なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……死ぬかとおもったんじゃけど!?」
「あはは……でも、死んでないでしょう?」
煤まみれになった顔を見合わせながら、ミラちゃんと会話をする私。
作戦は見事に成功、
その中に居たイノシシはといえば、現在私達の前で光の粒子となって、足下から消滅している最中なのであった。
今回私達がやったことは、言葉にすればとても単純なものになる。
要するに、弾き返せない位の超々々大火力をぶつける、というものだ。
大火力は反射するとは言うものの、それが際限無しだというのは考え辛い。
それゆえに、その許容量よりも遥か上の火力で、無理矢理押し通ってしまおうというのが、今回の作戦の概要となる。
……まぁ、言うは易し行うは難し*1、その作戦には幾つかの問題点があったわけなのだが。
まず第一に、どれくらいの高火力なら突破できるのか、という目安が一切無いという点。
耐久値を大きく上回る攻撃で無理矢理突破する……というのは、古今東西様々な創作で試みられて来ている手段の一つだが。
今回の場合、その耐久値は向こう側の神性的なもので底上げされている状態。……人が神を打倒することの難しさは言うに及ばず、こちら側が出せる最大値がそこに足りるのか、という問題は常に付き纏っていた。
第二に、そんな大火力を、周囲に被害無く発揮できる気がしない、という点。
想定されるのは、山を丸々
そして最後に、例え相手に通用する攻撃が用意できても、相手に避けられては意味がないという点。
大火力攻撃というのは、得てして放つための隙や前準備が多いもの。それを黙って待ってて貰わなければならない、という点で無理があったわけである。
そんな、三つの課題。
──それを私達は、見事に成功させていった、というわけなのであった。
「神の傲慢さと慢心から、相手はそもそも避けるという手段を判断の内に持っておらんかった。……その後詰めにわしのホーリーロードを使う……というのは、些かわしへの負担が大きすぎるような気もするが、のぅ?」
「……あとでなにか奢りますよ」
「ほう?悪いのぅ悪いのぅ!タルトとか頼んでもいいかの?」
「好きにしてください……」
相手の回避云々については、そもそも相手がカウンター……動くことを必要としない戦闘スタイルだったこともあって、軽々とパスすることができた。
一応の後詰めとして、ミラちゃんに左右を固めて貰ったりもしたが……これに関してはどちらかといえばついでのもの。
本来の仕事は別のところとなるため、あくまで保険以上の意味はない。
次に、火力が足りるのか、という部分についてだが……。
「ふぅむ……あの呪文、わしにも覚えられるかのぅ?」
「基本的に私の特異性に頼ったモノですので、他の方の習得は難しいかと。……あとで筋肉痛とか頭痛とか、色んな慢性疲労に襲われる羽目にもなりますし、オススメはしませんね」
「ぬぅ、それはまたなんとも……覚えられずに惜しいと言うべきか、覚えられなくて良かったと言うべきか迷うところじゃのぅ……」
スキルマニアなところのあるミラちゃんが、さっきの呪文が自分にも覚えられないか?というような質問をしてくるが……。
件の呪文、【
その強力さゆえのデメリットがエグいこともあり、例え覚えられたとしてもオススメはしない、という言葉を返すのに留める私である。……実際、今は動くのも億劫だし。
火力問題を解決した、【誂えよ、凱旋の外套を】。
その効果とは、一定時間呪文の対象となった相手に『オーバーグロウ』状態、というものを付与するスキルとなっている。
なんだその、『オーバーグロウ』状態*2って?……みたいなことを思う、騎空士やマスターの方々もいらっしゃるだろうが、そこに関しての詳しい説明は各々
まぁともかく、このバフにより極短期間だが、対象の火力は『無限』に到達する。……なにかしらの数式に『無限』を突っ込んだ時に起こる異常現象については、以前どこかで説明した通り。
まぁつまり、相手の
よって、ここに火力問題は解決した、ということになるわけである。
そして最後、そんな無茶苦茶な火力を扱うための場所。
それは、今回各自に指定されたフォーメーションに秘密があった。
「左右に抜ける衝撃は精霊共で押し留め、前後から全く同じ火力を同じタイミングで一点にぶつけることで、その衝撃を相殺する……一時はどうなることかと思ったが、まぁなんだ。……よくやったな、南雲」
「どわっぷっ!?テメッ、ソル!髪をぐしゃぐしゃにすんじゃねぇ!!」
粒子になって空に消えていくイノシシを眺めながら、ソルさんがポツリと呟く。……呟きながら、傍らのハジメ君の頭を乱暴に撫でていた。……なんというか、生意気な子供とヤンキーな親父、みたいな空気になっているような?
まぁ、そこは置いといて。
彼らが呟いていた通り、最後の問題である『周囲への被害』は、同じ衝撃を反転方向からぶつけることで相殺させる、という形で解決を試みたわけである。
失敗すればお互いに大爆死、下手すりゃイノシシの一人勝ち……みたいな危険性もなくはなかったが、その辺りは二人の武器に【過剰黎明】していた
結果はまぁ、ご覧の通り。
左右に無駄な力を逃すことも殆ど無く、イノシシに対して完全に真反対から撃ち込まれた挟撃は、イノシシの体を粉砕しながら相殺され、結果として昼間なのに花火が上がったかのような、轟音と閃光を響かせて終わった……というわけである。
震源地に居た私達は、漏れなく吹っ飛ばされたけども。
本来であれば大炎上、辺り一面燃えカスだけが残る……なんて光景が広がっていたはずなので、ちょっと強風に煽られて木々が歪んでいる、くらいで済んでいる今の現状は、どう考えてもマシな方だとしか言えないのであった。
「……しっかし……なんだったんだ?あのイノシシは?」
「さてな。……そいつはなんか知ってるようだから、なにか理由のあるモノだとは思うが」
「あははは……そのうちお教えします、そのうち」
「はぁ……?」
そうして見送りを続けながら、ポツリとハジメ君が声をあげる。
……こちらでは【顕象】についての理解が、どこまで進んでいるのかはわからないが。
容赦なくぶっ潰していた辺り、少なくともそれを討滅することに、なにかしらの忌避を抱くようなことはないのだろう。
まぁ、神を僭称する悪魔って認識だとすると、その内東京受胎するんじゃないかと余計な心配をして、変な暴走を招きかねないのが問題といえば問題か。*3
ともあれ、そこら辺の事情はこっちに来てから日の浅い私では判別が付かないため、説明云々に関してはぼかす形にしかできないのでしたとさ。
……なのでこう、ハジメ君や。訝しげにこっちを見るのは止めて貰えると助かります。
ともかく。
今回の私達の仕事である『山に異常増殖したイノシシの駆除』は、これにて契約満了。
役所の人に檻いっぱいのイノシシ達を引き渡した私達は、その返礼としての牡丹肉をお土産として、悠々と『新秩序互助会』の施設へと凱旋したのでありました。
「……なるほど。だから今日の夕食は、みんな牡丹鍋だったのね」
「向こうも引き取りきれないくらい、異常なほどに繁殖してたからねー。……餌とかどう考えても足りてなかったと思うんだけど、その辺りもあの猪神様が補填していたのかもしれないねー」
有色を終えて自室に戻ってきていた私は、唯一の居残り組だったアスナさんに、今回の出来事を語り聞かせていた。
通信機越しにこちらの話に耳を傾けているマシュ達もあわせ、夜の連絡会開催のお知らせ……というやつである。
『牡丹鍋とは、確か……イノシシを使った鍋、でしたね。元々は『獅子と牡丹』──百獣の王と百華の王と呼ばれるその二種を並べた、縁起の良い図柄のことを指し、その獅子の部分をイノ
「他にも煮たり並べたりすると、牡丹の花によく似ていたからそう呼ばれただとか、花札の絵柄から来ているだとか、色々由来はあるみたいね」
「……んー。前も思ったけど、この時間ってカルデアの報告風景みたいだよね。マシュが留守番の時の」
会話内容はすでに報告を終えたため、今日の夕食についての話に移っていたが……。
その和やかさと聞こえてくる声ゆえに、どうにもfgo感が高まっている気がしないでもない私である。
『そちらには確か、エミヤさんもいらっしゃるのでしたよね?アスナさんが頼光さんのように立ち回るのであれば、これは確かにカルデアキッチン結成のお知らせをしても良いのではないかとっ』
「あはは……まぁ、アスナとしても料理はそれなりにできるつもりだけど、とりあえず台所に立つ予定はないかな。料理ができる人も、結構飽和しているみたいだし」
「確かに。おばちゃんもいるんだし、過剰戦力かもねー」
『……その、ところで……なのですが。せんぱいは、どうしてその口調なのに、声色とか声の高さがキリアさんのままなのでしょうか……?』
「さっきの報告から抜粋すると……それも後遺症の一つ、ってこと?」
「まーそんな感じー。ちょっと気を張るのがキツいのでぐぅ。」
『せ、せんぱいが突然寝落ちを?!』
「あー、うん。本当に疲れてるみたい。このまま寝させてあげた方がいいかも」
『なるほど……ではせんぱい、おやすみなさい。──どうか、良い夢を』
疲れからか持ち上がり切らない目蓋を、そのまま落として。
二人の声を聞きながら、私は微睡みの中に沈んでいくのだった……。
十二章終わり、閉廷!