!!!」
目の前で同じように吼え立てる相手を見ながら、ニヤリと笑う。
神を挟んで、向き合う二人。
ある意味、互いに殴りあっているかのようなその姿。
互いに、負けられないモノがあることを悟りながら。
「「砕け散りやがれぇぇええええぇええぇっっっっ!!!!!」」
パリン、となにかが砕ける音を聞きながら。
二人は、その拳を振り抜いて見せたのだった。