なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
因縁の場所が重なり過ぎている
「と、言うわけで」
いつものゆかりん部屋に集まった私達は、いつものように会議というか話し合いをしていた。
議題は最近お決まりの、この現象の説明について。
「ベースはやっぱり英霊の座だと思うのよ。作品の始まりの時点での彼等を憑依の原本として、そこに『名無し』という指標を与えて能力値や方向性を決め、最終的に演者におっ被せてこの世界の情報と同期させる」
出して貰った黒板に、図解を入れながら説明を重ねていく。
憑依者と、名無しと、演者。
原作と、調整役と、実際に演じる人。
なりきりという名目である以上、原作の彼等と同じであるはずがなく。
なりきりという名目である以上、名無しという存在は演者とは微妙に違い。
なりきりという名目である以上、文章を打ち込む貴方がいる。
レベル4以上の不和を起こす『名無し』の不具合とは、原作と演者を確認した時に、
故に『名無し』をぶっ叩けば、ある程度改善の可能性があるだろう、と。
「……いつかのメソッドアクターの話を採用するなら、役を振り分けるのが『名無し』ってことになるのかしらね」
「……これ、話してる私達もわりとちんぷんかんぷんなんだけど、ちゃんと説明とかできるもんなの……?」
「それができないことには他の人にも共有できないわよ」
だよねぇ、と頷きつつ、黒板の絵を消してふりだしに戻す。
……裏側が見れる訳じゃないから、ずっと推論で語ってるけど、実際合ってるんだろうかこれ?
平行世界とか知識の差とか知識の更新とか、色々情報が飛んでくる中から、あれこれと考えて形にしてみたけれども。
……うむ、まぁ、とりあえず、これでいいのでは?
もう正直この辺りの話ずっとやってて疲れてきたというか……。
「せんぱい、ちょっとメタいと思います」
「ぬぐぅ、知恵熱か……」
「知恵熱って便利な逃げ言葉じゃないわよ?」
喧しいゆかりん、私だってちょっと無理があると思っとるわいっ。
正直煮詰まってる感が強くてどうしたもんか、って感じである。
「うーん。じゃあ仕方ないわね」
「……?ゆかりん、どしたの突然スキマ開いて」
「えっと、腕をスキマに差し込んで、何かを探していらっしゃるようです」
若干の憔悴を感じて来たところ、ゆかりんがふぅと息を吐いて、スキマに腕を突っ込んで何かを探し始めた。
しばらく経って、彼女が取り出したのは……。
「……アーマード・マシュのゴーグル?」
「なんでわざわざ間違うのよ、普通にヘッドマウントディスプレイよ、H・M・D!」
二部のマシュが着けてるやつ……ではなく。
VRゴーグルなんて風にも呼ばれる、頭に着けて映像を見るアイテムだった。
あと、コントローラー的なものも一緒。
……なんかさ、嫌な予感するんだけど?
「気分転換も必要でしょう。どうかしら、VRゲームで遊ぶって言うのは」
「死亡フラグじゃないですかやだー!!」*1
次にゆかりんが放った言葉に、私は全力でやだー!と返すのでした。
「実はこのゲームも調査対象なのよねー」
……などと言われてしまえば断りきれもせず、仕方なくゴーグルを被ってスイッチオン。
初期設定やら何やらをサクサク進めて、遊ぶゲームを選ぶホーム画面にまでたどり着く。
なお、私が見ている映像は外部出力できるとのことで、現在ゆかりん達が見ている大型モニターにも、私が見ているものと同じものが映しだされている。
……変なことするともれなく羞恥プレイになるので、素直に普通に設定とか進めたけど、誰も見てないなら、私もアバターとか好きに弄りたかったなぁ、とちょっと後ろ髪を引かれる。
キーアの姿も嫌いじゃないけど、たまには背丈の高いキャラとかやってみたいというか。
「これ結構VR酔いするみたいだから、体型は実際のモノに合わせておいた方がいいわよ?」
「あー、出たVR酔い……なんだっけ、実際の体感と映像が違うと脳が混乱するとかだっけ?」*2
「それだけで済めばいいわね?」
「おいこら、だから人のやる気を削るなバカ」
「お、落ち着いて下さいせんぱいっ」
ただでさえこちとらこんな状態になってる世界で、VRとかこえーよって思いながらやってんだぞ?
変にやる気を下げないでくれ、正直逃げ出したくて仕方ない。
……いやだってさ?VRゲームって言ったら……。
「まさにデスゲーム!……ですね?」*3
「……その台詞がジェレミアさんから出るとは思わなかった」
わりと似てるマリクの物真似が飛んできたことに面食らいつつ、今回の調査対象だと言うVRゲーム【
……このコントローラー、Wiiのヌンチャク*4思い出すなぁ、なんて思いつつ、しばらく待つとメーカー名っぽいものが表示された後、スタート画面が現れる。
「……なるほど、スタート画面ではありますが、周囲を見渡せるのですね」
「VRならではよねー」
「おいこらちょっと待て、アンタらこれ見てなんも思わんのですか?!」
「え?なにが?」
「えっと、綺麗な場所だとは思いますが……」
「あっくそ、この子らやったこと無い子らだ!」
目の前に現れたスタート画面、その向こうに見える景色に早速止めたい気分になりながら声をあげるが、なんと二人から帰って来たのはこちらが何を言ってるのかわからない、というような反応。
顔が見えないのでわからないけど、多分二人ともホントに知らない感じだ。
あーでも、新しい方にしてもリマスター前はプレステ2の時だから、知らない人は知らないか……。
この気持ちが共有できないもどかしさに、なんとも言えない気分になっていると、またもやジェレミアさんから合いの手が。
「美しき湖畔に浮かぶ、荘厳なる聖堂。そこに繋がる大きな橋と、背後に見える移動用のポータル。──間違いありませんね、この場所は」
「Δサーバー、『隠されし 禁断の 聖域』。──どう見ても
「お気持ちはわかりますが、流石に中に入りもせずログアウトは如何かと」
「イヤだー!中にやべーのが居たり、後ろに居る怪しげなグラサン男への巻き込みビーム食らいそうな場所はイヤだー!」*5
「ろす、ぐら?」
「え、何か有名な場所なのここ?」
なんで『.hack』知らねーんだよ有名だろー!?*6
みたいな気持ちで叫びつつ、でも知らないからこそ単に綺麗な建物で済むんだろうなー、って気になってちょっと羨ましくもあったり。
──グリーマ・レーヴ大聖堂。
ゲーム作品『.hack』シリーズに登場する、とあるマップの名前だ。
特に重要なものが隠されているとか、特別なイベントがあるわけではない、綺麗なだけの場所。
……だったら良かったのだけど。
その何もない、というのは作中ゲームである『The world』での話。
『.hack』シリーズとしては、厄物以外の何物でもないヤベーマップである。……正確には、物語の起点としてよく描写される、という形だけど。
鎖に繋がれた女神像が中にあれば、まぁすぐには危なくないけど。
もし仮に、誰も居ない台座だけが残ってたりした日には……。
ごくり、と唾を飲み込んで、一応メニューを確認しておく。
……他のMMOも混じってるとか言うエグいものだったら恐ろしすぎるので、一応ログアウトがグレーアウトしてないか確認。*7
──流石にそんな事は無かったので、ほっと胸を撫で下ろす。
「一応このゲームは外の人もできるみたいだから、流石にSAO*8めいたことはされないと思うわよ?」
「……いや、ちょっと過剰に警戒しすぎた感はあるから大丈夫。これフルダイブじゃないし。……だからこそ、『The world』的な警戒は消えなくて困るんだけど」
あっちは普通のVRだったからなー、こわいなー。
……この怖さに共感してくれる相手がジェレミアさんしか居ないのがなんとも悲しいけど、いつまでも悲しんでもいられない。
意を決して、大きな橋を聖堂に向けて歩いていく。
──歩きながら、あれ?外の人もできるなら、グリーマ・レーヴ大聖堂があるのおかしくない?ということに気付く。
……正式にリアルの方で使用許諾取ってるとか?
じゃあこれも、リアルに作ってるだけだったり?
……うーむ、わからん。
わからんけど、ちょっとだけ気が楽になったので、そのままキャラクターを歩きから走りに変えて、聖堂に一直線。
「え、なに?さっきまですっごい行きたくなーい、って感じだったのに急にどうしたの?」
「外の人も触れるって言うなら、変なものじゃないなってこと!ふはは、心配して損した!」
そうだよ!外部の人も触れるって言うなら、MMOを扱ったゲームの金字塔としてオファーとか掛けてコラボしてるって考えた方が正解じゃん!
だとすればちゃんと景色とか見てなかったの、ちょっと勿体なかったかな!まぁ帰る時に改めて確認すればいいか!
なんて風に鼻唄を口ずさみながら聖堂の扉に手を掛け、それを押し開く。さーて、中身はどうなってるかなー?
「ちっ、流石ってとこか
「………へ?」
扉を開けてまず目に飛び込んできたのは、何も乗っていない祭壇と、その手前側へ三角に刻まれた大きな斬撃痕。
あ、GUの方なんだね、なるほどなるほど。
で、その次に目に入ってきたのは、──入って、来たのは。
「こいつを、喰らいやがれぇ!!『
大きな剣を振り回して、オレンジと青の目立つ人型の何かと切り結ぶ、黒い少年。
……はは。大剣を振り回してるってことは2ndフォームかなーあははー。
「vol.1の終盤じゃねぇかァァァッ!!?」
「うおっ!?」
櫻井孝宏ボイスで驚いたようにこちらを向く少年を見ながら、とりあえず背後を気にする必要性はなさそうだな、とかなり現実逃避したことを思う私なのであった。