なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・ちょっと遠い時間の話・一

「マスター、少しいいだろうか?」

「おや、エミヤさん。なにかご用ですか?……って、マスターはやめてください、って言ってるじゃないですか」

「おっとすまない。半ば癖、というやつでね」

 

 

 ある休みの日のこと。

 もはや(キーア)の姿で歩くのにも慣れてしまった『新秩序互助会』の施設内において、横合いから掛けられた声に立ち止まった私。

 そうして視線を向けた先には、常とは違いラフな格好をしたエミヤさん*1が、こちらに向かって手をあげている姿があったのだった。

 

 彼は立ち止まった私に近付きながら、申し訳なさそうに頭を掻いている。……()()()()()()()師匠(マスター)扱いをされている私は、その呼び方が別の意味(主人の方)に被るため、できればやめてほしいと何度か彼に注意をしているのだが……。

 彼自身、マスターという呼び掛け方に幾分慣れがあるためか、どうにもそう呼び掛ける癖、とでもいうものが抜けないとのことなのだった。……まぁ、人理焼却世界(fgo)での記憶もあるらしいので、余計に『マスター(主人/師匠)』呼びがごっちゃになる、というところもあるのかもしれない。

 

 ともあれ、話し掛けて来た以上はなにかがあるのだろう、ということで彼の話に耳を傾けていたわけなのだけれど……。

 

 

「視線を感じる……って、ストーカーってことです?」

「ああいや、そういう邪なものではないというか、そもそも私をストーキングしても仕方がないだろう?」

「…………?」

「そこで不思議そうな顔を返されても困るのだがね……」

 

 

 彼の発言を聞いて、思わず首を傾げる私である。

 え、だって『可愛い子なら誰でも好き』なんでしょう?*2……どこぞの湖の騎士みたいに、エミヤさんにその気はなくても面倒な娘側にその気を起こさせた、なんてことは多々ありそうだけれども。

 

 

「かの湖の騎士(ランスロット卿)と並び称されるのは、些か畏れ多いわけだが……ともかく、私にはそういう甘い話はないよ」

(……朴念仁かなにかかな?)

 

 

 そんな私の言葉に返ってくる、彼お決まりの台詞。

 視線がジトッ、としたものになるのは仕方ないと思う。……まぁ本人が認めない以上、そこを話題にし続けてもなんの進展もしないだろうし、ここで追求するのは止めておくことにするけども。

 

 ともあれ、彼が最近誰かの視線を感じる……ということは確からしい。ふとした時に見られていることに気付くのだが、その視線の持ち主を見付けることは叶わなかったのだ……とも。

 ……エミヤさんの鷹の目を掻い潜る誰かが、彼を見ていた……ということになるのだろうか?

 

 

「うーん、例えば……メルクリウスさん……とか?」

「彼が?……確かに、時折妙な視線を向けられることはあるが……」

「あ、あるんだ。当てずっぽうだったのに

「……私は真面目な話をしているのだがね……」

 

 

 彼のそれ(鷹の目)は、弓兵として一番重要なものになるからなのか。五条さんの『六眼』のように、優先して再現されている技能の一つである。……『逆憑依』においては、個々の特殊能力よりも身体技能の再現が優先されるきらいがある*3し、そういう意味で彼が()()()()()()()()()()()()()()()()()というのなら、それ相応の実力者が彼を見ていた……とするのが普通だろう。

 

 そんな思いから、とりあえず適当に人物を例にあげてみたわけなのだけれど。……エミヤさんから返ってきた反応に、思わず『マジかー』と呟いてしまう私なのであった。……半眼になったエミヤさんに睨まれたため、小さく舌を出してごまかしておく。

 それを受けたエミヤさんは、小さくため息をついていたが、やがて諦めたように話を戻すのだった。

 

 まぁ、それはそれとして。

 先の発言を翻すようで悪いのだけれど、メルクリウスさんがエミヤさんを気に掛ける……ということには、一応理由めいたモノを考察できなくもないため、言葉とは裏腹にそこまで当てずっぽう、というわけでもなかったりする。

 

 

「彼が私を気にする理由……?……ああ、そういえば彼が御執心の人物の内の一人が、私と声が同じ人物なのだったか」

「そうそう。獣殿──もとい、ラインハルトさんは、その声がエミヤさんと同じなんだよね。向こうに居る人だと……宿儺君も同じ声かな」

「両面宿儺か……確か、向こうの彼は料理屋を営んでいる……と聞いたが?」

「そうだね。彼の使う術式と、その声繋がりって感じで始めたみたい」

「……改めて聞いてみると、まったく意味がわからないな、向こうの人々は」

 

 

 そう、メルクリウスさんが、エミヤさんを気にする理由。

 それは、彼の声がメルクリウスさんの親友にして主と従、敵対者であり自滅因子でもある存在──ラインハルト・ハイドリヒと同じものである、ということにある。*4

 彼は正確には()()()()()()()()()()ではないため、あくまでも『ちょっと気にしている』程度の興味ではあるだろうが。それでも、友と同じ声を全く意識せずに過ごす、というのも()()()()()であるため、ちょくちょくちょっかいを掛けているのではないか?……と思っての例示だった、というわけなのでしたとさ。

 

 まぁ、その論理が罷り通るなら、向こうに行ったメルクリウスさんは自分から不倶戴天の敵(波旬君)とエンカウントしかねない、ということにも繋がるので、あんまり嬉しくない事実だったりするわけなのだが。……波旬君が微妙に世界線違いであることを理解して、下手なことを取り止めてくれるのが一番なのだけれども。

 

 そんな愚痴は、とりあえず脇に置いておくとして。

 話を戻すと、エミヤさんの視線を逃れられるような実力者であり、かつ彼に対して殊更に興味を抱きそうな人物……と言う点から、即座に浮かんだのがメルクリウスさんだったわけだが。

 できるかどうかはともかくとして、実際に彼がそんなこと(ストーカー)をするかどうかに関しては微妙だ。……と、自分から例示しておきながらも否定するしかないというのも、また事実だと言えるだろう。

 

 

「……ふむ?その心は?」

「最大の執着対象である、マリィさんに対してならばいざ知らず。獣殿に関しては、そこまで過干渉していたわけでもないですし。ストーカー云々についても、マリィさん相手なら頼まれずともやるでしょうけど、獣殿に同じことをすることはないでしょうし、況してや声が同じというだけの赤の他人に対して、そこまでの情熱を傾けることもないでしょう。……精々、近くに居たら視線がそちらの方になんとなく向いてしまう、くらいの関心だと思います」

「……どことなく実感がこもっているような気がするのは、私の気のせいかね?」

「キノセイデスネーキノセイキノセイ」

「ああうん、もはやなにも言うまい……」

 

 

 ()()()()がストーカー的な監視行為を行っていたのは、彼が殊更に執着していた敬愛対象(マリィ)に対してのみ。

 獣殿については……確かに親友と称するほどの仲ではあるけれども、その行動を逐一確かめるような真似はしていなかった。……どころか、基本的には利用しているだけ、というスタンスを見せていたこともあり、一見しただけではわかりにくい間柄だったりもするわけで。

 

 ここに居るメルクリウスさんは、あくまでその『大本のメルクリウス』を規範として動いている存在であるため、元の彼の行動全てに縛られているわけではないが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、というのが彼に課せられた縛りの一種でもあるため、エミヤさんに対してのそれは『視界に入っていたらそれを追ってしまう』以上のものではないだろう。

 ゆえに、状況的には彼が犯人っぽいけど、犯人だと確信するには彼の心情が足りてない……ということになるのである。

 

 ……あとはまぁ、実際に見られ……げふんげふん。

 彼の視野の広さに付いてはよーく知っているため、仮に見ているのだとしても、気配が感じられるほどの近くには居ないだろう……という確証があるから、彼を犯人だと断定するにはちょっと証拠が弱い、という結論を出したところもあったりするわけで。

 いやまぁ、別に見られたくない時には、こっちでシャットアウトできるからいいんだけどね?そこら辺わかってて、こっちに甘えてるところもあるのかな?……って思わなくもないんだけどね?

 ……スペックが下がっているとはいえ、神クラスの権能でストーカーする……っていうのは、ちょっとご勘弁願いたいところがあるといいますか。

 スキルにしたら『ストーキング:A+++』*5とかになりそうなのは、流石にどうかと思うのですよ、私。

 

 ……早くも愚痴で会話が埋まりそうなので、話を戻して。

 ともかく、第一候補としてあげたメルクリウスさんだけれど、彼が犯人だと断定できるような証拠はない。

 あるのは『多分やろうと思えばできるよね?』というこちらのイメージくらいのものであり、それらを盾に彼を糾弾するというのは、単なる冤罪行為以外の何物でもないと言えるだろう。

 

 よって、限りなく怪しいけれど犯人ではない……という微妙な立ち位置に、メルクリウスさんは据え置かれることとなったのだった。

 

 

「ふむ。となれば……他の相手が行っている、と見るのが正解か……」

「今のところはね。……それで、一応聞いておくんだけど。今、その視線って感じてる?」

「む?……そうだな、今のところは感じていない。朝の内、部屋から出た辺りでは、首の後ろ辺りに刺さる視線を感じていたのだが……」

「ふむ。ってことは……私と合流したから撤退した、とかかな?」

 

 

 で、歩きながらエミヤさんに、今もその『見られている感覚』はあるのか?……と尋ねてみたわけなのだけれど。

 彼から返ってきた答えは、『ここに来るまでは、控えめながら視線を感じていた』というものだった。

 

 ──それはつまり、()()()()()()()()()()()()追うことを諦めた、という風にも読み取れる。

 

 

「……む?」

「エミヤさんのそれ(鷹の目)は身体機能ですから、物理的にも能力的にも簡単に遮断が叶いますけど。私の場合は俯瞰処理(千里眼擬き)も一応使えますので、その辺りを知っている人物が犯人かも?……という風に予測ができる、というわけなのです」

「俯瞰視点だと?……それはつまり、ゲームのマッピングのように上空からの空間の把握ができる、ということで間違いないかね?」

「そうですね。壁の向こう側も筒抜け、みたいなこともできますよ?」*6

「……それはまた、なんとも恐ろしい話だな。君には不意打ちの類いは効果がない、ということか」

 

 

 エミヤさんに説明するのは、私なら隠れている相手も見付けられるだろう、という事実について。

 ()()()()()()()()()のなら、サイコメトリー系も使えなくはないため、単純な尾行犯ならすぐに捕まえることができる……と説明したことにより、エミヤさんは静かに冷や汗を拭っていたのだった。

 ……まぁうん、私がチート臭いのは今更なので、これから慣れて貰うとして。

 

 これを知っていて、相手が離れたのだとすると。

 要するに、私をよく知っている人物が犯人……という予測が立てられるわけである。

 幾らサイコメトリーをするとしても、一日に何度も使えるわけでもないし、読み取る範囲が広いわけでもない。

 あくまで模倣(コピー)でしかないサイコメトリーは、精度はそこそこで使えるタイミングにも限りがある……ということを知っていれば、一応回避はできなくもなかったりするわけで。

 

 ただ、その辺りの私の模倣についての制限は、こちら側(新秩序互助会)で知っている人物、というのは数少なく。

 ──ならば、今回私達が追っている犯人は、向こう側(なりきり郷)の住人である、と考えるのが自然となるわけである。

 

 

「なるほど。君の古巣であれば、君の死角を知る者も多い、というわけか」

「そういうことです。……まぁ、だとすると犯人候補が一気に増えるので、逆に捜査は振り出しに戻った、ということにもなっちゃうんですけどね?」

「……なん……だと……?」

 

 

 まぁ、犯人がなりきり郷の住人だと絞られたとしても。

 単純にそれができる人物、となると数が絞りきれないため、結果として犯人捜しは暗礁に乗り上げた形になるわけなのだけれども。

 そう言って肩を竦める私に、エミヤさんはお決まりの台詞で、その驚きを端的に示してくれるのだった。

 

 

*1
fgoでの霊衣『サマーカジュアル』のこと。上着を羽織っているので一瞬わかり辛いが、中に着ているのはタンクトップタイプのインナー。……(筋肉)を見せたい欲でもあるのだろうか?まぁ、よく似た別人(無銘)?の着ていた『クール&ワイルド』に比べれば、幾分普通の服に見えなくもない訳だが

*2
正確にはよく似た別人?(無銘)の方の台詞。『可愛い子なら誰でも好きだよ、オレは』という、『stay_night』の方のエミヤからは想像もできないような台詞。一応根は同じらしいので、エミヤ側も同じ様なことを言う可能性は大いにある。そもそも士郎自体、合コンが割りと好きだったりするのだし(なお好きなのは配膳作業と楽しそうなその空気)

*3
『嫌いがある』は、主に何かしらの出来事などに対し『好ましくない傾向がある』と述べたい時に使われる言い回し。単純な嫌悪とは少し違った意味合いであるからか、基本的にはひらがなで表記される

*4
同名の史実の人物をモチーフにした『神座』シリーズのキャラクターの一人。黄金の獣、などとも称される金髪金眼のイケメン。傲岸不遜ではあるが、自身に否があれば認めるし、他者の研鑽を褒め称えたりもする。カリスマ性が高く、彼を崇敬する者も数多いが……?なお、彼のボイスはエミヤや宿儺と同じ諏訪部順一氏が担当している。即ち彼も『魔法使いサリー』を歌えるというk()( 'д'⊂彡☆))Д´) パーン

*5
清姫で『B』クラスなのを考えても、かなり驚異的なストーキング技術である()

*6
ゲームによくある『壁の向こう側に居る人物がうっすらと見える』もの。もし仮に現実で同じことができたのなら、飛び出し系の事故も大幅に減ることだろう。それくらい、物理的な死角というのは恐ろしいものなのである

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