なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
先ほどと同じく、物影から繭の様子を窺う私達。
とはいえ、相手は変わらず明滅と脈動を繰り返すのみで、周囲になにかをしようという素振りは見えない。……ちょっとだけ徒労感が襲ってくるが、頭を振って監視に戻る。
中身が人であるという可能性は限りなく低く、その繭の性質などから恐らく小型の∀(!?)でも飛び出してくるのではないか、と考えている私であるが、先ほどまでの説明を聞いてもなお、ミラちゃんは納得できないとでも言うように、小さく首を捻っていたのだった。
「……そんなに納得できませんかね?」
「いや、そりゃそうじゃろう……
「
「ぬ、アルフォンスとやらか……」
彼女はどうやら、ロボットが
確かに、付属物としてロボットの持ち込みができないと散々説明していたにも関わらず、それがロボットの
が、先ほどから何度か口にしているように、ことそれが『身体機能』と見なされる場合、先の制限云々はかなり緩いものとなるのである。
その実例が中身のない鎧の少年、アルフォンス・エルリック。
なりきり郷に在籍している彼は、原作の彼と同じように鎧の体と、その体に魂を定着させるための錬成陣を刻まれた存在である。
先のロボット云々の話と照らし合わせるなら、動力源と機体については再現度の基準をクリアしている、という風に言えなくもないだろう。……再現度基準で容量を計算するのであれば、どう考えても足りていなさそうであるにも関わらず、である。
要するに、その人を構成する最低限の要素と見なされれば、例えそれが本来再現の難しいものであっても、優先して処理が行われると見るのが正しいのだと思われるわけで。
その例を元に考えれば、例えばイヴちゃんやヤミちゃんが仮に『逆憑依』対象に選ばれたとしても、恐らくは問題なくトランス能力を使える存在として現れることだろう。
そして、そう推測できるがゆえに、
人一人の力で、頭上にまで持ち上げられるほどの軽さだった……というあの繭の重量は、彼女達が肉体を保ったままでは達成できない軽さであるし。
さっきも言っていた通り、そもそも地面の下に長期間埋まりっぱなし、というのにも無理がある。
そうなると、あの繭の中にいるのはアルくんのような、睡眠も食事も必要のない体を持つものである……と考える方が自然となるのだ。
そしてそれらの条件を満たしつつ、あの虹の繭を作ることができる存在というと、正直∀ガンダムくらいしか思い浮かばないわけで。
……
とまぁ、そこまでの話を再度言い聞かせてみたわけなのだが、それでもまだ、どこか納得できない部分がある様子のミラちゃんである。
……一体なにがそこまで、彼女の喉に引っ掛かっているのだろうか?
「いや、そもそもじゃな?……ロボということはAIなのじゃろう?それは、人だと言えるのか?」
「……む、自己認識の問題、ということですか……」
そんな私の疑問に、彼女が返してきたのは魂の在処について、という風に言い換えられるもの。
転生だというのなら、生身の肉体を持っていなければならない……と言うような感じの主張なのだった。
とはいえ、その辺りは個人的には
「む?」
「AIを魂を持たぬ単なるプログラムである、とする主張は、現実世界の拙いそれらならともかく、創作世界のそれらについては当てはまらないだろう、ということです。……自己矛盾に苦しむ、なんてことができるモノが大多数である以上、私達が知っているAIとは、根本的に完成度が違いますからね」
ミラちゃんの疑念には、こう答えるのが良いだろう。
プログラムは、エラーを起こせば止まるだけ。フリーズせずに問題に取り掛かれる時点で、私達の知るAIとは技術的にも別物なのだと。*4
どこぞの人から生まれた呪霊*5の言葉でないが、AI達の悩む様が心を、ひいては魂を持つことの証左でないというのであれば、それはすなわち人の心とやらもまた、無為であり無価値であるということに他ならない。
悩みながらも歩み続けることこそ人の条件、と思っている私としては、この辺りはわりと譲れない部分なのであった。*6
「へぇー……なんだかお姉さん達、とっても小難しい話をしているのねぇ」
「まぁ、存在の意味だとか意思の在処だとか、先人達がその生涯を賭して考え続けた話ですし、印象的に難しいように思えるのは仕方ありませんね」
「お主、時々話好きになることがあるのぅ……」
「それは、オタクなら誰だってそんなものでしょう。……そこで相手の気分とかに気付かずに話続けると、コミュ障とかになるわけですが」*7
「ぬわー!!やめんか胸が痛くなる!!」
「わぁ、よくわからないけど大丈夫?」
「ああうん、大丈夫大丈夫。言うほど傷付いて居るわけではないのでな。……ところで」
「?」
「……総員退避ーっ!!」
「zzZ……ぬぉわっ!?なんだなんだ、敵襲かっ!?」
そうしてあれこれと話を続けていた私達は、いつの間にか会話に加わっていた
小難しい話になっていたがために、ふと気が付けば舟を漕いでいたサウザーさんが、その大声にビクッとなっているのを半ば無視して、その首根っこを掴んで引き下がる私達。
え、なになになんなのだ!?……と困惑する彼と共に少し距離を取ったのを、首を傾げて不思議そうに見ている相手。
……それは、おおよそ子供くらいの大きさの存在だった。
角張った体をしているそれは、基本的には全身真っ白な姿をしていて、胸に当たる部分などのごく一部のみ、青や赤・黄色などの別の色が使われている。
口に当たる部分は見受けられず、代わりに鼻だと思われる赤いパーツの横から、天へと向かって三日月を切り取ったかのようなパーツが伸びている。……それが左右にあるので、全体として見れば口の代わりに三日月がくっついている、という風にも言えなくもないかもしれない。
瞳に当たる部分は……元々ちょっと人相の悪い感じのする元のそれと違い、黒い目がどことなく親しみ易さを醸し出している。
わかる人向けに説明するのであれば、それは俗に『SDガンダムの特徴』とされるものと同じモノであると言えば良いのだろうか?
……流石にここまで説明すれば、わかってしまうことと思うが。
改めて、私の口から答えを述べようと思う。
私達の目の前に居るそれ、子供くらいの大きさのそれ。
それは、すなわち──。
「はんなまー」*8
「……半生?」
変な挨拶に、思わず首を傾げる私。
あれ、おかしかったかしら?などと困惑した表情を見せる彼は、敢えて言葉にするのならば、『SDの∀ガンダム』と呼ぶべき存在なのだった──。
「うーん、通じると思ったのだけれど。なんだかちょっと間違えちゃったみたい」
「……よくわからぬが、話は通じると言うことでよいのか?」
とりあえず言葉は通じている……ということで、半ば逃げ腰になっていたのを止めて、彼に近付いた私達。
当の彼──とりあえずターンエー、と呼ぶことにする──はと言えば、むむむと小さく唸ったあと、何事かを納得するかのように一つ頷き、その雰囲気を明るいものに変えながらこちらに挨拶をしてくる。
「はろー、お姉さん達。ぼくはターンエーだよ」
「……ええと、これはご丁寧にどうも……?……えと、キリアと申します」
「わしはミラじゃ」
「俺はサウザーだ。聖帝とでもサウザーとでも、好きに呼ぶが良い」
「……?ええと、ミラお姉さんとサウザーおじさんと……?」
「……?私に、なにか?」
そんな感じに明るく挨拶をして来ていた彼は、私の名乗りを聞いて再び首を捻っていた。……なにか気になることがあるみたいだったが、それを問い掛けた私の言葉に彼は「ううん、気のせいみたい」と答えるのみ。
気になる反応だが、今の段階では詳しく聞くわけにもいかないだろう。なにせ、一応普通に話しているように見えるものの、今の私達はある意味で、
「……SDの∀なぞおったか?」
「一応GジェネはSD組ですが……目のあるタイプは、ちょっと覚えがありませんね」
「?」
こちらのこそこそ話に、目の前の彼はきょとんとした様子を向けてきているが……。
正直なところ、この∀の出典がわからない私達としては、微妙に警戒を解き切れずにいるわけで。
口調からは、何処と無くボイジャー君のようなほわほわとした感じを周囲に与える彼だが、その姿形はデフォルメされているとはいえ、どう考えても∀のもの。
文明の一つを容易く灰塵に帰す力を持つ∀と同じ姿をしている以上、警戒は幾つしても足りないはず(実際、先述の黒歴史版はSDが初出であるし)なのだが、その警戒を揺らがせてしまう理由が、彼の瞳が黒目を持つものであるということにある。
それは、俗に『SDガンダム』シリーズとも呼ばれる、意思持ったガンダム達に共通するシンボル。
……なのだが。この『瞳入りの∀』というのが、とても厄介なのだ。
試しに検索して貰いたいのだが、SD系作品における∀と言う機体はほぼ出てこない上に、出てきても誰かの乗機であることがほとんどなのである。*10
一応、かのフルカラー劇場に居ることは居るようではあるが……おっとり具合こそ近いものの、ちょっとキャラが違うような気がするし、その他でほぼ唯一と思わしき目ありのSDタイプである『冥光騎士ターンエーガンダム』とも、どうやら彼とキャラが違う様子。*11
要するに、どこ出典なのかがわからないのである。
下手をすれば【継ぎ接ぎ】であるとする方が、よっぽど説明が出来てしまいそうなほどに。
さて、そんな話題の的となっている彼はと言うと。
「ふわぁ……おやすみー」
「寝たー!?」
こちらの視線や疑問などお構い無しに、繭に戻って眠り始めるのだった。……いや自由か!