なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「マスター、少しいいだろうか?」
「おや、エミヤさん。なにかご用ですか?……って、マスターはやめてください、って言ってるじゃないですか」
「おっとすまない。半ば癖、というやつでね」
ある休みの日のこと。
もはや
そうして視線を向けた先には、常とは違いラフな格好をしたエミヤさん*1が、こちらに向かって手をあげている姿があったのだった。
彼は立ち止まった私に近付きながら、申し訳なさそうに頭を掻いている。……
彼自身、マスターという呼び掛け方に幾分慣れがあるためか、どうにもそう呼び掛ける癖、とでもいうものが抜けないとのことなのだった。……まぁ、
ともあれ、話し掛けて来た以上はなにかがあるのだろう、ということで彼の話に耳を傾けていたわけなのだけれど……。
「視線を感じる……って、ストーカーってことです?」
「ああいや、そういう邪なものではないというか、そもそも私をストーキングしても仕方がないだろう?」
「…………?」
「そこで不思議そうな顔を返されても困るのだがね……」
彼の発言を聞いて、思わず首を傾げる私である。
え、だって『可愛い子なら誰でも好き』なんでしょう?*2……どこぞの湖の騎士みたいに、エミヤさんにその気はなくても面倒な娘側にその気を起こさせた、なんてことは多々ありそうだけれども。
「かの
(……朴念仁かなにかかな?)
そんな私の言葉に返ってくる、彼お決まりの台詞。
視線がジトッ、としたものになるのは仕方ないと思う。……まぁ本人が認めない以上、そこを話題にし続けてもなんの進展もしないだろうし、ここで追求するのは止めておくことにするけども。
ともあれ、彼が最近誰かの視線を感じる……ということは確からしい。ふとした時に見られていることに気付くのだが、その視線の持ち主を見付けることは叶わなかったのだ……とも。
……エミヤさんの鷹の目を掻い潜る誰かが、彼を見ていた……ということになるのだろうか?
「うーん、例えば……メルクリウスさん……とか?」
「彼が?……確かに、時折妙な視線を向けられることはあるが……」
「あ、あるんだ。当てずっぽうだったのに」
「……私は真面目な話をしているのだがね……」
彼の
そんな思いから、とりあえず適当に人物を例にあげてみたわけなのだけれど。……エミヤさんから返ってきた反応に、思わず『マジかー』と呟いてしまう私なのであった。……半眼になったエミヤさんに睨まれたため、小さく舌を出してごまかしておく。
それを受けたエミヤさんは、小さくため息をついていたが、やがて諦めたように話を戻すのだった。
まぁ、それはそれとして。
先の発言を翻すようで悪いのだけれど、メルクリウスさんがエミヤさんを気に掛ける……ということには、一応理由めいたモノを考察できなくもないため、言葉とは裏腹にそこまで当てずっぽう、というわけでもなかったりする。
「彼が私を気にする理由……?……ああ、そういえば彼が御執心の人物の内の一人が、私と声が同じ人物なのだったか」
「そうそう。獣殿──もとい、ラインハルトさんは、その声がエミヤさんと同じなんだよね。向こうに居る人だと……宿儺君も同じ声かな」
「両面宿儺か……確か、向こうの彼は料理屋を営んでいる……と聞いたが?」
「そうだね。彼の使う術式と、その声繋がりって感じで始めたみたい」
「……改めて聞いてみると、まったく意味がわからないな、向こうの人々は」
そう、メルクリウスさんが、エミヤさんを気にする理由。
それは、彼の声がメルクリウスさんの親友にして主と従、敵対者であり自滅因子でもある存在──ラインハルト・ハイドリヒと同じものである、ということにある。*4
彼は正確には
まぁ、その論理が罷り通るなら、向こうに行ったメルクリウスさんは自分から
そんな愚痴は、とりあえず脇に置いておくとして。
話を戻すと、エミヤさんの視線を逃れられるような実力者であり、かつ彼に対して殊更に興味を抱きそうな人物……と言う点から、即座に浮かんだのがメルクリウスさんだったわけだが。
できるかどうかはともかくとして、実際に彼が
「……ふむ?その心は?」
「最大の執着対象である、マリィさんに対してならばいざ知らず。獣殿に関しては、そこまで過干渉していたわけでもないですし。ストーカー云々についても、マリィさん相手なら頼まれずともやるでしょうけど、獣殿に同じことをすることはないでしょうし、況してや声が同じというだけの赤の他人に対して、そこまでの情熱を傾けることもないでしょう。……精々、近くに居たら視線がそちらの方になんとなく向いてしまう、くらいの関心だと思います」
「……どことなく実感がこもっているような気がするのは、私の気のせいかね?」
「キノセイデスネーキノセイキノセイ」
「ああうん、もはやなにも言うまい……」
獣殿については……確かに親友と称するほどの仲ではあるけれども、その行動を逐一確かめるような真似はしていなかった。……どころか、基本的には利用しているだけ、というスタンスを見せていたこともあり、一見しただけではわかりにくい間柄だったりもするわけで。
ここに居るメルクリウスさんは、あくまでその『大本のメルクリウス』を規範として動いている存在であるため、元の彼の行動全てに縛られているわけではないが。
ゆえに、状況的には彼が犯人っぽいけど、犯人だと確信するには彼の心情が足りてない……ということになるのである。
……あとはまぁ、実際に見られ……げふんげふん。
彼の視野の広さに付いてはよーく知っているため、仮に見ているのだとしても、気配が感じられるほどの近くには居ないだろう……という確証があるから、彼を犯人だと断定するにはちょっと証拠が弱い、という結論を出したところもあったりするわけで。
いやまぁ、別に見られたくない時には、こっちでシャットアウトできるからいいんだけどね?そこら辺わかってて、こっちに甘えてるところもあるのかな?……って思わなくもないんだけどね?
……スペックが下がっているとはいえ、神クラスの権能でストーカーする……っていうのは、ちょっとご勘弁願いたいところがあるといいますか。
スキルにしたら『ストーキング:A+++』*5とかになりそうなのは、流石にどうかと思うのですよ、私。
……早くも愚痴で会話が埋まりそうなので、話を戻して。
ともかく、第一候補としてあげたメルクリウスさんだけれど、彼が犯人だと断定できるような証拠はない。
あるのは『多分やろうと思えばできるよね?』というこちらのイメージくらいのものであり、それらを盾に彼を糾弾するというのは、単なる冤罪行為以外の何物でもないと言えるだろう。
よって、限りなく怪しいけれど犯人ではない……という微妙な立ち位置に、メルクリウスさんは据え置かれることとなったのだった。
「ふむ。となれば……他の相手が行っている、と見るのが正解か……」
「今のところはね。……それで、一応聞いておくんだけど。今、その視線って感じてる?」
「む?……そうだな、今のところは感じていない。朝の内、部屋から出た辺りでは、首の後ろ辺りに刺さる視線を感じていたのだが……」
「ふむ。ってことは……私と合流したから撤退した、とかかな?」
で、歩きながらエミヤさんに、今もその『見られている感覚』はあるのか?……と尋ねてみたわけなのだけれど。
彼から返ってきた答えは、『ここに来るまでは、控えめながら視線を感じていた』というものだった。
──それはつまり、
「……む?」
「エミヤさんの
「俯瞰視点だと?……それはつまり、ゲームのマッピングのように上空からの空間の把握ができる、ということで間違いないかね?」
「そうですね。壁の向こう側も筒抜け、みたいなこともできますよ?」*6
「……それはまた、なんとも恐ろしい話だな。君には不意打ちの類いは効果がない、ということか」
エミヤさんに説明するのは、私なら隠れている相手も見付けられるだろう、という事実について。
……まぁうん、私がチート臭いのは今更なので、これから慣れて貰うとして。
これを知っていて、相手が離れたのだとすると。
要するに、私をよく知っている人物が犯人……という予測が立てられるわけである。
幾らサイコメトリーをするとしても、一日に何度も使えるわけでもないし、読み取る範囲が広いわけでもない。
あくまで
ただ、その辺りの私の模倣についての制限は、
──ならば、今回私達が追っている犯人は、
「なるほど。君の古巣であれば、君の死角を知る者も多い、というわけか」
「そういうことです。……まぁ、だとすると犯人候補が一気に増えるので、逆に捜査は振り出しに戻った、ということにもなっちゃうんですけどね?」
「……なん……だと……?」
まぁ、犯人がなりきり郷の住人だと絞られたとしても。
単純にそれができる人物、となると数が絞りきれないため、結果として犯人捜しは暗礁に乗り上げた形になるわけなのだけれども。
そう言って肩を竦める私に、エミヤさんはお決まりの台詞で、その驚きを端的に示してくれるのだった。