なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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十三章 春の新生活、心機一転と行けるか否か
新生活開始から早何日


 こちら(『新秩序互助会』)での生活にも慣れた、ある春の日のこと。

 相も変わらず都合が付かず、ここのリーダーさんとやらには顔通しが済んではいないが……それでもまぁ、一月近くも滞在していれば、そこの住人達に顔を覚えられるのは当然、というもので。

 

 

「なるほど。それでいつの間にか、他のみんなから妹扱いされていた……と?」

「そうなんです……感覚的には近所の憧れのお兄さんお姉さんポジションを気取られている、とでも言うんでしょうか……」

「ははは……そりゃまぁ、なんとも。なんの少女漫画だ、ってツッコミを入れたらいいのかな?」*1

 

 

 部屋のベッドの上で、シャドフォ(シャドウフォウの略)君をもふもふしながら、小さくため息を吐く私。

 それを聞いている相手の男性は、椅子に腰掛けたまま小さく苦笑いを浮かべていたのだった。

 

 ……とまぁ、ある意味では最近の私の日常、みたいな光景がここにあるわけなのだけれど。

 多分よく分からないことが幾つかあると思われるので、さっくりと説明を入れていこうと思う。

 

 まず始めに、シャドフォ君について。

 アニメの方を見て貰えればわかるのだが、元々のフォウ君の大きさというのは、大体栗鼠(りす)と同じくらいのもの。

 皆が初めて彼の姿を(絵だけ)見た時に、なんとなく想像していただろう大きさ──大体猫とか小型犬くらいのものとは、かなり異なった大きさをしている。*2

 

 要するに肩に乗れてしまうくらいの大きさが、彼の設定的な体長であり、『盾のどこに隠れているんだろう?』みたいな疑問も、それなりのスペースで十分隠れられることに納得したりだとか、まぁ色々とマスター達に衝撃をもたらしたと思うのだけれどそれはそれとして。

 ともかく、膝の上に乗っけてもふもふするには、本来のフォウ君はボリュームが足りていないのである。

 

 で、その辺りを踏まえて、私の太ももの上を見て頂きたい。……小型犬くらいの大きさになった、黒っぽいフォウ君が見えますね?

 ……まぁ、うん。このシャドフォ君ね、どうやら大きさが自由自在みたいでね?……厄ネタの香りしかしねぇ!!

 

 いやまぁ、今のところ「ふぉうふぉふぉう」*3とか言ってるだけの、人畜無害なマスコットでしかないわけだけれども。……それでもまぁ、別世界ではプラ犬*4だなんて呼ばれている彼が、こうして小型犬並の大きさに変化したりしているのは、正直恐ろしさを感じざるを得ないわけでして。

 

 いやまぁ、例えば『銀魂』の定春くらいまで大きくなるのなら、最早諦めも付くのだけれど。

 中途半端に大きくなった今の状態だと、どこまで警戒していいものか判断に困ってしまうわけなのです。……とりあえず、彼の前ではレアのステーキとかは絶対食べないぞ……と誓う私である。*5

 

 ともあれ、現状特に問題が起きていない、というのも確かな話。

 なのでこうして手持ち無沙汰の時には、シャドフォ君を思う存分もふらせて貰っている、というわけなのであった。……仕方ねぇなぁ、的な視線を向けられるのには納得いかないが、このもふもふには勝てねぇんだ……。

 

 そんな感じで付き合いを続けているシャドフォ君に続けて、説明するのは目の前の男性について。

 特に暈す必要もないので結論に移るが、彼は以前私が朝っぱらに寝惚けていた時に部屋にやって来ていた、特徴がなく目立たない感じで普通の人認識されていた、あの人物である。

 

 あれから何度か顔を合わせる(ついでに『あれやっぱり夢じゃなかった!?』と再確認した)内に、畏まったというか尊大というかな喋り方も普通のモノになった彼は、変わらず()()の使いの者として、時々部屋に顔を見せに来るようになったのである。

 まぁ、他の人が居ない時にしか来ないので、今のところ私の妄想上の人物扱いされているんですけどね!

 

 

「ははは……まぁ、他の人に顔を見せるつもりはないからなぁ」

「ふむ?美男美女達に囲まれると恐縮するから、みたいな感じですか?」

「だったら君の前にも来ないよ」

「おやおや御上手ですね。それから生意気です。最初のうちは、もうちょっと純情な素振りを見せていらっしゃったと思うのですが」

「そんな純情な一般人相手に、嬉々としてメスガキ*6ムーブを仕掛けてきたのはどっちかな?」

「なにを仰いますやら。足が透けていらっしゃるので地縛霊かなにかですか?……といった感じで、ちょっと未練の解消をお手伝いしようと思っただけですよ?」

「なんでその判断からメスガキムーブになるのか、俺には意味がわからないよ……いやまぁ、最近流行りの口調が生意気なだけの、ほぼほぼオカンムーブだったわけだけど」*7

「男の人は雑魚(ざーこ♡)煽りされると、元気になるって聞きました!(棒読み)……まぁそれは冗談としまして。私も人間ですので、生真面目な態度に疲れる時もあるのですよ」

「へーぇ……?」

 

 

 ……信用してねぇなこいつ。

 男性から飛んでくる不信感マシマシの視線を、ぺしぺしと払いつつ、小さく笑う私。

 

 実際、あの小馬鹿にしている感じの言動は、やってみるとこれが意外に楽しいのである。……頭の中でムーブの参考にしたのがBBちゃんだったので、正確には違う気がしないでもないけども。

 ともあれ、ストレス解消ついでに彼のお悩み相談なんかもしていた私は、いつの間にか彼に対してこちらの愚痴も溢すようになっていた、というわけなのでありましたとさ。

 

 

「……おっと、そろそろお時間のようですね」

「ありゃ、もうそんな時間か。じゃ、そろそろ俺も戻ろうかな」

「はい、お疲れさまでした。それじゃあまた来週、ということで」

「ふぉふぉーぅ」

 

 

 そうして会話を続けるうちに、予定の時間に差し掛かっていたことに気が付いた私達は、軽く別れの挨拶をする。

 男性はゆっくりと薄れていき、やがて見えなくなってしまう。……彼の仕事、とやらに戻ったらしい。

 それを見送り終わった私は、小さく頷いて。

 

 

「──よし、行きますかフォウ君」

「ふぉう!」

 

 

 抱いていたシャドフォ君に声を掛け、部屋から飛び出して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

「メスガキ……のぅ?あれじゃろ、ざーこざーこ言っとけば良い、とか言うやつじゃったか?」

「知識が偏り過ぎてませんかそれ……?今のメスガキは、煽っているような感じで相手を褒めるのが主流なんですよ?」

「朝っぱらからなんて話してるの二人共……ご禁制、ご禁制ですよ!」

「ぬわっ!?単なる注意如きで雷を降らすでないわっ!」

「地震・雷・火事・アスナさん、というわけですね!」(ドヤ顔)*8

「なんで得意気なんじゃお主……」

 

 

 朝のやり取りをミラちゃんに説明しつつ、トレーを持って席へと向かう私達。

 すっかり雷まで自在に扱えるようになってしまったアスナさんに、若干辟易しつつ。そのままてくてくと歩いて席に向かえば、いつものメンバー達がこちらに気付いて、各々が声を掛けてくるのだった。

 

 

「タイミング良かった!キリア、きらりの相手任せた!」

「もぉー!キリアちゃん、ハジメちゃんを捕まえてー!ハジメちゃんってばぁ、好き嫌いばっかりすゆの~!」

「おやおやハジメさん。きらりお姉さんを困らせてはいけませんよ?」

「やかましい!今更好き嫌いを直したところで、なにかが変わるわけじゃねえっての!!」

「……変わる、と言ったら?」

「なん……だと……」

「……相変わらず坊やだな」

「ふははは!好き嫌いとは全く子供よな!……む、なんだ貴様ら、俺の顔を穴が空くほどに見つめて」

(その皿に分けられたニンジンは)

(好き嫌いじゃねぇのか……?)

 

 

 わいわいと騒いでいるのは、サウザーさんときらりん、ソルさんとハジメ君達の四人。

 

 朝からとても元気な彼らは、最近……というか、こっちに来てからずっと、あれこれと絡むことの多い面々だと言えるだろう。……まぁ、ちょっと離れた位置でこちらを伺いつつ、コーヒーを飲んでいるメルクリウスさんとかも居るには居るけども、基本的にこっちの輪には入ってこないため無視である。

 

 その他にも幾人のメンバーから、挨拶を投げられたりしながら朝食の時間が進んでいく……というのが、ここ最近のルーティンワークとなっているわけなのだが。

 その理由は、私がカウンセラーの真似事のようなことを始めたから、というのも一因にあるのだと思われる。

 

 以前ミラちゃんが言っていた通り、この『新秩序互助会』に所属している面々は、どうにも喧嘩っ早い人物が多く。

 それゆえに必要のない会話はあまり行わない、という暗黙の了解が住民達に広がっていた。

 

 確かに、トラブルを避けるために端から距離を置く、というのも対処の一つだろう。……とはいえ、それで施設内の空気がちょっと淀んでいた、というのも事実。

 積極的な関わりを嫌うようなタイプもいる以上、それが一番当たり障りがないのだから、その対処にどうこう言うのもあれかと思ったのだけれど……。

 

 

「そんな状態では、余計に殺伐するだけだ……などと言いながら、突然カウンセリングを始めた時にはどうなることかと思ったが……まぁ、うまく行ったのであれば良かったのではないか?」

「私の力を頼って……みたいな下心持ちの方もいらっしゃいましたが、今では普通に話してくださるようになりましたし、良かったです」

 

 

 そんなストレス環境で、まともな成長ができるかと言えば否。

 そう考えた私は、ある意味時の人*9であった自身の特異性を生かして、住民達の話を聞く仕事?を始めたのである。

 疑問系なのは、この行為に対して、特に報酬を貰ったりしてはいないため。……要するにボランティアである。

 

 

「まぁ、金銭が発生していないというだけで、色々と面白い話を聞かせて貰ったりだとか、出先でお土産を買ってきて貰ったりだとか、別の形での報酬は頂いているわけなのですが」

「まぁ、じゃなきゃリーダーも許可してなかっただろうしね」

 

 

 無論、本当に無償だと良くない*10……ということで、なにかしらの噂話を教えて貰ったりだとか、仕事で外に出た時にお土産を頼んだりとかしていたわけなのだが。

 

 そんなことを繰り返しているうちに、いつの間にかみんなから妹扱いされるようになった、というわけなのである。……聖女キャラだと寧ろ話辛いだろうと思って、ちょっと親しみやすい感じに話し方を変えた結果だろうけども、なんともままならぬ話である。

 ……まぁ、代わりに施設内の空気がちょっと明るくなったので、決して『やらなきゃ良かった』とは思わないわけなのだけれども。

 

 

 そんな感じで、出会った人に気安く頭を撫でられたり肩をポンっと叩かれたりしながら、朝食を楽しむ私達なのでありましたとさ。

 

 

*1
一部の少女漫画に見られる特徴。大体高校生か大学生辺りの男性が近い場所に存在することが多く、その人物に対して主人公の少女が憧れを抱いている……というパターンが散見される。なお、憧れは憧れで終わり、メインの相手は歳の近い人物……ということも少なくはない

*2
アニメでフォウ君が描写された時、幾つかのプレイヤーが『あれ?小さくね?』と思ったという話がある。一応、作中の描写をしっかり見ていくと、そんなに大きくはないということはわかるのだが、何故か『もっと大きい』と思っていた人がそれなりに居たらしい

*3
特別意訳:マシュにも会いたいなぁ、でもまだ掛かるんだろうなぁ

*4
『プライミッツ・マーダー』の数少ない既知の情報が、『犬系の生き物』だった為に生まれたあだ名。主食は人肉か麺類(ベトナムの麺料理に『フォー』というものがある)なのだとか

*5
元々死徒(≒型月世界での吸血鬼)ではないのだが、主人の真似をして血を飲むようになったので死徒二十七祖になった、という話がある。リメイクで設定が変わった為、プラ犬は二十七祖ではなくなっている

*6
(メス)』の『子供(ガキ)』の意味。『ガキ』自体に『生意気な子供』の意味がある為、ここでは『生意気な女の子』といった感じの意味となる。基本的には蔑称に近いものだったのだが、いつの間にか萌え属性みたいになっていた。『大人をからかう小さな女の子』というキャラを端的に示す言葉であり、該当者を別の言葉で説明しようとすると意外と難しかったりする

*7
ある意味ではバブみ系の派生とも言えなくもないもの。該当者は『アズールレーン』のバッチなど。小生意気な言動をするが、本質的には相手を思いやっている……と言った感じのキャラクター性に、母性を見出だしたものが言い出したとかなんとか。雑に見ると小生意気な発言で『発破を掛ける』タイプと言えなくもないか

*8
本来は『地震・雷・火事・親父』。世の中の怖いものを順番に並べ、語感よく述べたもの。昔の父親というのは基本的に恐ろしいものであった、ということから来る言葉でもある。『親父』は本当は『大山嵐(おおやまじ)』という言葉が訛ったのだ、とする説があるが、その根拠と言うものは現在見付かっておらず、基本的には俗説とされる

*9
時め(トキメ)いている人、羽振りのよい人などの意味を持つ言葉。使い方としては『今をときめく』とかと同じ

*10
色んなところで言われる話。無償の物品・サービスというものは、提供する側も享受する側も次第にいい加減になっていく、という話。人の善性のみに頼った運用は基本的に失敗する、というようなことは、かのナイチンゲールも述べている。漫画『ラーメン才遊記』にも『金の介在しない仕事は絶対に無責任なものになる』という言葉があるし、ソシャゲにおける特定の『無課金層』の『課金者が得をするのはズルい』という言説もまた、有名なモノだと言える


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