なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「では、皆さん構えてくださーい!」
体育館のような広い空間内に集った人々に、拡声器*1を使いながら指示をする私。
その指示を聞いた面々はそれぞれに礼をしたのち、各々思い思いの構えを取り始めた。
カウンセリング擬きのことを行っていて、やっぱりよく耳にするのが「強くなりたい」とか、それに類するような話。
本来は彼らも『逆憑依』のはずなのだが、それを自覚していないここの彼らは、原作の自分というものにどこか執着している節がある。
そのせいなのか、走ったりとか打ち合いをしたりだとかの、いわゆる鍛練系の行為に積極的な人が、向こうと比べて比較的多いのが特徴と言えなくもないのだった。
……いやまぁ、そういうのとは関係なしに、激流に同化しているきらりんも居るんだけども。……アイマスなら仕方ない?せやな!*2
まぁともかく。
そういう自身の成長に貪欲な姿勢を示す人が多い以上、それを個別に対応していたのでは、体が幾つあっても足りやしない。
……というか、誰か一人だけを特別扱いもできないし、やっちゃいけないので、必然的に全員の面倒を見なければならなくなってしまったわけで。
結果、こうして一つ場所を借りて、稽古の真似事をすることになったのでしたとさ。
以前黒子ちゃんが言っていたが、私の補助は『
原作のそれは、なにかと悪い面ばかりが取り沙汰されていたが。
自身の能力を自覚し、使い方の取っ掛かりを実体験する……すなわち未来の先取りをしているような面もあったため、事件後にレベルが上がったという人も多くいたらしい。
なんの取っ掛かりもない、周囲になにもない大海原に放り込む時に、地図やコンパスがあった方が迷わないというのは当たり前のこと。
終点だけ知っていて経路を知らない彼らに、その道案内をするという意味で、私が適任だというのもまた間違いなく。
ゆえにこうして、全体の様子を見ながら指導をするのが公平であり、効率的であるという判断になったわけである。
「……要らぬ苦労を背負い込んでいるのではありませんこと?」
「一日一時間程度ですし、言うほど大変でもありませんよ。終着点に引っ張るのではなく、道筋を教えて背を押すのが私の役目ですし」
「なるほど。文字通り崖から突き落としている、と」
「……人聞きが悪くはないですか、それ?」
そんな私を補助してくれているのが、図らずしも
どうやらルームメイトに『ずるいずるい』と連呼されたらしく、今回のあれそれには『反対だけど賛成』という、結構めんどくさい位置に立たされているらしい。
そのせいなのか、はたまた別の理由なのか。
彼女はこうして指示を手伝ってくれているものの、どこが態度が刺々しいのだった。……いやまぁ、手とかはちゃんと動かしてくれているから、特に不満はないんだけどね?
(……まぁ、相変わらず私が別人格じゃなくて、キーアそのものだと疑って掛かってるみたいでもあるんだけども)
「……?その、なにか指示でもおありなので?先程から私を、穴が空くほどに見つめていらっしゃいますが」
「いえ別に。前評判通り、
「……口説いているのでしたら殴りますが?」
「いや、なんでそうなるんですか……?」
不満げとまではいかないものの、どこか無理をしている感じのある彼女を見つめながら、小さくため息を吐く。
元を正せば、彼女がこうして私を手伝うことになったのは、彼女が密かに
……逆恨みっぽい感じではあるが、それが
若干自棄っぱちに、こちらの正体探りにのめり込んでいる節があるので、そのうちなにかしらの詫びを送りたいなー……と思っている私なのであった。
「……
「いらっしゃるんですの?!」
「ええまぁ、はい。
「なるほど……連れていって欲しいのであれば、この仕事を完璧にやり遂げろと、そう仰るのですわね?」
「理解が早くてなによりです」
なので、現状のギクシャクした関係の修正のため、という理由も含め、彼女に『ビリビリさん』を紹介することを約束する私。
それを受けた黒子ちゃんは、以後素直にこちらの手伝いをしてくれるようになったわけだが……。
この時点で未来になにが起こるのか、決まってしまったようなものだというのは黙っておこう。
ともあれ、教師間の不仲も解消され、生徒達への指導も順調に進み始めたわけなのですが……。
「ふーむ……」
「え、えっと……?」
そうして面倒を見ていたうちの一人。
全体的に緑っぽいその女性への指示に、ちょっとばかり問題を感じる羽目になった私。
さて、この緑っぽい彼女。
あくまで『ぽい』だけであり、本当に全身が緑色、というわけではないのだが、ふと目にした時に『緑!』という印象が強く浮かんでくることには間違いなく。
それゆえ、多分緑系の誰かなんだろうなー、と思いながら指導を始めたわけなのですが。……いやそのですね?
「じーっ……」
「く、口でじーって言ってるんですけどこの子……!?」
「結構お惚けなところがありますからね、この人は。……で、キリアさんは一体なにを、そんなに気にされているのです?」
「いえ、ちょっとこの人だけ個別指導が要りそうだなぁ、と思っただけなのですよ?」
「こここ、個別指導ぅっ?!」
「……なるほど?」
気になることがあったため、彼女にだけ居残りを指示することになったのでした。
「……で、そこからどうなったのじゃ?」
「それがですね……」
午前の仕事が終わり、再びの食堂。
ミラちゃんとサウザーさんと一緒にお昼の定食を突っつきながら、あれこれと会話をする私である。
まぁ、私達は定食だけど、サウザーさんはカレーを食べていたのだが。*4
……そんなに頻繁にカレーを食べていると、飽きてしまう気がするのだけど。一応、毎度毎度全部種類の違うカレーなので、そういった心配は必要ない……と返されたり。
ともあれ、互いに昼前までなにをしていたのか、ということを語りながら、昼食を食べていたわけなのだが。
「午後の仕事の手伝い、ですか?」
「うむ。俺がここで主に請け負っているのは、土木関係の工事なのだがな?地下を掘り進めていくうちに、よく分からないモノにぶち当たったのだ」
「よくわからないもの……?」
トンカツ*5に齧り付く直前で、それを止めて話を聞く体制になった私。その姿を見たサウザーさんは、腕組みをしながらむむむと唸っていた。
内容は、彼の仕事──この施設の拡張工事について。
この『新秩序互助会』は『なりきり郷』とは違い、空間拡張系の技術がさほど発展していない……というような話は、以前ちょっと触れたと思う。
それゆえに、施設の拡張はとても物理的なものになるのが、ある意味で問題となっていたのだった。
……まぁ地下数千階、とかいう意味不明な敷地面積が必要な向こうとは違い、こっちは構成人員数的には中学校一つ分くらいのものであるため、そこまで広大な土地を必要とするわけではないが。
それでも、人が増えればスペースが必要になる、ということに違いはなく。
結果として、近隣の人々の邪魔にならないように、地下深くに施設を拡張する、という方式を取ってきたのだそうだ。
エレベーターシャフトが縦にどーんと一本、その底にあたる部分から施設が広がっている……という形になっているのも、できうる限り周囲への影響を抑えることを意識した結果、というのは言うまでもない。
下方向に進むにしても限度があるため、幾らか横にも広がっているが……とりあえず入り口となっている地上の空き地の面積から大きく逸脱しないようには気を付けているとかなんとか。
勝手に地下を掘ってたら取っ捕まるので、地下鉄工事とかなんとかの名目で許可も取っているらしい。……まぁ、ほぼペーパープラン、何年も完成しない上に
まぁ、その辺りの詳しい話は、機会があればやるとして。
ともかく、そうして地下方向に施設を進める作業、その陣頭指揮をしているのがサウザーさんなのだそうだ。……けっして聖帝十字陵ではない。*6
ともあれ、そうして地下を掘り進める中で、どうやら変なものを見付けてしまい、その扱いに困っている……というのが、今回の話の肝のようで。
色々な作品を聞き齧っている私なら、その謎の物体の正体を明かせるのではないか?……とのことから、彼は私に仕事の手伝いを依頼してきたのだということだった。
事情はわかったが、今の時点ではなんともいえない。
彼の口をついて出てくる説明は要領を得ず、場合によっては認識阻害でも発生している可能性があるからだ。
その状況下で『私なら大丈夫』と豪語するのは、よっぽどの自信家だけだろう。
そのため、微妙に承服し辛いことになっていたわけなのだが……。
「……そんな目で見ずとも、付き合ってやるとも」
「わぁ、有り難うございますミラさん。持つべきものは、やはり理解ある友人ですね♪」
「よく言うわ。手伝わねば手伝わぬで、あれこれと吹っ掛けて来る気じゃった癖に」
「おや人聞きの悪い。手伝って頂ければ、あれこれと都合の付けられるモノもあるかもしれませんよ?……と、お願いをしようと思っただけですのに」
「それ選択肢がはいとイエスのやつじゃろうに……まぁよいわ。わしも午後は特に用事がなかったし、暇潰しにはなるじゃろう」
「いや、一応俺にとっては普通に仕事なのだが?」
「おおっと、すまぬすまぬ」
隣で我関せず、とばかりにプリンを一掬い口に入れようとしていたミラちゃんに、なにかを訴え掛ける視線を向ければ。
彼女は小さくため息をついて、こちらの要求を承諾してくれるのだった。
流石はミラちゃん、人が良い。まぁ、悪人ってわけでもないので、丁寧に頼めば普通に手伝ってくれたとは思うが。
ともあれ、道連……頼もしい相棒を引き込んだ以上、この事件も解決秒読み。
さくっと終わらせて勝利の美酒でも嗜みましょう……みたいな、ちょっと慢心した感じの言葉を投げつつ、改めて昼食を食べるのに戻る私。
無論、予め慢心していることをアピールしておいて、そのフラグを叩き折るための高度な作戦だったのだが……。
「……なんで!?」
思わず素で叫ぶ私が居るように、簡単に行かないいつものアレ、なのであったとさ。