なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……で?相手が潜んでいるだろう場所の目星とか、もうついてんのか?」
「え?寧ろそれは、銀ちゃんがさっさと見付け出すところでしょ?」
「なんでいきなり俺に全投げしようとしてるのこの人!?」
挨拶を終えた私達は、早速犯人捜索のために動き出したわけなのですが。
そうしててくてくと歩き始めて暫く。
端から見れば闇雲に動き回っているとしか思えない状況に、我慢できなくなったと言った感じに声をあげた銀ちゃん。……なのですが、私からしてみれば『なに言ってるのこの人?』以外の感想が浮かばなかったため、そのまま質問を投げ返すことになったのでした。
そうして思いがけず返ってきた質問に、銀ちゃんは大層驚いたような感じの表情をしていたわけなのですが……驚きたいのは寧ろこっちの方である。……っていうか、最初に『秘密兵器』*1って言ったじゃん私。
「え、あれってネタではなく……?」
「なんであそこでふざけなきゃいけないのよ。型月同窓会に
「あれー?」
別に伊達や酔狂*2で発した言葉じゃないぞ、という私の台詞に、銀ちゃんは首を捻っている。……いや、もしかしてだけども。
「え、銀ちゃんってば、なんで自分がここに呼ばれたのかわかってないの?」
「え?いやだから、いわゆる賑やかし……いやいや違う違う!言葉の綾!綾だから!だからその顔で右手を構えるの止めろって!頭陥没すんだろ!」
「斜め四十五度から殴ってほしいのかと……」
「電化製品じゃねえっての!*3つーか、お前の攻撃力でそれをやったら死ぬわ!……いやちがっ、フリじゃなうぼげぇっ!?」
『……殺られるってわかってるのに言っちゃうのは、いわゆるギャグ漫画世界出身者の悲しき習性……ってやつなんでしょうかねぇ?』
「まぁ実際、陥没しても三コマ分くらい経てば治っていますし、問題ないのでは?」
「私には問題しかないように思えるのだが……」
「ギャグ空間を真面目に考察し始めたら死ぬわよ、適当に流しときなさい。気分はカルデアでのハロウィンとかその辺りよ、その辺りっ」
「それはそれで問題だと思うのだがね……」
口は災いの元、というのはどこに行っても共通真理。
迂闊な発言をした銀ちゃんは、右四十五度・左四十五度の綺麗なクロスチョップを受け、
……まぁ、周囲の言う通り、大体
ともあれ、自身の呼ばれた意味、というものを今一理解していない様子の銀ちゃんへの抗議も終わったため、改めて彼にその辺りを尋ね直してみたわけなのですが……。
「いや、よろず屋としての販路の拡大のため、とかじゃねーの?……って言おうとしてたんだけど、その様子だと違うみたいデスネ……?」
「なんで私が職業斡旋みたいなことせにゃならんのですか」(怒)
「き、キレんなよマジで……」
彼の口から飛び出したのは、よろず屋稼業の促進のため、というもので。……そんなん勝手にやりなさいよ、という至極もっともな反論をぶつけられた銀ちゃんは、こじんまりと隅っこに縮こまってしまうのだった。
「あー、もう。そもそもここまで人が揃ってて、なーんで気付かないのよ銀ちゃんは。薄情者、って言われても仕方ないわよこれ?」
「……へ?薄情者?」
とはいえ彼がこの状況を見て、一番に
そりゃまぁ、不甲斐ないというか情けないというか、そんな気分になるのも仕方ないというわけで。
そんなわけなので、半ば呆れたように、私はもう一つだけ彼へのヒントを与えるのでありました。
「はい、ほら今の話数から百二十七ほど遡って!その時やってたことを思い出しなさいほら早く!」
「……彼女は一体なにを言っているのかね?」
「気にしちゃダメよエミヤお兄さん。キーアは時々
「そうそう、そういうの気にしてたらハゲるぜ、正義の味方の兄ちゃん?」
「なるほどな……。……いやちょっと待て、なんだ今の赤い奴は!?」
「そっちも気にしちゃダメよ、触ると喜んじゃうから」
「いやん♡凛ちゃんってばど・え・す♡」
「……壮絶に頭が痛くなってきた気がする……っ」
外野がなんだか騒々しいが、今は銀ちゃんに思い出させる方が先!……というわけで、具体的には四ヶ月ほど前、内部的には○ヶ月前の、大体十二月くらいのことを思い出すように、銀ちゃんに強要する私である。
「十二月ぅ?……ってーとあれか、クリスマスだから……クリスマスだから……?」
そうして彼は、徐々にその顔を青白く染めていく。
……まぁ、うん。この面々を見て、揃っている面子を見て。
そこまでしておいて、クリスマスでの出来事──クリスマスそのものではなく、その日付近に彼に起こったこと──を思い出せなかった、などという事実を
そりゃまぁ、見るも無惨なことになるのは間違いないわけで。
表情が青褪めるのも宜なるかな、この事実を知られる訳にはいかないが、現在彼の目の前に居るのは私他数名。……こういうことに関しては、特に口の軽いタイプの人間達である。
「……あのー、そのー。ええと、黙ってて貰えたりは……?」
「それはこれからの君の働き次第だねぇ。……返事は?」
「
結果、銀ちゃんはいつもの死んだ魚のような目を強ばらせ、必死で働く羽目になったのでありましたとさ。
「……それはひどい」
「だよねー」
そんなやり取りから数十分後。
文字通り馬車馬の如く働き切った銀ちゃんは、床に大の字で転がって荒くなった息を整えている。
……まぁ、取れる手段を全て使い、犯人を見事追い詰めて見せたのだからさもありなん。
彼にとっての本当の地獄が『
一応、さっきの『クリスマス辺りでの一件』云々の話は暈してあげたので、そこを回避できるかは彼の頑張り次第。
私達がその過程を見ることはないだろうが、とりあえず『うまく行きますように』と手を合わせるくらいはしておいてあげようとは思う。……別に成仏できますように、って意味じゃないよ?
ともあれ、今回の事件──『エミヤさんストーカー被害に遭遇』事件の犯人となる人物は、見事に捕縛されたわけで。
あとはまぁ、細々とした種明かしを残すのみ。……といった気分で、相手と改めて向き合ったわけなのですが……。
「……なんで紙袋を被ってるんです?」
「いやその、ええと、心の準備が出来ていないと言いましょうか……」
「ここまで来て!?」
驚きの声をあげる私に対し、目の前の──紙袋を被った女性は、二つ空いた穴から申し訳なさそうな視線をこちらに寄越しつつ、小さく頭を振るのであった。
どう見ても不審人物以外の何者でもない彼女こそ、今回の一件の犯人なわけなのだが。……どうにもこっちに来てからずっと、この紙袋を被ったまま行動をしていたらしい。
警戒心が強いと見るべきか、バカなんじゃないの?と笑うべきなのか、どうにも判断に困る感じである。
と、言うかだ。
どう見ても目立つこの格好で、先ほどまで一切周囲に見付からなかったとはどういう隠密技能だ?……とツッコミを入れたいところなのだがどうだろう?……いやこの場合は寧ろ、こっちの人達に『なんでこんなあからさまに怪しい人を放置してたの?!』と問い詰めるべきだったり?
「あ、いえ。その辺りはダンボールに潜んでいましたので、周囲の方々が気付かないのも仕方がないのではないかと」
「なぁんだ、ダンボールか。それじゃあ仕方ないね」
「ダンボールを笑う者、ダンボールに死す……という奴だな。中々見所のあるお嬢さん方だ」
そんな疑問は、彼女が潜入に最適なアイテム、ダンボールを有効活用していた……ということで氷解するわけなのだが。
横の
一頻りダンボール会話に花を咲かせたのち、何処かへと去っていく蛇さんの背を見送って、改めて向かい合う私達。
相手方の方は先ほどまでの会話で、ある程度緊張が解れたようではあるが、それでも紙袋を外そうとはしない。
よっぽど恥ずかしいらしいが、彼女の顔を見せないことには、エミヤさんへの説明ができないというのも事実。……いやまぁ、深い部分の事情を知らないのであれば、顔を見せられてもよくはわからないだろうけども。
ともあれ、話をするのに顔を隠したまま、というのが失礼だということもまた事実。
その辺りをチクチクと(具体的には『その格好のまま話をするのはスゴクシツレイ!』とか、『感謝の言葉とか、色々言いたいことはあるんでしょ~?』とか、そんな感じ)言葉責めした結果、ついに彼女は根負けして、その紙袋に手を掛けたのだった。
「……ええとその、初めまして。……それと、事情だのなんだのの難しい話は一先ず抜きにして、とにかく貴方に感謝を。私がここに在るのは、偏に貴方が答えを得たがゆえ。その道程、その挫折、その意思……。貴方の全てが私を助け、導き、繋いでくれた。──ですから、ただ感謝を。私、
「……?……!?」
『あ、アーチャーさんってば怒涛の感謝の言葉にバグっちゃいましたね?』
「素直な感謝──それも未熟な時期まで含めて、自身の全てに対しての感謝。……まぁ、気持ちはわからないでもないですね」
「紅茶なんてあだ名があるけど、それにピッタリの赤さね」
「なんでさっ?!」
紙袋の下から出てきたのは、彼にとっては全く見知らぬ人物。
けれど、彼女からしてみれば
その思いから彼女──