なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
新生活開始から早何日
相も変わらず都合が付かず、ここのリーダーさんとやらには顔通しが済んではいないが……それでもまぁ、一月近くも滞在していれば、そこの住人達に顔を覚えられるのは当然、というもので。
「なるほど。それでいつの間にか、他のみんなから妹扱いされていた……と?」
「そうなんです……感覚的には近所の憧れのお兄さんお姉さんポジションを気取られている、とでも言うんでしょうか……」
「ははは……そりゃまぁ、なんとも。なんの少女漫画だ、ってツッコミを入れたらいいのかな?」*1
部屋のベッドの上で、
それを聞いている相手の男性は、椅子に腰掛けたまま小さく苦笑いを浮かべていたのだった。
……とまぁ、ある意味では最近の私の日常、みたいな光景がここにあるわけなのだけれど。
多分よく分からないことが幾つかあると思われるので、さっくりと説明を入れていこうと思う。
まず始めに、シャドフォ君について。
アニメの方を見て貰えればわかるのだが、元々のフォウ君の大きさというのは、大体
皆が初めて彼の姿を(絵だけ)見た時に、なんとなく想像していただろう大きさ──大体猫とか小型犬くらいのものとは、かなり異なった大きさをしている。*2
要するに肩に乗れてしまうくらいの大きさが、彼の設定的な体長であり、『盾のどこに隠れているんだろう?』みたいな疑問も、それなりのスペースで十分隠れられることに納得したりだとか、まぁ色々とマスター達に衝撃をもたらしたと思うのだけれどそれはそれとして。
ともかく、膝の上に乗っけてもふもふするには、本来のフォウ君はボリュームが足りていないのである。
で、その辺りを踏まえて、私の太ももの上を見て頂きたい。……小型犬くらいの大きさになった、黒っぽいフォウ君が見えますね?
……まぁ、うん。このシャドフォ君ね、どうやら大きさが自由自在みたいでね?……厄ネタの香りしかしねぇ!!
いやまぁ、今のところ「ふぉうふぉふぉう」*3とか言ってるだけの、人畜無害なマスコットでしかないわけだけれども。……それでもまぁ、別世界ではプラ犬*4だなんて呼ばれている彼が、こうして小型犬並の大きさに変化したりしているのは、正直恐ろしさを感じざるを得ないわけでして。
いやまぁ、例えば『銀魂』の定春くらいまで大きくなるのなら、最早諦めも付くのだけれど。
中途半端に大きくなった今の状態だと、どこまで警戒していいものか判断に困ってしまうわけなのです。……とりあえず、彼の前ではレアのステーキとかは絶対食べないぞ……と誓う私である。*5
ともあれ、現状特に問題が起きていない、というのも確かな話。
なのでこうして手持ち無沙汰の時には、シャドフォ君を思う存分もふらせて貰っている、というわけなのであった。……仕方ねぇなぁ、的な視線を向けられるのには納得いかないが、このもふもふには勝てねぇんだ……。
そんな感じで付き合いを続けているシャドフォ君に続けて、説明するのは目の前の男性について。
特に暈す必要もないので結論に移るが、彼は以前私が朝っぱらに寝惚けていた時に部屋にやって来ていた、特徴がなく目立たない感じで普通の人認識されていた、あの人物である。
あれから何度か顔を合わせる(ついでに『あれやっぱり夢じゃなかった!?』と再確認した)内に、畏まったというか尊大というかな喋り方も普通のモノになった彼は、変わらず
まぁ、他の人が居ない時にしか来ないので、今のところ私の妄想上の人物扱いされているんですけどね!
「ははは……まぁ、他の人に顔を見せるつもりはないからなぁ」
「ふむ?美男美女達に囲まれると恐縮するから、みたいな感じですか?」
「だったら君の前にも来ないよ」
「おやおや御上手ですね。それから生意気です。最初のうちは、もうちょっと純情な素振りを見せていらっしゃったと思うのですが」
「そんな純情な一般人相手に、嬉々としてメスガキ*6ムーブを仕掛けてきたのはどっちかな?」
「なにを仰いますやら。足が透けていらっしゃるので地縛霊かなにかですか?……といった感じで、ちょっと未練の解消をお手伝いしようと思っただけですよ?」
「なんでその判断からメスガキムーブになるのか、俺には意味がわからないよ……いやまぁ、最近流行りの口調が生意気なだけの、ほぼほぼオカンムーブだったわけだけど」*7
「男の人は
「へーぇ……?」
……信用してねぇなこいつ。
男性から飛んでくる不信感マシマシの視線を、ぺしぺしと払いつつ、小さく笑う私。
実際、あの小馬鹿にしている感じの言動は、やってみるとこれが意外に楽しいのである。……頭の中でムーブの参考にしたのがBBちゃんだったので、正確には違う気がしないでもないけども。
ともあれ、ストレス解消ついでに彼のお悩み相談なんかもしていた私は、いつの間にか彼に対してこちらの愚痴も溢すようになっていた、というわけなのでありましたとさ。
「……おっと、そろそろお時間のようですね」
「ありゃ、もうそんな時間か。じゃ、そろそろ俺も戻ろうかな」
「はい、お疲れさまでした。それじゃあまた来週、ということで」
「ふぉふぉーぅ」
そうして会話を続けるうちに、予定の時間に差し掛かっていたことに気が付いた私達は、軽く別れの挨拶をする。
男性はゆっくりと薄れていき、やがて見えなくなってしまう。……彼の仕事、とやらに戻ったらしい。
それを見送り終わった私は、小さく頷いて。
「──よし、行きますかフォウ君」
「ふぉう!」
抱いていたシャドフォ君に声を掛け、部屋から飛び出して行くのだった。
「メスガキ……のぅ?あれじゃろ、ざーこざーこ言っとけば良い、とか言うやつじゃったか?」
「知識が偏り過ぎてませんかそれ……?今のメスガキは、煽っているような感じで相手を褒めるのが主流なんですよ?」
「朝っぱらからなんて話してるの二人共……ご禁制、ご禁制ですよ!」
「ぬわっ!?単なる注意如きで雷を降らすでないわっ!」
「地震・雷・火事・アスナさん、というわけですね!」(ドヤ顔)*8
「なんで得意気なんじゃお主……」
朝のやり取りをミラちゃんに説明しつつ、トレーを持って席へと向かう私達。
すっかり雷まで自在に扱えるようになってしまったアスナさんに、若干辟易しつつ。そのままてくてくと歩いて席に向かえば、いつものメンバー達がこちらに気付いて、各々が声を掛けてくるのだった。
「タイミング良かった!キリア、きらりの相手任せた!」
「もぉー!キリアちゃん、ハジメちゃんを捕まえてー!ハジメちゃんってばぁ、好き嫌いばっかりすゆの~!」
「おやおやハジメさん。きらりお姉さんを困らせてはいけませんよ?」
「やかましい!今更好き嫌いを直したところで、なにかが変わるわけじゃねえっての!!」
「……変わる、と言ったら?」
「なん……だと……」
「……相変わらず坊やだな」
「ふははは!好き嫌いとは全く子供よな!……む、なんだ貴様ら、俺の顔を穴が空くほどに見つめて」
(その皿に分けられたニンジンは)
(好き嫌いじゃねぇのか……?)
わいわいと騒いでいるのは、サウザーさんときらりん、ソルさんとハジメ君達の四人。
朝からとても元気な彼らは、最近……というか、こっちに来てからずっと、あれこれと絡むことの多い面々だと言えるだろう。……まぁ、ちょっと離れた位置でこちらを伺いつつ、コーヒーを飲んでいるメルクリウスさんとかも居るには居るけども、基本的にこっちの輪には入ってこないため無視である。
その他にも幾人のメンバーから、挨拶を投げられたりしながら朝食の時間が進んでいく……というのが、ここ最近のルーティンワークとなっているわけなのだが。
その理由は、私がカウンセラーの真似事のようなことを始めたから、というのも一因にあるのだと思われる。
以前ミラちゃんが言っていた通り、この『新秩序互助会』に所属している面々は、どうにも喧嘩っ早い人物が多く。
それゆえに必要のない会話はあまり行わない、という暗黙の了解が住民達に広がっていた。
確かに、トラブルを避けるために端から距離を置く、というのも対処の一つだろう。……とはいえ、それで施設内の空気がちょっと淀んでいた、というのも事実。
積極的な関わりを嫌うようなタイプもいる以上、それが一番当たり障りがないのだから、その対処にどうこう言うのもあれかと思ったのだけれど……。
「そんな状態では、余計に殺伐するだけだ……などと言いながら、突然カウンセリングを始めた時にはどうなることかと思ったが……まぁ、うまく行ったのであれば良かったのではないか?」
「私の力を頼って……みたいな下心持ちの方もいらっしゃいましたが、今では普通に話してくださるようになりましたし、良かったです」
そんなストレス環境で、まともな成長ができるかと言えば否。
そう考えた私は、ある意味時の人*9であった自身の特異性を生かして、住民達の話を聞く仕事?を始めたのである。
疑問系なのは、この行為に対して、特に報酬を貰ったりしてはいないため。……要するにボランティアである。
「まぁ、金銭が発生していないというだけで、色々と面白い話を聞かせて貰ったりだとか、出先でお土産を買ってきて貰ったりだとか、別の形での報酬は頂いているわけなのですが」
「まぁ、じゃなきゃリーダーも許可してなかっただろうしね」
無論、本当に無償だと良くない*10……ということで、なにかしらの噂話を教えて貰ったりだとか、仕事で外に出た時にお土産を頼んだりとかしていたわけなのだが。
そんなことを繰り返しているうちに、いつの間にかみんなから妹扱いされるようになった、というわけなのである。……聖女キャラだと寧ろ話辛いだろうと思って、ちょっと親しみやすい感じに話し方を変えた結果だろうけども、なんともままならぬ話である。
……まぁ、代わりに施設内の空気がちょっと明るくなったので、決して『やらなきゃ良かった』とは思わないわけなのだけれども。
そんな感じで、出会った人に気安く頭を撫でられたり肩をポンっと叩かれたりしながら、朝食を楽しむ私達なのでありましたとさ。