なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

252 / 1002
仲の悪い二人の共闘なんてこんなもの

「作戦は先ほど伝えた通り。ちょっとでも加減を間違えると全部パァなので、しっかりお願いしますね」

「ああ、問題はねぇ。……一体どういう風の吹き回しかと思ったが、嬢ちゃんも大概イカれてやがるな?」

「……いや、一応私聖女なんですけど。イカれてるってのは、酷くありませんか?」

「いーや、適切な評価だよ、実際」

「……お主ら、唐突に意気投合し過ぎじゃろ……」

 

 

 悠然と構えるイノシシを前に、最後の確認をする私達。

 作戦を伝えた二人は、最初こそ驚いていたものの……その内容を聞いていく内に、次第に獰猛な笑みを浮かべ、こちらに了承の意を示してくるのだった。

 隣のミラちゃんだけ、ちょっと胃痛を感じていそうな感じの表情をしていたが……相手に一泡吹かせる、という方針そのものに不満は無いようで、あくまでちょっと小言を口にするだけで済んでいた。

 

 ともあれ、やるべきことを決めた以上、あとは成功することを信じて、全力を出しきるだけのこと。

 最悪の事態にならぬように最善を尽くすことを次いでに誓い、そのまま最初の時の印象とは違う、不気味なくらいに静かなイノシシの神の前に立ち並ぶ私達。

 

 ──さあ、戦闘を始めるとしよう(Heaven or hell, Let's rock!)*1

 

 

 

 

 

 

 ──気に喰わないとは、思っていた。

 目の前のクソイノシシだけにではない、何かと目障りな()にもだ。

 俺は──成りこそこんな感じだが、半端者だ。

 ()()()()()()と定め付けられ、()()()()()()行動している。

 

 そこに自由意思があるかと言われれば……ああ、これを自由だと言うのは大間違い、というやつだろう。

 一挙手一投足、()()()()と願われ続けるこれは──俺を縛る鎖としか言い様がない。

 

 ──ああ、()()()()()

 そうだ、鬱陶しい。そうしろだとか、ああしろだとか、こうなれだとか、こうあれだとか。

 んなもん、知ったことか。

 俺は俺だ、俺以外の何者でもない。……本当は、そう叫んでやりたいんだが。

 

 生憎と、俺の根幹はそういう風にはできていないらしい。

 名前に込められた()()()()()()()()が、俺にこうすることを余儀なくさせる。

 

 だから──強さを求めた。

 そんな縛りなんざないものとできる、()()()()()()()に相応しい()()()()()()()()()

 

 それを叶える為ならば──俺は喜んで、神だろうがなんだろうが、その全てを消し炭にしてやろう。

 

 

「──これは、その最初の一歩って奴だ……!!」

 

 

 眼前に迫る決着の時を前に、俺は()()()()()()()()()()()()獰猛な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

「まずは、こうします!──勝者は絶えず、前を見続ける者なれば。【誂えよ、凱旋の外套を(エスコート・ステート)】!!

「ぬぉっ!?なんだこりゃ!?」

 

 

 初手は私から。

 特殊なバフスキルを発動し、全体のステータスを向上させる。

 無理をしてパーティ全体を対象としたため、効果時間がかなり少なくなっているが……問題ない。

 作戦が上手くいけば、効果時間は寧ろ余るはずなのだから。

 

 続いて、上昇したステータスによる……、

 

 

「人使いと精霊使いが悪いのぅ!じゃが、限界を攻めるというのは嫌いではないぞ!」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 今の彼女では、本来その能力値を半減して召喚する、という形でしか行えないはずのそれを、ブーストしたスペックで無理矢理に行う。

 さっきも言っていたように、(キリア)の補助によって彼女の戦力を向上させるのは、本来であれば無理があるのだが。

 その辺りすら加味した、かなり無茶な補助……補強?であるため、このままだと彼女の負担はかなりのモノになってしまう。

 

 

「なるほどのぅ、このバフはなんとも()()()()!こんなもんポンポン渡されたら堪ったものではないわ!」

「特別出血大サービスということです!では、お二方!いきますよ──【|双天・過剰黎明《ツインド・アストラライズ・エヴォケーション》】!!」*2

「無茶苦茶だな、本当にっ!」

 

 

 だがしかし、それをなんとかするのが先ほどのバフスキル。

 ()()()()()()()()()()その効果により、彼女が潰れることはない。それを確認しつつ、左右に別れて走り出した二人に対して憑依合体(オーバーソウル)……もとい、【過剰黎明(アストラライズ・エヴォケーション)】を発動。

 ソルさんの方は封炎剣に、ハジメ君の方は先ほどと同じく義手に強化を施し、更にその速力にも補助を与える。

 

 ここまでこちらが動いてもなお、相手のイノシシに動きはない。どこまでも悠然と・泰然と、こちらを睥睨するのみ。

 

 

「そうかよ。……じゃあ、そのままでいろ」

「お望み通り、抗ってやるよ!!」

 

 

 走る二人はその姿を睨み付けながら、そのまま自身の指定された位置へと走っていく。

 それを追うかのように、召喚されたホーリーナイト二騎もまた、果敢な前進を行っていく。

 

 その結果、イノシシを中心にしてその後方にソルさんが、前方にはハジメ君、左右にホーリーナイト……という形で、それぞれの配置が終了するのだった。

 なにをするつもりなのか、とでも言いたげなイノシシに対し、こちらは笑みを溢しながら答えを発する。

 

 

「さぁ、弾けるもんなら、」

「弾いてみせな!!」

『──?!』

 

 

 動揺は、それが無策にしか見えない突撃だったからか。……言葉にすれば『なにしてんだこいつら』、だろうか。

 四方に配置された者達は、そのまま遮二無二とイノシシへと向かって走り始める。

 

 反射されることはわかっているだろうに、それでもなお『知るか』とばかりに走ってくるその姿に、イノシシは一瞬虚を突かれたように、呆けた視線をこちらに向けてきた。

 ……とはいえ、別にそれで反射が緩まる、などとは思ってはいない。

 

 全く動かない以上、それは()()()()()()()ということでもある。

 ただそこに立っているだけで、相手は自身になにをすることもできずに往生する──。

 その神らしい傲慢さは、その反射能力が破られないことを確信しているから、できることでもある。

 つまり、ちょっと意識が他のモノに向いたからといって、その反射技能が正常に働かない、などということにはならないはずだ。

 

 ──つまり、この無謀にも見える突撃には、別の狙いがある。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()二人よりも先に、イノシシに触れられそうな位置にまで、ホーリーナイトが走り寄る。

 そのまま攻撃しても、恐らくは弾かれるだけだろうが……。

 

 

「端から、()()()()()()()()()()()()()()()わっ!!【召喚術・変異:ホーリーロード】!!」

 

 

 盾を振り被った二騎のナイトに対し、ミラちゃんが号令を与える。

 それに呼応するように、二騎のナイトは眩い輝きに包まれ……その輝きが晴れた時、その二騎の姿は大きく様変わりしていた。

 重厚だった鎧は更に重厚なモノへと変化し、剣と盾を構えていたはずの両手には、それぞれ城壁と見紛うばかりの巨大な盾を携えている。

 ──ホーリーナイトの変異召喚、ホーリーロードの姿がそこにあった。

 

 守護を得意とする武具精霊を、更に防御に特化させた存在。

 その防御力は圧巻の一言であるが、同時に余りにも防御に特化しているため、比較的鈍重になってしまうという欠点がある。

 その欠点を、敵の目の前で変異させることでカバーした、というわけだ。

 

 二騎のホーリーロードは、主の命じるままにその巨大な盾を地面に振り下ろす。

 土煙と衝撃を発生させながら地面に叩き落とされた巨大な盾は、イノシシが左右に逃げることを封じるかのように、ただ悠然とその場に佇んでいた。

 

 目の前で謎の行為をした挙げ句、やることが左右への逃避の阻害。

 ……意味がわからない、とでも言いたげなイノシシは、左右に向けていた視線を元に戻し。

 ──先よりも更に獰猛な笑みを宿した、二人の人間の姿に気が付いた。

 

 緩慢な歩みは速度を増し、その笑みは嬉々として輝き、その拳は、不穏な轟きを伴って振りかぶられている。

 

 

「いい加減にぃ……っ」

「タイラン……っ」

 

 

 ──わけがわからない。

 何故この人間達は攻撃モーションを取っている?

 弾かれることはわかっているはず。更には、攻撃が反射されることもわかっているはず。

 だというのに何故、この二人は躊躇するでもなく、こちらに向かってきているのか?

 

 そんな困惑が見えるその姿に、私は思わず失笑を──間違った意味の方のそれを浮かべてしまう。*3

 

 

『その慢心が、命取りですよ?』

 

 

 ハジメ君の義手は、先ほどとは違い漆黒の闇を集めたかのような、真っ黒な輝きを放っている。

 対しソルさんの腕は、灼熱のマグマの如き赤さを以て、敵対者を地に沈めんと唸りをあげている。

 

 それはどちらも、目の前の敵をぶん殴るためのもので。

 

 

「沈めぇえぇっっ!!!」

「レェイブッ!!!!」

 

 

 その挟撃は、全く同時にそのバリアへと叩き付けられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ──物事に、絶対というものは有り得ません。

 普く全てを反射する、などと。そんなものが許されるのであれば、そこにあるのは絶対なる無。*4

 かの一方通行殿も仰っていたでしょう?普通は、反射するものを選んでいるだけなのだと。

 もし仮に、そういう形での運用を行っていなかったとしても。

 自身の生命維持などのために、いわゆる通気孔とでも呼ぶべきものがあるはず。*5

 

 そういった形で、何かしらの穴はあるはず。……というのが、普通のバリアのお話。

 そこに神威を重ねる場合、起きることは即ちそれらの穴の抹消。

 有り得るはずの欠陥を、無いものとしてしまえるのが神、というものの理不尽なのです──。

 

 

(──確か、んなことを言ってやがったんだったか)

 

 

 バリアに拳を叩き付けながら、彼はそう述懐する。

 本来であれば、なにかしらの穴があるはずのもの。……それを、神という理不尽は閉じてしまう。

 先の話であれば、本当に全てを反射し、かつ中の相手は『神』であるがゆえに、生命維持の必要を持たない。

 すなわち、全てを反射していたとしても、なにも問題がない。

 

 それは即ち、人の身では絶対に届かない、ということを示しているとも言えるわけで。

 

 

(──だから、どうした)

 

 

 故に、彼は笑みを深くする。

 それは、自身が望んだことだ。()()()()()()、理不尽に逆らうこと。

 己の限界を超越し、真にあるべき姿へ至る為の道程。

 

 分かりやすく立ち塞がってくれた神擬きには、感謝しかない。

 

 

「ああぁぁあぁぁあああっっ!!!」

「おぉぉおおぉぉぉおっっ!!!!」

 

 

 目の前で同じように吼え立てる相手を見ながら、ニヤリと笑う。

 神を挟んで、向き合う二人。

 ある意味、互いに殴りあっているかのようなその姿。

 互いに、負けられないモノがあることを悟りながら。

 

 

「「」」

 

 

 パリン、となにかが砕ける音を聞きながら。

 二人は、その拳を振り抜いて見せたのだった。

 

 

*1
『GUILTY GEAR』シリーズのラウンドコールより。『勝てば天国負ければ地獄、さあ、派手にキメろ!』くらいのノリ

*2
『出血大サービス』とは、販売業などで使われるキャッチコピーの一つ。いわゆる『赤字』を『血液』に見立て、『店が出血多量(大赤字)になるくらいサービスをしている』ということを示すもの。本当に出血するわけでもないし、店によっては赤字にすらなってないことすらあるが、なんとなく耳に残るので宣伝効果は十二分にあると言えるだろう

*3
相手を嘲る意味で『笑いも出ない(笑いを失う)程に呆れる』という使われ方をすることがある『失笑』だが、本来の意味は『笑ってはいけない場面・場所で笑ってしまう』というもの。先の意味として正しいのは『冷笑(冷たい笑み。見下したような笑い方)』『嘲笑(嘲った笑み。小馬鹿にした笑い方)』となる。『失笑』の『失』は、『失言』などと同じく『誤って出してしまう』という意味のもの。それ故、『笑っちゃいけないところで笑ってしまった』という意味になるのである

*4
本当に何もかも反射・遮断しているのなら、光などの形の無いものも同じようにしているはず、という考え方。反射なら真っ白に発光しているかもしれないし、遮断なら真っ黒で何も見えないかもしれない。実際には、大体のバリアや反射系技能は、向こう側が透けて見える。この時点で、明確に『光』やそれに類するモノは、反射や遮断の対象外となっている、と言える。これは、似たような在り方となる五条悟の場合でも同じ。『無限』によって全てが彼に触れ得ないのであれば、それは『遮断』と同じく黒くて何も見えない、という形となるはず。それが無い以上、彼は光に関しては素通ししている、ということになるのである

*5
『アルドノア・ゼロ』に登場したロボット(カタフラクト)『ニロケラス』は、次元バリアという触れたらなんでも削り飛ばすという極悪性能のバリアを持っていたが、本当になんでも(三次元空間にあるものを多次元に飛ばす、という形式だった為)削り飛ばすが故に、バリアを展開中は周囲の確認ができない、という構造上の欠点を持っていた。それを補う為に、特殊な無線機との通信用の穴を意図的に設けていたのだが、作中ではこの機体を海に誘い込むことでその穴を物理的に見えるようにする、という形で把握され、そこに攻撃を受けて沈黙することになった


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。